聖龍伝説 現政奉還記 創生の章 作:セイントドラゴン・レジェンド
[心中の闇に気付き……]
ミラーガールの説得により、どうにか聖龍隊と同盟協定を結んだ黒衣衆。
しかし聖龍隊の隊士に、突然襲い掛かられた新世代型たちは黒衣衆に多田な危険性を覚えていた。
基地の一角で、まるで亡霊の様に立ち尽くしては集う黒衣衆は何とも言えない恐怖が感じられた。
そんな基地の一角で大人しく集っている黒衣衆を見て、新世代型達は不安を感じずにはいられなかった。
「アイツら、何を考えているんだろう……」
「私にも、あの人たちの考えは解らない。ただ、言い様の無い狂気みたいな感覚は感じられる……」
黒衣衆を眺めて、新世代型の真鍋義久と琴浦春香は黒衣衆の狂気に対して独特の感情を得ている事実を察する。
「しかし、彼らが語る激動の歴史には考えさせられる……歴史とは人間が創り出すもの。そして彼ら黒衣衆は、その歴史を陰ながら生み出しているとは……」
「人の歴史とは、虚しい事だが強者によって時には強引に捻じ曲げられて伝えられてしまうもの。その歴史を陰ながら創り出し、守りながら形成していく……それが黒衣衆の様な裏切りの一族なのかもしれない」
新世代型の星原ヒカルと出雲ハルキが黒衣衆に考えさせられている中、他の新世代型も考えさせられてた。
「彼らの言葉の一つ一つには、人間の真理が……人とは何かを考えさせられる気がするわ」
「そうね……あのキム・ジュンス、破邪王も小田原修司や聖龍隊の様に信念に従って生き抜いてきたけど、ハッピーエンドには遠く及ばなかった訳だし……」
アイラ・ユルキアイネンとイオリ・リン子は黒衣衆の一言一句、そして信念の下生きていた破邪王の生き様に感銘しつつも悲哀に感じていた。
「ソンヒ……いえ、損尼に言ったミラーガールの言葉通り……私たちの始祖、小田原修司は親友であるキム・ジュンスを罪人としてではなく武人として死なせたかったからこそ、親友を自らの手で殺めたんだよね」
「それって、凄く悲しい事だよね……」
一条蛍と大宮忍は、自らの手で親友であった破邪王を殺めた自分達の始祖、小田原修司の決意に切ない想いが込み上がっていた。
「人が信念の元、生き抜くって最初はカッコいいって思ってたんだけど……実際に信念や覚悟を背負っている武人を見てると、何だか切ない気がするよ」
「そうだね……カッコいいってイメージとは裏腹に、世の中の武人ってその多くが大きな大きな宿命を背負っているみたいで、やるせないよ……」
瀬名アラタとイオリ・セイは、黒衣衆との対談で改めて今まで出会ってきた武人が抱える信念や覚悟といった宿命の大きさに胸が押し潰されそうな気持ちに至る。
「結局の所、ヒーローや戦士が存在している世界は……争いで満たされているのが、現実なのかもしれない」
聖龍隊や英雄が実在している世界は、所詮争い事で満たされている現実なのかもと室戸大智が呟く。
「愛してやまない小田原修司が創り出し、そして築いてきた激動の歴史を、ミラーガールは傍らで見守っていたのかもしれないわ」
考えが尽きない修司達の激動の歴史を、損尼戦でミラーガールが見せた覚悟を通して、彼女も悲痛な想いで見守りつつも見届けていたのかと語る御舟百合子。
「損尼って、確か韓国の令嬢だったけど、破邪王ことキム・ジュンスの運命を引っ掻き回したから悪女として今を生きているんだよな。でも、元夫のジュンスの生き様を知って少しは改心できたのかな?」
「さあ、どうだろうな。彼女も最初は小田原修司に逆恨みを抱いて、挙句の果てにはリベンジャーズって反乱組織で世界中で悪事を働いていたからな。まあ、彼女ら黒衣衆に小田原修司も同様に辛い人生を歩んできたってのは確かだけど……」
損尼の過去の実情を伝え聞いて、疑問に思う燃堂力は親友の斉木楠雄に問い掛けると、斉木は黒衣衆と小田原修司は同様に辛い人生という歴史を歩んできたと答えた。
「あの黒蓮坊の言うとおり……小田原修司が積み重ねてきた歴史の中で、そして多くの人の命が失われた歴史の上で生きている私たち現代の人は悪なのかな?」
「そんな事は無いわよ! 確かに私たちは小田原修司が多くの人命を奪った歴史の積み重ねの上で生きているけど、全ての人が悪人って訳じゃないわ! ……多分」
「大事なのは、その過去の事実を知りつつも、それを受け入れて生きていくって事じゃないのか? 過去の現実を知り、今をどう生きていくのか考えれば自ずと道が見えてくる筈だ、きっと」
黒蓮坊が話したとおり、何も知らずに生きてきた人間は小田原修司と同罪だという内容に、指南ショーコと北川イオリが言い合っていると、レドが過去を知っていく事が大事なのではと説いた。
「損尼も黒衣衆も、多くの人々の人生を狂わせた罪人だが……運命を狂わせたって事なら、小田原修司も同罪だ。そんな小田原修司のクローンである私たちは、一体……」
「損尼も黒衣衆も……そして小田原修司も、多くの業を、罪を背負って生きている人種なのかも……」
猿田学と美都玲奈の両名は、多くを狂わせた小田原修司も黒衣衆も、どちらも同罪なのかもと塞ぎ込む。
「ミラーガールが……アッコさんが目指している、澄んだ色の未来は来るのかな……」
月影ちありはミラーガールが夢見ている、澄んだ
「黒衣衆……
「俺たちは今まで、人の心理を見てきたから解るけど……一端に善悪、甲乙付け難いのが人間って生き物だ」
黒衣衆が語る
「黒衣衆は黒衣衆は、別の形で自らの宿願を達成したいと思っているらしいけど……やっぱ恐ろしい奴らだよ」
「ホントにそうだよな。もうアイツらは殺人鬼としての性格や習性が身に着いちまっているぜ、きっと」
犬塚キューマの台詞に、プロト世代のギュービッドが話を添える。
そんな黒衣衆について語り合う新世代型達の元に、その黒衣衆が歩み寄ってきた。
「おやおや、何をそんなに暗い面持ちで語り合っているのだ? 我らの陰気がうつってしまったのか?」
不気味な面妖で白蓮坊が問い掛けると、続いて弟の黒蓮坊が新世代型に問い掛ける。
「もしかしてお前ら……己の中に眠る闇と、対峙していたのではないか?」
「俺たちの中に眠る闇だと?」
黒蓮坊の質問に真鍋義久が眉間にしわを寄せて黒衣衆を睨み付けると、黒衣衆は語り始めた。
「前々より、我らは気付いておった……主らの中、そう心の中、心中に眠る闇……! その闇は、かつてわらわ達を陥れた小田原修司の心の闇よりも深き、業深い闇ではないのか?」
大闇刑蘭からの問い掛けに、新世代型達は非常に戸惑った。
そして大闇は更に問い掛ける。
「感じる、感じるぞ……我らには感じられる。主らの心中に身を潜める強大な闇の心……そう、あの小田原修司にも匹敵する強大な闇が主らの中に潜んでおる……!」
大闇たち黒衣衆が感じ取った新世代型達の心の闇。それは他でもない、新世代型達の中に巣食うあの闇人そのものを意味していた。
新世代型たちは黒衣衆が、自分達の心中に潜んでいる闇人の本質を既に見抜いている事実に驚愕した。
一方で闇人の方も、未だ新世代型にしか見えない状態で彼らに告げた。
「ふふふふ、修司に人生を台無しにされながらも、こいつら黒衣衆は俺様の様に歴史を形作る闇の心を討ち取ろうと色々と仕掛けてきやがった連中だ。歴史は光だけではない、闇からも容易く創造される代物だ。その広大な歴史を創り出す闇を抹消とするだなんて、トンでもない奴らだと思うだろ? そもそも、心の闇を持つ歴史の創設者に一矢報いても、最後は悲惨な最後を遂げちまうのが裏切りの一族ってもんだ。三日天下でえ終わった明智光秀、未だに迫害の的にされちまっているユダヤ。歴史を真に創ったこの俺さまに、そう闇に歯向かえばデカイしっぺ返しを喰らっちまうのが実情なんだよ」
闇人は、真に歴史を創ってきたのは自分の様に人が抱える心の闇であり、その闇を討ち取った一部の裏切りの一族は途轍もないしっぺ返しを受けると豪語。
発達障害者ゆえに人間不信であった小田原修司の心中に産まれた闇人。
その闇こそが歴史を創り出したという話に新世代型たちは考えさせられた。
人間の歴史に重要なのは、果たして闇人かそれとも光か。いや、どちらも重要なのかもしれない。
[国連会議での決定]
新世代型たちが黒衣衆より自分達の心中に潜む闇人を見透かされた翌々日、国連総長足正義輝不在の国連会議が緊急招集をかけた。
それは、世界中の戦闘可能な軍隊や国家機関、そして悪党達を可能な限り招集して同盟協定を結ばせた上で足正義輝の配下にいる黒武士を打倒させようという考えだった。
無論、この招集には聖龍隊も例外ではなかった。
そして招集会議には、聖龍隊の他に国連軍それから世界の名立たる武将や悪党達が会談する事に。
この異例の招集に、聖龍隊は特別に新世代型たちも招き入れた。彼ら一般の、そして渦中である新世代型にも聖龍隊士共々会議を陰ながら傍聴させる事で同調させる狙いだった。
そして異例の会議開催会場にて。
まず新世代型は会議場の出入り口の傍らで、会議に参加する面子を見届けてもらう。
「だ、誰が来るんだろう……」
既に聖龍隊に赤塚組を始めとする世界の武将達が逸早く到着して会場で待機している中、新世代型達は会場に来訪する出席者を待ち構えていた。
「でも悪党も参戦させるなんて……国連議員達も切羽詰っているんだろうね」
「ああ、でも悪党の中には招集に素直に応じない輩も少なくないって言うし、来たとしてもホンの少数しか居ないだろう」
出入り口付近で待ち構える星原ヒカルと出雲ハルキは、来訪する悪党は少ないだろうと予見する。
すると出入り口付近で聖龍隊士の護衛の下、傍聴者に徹している新世代型たちの前に三人の強面の男達がやって来た。
それは他でもない、国連軍元帥の赤犬に大将の黄猿と藤虎の三人だった。
「あ、赤犬……!」
以前から、自分達を新世代型として目の敵にしている赤犬たち国連軍の最強戦力が揃って会議に出席する現状に真鍋義久たち新世代型は恐怖を感じる者、そして反感を抱く者など赤犬たちの来訪に様々な感情を巡らせた。
一方の赤犬も、会場の出入り口で自分達の到着を出迎える新世代型たちを見て軽蔑の眼差しを彼らに向けて、無愛想な強面で黄猿と藤虎と共に会場に入っていった。
赤犬たち国連軍の代表者達が会場に入ったのを見取った新世代型たちが不満な心情を募らせていると、新たな来訪者が会場に到着した。
ぶち模様の帽子、目の下のクマ、そして非常に長い長刀を腰に携えるその人物を見て、新世代型たちは驚かされた。
「お、おい、アイツを見ろ!」
「まさか奴もこの会議に招集されたのか……死の外科医、トラファルガー・ロー……!」
纏流子と
そんなローは、自分を出迎える新世代型たちを見て、人知れず不敵な面構えで思った。
(ほほう、アイツらが例のデーモン・チルドレン……新世代型か)
デーモン・チルドレン、鬼の申し子たる新世代型を視認して、ローは何を思ったのだろうか。
ローが会場に入っていくと、その直後、別の人物が下品な笑いで来訪してきた。
「退け退け! 悪名高い悪党! 千両道化のバギー様のご来着だぞ!」
蒼い髪に帽子、不敵な面に一際目立つ赤くて丸い鼻。元は小悪党だったにも関わらず、今や大悪党に出世した千両道化のバギーが会場に到着した。
「な、なんだ、あのピエロ……」
一見すると道化師すなわちピエロに見えるバギーの容姿に、新世代型たちがざわめき出すとそれに気付いたバギーが彼らにちょっかいを掛けて来た。
「オイオイ、テメェらおれ様になんか文句でもあるのか? この千両道化のバギー様によ!」
変わり者を観る目で見てきた新世代型たちに難癖を付け出すバギー。
「い、いや……俺たちは別に……ただ、派手な格好だなと思って……」
自分達に難癖を付けてくるバギーに、真鍋義久が丁重に応対してみる。
「ギャハハ! 派手も派手、ド派手だろうッ! このおれ様ほどの大悪党になると、これぐらい派手で目立つ衣装でなきゃな…………って、派手で目立つ赤ッ鼻だと!?」
『誰もそんなこと言ってない!!』
自身の団子の様な赤い鼻を気にし出すバギーに、新世代型一同は激しくツッコム。
バギーが一方的に新世代型たちにちょっかいを出していると、バギーに続いて来訪してきた大柄の巨体の男がバギーと言い合う皆の許に歩み寄ってきた。
「ほれ、バギー……お前さん、なにをこんな子供相手にちょっかいかけておるんじゃ」
「ギョッ! じ、ジンベエ……! お前も招集に呼ばれたのか?」
バギーの肩を叩いて制止をかける男の顔を見て、バギーは目を丸くして一驚した。
バギーに続いて来訪してきたのは、魚人である通称、海峡のジンベエというジンベエザメの魚人だった。
新世代型達は初めて接見した魚人のジンベエに驚いて声すら失っていた。
牙も含め、サメというよりは唐獅子や鬼瓦の様な顔立ちが特徴のジンベエの来訪にバギーは慄く。
「ほれ、相手は子供じゃないか。今や大悪党に成り上がったお前さんなんじゃ、もうちぃっと立場を弁えろ」
「クッ……! フンッ」
実力的にも上であるジンベエの問い掛けに、バギーはジンベエとの衝突を恐れて早々にその場から立ち去り、会場入りを果たした。
「怪我は無かったかね、お前さんたち」
「あ、ああ……ありがとうございます」
ジンベエは新世代型たちを心配し、真鍋は自分達を庇ってくれたジンベエに礼を返した。
するとジンベエは、そんな新世代型たちと会場の護衛を承っている隊士の二人を見て声をかける。
「おお、渚くんに雅弘どん。元気にしちょったか?」
「ああ、ジンベエ」「何とかね」
ジンベエと親しげに会話をする聖龍隊士の白井渚と浜崎雅弘たちを前に、新世代型達は不思議に思った。
「なんだ、お二人さん。ジンベエと知り合いなんすか?」
真鍋義久が問い掛けると、渚と雅弘の二人は返答した。
「ああ、まあな! ジンベエとは波音たちを通じて何度か顔合わせしている」
「リナたちマーメイドメロディーズとジンベエの故郷、魚人島は親密関係にあるからね。確かリナたちもジンベエから多少は武術を教えてもらったみたいだよ」
白井渚と浜崎雅弘の返答に新世代型二次元人達は唖然とした。
その一方でジンベエは、二人と会話を済ませると、会場へ険しい面持ちで入っていった。
「さて、わしはこの辺で……わしら魚人や人魚にも危害を加える黒武士の凶行を、なんとしても止めねば……!」
会場に入っていくジンベエの心境は重かった。
海峡のジンベエが会場に入っていくと、そこに今度は自転車で来訪してきた一人の人物が会場入りしようとする。
「あ! 貴方は……!」
自転車で来訪してきた人物は、琴浦春香たち新世代型も以前に顔を合わせた事のある人物だった。
その人物とは、元国連軍三大将の一人、流動体質系の氷の能力者、中国出身の冷苦であった。
「よっ、久しぶりだなおめえら」
以前にも顔を合わせた事がある冷苦の来訪に驚いてしまう新世代型たち。
「な、なんで貴方までも招集に……貴方は確か、元軍人で今では流浪の立場なのでは……?」
室戸大智が冷苦に問い掛けると、彼は冷然とした面持ちで答え返した。
「今のおれ様は……元国連軍大将の立場を利用して、悪党どもを抑え込む活動をしている。無論、非合法なやり方でな。でも、前にお前さん達にも言った様に……正義なんてもんは、立場によって多種多様に変化しちまう曖昧なモンだと……おれは今できるおれの最大の正義を、罪無き市民を救う活動をしているだけ。そんな
冷苦が語る立場から異なる正義の議論は、前々から聖龍隊でも聞かされてた事から、新世代型たちも納得してた。
非合法なやり口でも弱者を救済している冷苦の話を聴いていた所に、また新たな来訪者が訪れた。
「やあやあやあやあ、お出迎え、ご苦労!」
意気揚々と特注の豪華車から出てきたのは、長兄ガイアを筆頭としたクリスタルとメガロのスコーピオン兄弟だった。
「ガイアさん!」「おや、なんだ。お前さん達もやはり招集された訳か」
また気持ちのいいガイア達に会えた事に喜ぶ新世代型たちとは裏腹に、冷苦はスコーピオン兄弟に顔を向けて言う。
「よっ、お前ら元気か!? なんだい、青雉もいたのか。今じゃ、俺らと同様に悪人の側だって聞いているぜ」
「おれにはおれの目的が……成さなきゃならない正義ってのがあるんだよ。その為に今は悪党の側についているだけだ」
威勢よく新世代型たちに声をかけるガイアは続け様に冷苦にも話し掛けると、冷苦は今の自分の立場上、悪党の側につくしかないと突っ返す。
「まあまあ、今日はみんな揃っての招集な訳だし。話の続きは中に入ってから、ゆっくりとしましょうや、なっ」
「………………」
馴れ馴れしく肩を抱き寄せ合い触れ合うガイアの強引なスキンシップに、冷苦は呆れながらも受け入れる。
そして二人は仲良く会場入りしたのだった。
[難航する会議①]
そして遂に聖龍隊/国連軍/そして各武将に悪党たちが参加する会議は始まりを告げた。
この会議の様子を、会議に直接参加しているHEADと大将を除いた聖龍隊上層部の面々と赤塚組幹部や傘下に加わっている面子、そして傍聴者として新世代型たちがシバ・カァチェンと共に会議場に設けられたカメラを通して会議の経緯を傍観してた。
会議は早速、世界中で猛威を振るっている黒武士に議題が集中した。
「……と、言う訳じゃ! 既に黒武士は、世界中の名立たる悪党が収容されちょる施設を強襲して、極悪人どもを嬲り殺しちょる……悪党がいくら死のうが勝手じゃが、それを制止しようとした各国の軍隊も黒武士の反撃に遭い、ほぼ壊滅状態! 奇跡的に軍人に死者は出とらんが、負傷者は増える一方じゃ! この非常事態をなんとしても止めねばならん……!」
黒武士の凶行を熱弁する赤犬の言動には、いつもの彼から感じられる憤怒が滲み出ていた。
「そもそも、こうなった原因は他でもない。あの小田原修司のクローン、足正義輝が起こした現政奉還が事の発端……! じゃから、わしは前々から何べんも、世界に修司のクローンに近い新世代型なぞ生み出すと、とんでもないしっぺ返しが来ると通告しておったんじゃ!!」
「赤犬! 今は新世代型がどうのこうのという問題じゃないわ。黒武士の凶行を如何にして、この場に集った皆と協力して食い止めるか……その話のはずよ!」
「何を言うとんじゃミラーガールッ! 根本の話を、いや問題を解決しない限り事は意味を成さんじゃろ! そもそもわしゃァ悪党どもと共闘戦前を敷いてまで黒武士を倒そうとはおもっちょらん!」
「国連議員の決定に異論するつもり? 何より貴方だって、黒武士の凶行を自分たちだけでは止められなかったから、こうして会議に出席している訳なんじゃないの?」
黒武士や足正義輝を含む新世代型そのものを貶す赤犬の言動に、ミラーガールは真っ向から反論。
二人の論争が激しくなっていく一方、ミラーガールの熱弁を聖龍HEAD、赤犬の論争を黄猿と藤虎は落ち着いた様子で傍聴する。
そんな二人の激しい論争を聞き飽きたのか、千両道化のバギーが論争を割って話し始めた。
「なあ、いっその事、新世代型なんか構わない方が良いんじゃないか? あんな危険な連中、相手にするだけ無意味に戦力が削れる一方……そんなら、いっそガン無視した方が得策なんじゃないのか?」
しかし、このバギーの不真面目な言動に赤犬が渇を入れる。
「なにを言っちょるんじゃバギー!! 既に黒武士は世界中の軍隊を返り討ちにし、刑務所などの罪人収容施設を強襲して囚人共を一人残らず惨殺して荒らし回っちょる危険な輩! そんな黒武士を無視する事はできん!!」
黒武士を始めとする新世代型を無視しようと提言するバギーの発言に、赤犬は怒号をぶちまける。
赤犬がバギーに怒号をぶちまけると、黙然と話を傍聴していたガイア・スコーピオンが鋭い眼光で言った。
「……赤犬、オレ様は正直テメェが嫌いだ。時には正義だのなんだのと御託を並べて民間人にも攻撃を仕掛ける容赦のない正義は、オレ様は気に食わねェ」
「ふんっ、貴様ら悪党に好かれる為に正義を執行している訳じゃなかァ。わしはわしの信念の元、わしが掲げる徹底的正義を遂行しているだけじゃァ……!」
赤犬を睨み付けるガイア、ガイアに睨み返す赤犬。
会議に参加している皆の注目が赤犬に注がれる中、赤犬は更に言い放つ。
「わしゃァ何一つ許した事はないし、これからもたった一つだって許しゃあせん」
どれ程の数の許せないものがあったのか、その全てを胸の内の熱に放り込んで焼き続けているのか。数多の罪を、人を己の中の灼熱に放り込み、断罪してきたか。赤犬の過激な発言に、ミラーガールは戸惑い、それ以外の者は全員表情を険しくさせる。
「大体じゃ、元セブンズ・ガードじゃったジンベエに、今では悪党どもに情報を流出させている冷苦までも居るのが実に気に食わん!」
昔訳あってセブンズ・ガードを脱退したジンベエに、かつては自分と同期の大将であった冷苦までも招集された経緯に赤犬は気に入らない様子。
「わしは過去に何度も聖龍隊に救われた経緯がある。そんな大恩を返せないようでは、仁義の道に反する!」
「成程な! 流石だぜ、ジンベエ!」
過去に聖龍隊に借りがあるジンベエは、その恩を返せない様では仁義が罷り通らないと告白すると、それにガイアが拍手を送る。その様子を見て、赤犬は表情を一層険しくさせる。
「おれが悪党達に情報を流したり、時には協力関係を如いているのは……奴らの驚異が一般市民にまで及ばない様にするためさ。だからって、おれがしてる事が全て正しい事だって弁論はしねェ。だがな、弱者たる市民を護る為には視点を変えなきゃならない事があるってことだ、赤犬」
「ぐぬぬ……ッ」
冷苦の説明を聞いて、赤犬は奥歯を噛み締めた。
すると此処で会議での一連の話を傍聴していたジンベエも話を切り出した。
「……皆、それぞれ思うところは違うが、この場に集まった本当の理由を思い出すんじゃ。わしらが集まった理由、それは足正義輝が起こした現政奉還に乗じて世界各地で猛威を振るっておる黒武士の凶行を止める為じゃ。そして黒武士を倒すには、この場にいる皆が一丸となって戦わなけりゃならんのが事実なんじゃないのか?」
「でもよ、ジンベエ! オレ様はちせちゃん達とは一緒に戦っても良いと思っているけど、赤犬なんかと手を組む気は微塵も無いぜ!」
「わしだってそれは同じことじゃけェ! 悪党どもと足を揃えて黒武士打倒を掲げたくはない!!」
まさしく犬猿の仲状態のガイアと赤犬の言い合いに、ジンベエは途方に暮れた。
「……ふぅ、これじゃ話し合いの機会を設けた意味がないな。ずばり言えば、この会議は何の意味もない」
言い争いを目の当たりにして、トラファルガー・ローが席を立ち、一人会議場から立ち去ろうとする。
「待って、ロー! まだ話は終わってないわ……!」
ミラーガールがローを制止しようと呼び止めるが、ローは無愛想な顔で彼女に言った。
「そもそも、立場や考え方が違う連中が一丸となって協力し合うのは無理な話だ。それにミラーガール、いや聖龍HEAD……同盟を組むって事は、お前たち聖龍隊や国連軍を信頼しろって事になるんじゃねェのか? 悪いが、おれは簡単に国連軍や同業者に信頼を、背中を預けられるほど、お人好しじゃない」
「! ……私たちや、国連軍が信用ならないとでも?」
「そうだ。何より、おれは国連軍以上に……聖龍隊、お前達を信じる事はできない。小田原修司の意思で世界中の国家機密を手中に納め、それをネタに世界の要人達と裏取引をしてまで自分達の地位と権威を保持してきたテメェらは、信頼するに値しない」
「おいッ! 他の奴らはともかく、ちせちゃんまで信じられないってのか!」
立ち去ろうとするローにミラーガールが制止するが、ローは未だに世界の国家機密を隠し持って権威を保持し続ける聖龍隊を信頼する事はできないと言い切る。そんなローにガイア・スコーピオンが文句をぶつける。
「……既に黒武士による被害は、魔法界などの異世界にも侵攻……妖怪や世界の重要拠点にも襲っている始末! この侵攻を止める為には、強力な戦力が一致団結しない限り手立てがない!」
泥沼状態の会議場に、ジュピターキッドの報告が響き渡る。
すると此処で中国地方武将のデイ・マァスンが己の議論を投げ掛けた。
「話を纏めるとだ……ジンベエにスコーピオン同盟、そして冷苦の連中は聖龍隊の戦力に加算されても良いと思って良いんだな」
「無論じゃ!」「その通り!」「まあ、相手が相手なだけに、おれ様も加勢するつもりだ」
御三方の同意を受けて、デイ・マァスンは口元を笑ませると次の瞬間には無愛想な強面で聖龍HEADに問うた。
「OK,OK それならそれで良いが……HEAD、オレが聞いた処によると……お前らは、この会議が開かれるのが決まる前から、あの黒衣衆と同盟協定を結んだらしいじゃないか」
このマァスンの発言に、会議に参加している多くの者が目を見開き、HEADの方へと視線を向けた。
「そうよ。彼らも彼らなりの考えで、今の時代や未来を破壊しようとしている黒武士の猛攻を阻止したい考えなの。だから戦力に加わってもらったわ」
「し、しかし……あの禍々しい狂気を心中に秘めている黒衣衆を引き入れても良いのか、疑問でござる」
「そうだぞ聖女! あの六人は常に、狂気に駆り立てられている末恐ろしい異形の存在! それを味方として捉えても大丈夫なのか?」
ミラーガールの真剣な面差しでの返答を聞いて、モンゴル軍総大将シン・ユキジとイン軍総大将のイン・ナオコが疑問だと主張。
するとデイ・マァスンが話を切り出した。
「黒衣衆を同盟相手としてプラスに考えているなら……オレはこの同盟、降りるかもしれねぇぜ」
「ま、マァスン殿!?」「デイ・マァスン……!」
デイ・マァスンの同盟拒否にも繋がる発言に、ユキジは一驚しミラーガールは動揺した。
そしてデイ・マァスンは何故、黒衣衆を同盟拒否の理由にするのか、その訳を語った。
「今から三年前、オレはイギリスに留学してた。だが、そこを当時リベンジャーズだった黒衣衆が持ち込んだ爆発で大勢のFriendが死んだ……しかもオレは運悪く爆弾の近くに居た為に、爆弾の破片がモロに眼球に刺さったが故に今の右目はダメになった……! 今さら黒衣衆を恨むほど、オレは器の小さな男じゃない。だが! アイツらに気を許すほどオレはお人好しでもない……!」
かつて黒衣衆がまだリベンジャーズだった頃、留学していた大学で彼らが仕掛けた爆弾によって友人や教師を失い、更には今の様に右目を失った面構えに至ったと語るマァスンの事情を知って、会議場の参加者達は誰もが息を呑んだ。
「ふっ、おれも正直あの黒衣衆というのは信用ならん。歴史を陰で創るだの守るだのと屁理屈を並べて、どんな狂った行為を仕出かすか、分かったもんじゃない」
「わしも黒衣衆の様な危険人物を傍らに置いて戦うのは気が引けるわい……あんな狂人どもと共闘するのは、それこそ正気じゃなかァ」
黒衣衆との共闘に難癖を付けるマァスンの発言に、トラファルガー・ローと赤犬も同意する。
「そ、そうじゃミラーガール! 黒衣衆は、二年前のアジア大戦を陰で糸引いてた危険思想の持ち主じゃろう! そんな奴らに協力するのは、わしらも気が引ける!」
アジア大戦を裏で指揮して激化させた黒衣衆を共闘相手にするのを躊躇う中国軍総大将の徳竹康。
そんな黒衣衆の共闘参戦に異論を唱える皆々を前に、ミラーガールは弁論した。
「彼らの事は、私たち聖龍隊が常に目を光らせているわ。彼らが裏切るような真似を、そして敵に寝返った時の責任は私たち聖龍隊が取るわ!」
このミラーガールの話を聞いて、バギーがミラーガールに減らず口を叩いた。
「見張るなら黒衣衆みたいなキチガイだけでなく、新世代型も見張ってくれよ。アイツらが如何に危険な連中か、テメェらもよくよく知っているだろ?」
新世代型を危険視するバギーの発言に、ミラーガールは表情を強張らせる一方で、聖龍隊総長バーンズが話した。
「安心しろ。黒衣衆だけでなく、新世代型も常に監視下に入ってもらってる。だから双方については今のところ危険は無い」
「安心しろじゃと? 新世代型が三度に渡って、世界を危機に曝した事を忘れたか! 最初は軌道エレベーターヤコブの管理官ルミネの一派による反乱……お次は国連総長に納まった足正義輝の現政奉還……そして遂には新世党という組織を結成してジャッジ・ザ・シティで大規模テロを引き起こした連中を、生易しい監視下に置いといて安心しろじゃと。ふざけるのも大概にせい!」
バーンズたち聖龍隊の監視では管理が温過ぎると啖呵を切る赤犬の豪語に会場は再び静まり返った。
すると此処で会議場を立ち去ろうとしていたローが自分の席に戻ると、自分とは違い三次元人である武将達に質問を投げ掛けた。
「おれは会場に入る所で、新世代型たちを初見したんだが……アジアの武将たち。お前たちから見て、新世代型は危険に感じられたか?」
このローの質問に、まずはタイのバイオハザード事件の直後に新世代型と接触した黒劉席が語った。
「あーー、小生から見てみれば新世代型はどうとでも良くなる連中だと思うぜ。見た感じ、今のところ生き残っている新世代型は危険とは呼べないが、中には特殊な戦術を持っている輩もいるから、小生としては敵に回らなければ大丈夫かなと思ってる」
劉席に続き、シン・ユキジとイン・ナオコが立て続けに弁論した。
「某は新世代型の猛者たちと刃を交えての演習を行った次第! 彼女らは他の二次元人に負けず劣らず、真っ直ぐで熱い魂を持っている者とお見受けした所存! 危険はないと某は認知しております!」
「彼女達は恵まれた出生ではなかった。生まれ付き、小田原修司のクローンという風評から世間に誤解されているだけ。私達が彼女らの手と手を取り合えば、必ず共存の道を開けるはず……!」
やけに女だけを優先させる意思を述べたナオコに続き、その小田原修司の義弟にあたる韓国軍総大将のサイ・チョウセイは熱弁する。
「彼らは確かに我が兄者のクローンに相違ないかもしれない……だが! 彼らの中にも直向きな正義の信念が、兄者同様に眠っていると私は信じたい。皆様方、どうか新世代型二次元人を信じてみようではないですか?」
「ふんっ、実の姉貴が足正一派に加わっておるっちゅうに、減らず口を……!」
チョウセイの嘆願を聞いて、彼が篤く信頼している赤犬に罵倒されてチョウセイは傷付いた。
「New generationの連中は、確かに敵に回せば国連総長ほどじゃねえが脅威になる。だが、味方としてオレ達の仲間でいてくれりゃ、世話ねえぜ」
「果たしてぇ、新世代型の連中は、あっしらの味方で居続けてくれる保障はあるのかなぁ?」
中国地方武将のデイ・マァスンの弁論に、藤虎と共に赤犬の側近として会議に出席している黄猿が首を傾げる。
「あ、あの人たちは良い人だと思いますよ……だって、ぼくの為に作ってくれた料理、ホントに美味しかったもん」
新世代型たちの料理を口にして、彼らが善人だと信じたい一心のシャ・キンカは惑いながらも心情を語った。
そして最後に、台湾軍総大将シバ・カァチェンが会場の皆に訴えた。
「私が……私が思うに、新世代型はその全てが危険な存在とは言い切れません。確かに新世代型二次元人は、その多くが今までどれほど罪無き人々を苦境に落としいれ、絶望の涙を流させた事でしょう。しかし、いま聖龍隊の許に身を寄せる新世代型達は違います。彼らには夢が、未来を創り出す大きくて輝かしい夢が心中に滾っておられるのです。その夢を、希望を絶つ権限など誰が持っているでしょうか。私自身、新世代型たちと交流を重ねてきましたが、彼らに救われた事が一度ならず何度もありました。今の私が、こうして皆様の前で語れるのは、新世代型たちが私に微弱ながらも光を齎してくれたからなのです。どうか、新世代型の二次元人たちに未来を……」
新世代型を庇護し、彼らによって自分が変われた経緯を語り明かすカァチェンの台詞に、ミラーガールは拍手を送る。するとそれに続いてHEAD、そしてガイアにアジア各地の武将達もカァチェンに拍手喝采を送る。
このカァチェンの台詞を聞いて、国連軍大将黄猿が顎ひげを摘みながらカァチェンに言った。
「う~~ん……なんか変わったね、きみ」
「え?」
「なんと言うか、自分の考えを……意思をハッキリと伝えている。昔の君からは想像もできないほど、変わったよカァチェン」
カァチェンが昔と違い、自分の意思をハッキリと意思表示できている事実を前にして、黄猿が彼の変化を認めた。カァチェンも自分が少しでも変われたのかと認められた事に、若干の喜びを内心感じてた。
「話を戻そう。現在、世界各地で猛威を振るっている黒武士の勢力を止めるべく、オレたち聖龍隊と同盟を結んでくれる者は、この場にて挙手してもらいたい」
聖龍隊総長バーンズが提言すると、それにアジア各地の武将達に冷苦、ガイア・スコーピオンたちが挙手した。
「ま、おれ様も聖龍隊に加勢してやるとしますか」
冷苦は愛想笑いを浮かべながら挙手してた。
一方手を挙げなかったのは、トラファルガー・ローにバギー、そして国連軍元帥の赤犬たちだった。
「お前達はなぜ手を挙げない? 理由を述べて欲しい」
すると最初にバギーが言い出した。
「い、いっくら全ての新世代型が敵になる訳じゃないと分かった所で……相手はたった一人で猛威を振るっている黒武士だぞ! 下手に関われば命がねェ!」
バギーに続いてローが発言、バーンズに問う。
「勝算はあるのか? 黒武士の力は未知数だ……それが、世界各地だけでなく異世界にも襲撃した黒武士の未知なる部分は未だに多い。相手がどんな新世代型なのか、それが分からねェのに戦ったところで勝機が見えるのか?」
ローの言うとおり、世界中の収容施設や軍関係の拠点を叩き、未だに多くの謎を残している実力未知数の黒武士を相手にするのはギャンブルが過ぎる。
そして最後に赤犬が顔や腕から煮え滾った溶岩を表出させながら唱えた。
「そうじゃ! 相手はたかが一人、黒武士だけじゃ! 元帥であるわしだけでも……いいや、黄猿に藤虎の戦力も加われば、わしら国連軍だけでも黒武士打倒は可能じゃ!」
しかし、そんな熱弁をする赤犬に、元同僚の冷苦が問い掛けた。
「さっきローが言ってた事を忘れたか? 黒武士の実力は未知数だと……もしかしたら始祖である小田原修司の能力の大半を……いや、それ以上の力を隠し持っている可能性だってあるんだ。自分達だけで戦いを挑もうだなんて、少し無謀なんじゃないか?」
「なにをォ! 軍を抜け、今や悪党どもに情報のブローカーとして協力しちょる貴様に言われる筋合いはなかァ!!」
しかし冷苦の問い掛けに、彼の現状を忌み嫌っている赤犬は憤怒してしまう始末。
毅然とした態度で着席する冷苦、それに反して今にも腕から溶岩を放出して冷苦を始末しようとする興奮状態の赤犬の二人を見て、会議出席者は唖然と見据える事しかできなかった。
難航に難航が続く会議の様子に、流石の聖龍HEADも参ってしまう。
すると此処でミラーガールが、赤犬の焦燥する様子を察して彼に言った。
「……赤犬、あなた何をそんなに焦っているの?」
「! わいが焦っているじゃと!?」
突然のミラーガールの問い掛けに訊かれた赤犬も会議場の皆々も、その会議を傍聴している面子も驚かされてしまう。
「わしが焦っておるじゃと……何を急に訳わからん事をぬかしよる、加賀美あつこ!」
「あなたは……今、こうしている間にも黒武士が世界を急襲しているのに対してジッとしてられないんじゃないの? 自分の中の正義感が、今にも蠢いているのを堪えているんじゃないの?」
ミラーガールに見透かされ、何も言い返せない赤犬。
するとミラーガールに対して何も言い返せない赤犬を横目に、赤犬とは長い間一緒に務めていた同期の黄猿が赤犬を弁論し始めた。
「まあまあ、ミラーガール……確かに赤犬は正義を遂行する為に迷いを捨てた二次元人だよォ。そこが君たち聖龍隊との違いでも、あるんだけどねェ……」
皆が黄猿の話に耳を傾ける中、黄猿は黙然とする赤犬を見据えて話し掛けた。
「大抵の人間は迷いにぶつかってしまうけど……手が震える事も、目を瞑ってしまう瞬間も、きっと君にはないんでしょう」
すると黄猿は黙然とする赤犬の肩にそっと手を差し置くと、赤犬に言った。
「どんな時でも自分と自分の正しさを信じてられる。それが君の強さだよ赤犬」
どの様な状況、そしてどの様な時代においても、自分自身を信じられるのが強さなのだと赤犬の実力を認める黄猿。
しかし此処で、赤犬が掲げる徹底的正義について冷苦が異論を唱える。
「誰が監視者を監視するのか……誰がお前の正しさを、絶対だと約束するのか……その保証がないのに、果たして人間の行いを正義に捉えてもいいものか……」
冷苦は更に語り続ける。
「所詮、おれ達は人間である三次元人をモデルに生み出された偽りに近い……創作上の存在、二次元人だ。そんなおれ達が古より人が己の行為を正当化する理由として掲げてきた正義を語るのは……エゴ中のエゴなんじゃないか?」
自分の信じる正義を真っ向から否定され、赤犬は憤怒の末か頭から蒸気を放っていた。
と、そんな会議場の様子をカメラで傍聴していた新世代型に動きが。
宮内れんげが憤怒する赤犬の様子を見て、悲しそうな表情で倒れそうになる。
それを琴浦久美子が慌てて支えに入ると、れんげは悲しそうな瞳で言った。
「あのね、れんげね。あのおじちゃんは間違ってるんじゃないと思う。だけどね、どうしても…………とてもこわいの……」
赤犬は決して間違ってはいない。だが、それでも途轍もなく恐ろしい存在に思えてしょうがないという宮内れんげ。
新世代型の誰もが宮内れんげの言葉に共鳴し、共感していると、会議場ではその赤犬と新世代型の始祖である小田原修司に話が移り変わった。
「小田原修司も、赤犬も……この時代が育て上げた。途方もなく真っすぐで途轍もなく正しい人間を」
黄猿や多くの武将達は、小田原修司も赤犬も、双方とも混沌に渦巻く現世を生きてきたが故に、どちらも直向きで正しい人間だと評価する。
と、難航する会議に出席している海峡のジンベエが物申した。
「そこまでじゃ! お前さん達は争うべき相手を間ちごうとる……! 今わしらが解決すべき問題は一つだけ……危険な黒武士を打倒する事じゃ!」
ジンベエの鶴の一声に、論争に発展しかけてたローや冷苦そして赤犬は取り敢えず己を落ち着かせ、己の席に着いた。
そして論争をしていた者たちが着席したのを視認して、ジンベエが周りを睨み回すように言い放った。
「この場におる皆々に問いたい……黒武士を倒したいか?」
『当たり前だ!』
ジンベエの問い掛けに会議場の多くが賛同の声を挙げると、ジンベエは真意を説く。
「それを連合軍と呼ぶんじゃ。生き方や目的は違えど、倒すべき敵は同じ! 殺し合いや潰し合いなら後でも十分できるが今、手を組めば……この場にいる誰もが利を得る」
ジンベエの言い分に敵対している者同士や、対立関係の者たちは苛立ちを覚えながらもジンベエの意見に耳を貸した。
「ちぇっ、仕方がねェ。此処は癪だが、赤犬とも協力してやっか」
「ジンベエの言う通りだよ、赤犬……国連の議員も既に悪党達との協力を推している以上、あっしらも手を組まないといけないんじゃないのかな?」
「ッ……! ガイアやジンベエ達、それにセブンズ・ガードと協力するのは実に気に食わんが……確かに上役の連中の決定には逆らえんな」
渋々協力関係を築く事を承諾するガイアに、黄猿が述べる通り悪党達との協力は致し方ないと考えを改める赤犬。
(ち、チクショー―。やっぱ展開的に、こうなっちまったか! あの得体の知れない黒武士……いや、新世代型と関わるだけでも末恐ろしいのに、戦う羽目になっちまうとは……!)
(フッ、まさかジンベエの鶴の一声で結束が決まっちまうとは……だが、国連軍に聖龍隊、そしてアジア各地の武将達の戦力が加われば、十分に黒武士を片付けられるかもな)
一方で、内心では黒武士との戦いを非常に恐れるバギーに反し、ローは世界の名立たる武力が集結する事に満足を感じたのかほくそ笑んだ。
[闇からの訪問者]
「……どうやら、会議は難航気味みたいだな」『!』
突然どこからともなく声が聞こえて来た。会議に出席している者も、その会議を傍聴する皆々も謎の声に反応する。
すると突然、円形状の会議場の中央その何もない空間から闇が渦を巻いて現れた。そしてその渦の中から一人の人物が現れ、姿を見せた。
「お、お前は……ッ!」「ッ……!」
赤犬、バーンズ、そしてその他の多くの二次元人や三次元人が驚愕した。
闇の渦から姿を現したのは、今まさに議論に出ている黒武士当人だったからだ。
「く、黒武士! まさか会議場にまでノコノコと現れるとは……!」
憤怒する赤犬が、今まさに溶岩を黒武士に向けて放出しようとした矢先、黒武士が待ったをかける。
「まあ、待て。我がこの無意味な会議の場にやって来たのには……訳がある」
「訳?」
黒武士の発言にウォーターフェアリーが問い返すと、黒武士は会議に参加している者たちを全てえ見渡せる高さまで舞い上がると、空中で停止してから弁じ始めた。
「今の我が名は、黒武士……破滅の血族の一人だ。今日はお前達にある話をするために此処まで来た」
「破滅の血族? ……新世代型の事か!」
(今の我が名……? どういう意味かしら)
黒武士が語る一言一句にそれぞれ疑問を感じる赤犬とミラーガール。
「話でござるとな?」「フッ、Crazyな黒武士の話なんか……聞くだけ無駄だ」
しかし話を持ち掛けてきた黒武士に対して、不信感を募らせるシン・ユキジやデイ・マァスンたちアジアの武将達。
そんな突然現れ、一方的に話を持ち掛けてきた黒武士の言動にミラーガールが皆を説き伏せる。
「みんな少し待って! 話を聞くだけでも聞きましょう」
皆はミラーガールの言葉を聞いて、黒武士の話に耳を傾けることにした。その一方で黒武士は、冷静に対応するミラーガールの判断を見て言う。
「ふむ、流石は魔鏡聖女。誰よりも賢く生きているなぁ」
と、ここで赤犬が黒武士に怒号の如く問い掛けた。
「おいっ、黒武士! 貴様……以前は一言も喋らなかった癖に、わしらに話を持ち掛けるとは随分と変わったのぅ……!」
「我は変わったのだ……我と同じ、破滅の血脈を辿る者者らの影響によって、我は言ノ葉を取り戻せたのだ……」
「ほほぅ、やはり新世代型二次元人とあんたは、何かしらの形で繋がっているんだねぇ~~」
赤犬の質問に答える黒武士の返答を聞いて、黄猿はやはり黒武士と新世代型二次元人が繋がりを得ていると確信する。
「黒武士よ……おまはんが自分達の始祖、小田原修司を殺したっちゅう明確でない情報が流れちょるが…………本当に修司を殺ったんか」
「……そこは想像にお任せしよう。赤犬元帥殿」
小田原修司を殺めたのかと訊ねる赤犬に、黒武士は想像に任せると明確な答を言わなかった。
(今ヤツが出現した時の闇……あれは間違いなく、修司の闇の力が起こせる空間移動術……!)
その一方、黒武士が登場した折の情景を見て、バーンズは不吉な予感を感じるしかなかった。
「……皆、質問や疑問が多過ぎるようだが……此方の話をさせてもらうぞ」
質問や疑問が多い事を察しながらも、黒武士は話を戻した。
「我の計画、その他様々な感情をな……」
「……計画……?」
黒武士の計画という発言を聞いて、ナースエンジェルが懸念する。
「そう……我の計画。全てが無へと
「無に誘われる……? どういう事だ……!?」
黒武士の発した言葉に問い掛けるバーンズ。すると黒武士は虚ろな眼差しで語り続ける。
「小田原修司……お前達は嫌という程その名を知っている筈だ」
「知っとるも何も……! 貴様ら新世代型の始祖である、あの修司の事じゃろッ!」
黒武士の発した名に、赤犬が激しく反応する。
「…………かつて小田原修司は、そのずば抜けて高い戦闘力で国連の……世界の兵器へと己を売った。それと同時に、多くの二次元人たちの信頼を得て、聖龍隊という世界規模でも格段に巨大な組織を創設した。……そして同時に多くの二次元人の運命を捻じ曲げ、今の混沌たる時代を築いてしまった」
皆が黒武士の話に黙って耳を傾ける中、黒武士は語り続けた。
「我は……破滅の血族の一人として、その混沌たる時代を、世界を全て無へと……零へと誘う。希望も絶望も……正義も悪も……そして愛ですら、全てを真っ白な桃源郷に導き、この世から抹消するのが我の宿願。いや……我ら破滅の血族の宿命だ」
「全てを真っ白な桃源郷へ導くだあ? それって、つまり……どういう事なんだ?」
黒武士の話を理解し切れないバギーが問い返すと、黒武士は解りやすく紐解いた。
「つまりだ……人々が築いてきた歴史、記録……そして記憶に感情。それら全てを真っ白に消し去り、未来そのものを白紙にする事だ」
皆が黒武士の話に仰天していると、黒武士は最後に言い切って見せた。
「わだかまりも争いもない、正真正銘の平和な世界だ」
人々が積み重ねてきた歴史や記憶、そして希望や愛などの感情を全て真っ白に消滅させた世界を正真正銘の平和な世界だと豪語する黒武士。
無論、この黒武士の言論に反論する者が続出した。
「ふ、ふざけるな! 人々の想いを消し去るだと……! そんなこと許されてたまるものか!」
「人の想いを消し去るという事は、それすなわち人間の思想概念から生まれたあっしら二次元人の消滅を意味するじゃありやせんか」
イン・ナオコと藤虎が黒武士に反論するが、黒武士は平然とした物言いで説き明かす。
「全ての歴史、想い、存在……それらを無へと誘うのが、我ら破滅の血族の宿願なのだ」
この発言に今まで黙然と黒武士の話を傍聴していた赤犬が怒号を吐き散らす。
「ふざけるなァ!! 人の想いを……わしらの正義を、全て無くすつもりかッ!!」
正義という想いすらも消滅させると豪語する黒武士に憤怒を向ける赤犬。
「虚無の中の平和など、ただの誤魔化しだ。現実の世界で成し得てこそ意味がある」
真っ白な虚無の中での平和に意味が無いと告げるジュピターキッドの言葉に、黒武士は告げ返す。
「今のこの世に希望など無い……。それはお前達でも……いや、お前達だからこそ理解している筈だ」
更に黒武士は、目の前の者たち全員に冷然とした発言を述べる。
「希望とは所詮、あきらめに等しいものだ。それこそ……誤魔化しの台詞でしかない」
すると黒武士は此処で、自分のほぼ真下に佇むミラーガールを見詰めて語り出す。
「……そういえば、最も大切な事を伝え忘れるところだった」
「最も大切なこと?」
セーラームーンが言葉を返すと、黒武士は淡々と語り明かした。
「……かつて、小田原修司が書き記した自伝本、聖龍伝説の最後に記されてあった。加賀美あつこは全ての変身ヒロインの始祖であり、その始祖たる二次元人が消滅すれば……他の変身系ヒロイン、いや、能力者に多大な影響が出る。と……」
この黒武士の発言に、会場は騒然とした。
「ま、待ちやがれッ! アッコが消滅すればって……テメェはアッコをどうしたいんだ!」
「知れたこと。我ら破滅の血族の宿命は、全ての存在を抹消し……完璧な平和な世、争いの無い桃源郷を築くこと。そして変身系だけでなく、能力者の始祖にも近い加賀美あつこの命を消し去れば……全ての二次元人はどうなるかな?」
大将の問い掛けに平然と答え返す黒武士の台詞に、会場は動揺でざわめいた。
「に、二次元人の完全消滅を……貴様は目論んどるつもりか……!!」
「そうだ。今まで始祖に当たるキャラクターを抹殺した場合、二次元人がどうなるか誰も知らなかったが……近々それが現実のものとなる。変身ヒロインの……能力者に成り上がったキャラクターの始祖である加賀美あつこを葬れば……その反動で二次元人が積み重ねてきた思想が崩壊し、消滅の一途を辿ることになるだろう」
二次元人の完全消滅を目論んでいるのかと問い詰める赤犬に、黒武士は淡々と語り返した。
そして黒武士は虚ろな眼差しを目下の面々に問い質す。
「もはや事は我の思う通りに動いている。で……どうする……? お前達の答を聞こうか。大人しくミラーガールの命を差し出すか……我と戦い、苦痛に喘ぎながら最後を迎えるか。我としては……大人しく聖女を差し出して、皆で穏やかに朽ちて行くのが最善の行為だと思うが……」
すると次の瞬間、黒武士は闇から作り出した一本のナイフをミラーガール目掛けて投げ打った。
一直線にミラーガールに向かうナイフ。だが、そのナイフをバーンズが鋼鉄化させた腕で弾き返し、それと同時にミラーガールも黒武士目掛けてミラー・シールドを振り投げて反撃。
黒武士はミラー・シールドを空中で浮きながら平然と回避すると目下の聖龍HEADに言った。
「成程な。HEADがミラーガールを死守し、そしてミラーガールも自ずと反撃に転じた訳か……」
聖龍HEADの戦闘隊形を視認して、宙に浮き続ける黒武士。
すると先ほどからこの殺伐とした情景を傍観していた台湾の国将軍シバ・カァチェンが前に出て黒武士に申し出た。
「ミラーガールは……加賀美あつこは殺させません」
「もちろん、それはオレ様達も同じだ!」
カァチェンに続き、ガイア・スコーピオンも黒武士に投げ掛ける。
「お前達に勝ち目はないぞ?」
未知数の実力を隠し持ち、不敵に宙で佇む黒武士にバーンズが強い面魂で言った。
「希望は捨てない……!」
バーンズたち会議出席者達の熱意を受け取り、黒武士は呆れた様子で語った。
「かつて、二次元人と三次元人は二度に渡って争い合った。一度目はMrフェイクが仕掛けた謀によって……二つ目は、二年前のアジア大戦で聖龍隊は三次元人の武将達と壮絶な戦いを仕合った」
二度に渡り二次元界と三次元界を巻き込んだ大戦が過去にあった事を述べる黒武士は、次の瞬間衝撃の宣言を告げた。
「今より、第三次二次元・三次元戦争を……ここに宣戦布告する!」
黒武士からの宣戦布告に、会場に出席している者たちも、その様子を別室で傍聴している者たちも愕然とした。
この黒武士の言動に、ジンベエが問う。
「……お前さん、本気で言うとるのか?」
「冗談でこんなことを起こすほど、我ら破滅の血族は愚かではない」
ジンベエの問いに黒武士は本気であると断言する。
そして己の意思を伝え終わった黒武士は、再び闇の空間移動術で移動し始めた。
「今度は戦場で会おう。未来を賭けた戦いになる……精々、余生を楽しむんだな」
そう言うと黒武士は自ら出現させた闇の中に消えていった。
[同盟の名]
突如として会議場に現れた黒武士からの宣戦布告。
それは変身ヒロインを始め、多くの二次元人の始祖、加賀美あつこの命を亡きものにして全ての二次元人を消滅させ、ゆくゆくは全ての存在と歴史と思想を抹消する計画。
この計画を聞いた会議出席者達は、一同に考え込んだ。
「ふぅ……さて、どうしたもんかね……?」
バーンズが突然の黒武士からの宣戦布告を聞いて頭を悩ませていると、ジュピターキッドが唱えた。
「二次元・三次元同盟を結成しなければならない。奴の……黒武士の力が未知数な限り、出来得る限りの戦力を整えないと……」
このジュピターキッドの提案に、ジンベエとトラファルガー・ローも賛同した。
「うむ! わしも同意見じゃ!」
「フッ、決まったな。二次元人と三次元人が手を組んで、黒武士を倒そうって魂胆か」
ジンベエとローが賛同する中、同じ悪党であるバギーは人知れず悩んでいた。
(ど、どうすりゃいいんだ? 実力も大して解らない、あの黒武士と一戦交えるだなんて、正気の沙汰じゃねェ……! ど、どうすれば抜け出せるんだ……いや、待てよ)
バギーは此処で一つの妙案に辿り着く。
(そ、そうだよ! おれはタダ、同盟に加わるだけで実際に参戦……戦わなければ良いだけじゃん。何より、国連軍に聖龍隊が総動員で戦えば、おれ様に戦闘の機会が巡るなんて事は滅多にない筈! ここは聖龍隊と国連軍の陰に隠れる形で、加盟するだけすれば、その間だけでも身を守ってくれるかも……)
自分は直接戦争に参加せずに、強力な戦力を携えている国連軍と聖龍隊の陰に隠れて己の身を守らせようと魂胆を謀るバギー。
「よ、よし! こうなったら、おれ様も加勢してやらあ! ありがたく思いやがれ!」
バギーは自分の本心を隠しながら、皆に同盟参入を宣言する。
「赤犬、お前はどうなんだ?」
「仕方なかァ! これ以上、黒武士に振り回される訳にもいかん! 同盟を結成し、一気にケリをつけなァあかん……!」
バーンズの問い掛けに、赤犬はこれ以上の黒武士の横暴を阻止する為にも同盟結成に賛成の意を表した。
すると此処で、肝心な事をカァチェンが語り出した。
「あの、ところで…………ミラーガールは、聖女殿は如何致しましょうか?」
黒武士に直接狙われているミラーガールをどうするのかを議題に出すカァチェン。
これにモンゴル軍総大将のシン・ユキジが皆に話した。
「聖龍HEADも我らの戦力として計算した方が良いのではないでござろうか?」
しかしユキジのこの提案に、バーンズが反対する。
「それはダメだ。これはアッコを守る戦争でもある。……それに、戦争でアッコをおびき出す為かもしれない」
バーンズのこの言葉に、隣で自分が狙われているのだと自負しつつあるミラーガールが暗鬱な表情を浮かべてた。
「おいおい、それじゃ聖女はどうするんだい?」
黒劉席が質問すると、HEADの鳳凰寺風が答え返す。
「アッコさんは私たち、聖龍HEADが責任を持って守ります。彼女の為にも、そして全ての二次元人の為にも……」
風だけでなく、全HEADが同じ気持ちであった。この風の話を聴いて、赤犬がHEADに話し返してきた。
「なるほどのぉ、加賀美あつこを守る為にHEADが一丸となって死守する訳、か……それなら、同盟連合軍の全指揮は、わしら国連軍が持つ」
HEADが一丸となって加賀美あつこを死守するのだと悟った赤犬は、その間の戦場での指揮は自分たち国連軍が受け持つと豪語する。
すると、この赤犬の発言にバーンズが口を出した。
「確かに指揮は必要、なのかもしれねえが……敵は黒武士ただ一人だ。各隊各個隊士や兵士が自ずと自分のやるべき責務を理解していれば、無用な指揮は必要ないんじゃないのか、赤犬」
「うぅむ、確かに言われてみりゃあ……隊士や兵士が自らの職務を忘れず、強い意志で黒武士に立ち向かっていやぁ、自ずと勝機は見えてくるのかもしれん」
「そうだ。隊士や兵士を信じて、ぞれぞれが黒武士打倒の為に協力し合えば必ず勝機が見えてくる筈だ」
赤犬に聖龍隊士や国連兵士を信じて、各個の活躍に期待してみようと言い聞かせるバーンズ。彼の話に赤犬本人も、兵士や隊士が自分の意思で戦い抜くだろうと思い立った。
「それじゃあ……ミラーガールこと加賀美あつこの最終防衛ラインは貴様ら聖龍HEADにするとして……あの新世代型たちはどうするつもりじゃ?」
「なに?」
赤犬からの突然の申し出にバーンズは目の色を変えた。
すると赤犬に続いてローまでもバーンズに問い質す。
「その通りだ。さっき黒武士が言っていた……自分たちは破滅の血族である、と。破滅の血族といって連想するのが、小田原修司の血筋を受け継いだ新世代型の事だ。奴らは世界の全てを抹消すると宣言してた。今お前達の手元にいる新世代型までも敵に回ったら、どうなるか解っているのか……!」
「ちょ、ちょっと待ってよロー! それは黒武士が勝手に言っているだけで、私達が保護している新世代型までも黒武士と同じになっちゃうのは見当違いじゃない……っ!」
ローの発言にセーラーヴィーナスが慌てて反論すると、ローは真剣な真顔で反論した。
「敵に回ってからじゃ遅いんだよ! 実際、お前達の元にいる新世代型の影響で、黒武士の言動は過激に変化していっているのが現状じゃないか。鬼の申し子たるアイツらを抑えない限り、最悪の事態に発展しちまう可能性だって捨て切れない!」
「そんな……最悪の事態だなんて……」
新世代型を抑制する形で彼らを拘束しなければと訴えるローの台詞に、七海るちあは悲愴な面持ちを浮かべる。
すると、このローの申し出を聞いて、バーンズが会場の皆に言い渡した。
「あの新世代型たちなら、オレも注意深く監視している。これからも変わらず、監視を続けながら保護拘束という形で近くに置き続けるつもりだ……黒武士との戦争が終わるまではな」
「それなら、わしらも安心するわい。少なくとも、新世代型と黒武士を接触させるのは気が気でないわ」
バーンズの提言を聞いて、赤犬も少しばかし悩みの種が減った様子だ。
すると此処でガイア・スコーピオンが思い立った事を口に出した。
「そういや同盟の名前、どうしよっか?」
このガイアの提言に皆が唖然としていると、バーンズが答を言った。
「そうだな……正道も邪道も……ダークもアンチも加わっている、そしてアジア各地の英雄と称される武将が一堂に会している事から…………英雄同盟連合軍というのはどうだ?」
「フンッ、ガイアやジンベエ、ローの様な悪党もおるのに英雄とは甚だ可笑しいが……まあ、悪くないんじゃないか?」
悪党も加盟している現状で、英雄同盟と名指すバーンズの言葉に赤犬も少しこそばゆい感情で受け入れた。
こうして英雄同盟連合軍は対黒武士に向けて準備を始めようと意気込む。
「さて、これから忙しくなるよ、みんな……」
参謀総長であるジュピターキッドは皆に向けてこれから多忙になる現状を告げた。
[過去への贖罪]
会議の末、英雄達は同盟連合軍を結成する事に合意した。
英雄同盟連合軍。それは惜しくも黒武士と同様、未知数の戦力を備えた大軍隊。
その結成が決まった後、英雄達は各々で語り合い、それぞれ接触していた。
聖龍HEADのちせの前で陽気に語り繋ぐガイア・スコーピオン。
これからの英雄同盟連合軍を如何に結束させつつ、一つに纏め上げるか議論する者。
そして黒武士が狙うと宣告したミラーガールの命を如何にして守り抜くか議論するバーンズやジュピターキッドたち。
そんな各自がそれぞれ話し合っている混雑した状況を、先ほどの会議を傍聴していた新世代型たちが片隅で傍観していた。
「な、なんだか大変な事になっちまったな……」
「ああ、二次元界と三次元界の英雄達が一同に手を組んで、黒武士打倒を掲げたんだ。もうみんな、後戻りできないところまで足を踏み入れてしまっている……!」
新世代型の燃堂力と斉木楠雄は二つの世界の英雄達が手を組んで、黒武士打倒を目指している現状に圧巻していた。
「黒武士は言っていたね……自分たち、つまり私たち新世代型を破滅の血族って……」
「ええ、そしてその破滅の血族の宿願が全てを真っ白に……無にした桃源郷を創り出す事と……」
「ふざけてやがる……! 全てを真っ白にする様に、全部無くしちまうだなんて……!」
琴浦春香と御舟百合子の悲愴な言葉に、真鍋義久が癇癪を起こす。
と、そんな各々が黒武士の言動に衝撃を受けている新世代型たちの許に、聖龍隊と同盟協定を結んだあの集団が歩み寄ってきた。
「おやおや、皆さん……先ほどの会議を傍聴して、何か感じ得ましたか?」
「黒衣衆……!」
薄気味悪い黒衣衆からの言葉に、未だ彼らに完全な信用を向けていない新世代型たちは彼等を睨み付けた。
「ふふふ、未だに私たちの事を信じてない、といった顔ね……」
不気味な面立ちで損尼が言う。
「まあ、無理もない……わらわ達が聖龍隊と同盟協定を結んでから、それほど月日は経っておらん。今の今まで畜生道を伝って生き永らえてきた、わらわ達の言い分には信憑性を感じぬのだろう」
大闇刑蘭も今までの自分達の非人道的行為の数々に信頼を得てないのだと理解していた。
と、新世代型たちと語らっている黒衣衆の所に、蒼き武具を纏った青年が歩み寄ってきていた。
「Ha! 信憑性ね……テメェら外道にそんなもん感じる奴がいるのか?」
と、黒衣衆に声をかけに来たのは、過去に彼らに右目を潰された中国の地方武将デイ・マァスンであった。彼の傍らには側近のタク・モンジュロの姿も在った。
「で、デイ・マァスン……!」
わざわざ声をかけに来たマァスンを前に一驚する猿田学ら新世代型たち。そんな彼らにマァスンは言った。
「お前ら、コイツらには十分気を付ける事だ……何を企んでいるのか、分かったもんじゃない」
そんなマァスンの言動に、ガトリンガーが唱える。
「企むだなんて……人聞きの悪い。我らは今やタダの僧侶と尼なのですよ」
「Ha! テメェらのお経……一体誰の為に唱えてるんだ? 自分達が殺した相手に対してか」
ガトリンガーの説法に、マァスンは僧侶や尼だと訴える彼らに愚痴を問い返す。
そしてマァスンは左目をギラリと眼光させると黒衣衆に問い質した。
「オレの右目を潰した事……まさか忘れてる訳じゃねえよな?」
「クククク……随分と大昔の話を持ち出してくれますね」
双方共に激しく目から火花を散らして問答をぶつけ合う様を目の当たりにして、新世代型達は背筋を震えさせる。
すると此処でデイ・マァスンが語り出した。昔の事を。
「今から三年前の事、オレがイギリスに留学していた頃の事だった……」
マァスンが語り始めたイギリス留学中での出来事。
当時より中国から留学しに来たマァスンは、周りと何ら問題もなく接する事のできる好青年だった。
親友もでき、教師からの信頼も厚く、在学中のマァスンは周りと分け隔てなく付き合っていた。
だが三年前の秋、その学校にそれぞれの変装で侵入してきたリベンジャーズが置き去った爆弾によって、学校は崩壊してしまった。
その時、たまたま設置された爆弾の近くで親友と待ち合わせてしていたデイ・マァスンの右目に破片が突き刺さってしまった。
「目が……目が……ッ」
破片が突き刺さった右目から夥しいほどの出血を流すマァスン。そして彼が辛うじて見える左目で周りを見てみると、爆煙の中でもがき苦しむ生徒や教師、そして逃げ惑う人々など、まさに地獄絵図の様な情景が窺えたという。
こうして右目を爆破テロで失ったマァスンだったが、彼にはその後も悲劇が続いた。
爆破テロを行ったのが、日本人達と韓国人という東洋人だった為に、同じアジア出身のマァスンにも批難の眼差しが向けられてしまったのだ。
デイ・マァスンは右目を失ったという失意に駆られたまま、留学中だったイギリスを去ったのだという。
デイ・マァスンから過去の出来事を伝え聞いた新世代型たちは、彼と同じく当時リベンジャーズだった黒衣衆に批難の目を向けた。
「あ、あんた達……トンでもない事やらかしていたんだな!」
過去を知って、プロト世代のギュービッドが黒衣衆を問い詰める。すると彼らは薄ら笑いを浮かべて、切り出した。
「ああ……懐かしい。爆煙の中を逃げ惑う人々、身体が傷付き苦しみに喘ぐ人々、そして彼らが挙げる阿鼻叫喚の数々……思い出しただけでもウットリします」
「……ほらな、こいつ等はこういう奴らなんだよ」
大勢の人々が苦痛に喘ぐ姿を思い出してその情景に魅了される黒衣衆の言動を前に、マァスンは唖然としながら新世代型たちに告げた。
「テメェらも気をつけろよ。こいつ等は修司の命を刈り取ろうとしていた連中……そのChildrenであるお前達の事も狙い出すかもしれねえぜ」
マァスンが新世代型たちに警告すると、黒衣衆は不敵な面構えでマァスンに言った。
「いえいえ、今は破壊や殺戮よりも……守護の役目に投じたいと思い立っています。歴史を、そして未来を守り抜くため、黒武士との戦いに全身全霊を賭けましょう…………ね?」
「Ha! どうだか……」
黒衣衆の発言に、マァスンは疑い続けてた。
「まあ、お前達はいまや聖龍隊に監視されている身の上。下手な事はできねえ立場だ。でも、もし! また血生臭い事やらかしたら、タダじゃ済まないぜ……!」
「うふふ、肝に留めておきますね」
マァスンからの警告に、黒衣衆は全員不吉そうな顔立ちで胸に留めて置くと返答した。
「フッ、相変わらず薄気味悪い連中だな……やっぱ、この場で斬り捨ててやろうかッ」
「待たれよ、マァスン様! 会議が終わった直後で斬り合いをされては、武人としての立場が……!」
「ヘッ、冗談だぜモンジュロ。今この場でコイツらを斬っても、コイツらに殺された連中は浮かばれねぇ」
今この場で斬りかかろうかと六爪の得物を抜刀しようとするマァスンに側近のモンジュロが慌てて制止。だがマァスンは冗談だと言って、刀から手を下ろす。
そしてデイ・マァスンは最後に黒衣衆に言い渡した。
「精々、黒武士との戦では足を引っ張るんじゃねえぞ。それともう一つ…………次にテメェらが可笑しな真似してるのを目撃した時は、それこそ全身全霊で斬る! そのつもりでな……」
黒衣衆に最終警告を告げたデイ・マァスンは、そのまま側近のタク・モンジュロと共に人混みの中へと消えていった。
「ふぅ、やれやれ……相も変わらず、血気盛んな御人だ」
一方の黒衣衆は、人混みに消えていったマァスンを見届けて彼の血気盛んな性分に呆れ返っていた。
新世代型達は改めて黒衣衆とデイ・マァスンの因縁を再認識した。
だが、黒衣衆は過去の贖罪を含めて聖龍隊に同盟協定を持ちかけ、黒武士との戦いに命を賭けている。
この現状に新世代型達は黒衣衆の大罪と、彼等に心を許していない武人もまた数多く健在している事を認識させられた。
[憤怒の感情]
デイ・マァスンと別れ、黒衣衆とも離れて別行動を取る新世代型達は、会議に出席した多くの英雄達が談話しているのを遠くから眺めていた。
議題にも出て、尚且つ会議場に出現して宣戦布告を告げた黒武士と同じ血族である事から、新世代型達は会話に入るのを躊躇っていた。
すると、その矢先。人混みの中で国連軍元帥赤犬が誰かと向き合っているのを、新世代型達は遠目ながらも目撃した。
赤犬と向き合っていたのは、聖龍隊の面子でもある【FAIRYTAIL】のナツ・ドラニグルを筆頭とした面々だった。
「なんじゃ、改まって……聖龍隊、わしらに何か文句でもあるのか?」
「文句なんかない。ただ、俺たちは互いに同じ目的の為にこれから行動を起こすんだ。仲違いしている暇はないって事ぐらい、俺にも分かる」
そう赤犬と対話するのは、ルーシィやグレイ達の心配を余所に面と向かっているナツだった。
「ふんっ、わしは完全に貴様ら聖龍隊を……そして悪党共を信用した訳じゃなかァ!」
「俺も最近までは、アンタが自分の掲げる正義の為なら一般人の命も危険に曝す奴だとばかり思っていた……あの日まではな」
「!?」
ナツの言葉に、赤犬本人もナツの言動に気が気でないルーシィやグレイ達も唖然とする。
するとナツは語り始めた。過去の赤犬という正義を再認識させられた経緯について。
とある異世界のとある島。
この穏やかな島に悪党達が攻め込んできて、多大な被害を与えていった。
これに聖龍隊も急ぎ出動したが、先に国連軍がそれも当時大将だった赤犬も同行して島を襲った悪党達を皆殺しにした。
だが、国連軍が先に到着した事で、島民達の避難も済んだところに聖龍隊が加わり、共に協力し合って島民の避難と負傷者の治療に専念した。
しかし襲撃してきた悪党達は先手を打って、島に火を放っていた。これにより島の街は大火に包まれてしまってた。
「住民の避難は完了したか!?」「クソ……確認のしようもない」
「あの悪党どもめ……なんて事を」
「これじゃあ、まだ街に誰か残ってるのかさえ……」
国連軍の兵士や聖龍隊の隊士が大火に包まれる街を眺めているしかできず、まだ街の中に逃げ遅れた人々がいるのか確認できず困惑していた所に、一人の猛者がやって来た。
「――わしが行く」
「えっ!? ――――あっ……はッ」
「で、ですが生存者がいるかどうか――――」
国連軍兵士は駆け付けた赤犬大将に生存者が居るかどうか確認できない事を伝えると、赤犬は一言。
「おる」
「え…………!!」
「微かじゃが――――――声が聞こえる」
そう言って、赤犬は街を呑み込む大火の中に飛び込んで行った。この時、赤犬は見聞色の覇気で炎の中の生存者の気配を察していたのだろう。
だが、この赤犬の行動を目撃していた隊士から聞いた現場に賭け付けていたナツ・ドラニグルは血相を変えて飛び出した。
「あの赤犬のことだ……! 逃げ遅れた市民になに仕出かすか分かったもんじゃねえ……!!」
ナツは過激な正義論を常に唱えて、それを迷う事無く敢行する赤犬の救出行為に疑問を感じて、赤犬を追って自らも大火の中に飛び込んでいった。
街を呑み込む大火の中を突き進むナツは、聴力を働かせて赤犬より先に逃げ遅れた人を救出しようと辺りを見渡した。
すると、そんなナツの目に、大火に身を包まれながらも駆け抜ける赤犬の姿が入った。
「! 赤犬……!」
ナツは急いで赤犬の後を追った。
「――――――近いな」
一方の赤犬は、感じ取った生存者の気配を探って懸命に捜索していた。
するとその時だった。「あぁん、うああ……ん」と、炎の中から赤ん坊の泣き声が響いてきた。
赤犬はその泣き声を頼りに炎の中を突き進み、ナツはその赤犬の後を気付かれない様に追尾していた。
そして赤犬は遂に炎に呑み込まれる街の片隅で泣き喚く赤子を発見。赤犬は赤子に火の手が回らないよう、赤子を保護する意味で自分が羽織っていた【正義】の上着を赤子に覆わせた。
「よォし……よお頑張った…………!!」
赤犬は大火の中、懸命に泣いて己の居場所を明かし続けた赤子をあやしながら言葉をかける。その様子を駆け付けていたナツ・ドラニグルが建物の陰から窺っていた。
(――――他に生きちょるモンの音は………………――――なし……か……」
「えーー、ええん……」
赤犬は赤子の他に大火の中で生き延びている者の気配を感じ取ろうとするが、赤子が泣く声以外の声は大火の中から聞こえる事はなかった。
「親は免れたか――――死んでしもうたか。先に避難した住民の中に家族がおりゃあええが……」
ナツが陰で窺っているのを知らずに、赤子の心配をする赤犬の小言を発する赤犬。
そして赤犬は、己が羽織っていた上着を赤子に覆わせてから、火の手が余り激しくない所まで移動した。
赤子は炎の中で、多少煙を吸い込んでいたのか咳き込んでいた。
赤犬は赤子の背中を軽く叩きながら声をかける。
「泣け、泣け。それも生きちょればこそじゃ…………」
「ケホッ、ケホ」
赤犬に背中をトントンと軽く叩かれて、赤子は生きている証の如く咳き込む。
赤子に咳き込ませて、十分に呼吸を整えさせた赤犬は燃え盛る街を見渡して赤子に語り掛ける。
「……のォ坊よ。いずれお前は自分に起きた全てを知るじゃろうが、決して眼を逸らしちゃならんぜ。それをまっすぐ見るんじゃ。そして憎むな、それは己を曇らす心じゃけェの」
「えーー、えぇん……」
己の腕の中で泣きじゃくる赤子に唱え掛ける赤犬は、次の瞬間今までよりも厳つい顔付きで赤子に訴えた。
「――――じゃが、許すな。……こんなことの何一つ、許してしもうちゃあいけんのじゃ…………!!!」
人命を奪い、街を人の生活を破壊する悪の行為を、決して許してはいけないと強く赤子に唱える赤犬。
そして赤犬は、燃え盛る街並みを赤子に一しきり見せ付けると、立ち上がっては赤子を安全が確立した国連軍の布陣まで連れて行く。
「生きるぞ」
赤子にそう一言、力強く言った赤犬は俊足の速さでその場を立ち去った。
これらの情景を陰ながら傍観していたナツ・ドラニグルは、赤子を誰よりも早く救い、己の熱き信念を語り掛けた赤犬に愕然とするしかなかった。
こうしてナツは自分が目撃した赤犬の活動を包み隠さず語り明かした。
ナツから事の語りを聞かされ、ルーシィやグレイ達は唖然とした。
そんなナツの話を目前で語られ、赤犬は威風堂々と変わらない素振りを保っていた。
「……あんたの……あんたの掲げる徹底しすぎた正義には、俺も未だに賛同する事はできないが……目の前の惨劇や悪事から目を逸らさず、そして憎んじゃいけないってのは俺でも分かる」
「……だから、それがなんじゃと言うんじゃ」
ナツの話を全て聴き入れながらも強面の態度を示す赤犬。
するとナツは余裕を感じさせる笑みを顔に浮かべては、赤犬に拳を突き出して言った。
「なんにも無いぜ! ただ、あんた達、俺ら聖龍隊と国連軍……犬猿の仲同士の相手が、手を組んで戦うってんだ!」
共闘の意志を示す形で拳を突き出すナツの言動に、赤犬は彼等に唱えた。
「犬猿っちゅうでも……わしらはお互いに、背負っとる正義の形が違うだけじゃ。わしはわしで、己が背負い抱え込む正義を遂行するまでよ」
「それでもいい。お互いの正義や意志は違えど、戦う相手は同じだ。どちらか一方だけの未来じゃねえ、みんなの未来を黒武士から守ろうぜ!」
互いに見据え合うナツと赤犬。すると赤犬は再度、ナツ達に唱えた。
「それなら、おまはんらの覚悟、見せてみィ……! 守るべき正義か、守るべき人命か……その覚悟を!」
「もちろんだ! 俺たちの意地、見せ付けてやる!」
「ふんっ、途中でやめるぐらいなら最初からやるな。やり始めたんなら最後までやり抜け――――徹底的に。自分の振りかざした手にも、掲げた正義にも、わしは責任と覚悟とを以って臨んどる」
「それはそれで頼もしいな、赤犬――――」
互いに思いの丈を語り明かしたナツと赤犬は、双方共に拳を突き合わせて共闘合意の組み手を交わす。
背負うべき正義、守るべき未来――――それらが違う立場ながらも、向かうべき戦場は同じ。
ナツたちは改めて赤犬の信念を、赤犬は聖龍隊の絆の温もりを、再認識した。
[人間としての謝罪]
聖龍隊の一人であるナツ・ドラニグルと改めて繋がりを得た国連軍の赤犬元帥は、ナツと拳を突き合わせた後、再び人混みの中を歩き回っていた。
国連軍元帥として、これから共闘する相手である聖龍隊の精鋭を一目でも確認して、その戦力が確かなものか把握したい心境だったのだろう。
すると赤犬は、人混みの中で聖龍隊の面々と談笑している一人の少年に気付いた。
赤犬はその少年を見ると、すかさず人混みを掻き分けて少年に迫った。
赤犬の動きを、少し離れた所から新世代型たちが遠視しているのに気付かないまま。
「ふぅ、ふぅ……おい、そこの黄色と黒の縞模様の少年!」
「はい? なんでしょう……」
人混みを掻き分けて、赤犬が声をかけたのは【ゲゲゲの鬼太郎】だった。
突然、人混みを掻き分けて急接近してきた赤犬に、鬼太郎は呆然と立ち尽くしていたが、赤犬の方は険しい顔立ちで鬼太郎を見据えていた。
「なんでしょうか、赤犬元帥……」
鬼太郎が訊き返すと、赤犬は被っていた帽子を取って鬼太郎に御辞儀した。
「!?」
突然、頭を下げる赤犬元帥に鬼太郎が驚いていると、赤犬は鬼太郎に謝罪を述べ始めた。
「幽霊族最後の生き残り、ゲゲゲの鬼太郎!
「………………」
「今まで、わしら人間がおまはんら妖怪に対して重ねてきた過ち……この場を借りて詫びる」
なんと赤犬は鬼太郎の前で頭を下げて、腰を直角に曲げた状態で謝罪した。
この赤犬の突然の謝罪に周りが騒然となる中、鬼太郎は平然と立ち尽くしていた。
そして鬼太郎は頭を下げる赤犬に、笑顔で言った。
「……頭を下げてください、赤犬さん」「!」
鬼太郎の返事を聞いて頭を上げる赤犬は、再び鬼太郎と向き合った。
「ありがとうございます、まさか貴方に謝られるなんて、想像もしていませんでした」
笑顔で話し返す鬼太郎に、赤犬は毅然とした態度で語り始めた。
「本来、わしら人間は崇高な存在なんじゃ。それが大小様々じゃが、罪を犯して過ちを正さず、のうのうと生きてしもうちょる。わしは、人間を崇高な存在で居続けたいが為に罪を犯した大罪人を容赦なく罰しておるんじゃ。無論、妖怪や、その世界に危害を加えた悪人も同等にな」
この赤犬の発言を聞いた鬼太郎は、顔を暗然とさせて赤犬に問うた。
「ほう、そうですか。人間は崇高な存在だからこそ、崇高ではない人間は罰しても構わないと言うんですね?」
「おうっ、その通りじゃけェ」
人間は崇高な存在だと信じて疑わないからこそ、罪を犯した悪人を罰しても良いのかと訊ねる鬼太郎に赤犬は毅然とした態度で同意する。
すると鬼太郎は暗然な面持ちで赤犬に問い質した。
「貴方は確かに、真っ直ぐで正しい人間です。だけど、その正しさゆえに多くの命を葬ってきた。正義の名目で数多の命を刈り取ってきた貴方自身が実は罪人であると自覚はしてますか?」
「それは……ッ。……いや、わしは間ちごうておらん! 悪は根本から正すか、抹消せにゃあ正義は成り立たんのじゃ! 悪は全て悪! 存在そのものが罪なのじゃ……!」
鬼太郎からの問い掛けに強気な姿勢で返答する赤犬の言動に、鬼太郎は薄気味悪い面差しで言った。
「……惜しいですね。そこが修司くんと貴方の大きな違いです」
「な、なんじゃと!?」
「修司くんは、彼は……罪人の命を一人、また一人と刈り取ってきました。そう、貴方の様にね……でもね、彼はそうして刈り取った命の一つ一つにも多大な罪悪感を背負って、生き抜いてきました。自分が摘み取ってしまった命の一つ一つを、大切に想いながら彼は生きてきたんです」
赤犬に説き明かす鬼太郎の話を聞いて、唖然とする赤犬。
すると赤犬は鬼太郎の、大勢が見つめる中で鬼太郎に愚痴を零し始める。
「わしかて……本当は気の、心の休まる時がほしい。じゃが、悪党達が世にのさばり、悪事を働いていると考えると……どうにも己の中の熱が疼いてしまうんじゃ……」
「悪を決して許さない、貴方の良心がそうさせているんですね」
「そういう事じゃ……いくら命を奪っても、悪党は蛆虫の如く湧き続ける……ほどほど疲れるが、それもまたわしの宿命じゃ……」
鬼太郎の前なのか、普段は決して人前で弱気な言動を見せない赤犬の言葉に、鬼太郎は暗然な面持ちで説き掛ける。
「人を呪わば穴二つ……命を奪えば、それなりの代償や代価が必要……貴方は、そんな大切な事を己の中の正義感で忘れてしまってます」
「ッ………………!」
「赤犬さん、貴方は確かに多くの人命を奪って自分が背負う正義を遂行しています。ですが、奪い取った命にも多少ながら弔いの心を持って接しなければ、貴方もいづれは己が最も嫌う畜生や外道に成り下がってしまいます……!」
「む……ッ!」
「全ての命を尊い、そして弔う心を忘れなければ……貴方もきっと、修司くんの様に周りから受け入れられる存在になれますよ、きっと」
鬼太郎からの助言を承って、赤犬は返す言葉が見付からなかった。
すると赤犬は急に居心地が悪くなった様に、鬼太郎の前からそそくさと立ち去ってしまった。
「やれやれ、自分の過ちを素直に受け止めていれば、あの人も少しは穏やかな気性になれたかもしれないのに……」
鬼太郎は過激な正義を遂行する赤犬が少しは変化してくれればと想っていた。
[ヤン・ミィチェンの温もり]
それから新世代型達は、未だに集団の外で談話している人々の様子を窺うばかりだった。
黒武士との全面戦争、それに対して新世代型たちの心中も複雑だったのだ。
と、そんな新世代型たちの目に、自分たち同様、蚊帳の外の様に人混みから遠ざかっている人物が目に付いた。
歩み寄ってみると、それは戦場などでは神輿の上に鎮座して浮遊しながら移動している大闇刑蘭の姿だった。大闇は戦場では神輿に乗って浮遊しているが、普段は車椅子に乗って移動や生活を送っていた。
すると、そんな大闇は自分に歩み寄ってきた新世代型たちを見て話しかけて来た。
「おやおや、新世代型の童たちか……どうした? わらわと同じく蚊帳の外に追い出されたのか?」
「違うよ。アタイ達はアタイ達で、皆の話の邪魔をしないように敢えて遠くから観ているだけさ」
大闇の問い掛けにプロト世代のギュービッドが返答する。
「おぬし等は恐くないのか……? 旧時代に戦いを挑み、古きも新しきも滅ぼすという黒武士に対して……まあ、もしかすると、黒武士は主ら同族の新世代型には手を出さんかもしれんがな」
「言ってくれるな、婆さん」
「同じ新世代型かもしれないけど……僕等だって黒武士がやろうとしている事には驚いてるし、正直恐いです」
大闇の発言に幸平創真と小野田坂道が反論すると、大闇は不敵な嘲笑を浮かべて話し返す。
「ふやっやっや、それは悪かったのう……しかし、わらわ達を陥れ、奈落の底に叩き落した小田原修司の申し子である主らにも、恐れという感情はあったんじゃな。これは驚いた」
「……やめてくれないか、その言い方」
新世代型達は大闇が発した申し子という言い方に対して癪に障ったようだ。
「ひゃっはっは……いやはや、今まで幾度と無く死線を乗り越えてきた小田原修司の血筋を受け継いでいる主ら新世代型に注目されると、わらわの焼け爛れた体が疼きよる」
大闇は過去に大火傷を負い、その深手は全身に回っているのだという。
そんな大火傷の体が疼くと唱える大闇に、森谷ヒヨリが不満そうな顔で問い詰めてきた。
「疼くなんて、なんだか気に障る物言いね。そもそも、その火傷ってあなた達が起こした戦争で負ったものなんじゃないの? いわば、自業自得って奴で」
すると問われた大闇は、眼前を見据えて森谷ヒヨリの問い掛けに答えた。
「ひゃはは……これはじゃのう童。小田原修司に日本より追い出され、韓国に逃げ延びた際に民衆から酷い仕打ちをされてのう……石を投げられるわ、火炎瓶を投げ付けられるわで。わらわが火傷を負ったのも、その民衆による手痛い仕打ちによるものなのじゃ」
「そ、それは酷い……でも、なんで?」
大闇の返答を聞いてプロト世代のチョコが問い返すと、大闇は率直に答えた。
「それはじゃ、全ては小田原修司がわらわ達を逆賊として世間に悪名を伝えたからじゃ。わらわ達は日本の皇族をも敵に回した逆賊として、修司に日本で追い回され……逃亡先の韓国やアジア大陸では人民に忌み嫌われて迫害された結果……わらわ達は暗心討伐黒衣衆へと変貌したのじゃよ」
大闇から聞かされた、過去の禍々しい迫害の日々、そして成り上がった黒衣衆への経緯を知って、愕然とする新世代型たち。
「因みに……わらわの大闇刑蘭という名は偽名じゃ、偽名。本名は既に過去の底へと落としてしもうた。刑蘭というのは、日本の律冷制における役職の「刑部」から文字っておるのじゃよ、ヒヒッ」
自分の名が偽名であり、本名は過去の遠くへと落としてしまったと唱える大闇の言い分に新世代型達は未だ戦慄を感じていた。
すると此処で、大闇は雰囲気を一変させては溜息をついた。
「ふぅ……」「……どうしたんですか?」
大闇の気落ちした様子を悟って、新世代型の出雲ハルキが訊ねる。
すると大闇は寂しそうな眼差しで新世代型たちに話した。
「いや、なに……わらわだけが生き残ってしまい、ミィチェンには悪い事をしたと罪悪感に苛まれてな」
「北朝鮮の残党軍総大将、ヤン・ミィチェンに……?」
新世代型たちが顔を見合わせて唖然とする中、大闇は語り始めた。ヤン・ミィチェンとの在りし日の事を。
今から二年前の2011年、アジア大戦を引き起こした大闇刑蘭は同胞の黒衣衆と共にアジア各地で暗躍していた。
大闇は、当時の台湾軍総司令官モウ・チェイファンと結託して、謀略の限りを尽くして各地に戦火を引き起こしていた。
だが、大闇の心理は他にあった。醜く焼け爛れた異形の景物同然に成り下がった老婆である自分を、側近として扱い、傍らに置いてくれた武将の存在。その武将こそ他でもない、ヤン・ミィチェンだった。
ミィチェンは真っ直ぐな心理の持ち主で、人を利用するという考えを余り持たない主義だった。そんなミィチェンに代わって謀略を張り巡らせて、軍を勝利へと導こうとしたのが他でもない大闇だった。
「これも義のため、ぬしのため…」
大闇はよく呟いていたが、この言葉に嘘偽りもなく、率直な想いだけだったと言う。
全ては自分を受け入れ、自軍にて働きを与えてくれたミィチェンの為に、大闇は謀に専念したという。
だが、聖龍隊率いる大軍隊との決戦寸前、モウ・チェイファンにより今まで戦火の裏で暗躍していた黒衣衆の存在と、彼等が二次元人である事実を聞かされた事で、大闇に騙されていたミィチェンは激しく心が傷付いた。
そして黒衣衆は、地下牢に全員送られてしまったが、そんな独房の中までミィチェンがやって来て大闇を気にかける。
「刑蘭……風邪を引くぞ」
そう言うとミィチェンは大闇の肩にそっと毛布を被せてあげた。
そして大闇の近くに座り込むと、ミィチェンは大闇に語り掛け始めた。
「刑蘭、何故人は裏切るのだ……何故、人は真っ直ぐ前を向いて生き様とはしない」
ミィチェンからの問い掛けに、大闇は何も答える事が出来ず無言を貫くしかできなかった。
自分たち黒衣衆の悲願を達成する為に、アジアの戦火を、そして人々の想いを利用してきたが故に、大闇はミィチェンに返す言葉が見付からなかった。
しかし大闇はそのミィチェンの嘆願により、牢屋から釈放された。時は聖龍隊との決戦直前の事だった。
ミィチェンは牢屋から出たばかりの大闇を睨み付ける様に見詰めると、暗黙の意思疎通で大闇に伝えた。
「行くぞ、刑蘭!」
言葉を交わさずとも、ミィチェンの意志を汲み取った大闇は、今から死地に赴くミィチェンの覚悟を受け止めてハッキリと言った。
「ミィチェンよ、共に地獄へ参ろうぞ」
相手が聖龍隊が故に、生きては帰れない戦地への出陣。だが、友の覚悟を前にして己自身の覚悟も決めた大闇はミィチェンと共に地獄へと参る決意をした。
だが、戦場では死に切れず、大闇は友であるヤン・ミィチェンの死を遠く離れた場所で哀愁を漂わせながら傍観していたという。
ヤン・ミィチェンとの過去の思い出話を聞かされ、悲愴な面持ちを浮かべる新世代型たち。
そんな新世代型たちに大闇は言った。
「主らは所詮、小田原修司の申し子とか関係なく……今という血塗られた歴史の上で成り立っている平和な現代でのうのうと生きておる命。その命は過去に死んでいった戦死者達の名を覚えている事はあるか」
大闇から問い詰められ、新世代型たちは返す言葉が見付からなかった。
そして語りたい事だけを語り切った大闇は、そのまま仲間の黒衣衆の許へと戻っていってしまった。
デイ・マァスン、黒衣衆、赤犬に鬼太郎、そして大闇刑蘭の過去や現状を目の当たりにして愕然とする新世代型たち。
数多の想いが巡り、そして複雑に絡み合う中、果たして彼等は黒武士の猛威から世界を……そして歴史という記録を守れるのだろうか。
戦慄が世を駆ける
緊迫が時を焦がす
空は振れ、地は静み
人はただ予感する
戦乱の予感
にじり寄る脅威に、英雄達はここに起つ
勇も邪も、希も絶も
時は満ちる
いまこそ闘いの時
いまこそ開戦の時