聖龍伝説 現政奉還記 創生の章   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 イン・ナオコの協力を経て、どうにか事実上の和解を隔てたスター・コマンドーは聖龍隊に復帰した。だが世の男を変わらず目の仇にするナオコの横暴に皆が困っているところに、モンゴル軍の忍頭猿飛佐助が出戻ってきて、お館様ことモンゴル軍国将軍のモウ・コダイの病が日本皇族の時乃宮彦麻呂から譲り受けた秘薬で復活したとの伝令を持ってきた。そして佐助が言うにはモウ・コダイはナオコとの道場での仕合を求めており、モンゴル漢道場へ彼女を招待する。ナオコの気性の荒さを心配したミラーガールを初めとする一部の隊士も同行して、モンゴル漢道場に皆で出向く。そこで彼女達はモンゴル軍の漢が汗水垂らして己を鍛え上げるという道場の熱気に襲われるが、ナオコは自分の挙式が遅れてしまった原因を作ったモウ・コダイに文句を告げる。だが、モウ・コダイはそんなナオコの鬱憤を素直に受け止めつつ彼女に現実を受け入れる素直さを認めよと助言を伝える。のだが、ナオコとモウ・コダイの熱戦は止まる事はなかった。二人の熱戦の最中に起こったハプニングをミラーガールが制止した事が切っ掛けで、双方共に引き分けとして勝負は終わった。決着に納得がいかないナオコが文句を言う中、彼女は周囲の皆やモウ・コダイそしてミラーガールの言葉を聴いて、己が最も嫌っている傲慢な性分に成り果てている事に気付かされる。己の傲慢さに気付かされたナオコが周りの気遣いを受けて元気になろうとしていた矢先、今度はモウ・コダイが倒れてしまう。モウ・コダイの病は完全に癒えてなかったのだ。そしてモウ・コダイが床の間に運ばれていく中、己の傲慢さに気付かされたナオコと、己なりのやり方があると説かれたシン・ユキジは、各々の性分を弁えた上で、今後とも聖龍隊と協力関係を結ぶと申してくれたのだった。



現政奉還記 創生の章 過去を語る忠犬

[飢える犬]

 

 モンゴル漢道場にて、モウ・コダイと熱き闘いを繰り広げたイン・ナオコとミラーガール一行は、その後聖龍隊の前線基地に戻っていた。

 戻ってからというもの、イン・ナオコの周辺には変化があった。

 それは、なでしこ隊の乙女達が今まで以上にナオコに素直な気持ちを伝えられていた事。これもイン・ナオコ本人が素直に現実を受け入れられた結果なのだろう。

「ナオコ様、私本気なんです……この戦が終わったら、彼と添い遂げたいんです! ……今までナオコ様の苦心を前に、言うのには抵抗がありましたけど、今ならハッキリ言えます! どうか私と彼の挙式を許してください!」

「……そうか、それはめでたい! 私からもお祝いの言葉を送ろう!」

「あ、ありがとうございます! ナオコ様……!」

 現実を受け入れたナオコの元には、今まで以上に悩みを打ち明けてくれる乙女が殺到していた。

 そんなイン・ナオコに聖龍隊の女子達が声をかける。

「ナオコさん」「おっ、聖龍隊の戦乙女たち!」

 最初に声をかけてきたアスナの声に、ナオコは清々しい顔で返事した。

「今、うちのなでしこ隊の乙女から話があってな。なんと添い遂げたいという男を私に紹介してくれたんだ! 今まで男に対して色々と根に持っていた私には相談し難かったらしいが、此処に来てようやく打ち明けてくれるようになったみたいで」

「それは貴女が、素直に現実を受け入れるようになったからじゃないかしら」

「そ、そう思うか……?」

 なでしこ隊の乙女がナオコにどうしても添い遂げたいという異性を紹介した経歴を知って、黒雪姫が返事するとナオコは頬を赤らめる。

 だが今まで現実を受け入れられなかったナオコの心境の変化に聖龍隊の女子達も大いに喜んだ。

「それもこれも、ナオコさん。貴女が過去を、そして現実を受け入れる様に心境を変化させたから、他の多くのなでしこ隊も貴女に気兼ねなく相談できるようになったんじゃないのかしら」

「そ、そうかもしれないな、アスナ……前の私といえば、戦乱の世を駆け巡る戦乙女たるなでしこ隊に命を賭けてまでも付いて行きたいという男は俄かには信じられなかったし、素直にウチのなでしこ隊を嫁にくれと言ってくれる男の戯言には耳も貸さなかっただろうからな」

 今まで本気で女を好いてくれる男に皆目検討も着かなかったナオコは、己が命を賭けてでも好いた乙女と一緒に添い遂げたいと願い出る男の出現には驚かされながらも、今では素直に彼らとなでしこ隊の交際を認めるまでに荒かった気性が変わっていた。

 そんなイン・ナオコは、なでしこ隊の悩みや相談を聞いていく内に、聖龍隊の戦乙女たちにも訊ねた。

「今の私は心の底から、何かこう……スッキリして気持ちが晴れやかなんだ! さぁ、どうだ? 聖龍隊の戦乙女たち、貴殿らも何かしら乙女の純愛や恋路で悩んでいる事があったら遠慮なく申し出てくれッ」

「は、ははは……はぁ、また別の機会にでも聴いてもらいますね、はい……」

 どんな悩みだろうと素直な性分に成り切っている自分なら解決できると熱く論ずるナオコの言い分を前に、鹿目まどかは苦笑しながら返事する。

「さあ! これからは行動するだけでなく、周りの声にもドンドン耳を傾けていくぞ!」

 と、ナオコが意気込みを語っていると、そこにナオコの今までとは違う熱気を怪しく思う少年が様子を伺いながら忍んできた。

「ふむふむ、なるほどなるほど……なでしこ隊のお姉さん達が話していたとおり、イン・ナオコは前と違って少しお淑やかになったと見える。ふむ」

 そう呟きながらやって来た少年を見て、ナオコ達は愕然とした。

「お、お前は……! 鹿之助じゃないか! なんだ? 帝からの言伝か!? それとも宣戦布告か!?」

「い、いやいや違います! 僕は将軍からの伝令で此処に来た訳じゃないっす!」

 足正義輝の軍門に降っていた山中鹿之助の来訪に警戒を強めるイン・ナオコ、そんなナオコ達に鹿之助は必死に否定する。

「あの大戦の後、足正様から御言葉を頂いて……しばらくの間、御暇を与えてやるって。要するに休暇を貰っ訳っす。此処に来たのは、みんながどうしているかなって気になって、やって来た訳っす」

 胸を張って堂々と自分の経緯を語る鹿之助を見て、イン・ナオコは真顔で鹿之助に告げた。

「それって要するに……単に弱かったから暇を与えられただけじゃないのか?」

「が、ガァ~~ン……そ、そんな、弱いから……!」

 ナオコから指摘を受けた鹿之助は、悲愴に打ちひしがれる。

「良いんだ良いんだ、どうせ僕なんて……」

 指摘を受けた鹿之助は落ち込んでしまい、そんな彼を、おやっさんは宥めてあげた。

「………………………………」

 そんな落ち込む鹿之助を目の当たりにして、聖龍隊士達は呆然とする。

 

 と、鹿之助が落ち込んでいるところに新世代型の二次元人達が鹿之助の来訪を聞き付けてやって来た。

「なんだなんだ? 鹿之助が来てるってホントか?」

 帝の軍門に降っていた鹿之助の来訪に、真鍋義久ら新世代型たちが集まってきた。

「う、うわ! 新世代型の皆さん……そ、その、先の大戦では怖がらせてしまい、その……申し訳ありませんでした」

「もういいよ、鹿之助くん。もう終わった事なんだし」

 新世代型を前にして身を震わせて怖がる鹿之助に、琴浦春香が優しく返事をする。

 すると鹿之助は若干涙目で怖がりながら目前の新世代型たちに問う。

「ほ、ホントにごめんなさい……だから、食べないで」

「まだ言ってんのかよ」

「いくら俺たちが鬼神のクローンだからって、人は喰わねえって……第一、鬼神が人を喰ったってのも本人が流したデマなんだしよ」

 涙目で自分を食べないでと悲願する鹿之助に、新世代型の井ノ原真人(いのはらまさと)と幸平創真が呆れながら言い返した。

 そんな呆れながらも食べないと伝えた新世代型たちの言葉を聴いて、少しばかし安堵した鹿之助はまたしても聞いてきた。

「あ、そうそう。僕ら帝の軍勢との終戦直後、皆さんを襲ってきた反二次元思想主義の軍勢との戦いは大丈夫でしたか? あいにく、足正様からお許しを得て出撃できたのが一部の武将だけだったので、僕は出撃できなかったんですよね」

「本音を言えよ、本音を。本心は怖くて出撃できなかったんだろ?」

 自分は命令が出なかったので出撃できなかったと伝える鹿之助の台詞に、新世代型の手嶋純太(てじまじゅんた)が鹿之助の本心を衝く。これには鹿之助も一瞬言葉を失った。

 そんな鹿之助の言動に皆が呆れ果てる一方で、イン・ナオコが反二次元思想主義との経緯を語った。

「反二次元思想主義の連中とは、帝の軍勢や聖龍隊との攻防で戦力や士気が大幅に消耗していたところを衝かれて多大な被害が生じた。だが鶴姫殿、かすが殿、そしてシマ・ギンテル殿の加勢に加えて、最後まで皆で力を合わせた結果、どうにか凌ぐ事ができ、奴らを撤退させる事ができた」

「ホントに凄いっすね! 戦力を消耗し切っていたところを攻められても、なお巻き返す事ができるなんて……あ~あ、僕もそんな活躍ができる武将になりたいな」

 と、ナオコの話を聞いてうっとりする鹿之助は、ある事を思い出して皆に尋ねてみた。

「あ、そうだ! 確か、その反二次元思想主義の一派の中で、今でも此方で捕らえている兵士が一人いるって話を聞いているっすけど、その人どうしていますか?」

 この鹿之助の質問に、新世代型の一ノ瀬はじめが返答した。

「ああ、あのマン・サコンって奴っすね。彼なら今でも聖龍隊が用意した座敷牢の中に囚われているっす」

 はじめに続いて同じガッチャマンクラウズの枇々木丈が真顔で語った。

「彼なら最初は激しく抵抗していたが、今ではすっかり大人しくなっていると聞く……聞いた話によると、あれこれ一週間は何も食べていないから、意識が朦朧としているんだと」

「え!? 聖龍隊は彼に……囚人であるサコンって人に何も食べさせてないんすか!? 言っちゃなんだけど、酷すぎるっす!」

「ち、違うわ! 聖龍隊はちゃんと彼に食事を提供しているけど、彼が手をつけないだけなの!」

 話を聞いて思い違いをする鹿之助に、新世代型のイオリ・リン子が訳を話す。

 この話を聞いてリン子に続いて幸平創真たち【食戟のソーマ】のキャラ達は複雑そうな面持ちを浮かべて話し出した。

「あの野郎、せっかく俺たちが作った料理を出してやったのに、それを蹴り飛ばして台無しにしやがったんだよ」

「私たちの料理を目の前に出されてスグ、料理を蹴飛ばして言ったの……」

 創真や田所恵が悲愴な面持ちで語り明かすと、どうやらマン・サコンは目の前に出された彼らが拵えた料理を全く手に着けず蹴り飛ばしてこう言い放ったという。

 

二次元人(バケモン)が作ったメシなんて、食えっかよ……!」

 

 二次元人を異端者扱いし、更にその二次元人に祖国を奪われ、主君だった青年を死に追いやられた経緯から二次元人を心底目の仇にしているサコンにとっては、彼ら二次元人が作ってくれた料理など食す気も起こらないのであろう。

 そんな旨い筈の手料理を口にせず、蹴飛ばして反抗しているサコンの行動に、呆れ果てながら新世代型の森園わかなが文句を言った。

「勝手に飢え死にすれば良いんだにゃ! 私たち二次元人のこと、バケモノ扱いしている北朝鮮の残党なら死んでくれた方がマシにゃ!」

 この森園わかなの発言に、神浜コウジが口を挟んだ。

「で、でもわかな。順一さん達が言っていただろ。聖龍隊のきたへの進攻は、歴史的に間違っていなかったとはいえ、変え様のない大罪だって」

「そ、それはそうだけど……」

 変え様のない罪だと指摘され、誰も北朝鮮やマン・サコンへの暴言を言えなくなってしまった。

 

 

 

[哀しい歌]

 

 皆が集まって話をしていると、そこに静かに歩み寄る青年が声をかけてきた。

「あの、皆さん……」「あ、カァチェン」

 声を掛けてきたのは聖龍隊に属する台湾軍国将軍のシバ・カァチェンだった。

 何やら集まって談義をしている皆のところに歩み寄って声をかけてきたカァチェンは、皆に問い掛けた。

「あの、お手数とは存じ上げますが……どうか、この私にもできる食事の準備を御教えしてくださらないでしょうか」

「へっ、料理?」

 幸平創真が真顔で反応すると、カァチェンも真顔でお答えした。

「はい、極々簡単なものでも宜しいのです……どうか、私めに御指摘の程を……」

 このカァチェンの嘆願を聞いて、幸平創真たちは考え込んだ。

「う~~ん、そうだな……それじゃ、簡単におにぎりでも教えてやるよ。田所、お前教えてやってくれないか?」

「う、うん、別にいいよ……それじゃカァチェンさん、私が教えてあげますね」

「はい、誠に感謝いたします……」

 創真から頼まれて、恵も快くカァチェンにおにぎりの作り方を伝授する事を承諾。カァチェンは恵に礼を述べると、二人はそのまま厨房の方へと足を進ませた。

「……どうしたんだカァチェンの奴。いきなり料理を教えて欲しいだなんて……」

「自分の夜食用にでも作るんじゃねえのか?」

 突然のカァチェンの行動に不思議がる幸平創真に反して、真鍋義久は自らの夜食用ではないかと口を挟む。

 

 と、カァチェンと田所恵が厨房に向かって数分後の事。

 基地内部に、反響して響き渡る歌声が皆の耳に聞こえてきた。

「ん? なんだ、この歌は……」

 何処か哀しげな歌声にイン・ナオコが反応し、彼女に続いて聖龍隊士や新世代型たちも歌声に気付く。

 同じ頃、聖龍HEADも歌声に気付いていた。

「何なの……この哀しげなメロディー……」

 七海るちあは哀愁漂う旋律に何処か空しさを感じていた。

 すると其処に、聖龍隊の一般隊士が駆け込んでは歌声の出所を報告した。

「こ、この歌声は座敷牢……あのマン・サコンが歌っているものです!」

「サコンが!」

 聖龍隊総長バーンズが強く反応して立ち上がると、他のHEADも一声に立ち上がる。

「ど、どうしましょうか? やめさせますか……」

「……いや、このまま歌わせてやろう。北朝鮮の兵士達の鎮魂歌として」

 一般隊士がサコンの歌をやめさせるか訊ねると、バーンズは北朝鮮の兵士達への鎮魂歌として歌わせてやろうと咎めなかった。

 そんなサコンの歌声は、周辺の土地の形状で反響し合い、基地全体に響き渡った。

 その哀愁漂う歌声に、村田順一たちスター・コマンドーは心を痛め、基地内部にいる度重なる戦闘で疲労し切った隊士達の心に響いた。

「な、なんなの? この歌は……」

 厨房でカァチェンにおにぎりの作り方を教えている田所恵が歌に気付いて動揺する中、その隣ではカァチェンが一生懸命おにぎりを握り続けていた。

 

「誰が祖国を二つに 分けてしまったぁの~~」

 

 その歌は、日本で生まれながらも、朝鮮半島に生きる全ての人々の心に響く哀しい歌だった。

 サコンは何処でこの歌を知ったのか、今では知る由もないが、祖国を失い、主君を失った男の哀しい歌声に皆が耳を傾けた。

 祖国であった朝鮮半島が二分割され、北と南に人民が分けられた頃からの経緯を歌詞に綴った哀しい曲。

 そんな北朝鮮で生まれ育ち、かつての主君に拾われ、希望を見出した青年の心の哀しさが伝わる歌が基地に響いた。

 

 

 

 座敷牢にて、一時ばかし歌ったサコンは再び牢の片隅で天井を見上げながら衰弱し切っていた。

 この一週間、聖龍隊が出してくれた料理には手を着けず、それどころか異端者が作ったものとして激しく嫌悪感を示して蹴り飛ばしていた彼の精神はボロボロだった。

 そんな座敷牢に、一人の青年が何かを運んできた。

「………………」「……あんたは……」

 座敷牢の前で立ち止まる青年に、牢内のサコンは目を向けた。

 サコンが囚われている牢の前に立ち止まったのは、大皿に山の様なおにぎりを携えて運んできたカァチェンだった。

「へっ、なんだい。また二次元人(バケモン)共が作ったもん俺に食わせようってのか。あいにく、俺は二次元人(バケモン)が作った得体の知れないモンは見向きもしたくないんだよ」

 カァチェンが持ってきた、おにぎりの山を見てサコンは顔を背けた。

 すると運んできたカァチェンはその場に座り込み、牢内のサコンに告げた。

「安心してください。これは二次元人が作ったものではありません……不器用ながら、私が作ってみた品です」

「え?」

 カァチェンの言葉に顔を振り向かせたサコンが凝視してみると、確かに山の様に詰まれたおにぎりは何処か不恰好で形も凸凹している歪な形状だった。

 おにぎりがカァチェンが下手なりに握って拵えたものだと自覚したサコンは、目を丸くして訊ねた。

「これを、アンタが……? でも、なんで……!」

 なぜ自分なんかの為におにぎりを拵えたのかと問い詰めるサコンに、カァチェンは静かに語った。

「貴方様を……放っておく事ができなかった。同じ過去に挫折を経験し、現実(いま)に絶望している貴方を見過ごす事ができなかったのです」

 そんなカァチェンの台詞を聞いて、サコンは言った。

「別に、俺は今に絶望なんかしてねーーし。まあ、復讐心はあるけどよ」

「認めるんですか」

 サコンの発言にカァチェンは呆気に感じながらも返事する。

 するとカァチェンは座敷牢内におにぎりの山積みを押し入れて、サコンに再度言った。

「……今は、聖龍隊や私を信じろとは申しません。ですが、その消耗し切った肉体で事切れるのは亡き主君に大変失礼です。少しばかしでも精をつけてほしく、こうして歪ながらも、おにぎりを持参した次第……」

「………………………………」

 カァチェンの話を聞いてサコンは黙然と差し出された山積みのおにぎりを見詰める。

 そして心底飢えていたのもあって、何より自分が忌み嫌う二次元人が作ったものではない料理を前に、サコンはがっつく様におにぎりの山へ顔を突っ込んだ。

 ガツガツとおにぎりを頬張るサコンは、両手におにぎりを携えながら貪った。

「なんだよ、この握り飯……形がメチャクチャじゃねえか……! 味もしょっぱいぜ……!」

 そう文句を垂れ流しながら握り飯を貪り食うサコンの瞳からは、自然と涙が零れていた。カァチェンは、そんなサコンを静観していた。

「ごほっ、ごほっ……」

 時おりサコンは、空腹状態の胃袋に突然大量の食物を放り込んだめに、胃袋が驚いて咳き込むが、そんなサコンにカァチェンが慌てる必要はないと声をかける。

 そんな二人の情景を、影ながら見守っていた者が。それはカァチェンに握り飯の作り方を伝授した田所恵だった。彼女はカァチェンが純粋な気持ちで握り飯を拵えて、それをサコンに差し出した経緯に嬉し涙を零していた。

 

 

 

[幼少期の野犬]

 

 空前絶後の空腹状態だったのか、マン・サコンはシバ・カァチェンが拵えた歪なおにぎりの山を全て平らげてしまった。

 すっかり腹が満たされたサコンは、何処か安堵した様子で満腹し切っていた。

「ふぅ~~、食った食った。やっとマトモな飯にありつけたぜ」

(意外と食欲旺盛だ……)

 多少の予想と反して握り飯を平らげたサコンを見てカァチェンは心の中で驚いた。

 全ての握り飯を平らげたサコンは、少しであったが握り飯を提供してくれたカァチェンに心を打ち明けてくれた。

「……へぇ、あんた、あの智将と悪名高いモウ・チェイファンの後釜に据えられた武将だったか。あの智将が残してくれた地位なら、安心して座り込めるな」

「いいえ、今は亡きチェイファン様の後釜など……私には烏滸がましい限りです。あの方の智将たる采配振りには到底及びません……」

 二年前の乱世で知略の限りを尽くしたモウ・チェイファンの後釜なら楽だろうと説くサコンに対し、カァチェンはチェイファンの采配振りに自分は遠く及ばないと謙遜する。

「まったく……俺らの大将って、つくづく二年前の乱世で二次元人どもに死なせられちまったし、最悪だよな」

「それもまた運命……私達が付き従い、そして私達を導いてくれた将の死は、変え様のない宿命として背負わなければならないと、私は自負しております……」

「へっ、宿命ね……」

 話は次第に自分達の今は亡き主君の事柄に触れ始め、自分達の将であった二人の死は変え様のない宿命だと説くカァチェンにサコンは不満げな表情で呟いた。

 話が自分達の今は亡き主君に逸れたのを切っ掛けに、カァチェンは思い切ってサコンに問い掛けた。

「……なあ、サコン」

「おっ、あんた、やっと俺の名前を言ってくれたな」

「サコン……貴方様の主君、ヤン・ミィチェンとはどんな御方だったのですか?」

「……!」カァチェンの問い掛けに目を見開いて一驚するサコン。

 そんなサコンにカァチェンは再度問い掛ける。

「……貴方様の主君は、一体どんな御人柄だったのですか? 本当に凶王と呼ばれるほど末恐ろしい人間だったのですか?」

「………………………………」

 質問に対して黙り込むサコン。そんな彼にカァチェンは問い質した。

「聖龍隊の方から聞きました……貴方の身体には、夥しい程の刃による切り傷痕が見受けられたと。まさか……貴方様の主君によって、甚振られたのですか」

「違う! ミィチェン様はイタズラに他人を傷つける畜生とは違う!!」

 カァチェンが問い質そうとした矢先、怒鳴り返すサコンの怒声にカァチェンも、陰ながら二人の会話を聞いている田所恵も、その恵からの共有感知で二人の会話の内容を周知している新世代型たちも驚愕した。

 するとカァチェンが目を丸くして驚いた表情を浮かべていると、そんな彼にサコンが後ろ暗い面持ちで話し出した。

「この傷は……あん時に付けられたもんさ。二次元人によって、生きる希望を……目標を、標を奪われたミィチェン様の絶望の証なんだ」

「……その話、詳しく私に聞かせてくれないか。誰かに話すだけでも、胸の内が軽くなるものだ……」

 そしてサコンはカァチェンに語り明かし始めた。自分の生い立ちと、ヤン・ミィチェンとの出会い。そして自分たち二人が追い込まれた絶望の有様を。

 

 

 時はサコンが幼少期の頃から話は始まる。

 サコンは生まれて間もなく、親から捨てられ、自力で生き延びなければならないコチェビ(孤児)として生きるしかなかった。

 だが親も好きでサコンを捨てた訳ではない。自分達が生きて行く為に、仕方なく我が子であるサコンを捨てて貧しい生活を余儀なくされていたのだ。

 そんな親の事情を知らず、親を憎む暇もなく、サコンは自らの力だけで貧困層の集落で生きる術を見出そうと必死だった。

 彼は生きる為なら何でもやった。大人の住まいから食料を盗み、相手を欺き金品を奪い、どんな荒事もこなしてみせた。

 もちろん毎回そんな事が上手くいく訳もなく、時には大人達から集団リンチを浴びせられ、高所に吊るし上げられた挙句、暴力を振るわれボロボロになる事も日常茶飯事。

 それでもサコンは生き続けた。未来に、明日に希望が見出せずとも、サコンは今と言う現実を受け入れ、生き続けた。

 そう、まるで野犬の如く図太くずる賢く生き続けた。

 

 そんな盗みや略奪を繰り返して生計を立てていたサコンの人生に変化が現れたのは彼が野道で待ち伏せをしていた時の事。

 夜道を歩いてきた人物から略奪をしようと草むらの陰でじっと息を潜めていると。

 夜道の奥から、か細い灯りだけを頼りに野道を進む少年の姿が。その少年の手元には、大荷物を運ぶ牛の手綱が握られていた。

 大荷物を大人の護衛も無しに一人淡々と運ぶ少年を見て、サコンは好機と見た。

 そしてサコンは道端に落ちていた鉄パイプを構えて、少年の前に颯爽と現れた。

「おい! その荷物、牛ごと置いていきな!」

 強盗の真似事の様に、少年に牛ごと荷物を置いて行く様に言い付けるサコン少年。

 だが、月明かりが相手の少年を照らすと、薄暗い夜道では気付かなかった少年の異質な点にサコン少年は気付いた。

 少年の腰には、なぜか鞘に納められた刀が常備されていたのだ。自分と年端も変わらぬ少年が刀を携帯して夜道を一人で貴重な荷物を運んでいる現状にサコン少年は目を丸くした。

 だが、すぐにサコン少年は意識をハッキリとさせ、目の前の刀を持ち歩く少年に言い付けた。

「き、聞こえなかったのか! 荷物を置いてけッ!」

 するとサコン少年の台詞に、目前の少年は目を鋭くさせて言い返した。

「……一々煩い。貴様、誰の許可を得て、私の進行を妨害する……!」

「う、ウルセェ! いいから荷物を置いていけ……」

 次の瞬間、サコン少年の身体に痛感が走った。

 目を向けてみると、サコン少年の身体に一筋の切り傷が付いていた。

「!」切り傷を見て驚くサコン少年。

 そしてサコン少年が再び相手の少年に目を向けてみると、少年は刃渡りが細い刀を抜刀して見据えていた。

「そこを退け……命が惜しければな……」

 この少年の発言に、サコン少年は少しばかり焦りながらも反発した。

「へ……へっ、ジョーダンキツイぜ。俺さまはこう見えて、ハナッから命投げ捨てて覚悟を決めているんだ。殺せるなら殺してみろ!」

 サコン少年は捨て身の勢いで刀を扱う少年に突っ込んだ。孤児として、彼には守る命も守りたい自分もいなかったからだ。

 そして結果は、サコン少年の惨敗。サコン少年は、相手の少年に鉄パイプで挑んだものの、一打も浴びせる事もできないまま痛め付けられた。

「へ、へへへ……素寒貧かよ……」

 地面に転げるサコン少年は粋がりながらも、自分を峰打ちで斬り捨てた少年に向かって言った。

「俺を、殺せよ……どうせ生きていたって、いい事の一つもねえんだからよ」

 自分の現実に絶望しか感じていなかったサコン少年は、相手の少年にトドメを刺すよう言い付ける。

 だが、少年はサコンの今に絶望している瞳を見据えて、サコン少年に言った。

「……勿体ない、実に勿体ない。その命、祖国の為に投げ捨ててこそ寛大であるぞ」

「へっ、祖国がなんだい……俺には愛国心の欠片もねえよ……」

 サコン少年の返事に、刀を持つ少年は呆れ果てた。

「ふぅ……祖国の為に使えぬその命、私が貰い受けようではないか」

「……へっ?」少年の言葉にサコンは我が耳を疑った。

 そして気付いた時には逃げられないよう両腕を後ろ手に縄で縛り上げられ、荷車に繋がれて歩かされるサコン少年。

 薄暗い夜道を、か細い灯りだけを頼りに突き進む少年に連れて行かれ、サコン少年は逃げる事もできず只々茫然と歩くしかできなかった。

 夜道を歩き続けていると、二人が辿り着いたのは軍の施設らしき建物だった。

 そこで少年はまず、荷物を在るべき所へ置いて、牛を牛舎に入れて、建物の管理者らしき大人と言葉を交わす。

「……と、いう事だ。済まないがシャワーを借りるぞ」

「はい、解りました坊ちゃま」

 大人と会話する少年との話し声を聴いて、サコン少年は軽く動揺してた。

(一体あいつは何者だ? 軍の施設に堂々と入れるだけでなく、管理人らしい軍人がペコペコ頭を下げていやがる……!)

 サコン少年は並の軍人すら頭を下げる少年にすっかり意識が向いてしまってた。

 そして少年はサコンを縛り上げたまま屋内へと引っ張って連れていくと、ロッカー室で自分の服を脱いだのに続いてサコンのボロ切れさながらの服を強引に脱がすと、共にシャワー室に入室して一緒にお湯を浴びた。

「ひゃっ!」

 生まれて初めて温かいお湯を浴びたサコンは驚くが、そんなサコンの心境などお構いなしに、少年は汚れ塗れのサコンを丁寧に洗う。

 そして粗方の汚れを洗い落とした少年は、お湯を浴びてすっかり綺麗になったサコン少年にバスタオルを投げ渡すと硬く閉ざしていた口を開いた。

「それで拭け」

 一言言われたサコン少年は、言われるがままにずぶ濡れの自分の水気をタオルで拭き取った。

 お互いにシャワーを浴びてスッキリした二人は、そのまま座り込み一時ばかし顔を見合わせた。

 緊張した空気が張り詰める中、サコン少年は思い切って相手の少年に訊ねてみた。

「あ……あんた、何者な訳? なんで軍の施設なんか使えるんだよ?」

 すると少年は真顔で返答した。

「この施設は私の親が与えてくれた施設だ。私の所有物である施設を、私がどう使おうと勝手だろ」

「お、親がくれた!?」

 少年の発言に驚くサコン少年に、少年は話し続けた。

「ああ、そうだ。私は親から生まれながらに軍人としての才を引き出される為、私個人が好きに使える施設を与えてくださったのだ。私自身の武術を高める為、私がいづれ作り出す部隊の養成施設として、此処を使うつもりだ」

「じ、自分だけの部隊!?」

「いいや、違う! 祖国のための部隊だ……!」

 軍用施設を親から貰い受けただけでも驚きなのに、祖国の為に自らが率いる部隊を構成する為の施設だと聞かされてサコン少年は益々驚かされた。

 そんなサコン少年に、目つきが鋭い少年は訊ねた。

「貴様、名をなんという……」

「お、俺か……俺はサコン、マン・サコンだ」

「サコンか。貴様、今日から我らが祖国の為に生きて行くつもりはないか?」

「え!」

「我らが祖国が繁栄する為の礎として、私と共に此処で己自身を鍛えて行くつもりはないか?」

「も、もし断ったら?」

「その時は……私の刃で貴様を断罪する!」

 そう語った瞬間、少年は横に置いてある刀に手を差し伸ばした。

 断れば命はない。最初、命を投げやりにしていたサコン少年であったが、話を聴いて行く内に少年の祖国への忠誠心に惹かれたのか死ぬ気力を失くしていた。

「……あんた、名は……」

 サコン少年は、相手の少年の忠誠心に惹かれつつ、少年に興味を持ち始め、名を訊ねた。

 すると少年は幼少期のサコンに向かって名乗った。

「私は……ヤン、ヤン・ミィチェンが私の名だ!」

「ヤン、ミィチェン……!」

 祖国の為に、愛国心が為に、己の部隊を作り上げたいと幼少の頃から夢見るヤン・ミィチェン。彼との出会いが、その後のサコンの運命を大きく変えた。

 

 

 

[青年期の忠犬]

 

 その後、サコンはヤン・ミィチェンの指示の元、軍人として養成される事となった。

 しかもサコンだけでなく、他の孤児や同期の少年達も、ミィチェンが親から賜った軍用施設で鍛え上げられた。

 ヤン・ミィチェンの指揮下の元、全ては北の国、自分達が祖国への愛国心と忠誠心を養う為の軍用施設で、サコンはミィチェンに育成された。

 時々、軍の上層部や幹部が視察に来る事も有ったが、ミィチェンは自分達が祖国の為の礎になる大切な部隊であると、軍上層部に伝え回った。

 それ故、サコンの様な孤児出身の軍人の居場所が無くなる事はなかった。

 

 そのまま時が過ぎ、サコンとミィチェンは青年へと成長した。

 サコンはミィチェンの人柄を大いに気に入り、気付くと彼に着いて回った。ミィチェンもそんな自分に付き従うサコンを鬱陶しく思いながらも、傍に置いてくれた。

 そんな二人はある晩、北の国の軍事基地その警備の係に就いていた時の事。

 二人は軍の上官が陰で豆腐をツマミに若い女性兵士に晩酌させているのを目撃してしまう。

 物資が乏しい北の国では晩酌と言う行為そのものが非常識であり、生真面目なミィチェンにとっては実に腹立たしいものであった。

「まったく、何たる様だ!」

 上官達が晩酌している情景を目撃して、立腹しながら警備の任に当たるミィチェン。そんな彼に配下のサコンが話し掛けた。

「ミィチェン様、いつまでも怒ってたってしょうがないッスよ」

 するとミィチェンはサコンに怒りながら反論した。

「何を言っているのだサコン! 我が国が貧困に喘ぎ、物資が乏しい中、贅沢をするとは何たる所業……! 質素倹約、何事に置いても慎ましさを持って生活をせねばなるまいと言うのに……」

 このミィチェンの発言に、サコンは半ば呆れながら返事した。

「ふぅ……でもよ、軍のお偉いさんなら誰でもやっている事ッスよ。今さらガミガミ言ったってなんも始まらないっしょ……」

 と、サコンがミィチェンに返事しようとした瞬間、ミィチェンは鋭い眼光でサコンの喉元に刃を突き向けた。

「ひっ!」

 喉元に刃を突き付けられ、一驚するサコン。彼は驚きのあまり尻餅をついてしまう。

 サコンが驚きのあまり尻餅をついたのを視認したミィチェンは、刀を鞘に納めるとサコンに言った。

「サコン、私は国の為なら……キム様が為ならば己が命も擲つ覚悟。だが、国を疲弊させる所業は断じて許さない……! 例えそれが、軍を統括する上官だろうと……いや! 上官だからこそ許し難いのだ……!」

 目つきを鋭くさせて説くミィチェンの迫力に、サコンは圧倒されてしまう。

 そしてサコンに思いの丈を吐き出したミィチェンは再び見回りの任に戻る。

 生真面目で融通が利かないミィチェンの一面を見たサコンは驚きつつも、慌てて彼と共に見回りの任に勤しんだ。

 

 それから数日後、その基地で役職に就いていた二人の上官兵が姿を消していた。

 それはミィチェンとサコンが目撃した、陰で隠れて晩酌をしていた上官兵だった。

 二人の上官は、軍上層部に晩酌の一件が知られてしまい、風紀を乱す行為として飛ばされたらしい。

 そして何よりも、そんな上官二人の晩酌を軍上層部に報告したのは、他でもないミィチェン本人だった。

 ミィチェンは、軍の風紀を見出し、物資が乏しい中での晩酌など烏滸がましいと思い、素直に軍上層部に通達したのである。

 そんな融通が利かない生真面目なミィチェンに、軍の誰もが嫌悪感を示す中、ミィチェンは周りの目など気にせず与えられた職務を淡々とこなす。

 そんなミィチェンを見て、サコンは人知れず思った。

(ミィチェン様は生真面目過ぎて、周りに敵を作り過ぎている……このままじゃ……)

 生真面目過ぎて周りに敵を作り過ぎているミィチェンの実態を知って、サコンはミィチェンを放っておけなくなった。

 このままではいづれ、目の敵にされて疎外されてしまうと。そう思ったサコンは、ミィチェンが生真面目で融通の利かない石頭な一面を補う為にも、自分がミィチェンの欠けている所を補い、支えようと決意した。

 ミィチェンを支える立場として、協調する立場として、彼を引き立たせる立場として、ミィチェンを補う役回りをサコンは買って出た。

 そんなサコンにミィチェンは「貴様の軽々しい態度、時おり腹が立つ」と立腹する事も多々あったが、ミィチェンとサコンは何事も二人一組で勤めた。

 

 そんな融通が利かないミィチェンとサコンはそれからも軍の雑用などを率先して勤めた。

 ミィチェンが組織した少数の部隊も何とか上手く機能するようになり、ミィチェンは確実に祖国の為に尽くせると見込んだ。

 養成兵の中には、愛国心や忠誠心など考えず、自分達が生きて行く為に敢えてミィチェンが指揮する部隊に属する兵士もいたが、ミィチェンはいづれ祖国の為に共に働く同胞として兵士を、そして何よりもサコンを捉えていた。

 サコンは、祖国のために生きるミィチェンの生き様に強い憧憬の念を抱くようになっていた。

 そしてミィチェンもまた、自分の為とはいえ働いてくれるサコンに信頼の念を向けるようになっていた。

 

 ある日、ミィチェンが自らが構成した部隊の軍人たちに馳走を振る舞った事があった。

 物資が乏しい北の国ではあったが、ミィチェンは祖国の為に日夜鍛錬に勤しむ同士の為に出来得る限りの労いをしてやろうと思ったのだろう。

 だが、労いの場にて主催者であるミィチェンだけが少ない食料と水だけで過ごしているのをサコンに指摘されると、ミィチェンは真顔で答えた。

「私は少食だ、その分お前達が食を堪能しろ。そして私は酒は飲まん主義、故に酒もある限りだが好きなだけ飲め」

 自らが少食で粗食な性分なだけ、周りの同士にはその分今を堪能しろと言うミィチェンの労いにサコン達周りは困惑する中、労いの会は進んだと言う。

 

 二人の青年はこうして毎日を北の国で鍛錬に勤しんだり、与えられた職務を全うする日々を穏やかに過ごしていた。

 2003年の真冬に起きたあの事件まで……。

 

 

 

[滅びゆく北朝鮮]

 

 2003年、12月。その年の10月より進攻してきた聖龍隊によって北朝鮮の防衛は崩された。

 前々より聖龍隊の情報戦略により、北朝鮮の国民は内乱を起こし、内情は激しく乱された。

 そんな北朝鮮の戦術も武器も、聖龍隊の軍備には遠く及ばず、軍事政権は瞬く間に崩壊。

 そんな激動の北朝鮮で、サコンは絶え間なく跋扈していた。

 だが、北朝鮮の軍は何処も壊滅状態に陥り、軍人は容赦なく殺められていた惨状の中をサコンは駆け抜けていた。

「ミィチェン様……ミィチェン様、何処だよ……!」

 サコンは必死でミィチェンの姿を探していた。情勢が混乱し、部隊を率いて出陣したミィチェンは混戦状態の中で首都の崩落を知って急いで単身駆け付けてしまったのだ。

 必死でミィチェンの姿を探し回るサコンも、いつの間にか自分達の部隊からはぐれてしまい戦闘の混乱が過ぎ去った街の中を走り回っていた。

 と、その時。一人の伝令兵が駆け付けてきたのに、サコンは気が付いた。サコンはその走り付けて疲労困憊な兵士に駆け寄ると慌てて声を掛けた。

「お、おいどうした!? 何があった?」

「ご、ご報告……! キム総書記閣下、軍上層部の上官に……将軍に裏切られ、絶命……!!」

「な、なんだと……!」

「その将軍も、聖龍隊総長、小田原修司の凶刃に首をはねられ、絶命……我が国の軍政は、もはや消え失せたも同然……! うっ……」

 そう報告し終わると、伝令兵は力尽きた。

「お、おい! そんな……国の軍政権が消滅しただと……!」

 全てを知ったサコンは愕然とした。

 

 それからサコンはミィチェンと自分が配属されたミィチェンの部隊の捜索に戻った。

 戦火で崩壊した建物や戦車を跳び越え、丘を越えてサコンが都市を見渡せる丘の上に到着した時。彼の目に悲惨な光景が飛び込んできた。

 それはミィチェンが構成し、自分が配属していた部隊の兵士が、炎上し崩落した都市を見て絶望し、自ら割腹して自決していた光景だった。

「な、何だよコリャ……!」

 目の前の惨状に我が目を疑うサコン。すると彼の近くで、たまたま腹を裂いても死にきれない兵士がサコンの足を引っ張り、彼の意識を向けさせた。

「ど、どうした……!」

 サコンが問うと、死にきれない兵士は口から血を零して語った。

「しゅ、首都が……基地が敵に落とされた……我らは役目を果たせなかった。国を、基地を……何よりもミィチェン様の想いに応える事ができなかった……! 此処は潔く、自害して国と共に果てる所存……だが、俺は意味もなくまだ生きてしまっている。自ら腹に突き刺した短刀で腹を裂きたいのだが、力が出ぬ……済まぬがサコン、ここはお前が最後を飾ってくれ……頼む……!」

 何とサコンに介錯を頼んできた同胞に、サコン本人は嘆いた。

「何を言ってやがるんだよ……! 死んじまったら、そこで終わりじゃねえかよッ!!」

 死んでしまえば、そこで全てが終わってしまうと熱くも儚く説くサコン。だが自害しようとした兵士の傷を治療する術もなく、サコンは泣く泣く兵士の腹に突き刺さる短刀を引き抜いて、兵士を楽にさせてあげた。

 

 仲間だった兵士の介錯をしたサコンは、泣く暇もないまま再びミィチェンの捜索に移った。

 すでに全ての基地が聖龍隊に制圧されている中、サコンは山中を捜索していた。

 すると牡丹雪が降り始め、山道や崖が白く染め上げられていった。

 牡丹雪が舞い散る中、ミィチェンを必死になって探し続けるサコン。

 と、その時。雪で白く染め上げられた山道を突っ走る人影がサコンの目に入った。

 そう、長刀を口で銜えて全速力で山道を駆け抜けるヤン・ミィチェンをサコンは捉えたのだ。

「ああ……今しばらく……お待ち下さい……このミィチェンめが……貴方様の、御傍に……キム様……」

 首都崩落そしてキム将軍の死を知らないミィチェンは全速力で首都を目指して走っていた。

「み、見つけた……! ミィチェン様……ミィチェン様ーーッ!」

 そんなミィチェンにサコンが駆け寄り、共に走りながら声を掛ける。

「サコン……か……? 貴様……何を愚図愚図していた……? 急ぐぞ……キム様が待つ、ピョンヤンの基地に……!」

「何言ってんスか……! しっかりして下さい、ミィチェン様……! 将軍は! 総書記様は……! もう、いないんだ……!」

 崩落した首都に死んだ将軍が不在の基地に急ぐミィチェンに、サコンは残酷な現実を突き付ける。無論、ミィチェンはスグには信用しなかった。

「いな……い……? キム様が……総書記様……が? 貴様こそ何を言っている……! キム様はピョンヤンで私を……」

 と、将軍様は首都の基地に滞在していると言い切るミィチェンは、まさかの発想をしてしまう。

「そうか、貴様……聖龍隊の間者だな……! サコンに化けて私に近付き……私を殺し……キム様の元へ行かせぬつもりかァ……ッ!」

「ちょ……! 何を言ってんすか、ミィチェン様!」

 なんと事実を言ったサコンを、聖龍隊の、二次元人が化けた偽者と思い込み、彼へ一方的な憎悪を向け始めてしまう。サコンはミィチェンを宥めようとするが、既にミィチェンは憎悪と狂気に駆り立てられ、怒り狂った。

「許さない……許さないィーーーッ!!」

 元々精神面が脆いミィチェンに突き付けられた将軍の死。愛国心と忠誠心のみで構成された彼の心は、意図も容易く崩壊してしまい、憎悪と狂気に染め上がった。

 

 

 

[凶王の目覚め]

 

「殺してやるぞォーーッ!!」

 祖国の象徴である将軍の死が、ミィチェンの精神を崩壊させ、彼を怒り狂わせた。

 そんな精神が崩壊したミィチェンは、刀を抜刀して狂気の刃をサコンに向けた。

「な……ミィチェン様!?」

「死ね……死ね……! 死ね! 死ね! 死ねッ! 死ねェッ!!」

 憎悪に駆り立てられたミィチェンの凶刃を、サコンは必死でかわしていく。

「貴様ァ……私だけでなく、キム様の御命まで狙っているな……ッ!? おのれ……おのれェ……ッ!!」

「何だよ、コレ……何やってんだよ、ミィチェン様……!?」

 狂気に染め上がったミィチェンの凶刃をかわしながら、サコンはミィチェンを必死に説得し宥める。が、ミィチェンの凶行は止まらない。

「キム様に軍の幹部共がいなくなって、国の軍政は総崩れだ……今あんたがまとめないで、どーーすんだよ!?」

「聖龍隊の間者ごときが……キム様の御名をォ……! 口の端にも上らせるなァーーーーッ!!」

「畜生……畜生ッ! あんた……俺を殺せば正気に戻ってくれんのかよ……!?」

 軍政権が総崩れした今、誰が残党兵を纏め上げるのかと説くサコンの言い分に対し、ミィチェンは刃を納める事はなくサコンを聖龍隊からのスパイと見定めて刀を振るい続ける。

 この状況にサコンは、ミィチェンの狂気は自分を、目の前にいる自分を斬り殺せば納まるのかと嘆いた。

 凶刃の刀を振るうミィチェンは、狂気と絶望の眼差しで雄叫びを上げる。

「キム様が……私のいない場所で死ぬはずは無いッ! 決して無い、断じて無いィッ!!」

 主君が自分のいない場所で尽きる筈がないと豪語するミィチェンに、サコンが現実を説いた。

「キム様は死んだッ! 俺達の部隊もだッ! そして……北朝鮮も滅ぶ……ッ! これが現実だ……現実なんだよ……!」

 しかしサコンが告げる現実を、ミィチェンは受け入れられなかった。

「そのような繰り言……ッ! 私は信じない……私自身が、信じる事を許可しない……ッ!」

「ミィチェン様……そいつぁ、イカサマだよ……!」

 サコンは嘆き悲しんだ。こんな自分を、コチェビだった自分を拾い上げ、立派な軍人として育成してくれたヤン・ミィチェンがこうも簡単に狂気に染まり上がり、狂ってしまった現状に嘆いた。そして同時に、ミィチェンを此処まで追い詰めた聖龍隊に、二次元人に怒りと憎しみを滾らせた。

 

 牡丹雪が舞い散る山道の真ん中で、サコンは狂気に駆り立てられた主君ミィチェンを必死に押さえる。

「キム様……キム様……キム様……」

 憎悪に染まった瞳から、悲しみと怒りの血涙を流すミィチェンを前に、サコンは向かい合った。

「ミィチェン様……俺はあんたに光を見た、救われたんだ……! だから……」

 そうミィチェンに言うとサコンは、右手を天に突き立てて言い放った。

「これがマン・サコンの、最後の賭けだ……!」

 サコンは両手を大きく広げ、ミィチェンの暴走を食い止める為、己が全身で彼の凶刃を受け止めて狂気に染まった主君を制止しようと決意した。

 そんな両手を広げたサコンを見入ったミィチェンは、狂気に染まった俊足の刃をサコンに振るう。

「ッ!」

 胴体に食い入る斬り込みがサコンに痛手を負わせる。それでもサコンは体制を維持して、暴走した主君を見詰める。

 そんな動じないサコンに、暴走したミィチェンは憎悪に滾った瞳を怪しく輝かせて更なる太刀筋をサコンにお見舞いする。

「ぐッ!」

 二打目の斬撃がサコンを襲い、それから目にも止まらぬ居合抜きの連続斬りがサコンを容赦なく斬り付ける。

 主君の憎悪を、苦しみを一身に浴びて、暴走した主君を鎮めようとサコンは痛みを堪えて体を維持し続ける。

 ミィチェンに体を切り裂かれながらも、サコンは狂気の刃を受けながら思った。

(きっと俺は、この日の為に……生きて来たんだ……!)

 主君が希望を失い、憎悪に駆り立てられ、狂気に染まったこの時の為に自分は生きていたのだと、自分に言い聞かせるサコン。

 そしてミィチェンは長刀を鞘に納めると、最後にして究極の抜刀術でサコンにトドメの一打を浴びせようとした。

「ぬおぉぉおおッ!!」

 一瞬の抜刀と共に強烈な風圧がサコンに襲い掛かる。そしてサコンが流した血の一滴が、顎から滴り落ちて喉元に突き付けられたミィチェンの刃にポツリと垂れる。

「サ、コン……!?」

 サコンの喉元に刃を突き付けたまま動かなくなっていたミィチェンの口が動き出し、サコンの名を呟いた。

 そう、サコンの願いが通じたのか、ミィチェンはようやく正気を取り戻したのだ。

 呆然と硬直するミィチェンを目前に、サコンは薄ら笑いを浮かべる。

「へ、へへ……お帰り、ミィチェン、さま…………」

 正気を取り戻した主君を視認したサコンは主君ミィチェンの正気を取り戻せたことに満足したのか、ミィチェンからの斬撃を全て受け止めた傷だらけの体で、微笑みを浮かべて血に染まった銀白の大地に倒れ込んだ。

「どうやら……勝った、ぜ……」

 暴走した主君ミィチェンの正気を取り戻す賭けに勝ったサコンは、満足気にそのまま気を失った。そんな血塗れの切り傷だらけで新雪に倒れるサコンに正気を取り戻したミィチェンが駆け寄り、必死に声をかけ続けた。

「サコン……サコォーーン!!」

 

 国を、主君を失い、憎悪と狂気と哀しみに染め上がったヤン・ミィチェン。

 そんなミィチェンの暴走を止めるべく、自らの体を差し出して制止させたマン・サコン。

 狂気に目覚めたヤン・ミィチェンの暴走を止めたマン・サコンは、血まみれの傷だらけの体でミィチェンに抱かれて気を失った。

 心に傷を負い、体に深手を負った主従関係の二人の修羅道は、此処から始まるのだった。

 

 

 

[凶王の真実]

 

「………………………………」

 凶王ヤン・ミィチェンとの出会いと、彼の暴走して凶王としての目覚めを知ったシバ・カァチェンと田所恵、そして恵からの共有感知でサコンの昔語りを聴いた新世代型たちは衝撃を受けた。

 凶王と呼ばれ、誰からも恐れられたヤン・ミィチェンの愚直ながらの将としての自覚と意志。そして北の国で育まれた兵士達との掛け替えのない繋がり。全てが初めて周知した事実だった。

 サコンから昔の出生を聞かされ、サコンの激動の生い立ちからヤン・ミィチェンとの出会いを果たした後々までも知ったカァチェンは、改めてサコンに尋ねた。

「……貴方様の主君、ヤン・ミィチェンとの出会いには、その様な話が隠されていたのですね……」

 すると昔を語ってくれたサコンは、カァチェンに対して昔から抱いている実情を明かした。

「ミィチェン様はまっすぐな瞳をしている人だった……真っ直ぐ過ぎて、融通が利かない事も多かったけどよ。でもよ、あの人の愛国心が、忠誠心が俺に……ただ我武者羅に生きていた俺の空っぽだった心に、生きる希望ってのを灯してくれたんだ」

 ミィチェンの生き様が、そのまま自分の空虚だった心に生きる希望を灯してくれたのだとサコンは語った。

 そんなミィチェンを生きる希望、光と捉えて前進してきたサコンにカァチェンは質問をぶつけた。

「それで……そのミィチェン氏とは、その後どうなさったのですか? 貴方が浴びた無数の凶刃による傷は、癒えたのですか……」

 すると訊ねられたサコンは、険しい面持ちでカァチェンに語った。

「……俺が浴びた切り傷なんてちっぽけなもんさ。ミィチェン様が受けた心の傷に比べたら、俺の傷なんて……」

 サコンはそのまま自分の胸倉を掴んだまま語り続けた。

 怒り狂ったヤン・ミィチェンが配下であるマン・サコンを傷付けてしまった後の昔語りを。

 

 北朝鮮が聖龍隊に陥落されてから数日後の事。

 温かい布団の中でサコンは目を覚ました。

「……っ……こ、此処は……」

 目を見開いたサコンは最初に天井を見詰め、それからサコンは鉄の様に重い身体を起こした。

「ッ……!」

 身体を起こしてみると、サコンの胸部から腹部にかけて激痛が走った。サコンは自分の身体に視線を移すと、夥しいほどの包帯が巻き付けられていた。

 包帯で巻かれた身体と、激痛が走る今の自分の身体という状況を感じて、サコンは思い出した。あの牡丹雪が降る日に、主君であるミィチェンが怒り狂い、自分に何度も斬りかかって来た事を。

「ッ、ミィチェン様……!」

 狂気に駆られた主君の事を思い出して動こうとするサコンだったが、身体の激痛から思う様に動くことが出来なかった。

 すると、そんな布団から飛び出して動こうとしたサコンの声が聞こえたのか、襖の戸が開いた。

「サコン……!」

 襖を開いてサコンが寝込んでいた部屋に足を踏み入れる者。その者の顔を見て、サコンは絶句した。

「み、ミィチェン、様……!」

 部屋に進入してきたのは間違いなくヤン・ミィチェンだったが、彼の異様な変化にサコンは言葉を失った。

 しかし言葉を失うサコンを尻目に、容姿が一変してしまったミィチェンはサコンに駆け寄り、いきなり抱きついた。

 そして力強く抱擁しながらサコンに説き掛けるのだった。

「……もう、私の許可なく、あのような真似はするな……! 私の許可なく、先に逝く事を認めない……! 私の許可なく……果てる事は断じて認めない……!!」

「ミィチェン、様……!」

 サコンはミィチェンに抱き締められながら再び言葉を失った。そして思った、この人は信頼できる人間が側にいないとダメになってしまう御人だと。

 ミィチェンの為にもこれからも生き続けよう、そう決意するサコン。

 黒髪だったミィチェンの白く染まってしまった頭髪を見詰めながらサコンは決意した。

 

 サコンの昔語りを聞いて、益々衝撃を受けるカァチェンと新世代型たち。

 愕然とした面持ちでカァチェンはサコンに問い詰めた。

「や、ヤン・ミィチェン殿は……生まれながらに白髪の人間ではなかったのか……?」

 生まれ付き銀髪にも近い白髪だったのかと世情で思い込まされていたカァチェンが驚きながらも問い掛けると、サコンは険しい面持ちで答えた。

「ミィチェン様はあれ以来……そう、俺たちの国が聖龍隊に落とされた事と……正気を失い、俺を何度も斬り続けた事の、二重のショックで黒かった髪が白く変わっちまったんだよ」

 生まれ付き銀髪だと思われていたヤン・ミィチェンが、実は祖国陥落とサコン傷害の二重の悲愴感から衝撃を受け、黒髪が白髪に染まってしまった事実を知って言葉を失くすカァチェンと新世代型たち。

 カァチェンとサコン、座敷牢の外と内で話す二人の会話を影ながら聴いていた田所恵、そして彼女からの共有感知で二人の話を全て周知してしまった新世代型たちは衝撃を隠せなかった。

「そ、そんな……! あの凶王、ヤン・ミィチェンが……」

「祖国と部下の事で白髪になるほどショックを受けていたなんて……!」

 凶王と呼ばれ、恐れられたヤン・ミィチェンが、祖国と部下の二重の衝撃で白髪になってしまほど精神面が脆かった事実を知って愕然とする幸平創真と薙切えりな。

 そんな新世代型の悲愴など知らず、サコンとカァチェンはお互いに語り続けた。

「あの凶王、ヤン・ミィチェンの怖ろしさを倍増させていた銀髪の頭髪には……その様な逸話が隠されていたとは、今日(こんにち)まで知る由もありませんでした……」

「祖国を奪われただけでも辛かっただろうに……ミィチェン様の黒髪は二次元人共の為に白く変色されちまったんだ……!」

 凶王の過去を知り、愕然とするカァチェンに、サコンはあくまでも全ては二次元人に非があると説いた。

 そんなサコンは、更に表情を険しくさせてカァチェンに語った。

「それだけじゃねぇ……! 二次元人は、聖龍隊は……ミィチェン様に酷な運命を与えやがった……!」

 サコンは目に涙を浮かべながら、カァチェンにヤン・ミィチェンが辿った過酷な運命を語り明かした。

 

 北朝鮮が陥落し、数ヶ月経ったある日から、ヤン・ミィチェンの状態に変化が現れた。

「うっ……うぐッ」

「ミィチェン様、しっかりしてください、ミィチェン様!」

 祖国である北朝鮮が壊滅した衝撃がミィチェンを精神的に追い詰め、ミィチェンは極度の拒食症に陥ってしまったのだ。

 サコンの必死の看病も虚しく、ミィチェンは殆ど食べる事ができなくなり、食べたモノを全て吐き出してしまうまでに症状は悪化、元々細身だった彼の体は益々細くなってしまった。

 そんな極度の拒食症に罹ってしまったミィチェンは、看病するサコンに時おり訊ねていた。

「サコン……貴様は、貴様は私を裏切るな。裏切りを許可しない……。世界は我が国を、朝鮮民主主義人民共和国を裏切り……聖龍隊に寝返った。私は断固として聖龍隊を……! 二次元人を許さない……! 我が国を、キム様を死に追いやった聖龍隊を許しはしない……!!」

「……ミィチェン様」

 サコンは拒食症で今にも死にそうな中、祖国と主君を死に追いやった聖龍隊や二次元人を許さないと断言するミィチェンの言動に、怒りを通り越して憐みすら感じた。

 だがサコンはスグに憐みの感情を拭い取った。憐みの感情は主君に、ミィチェンには似合わない。彼と共に生き延びて、いつか必ず自分達の無念を晴らすと。それがミィチェンに対してのサコンの懸命な判断であった。

 それからと言うもの、ミィチェンは極度の拒食症で身を細めながらも日々鍛錬に精を出した。

「ミィチェン様! 今は少しでも何か食べて、精を付けてくださいよ!」

 だがサコンの訴えにミィチェンは激情を走らせて物言った。

「要らん! それよりも祖国の復興を……いや、それよりも前に聖龍隊を駆逐せねば……!」

 それからもミィチェンは拒食症に苦しめられながらも鍛錬をやめる事はなく、祖国を滅ぼした聖龍隊に復讐の機会を窺っていたという。

 

 北朝鮮が陥落してから聖龍隊を、二次元人を敵視するように至ったヤン・ミィチェンの症状を聞かされて、カァチェンや新世代型達はまたしても言葉を失った。

 そんなカァチェンにサコンは語り継いだ。

「ミィチェン様は非常に短気で、目標以外は目に入らない、視野の狭い人だった。でも、純粋でまっすぐ過ぎて、融通が利かなくて……馬鹿正直に進んで人に嫌われちまう、損をしちまう人でもあった。俺らの国が聖龍隊に落とされて以来、世界は北の国を見限った……それ以降、裏切りに対して過敏に反応しちまう様にもなっちまった。メンタルも弱くて、精神が不安定になる事もしばしば有ったけど……それでも、俺はミィチェン様に付いて回った。あの人の生き様に、救われたのは事実だからな」

 そう語るサコンの瞳は、嘘偽りのない真っ直ぐな瞳だったのをカァチェンは捉えた。

 そして最後にサコンはカァチェンに言った。

「俺は……ミィチェン様と出会った時から、あの人に全てを賭けた。その賭けは俺の中では負けた事にはなっていねえけど……けど、あの人の無念は晴らしたいと思っている。例え聖龍隊に首を刎ねられても、奴らの首に噛み付いてやらぁ……!」

 まるで狂犬の様に厳つい眼光で語るサコンの言動に、カァチェンも聴く耳を立てている新世代型たちも愕然とした。

 

 

 

[犬の涙]

 

 マン・サコンから彼の生い立ちと主君ヤン・ミィチェンとの出逢いの昔話を聴いて、シバ・カァチェンと新世代型たちは蒼然とする。

 気が短く融通が利かない故に周囲から嫌われる事も多々ありながらも、愚直ながら真っ直ぐに祖国の為に尽くしていたヤン・ミィチェンの実態を知って愕然とした。

 そんなヤン・ミィチェンを白髪および拒食症にまで追い詰め、終いには死に追いやった聖龍隊の、二次元人の所業に、同じ二次元人であり同時に北の国進攻を決定した小田原修司のクローンである新世代型たちは多大な衝撃を受けた。

 アジアを脅かしていた北の国、その国を解放し、多くの人民を救済したのには変わりない。しかし、その陰で嘆き悲しみ、落胆していた人々も大勢いた事を新世代型は痛感した。

「まさか……ヤン・ミィチェンが、あそこまで愛国心に満ちた人だったなんて……」

「ゲッソリとして、薄気味悪い印象が根強かったけど……それが、祖国の壊滅でショックを受けての白髪と拒食症が原因だったなんて、知らなかった……!」

 教科書で学んでいない事実を知って、非常に落胆するキャサリン・ルースと琴浦春香。ヤン・ミィチェンの細身で気味の悪い印象が、祖国壊滅の悲愴で髪が脱色しての総白髪と拒食症による症状が原因だと知って酷く落ち込んだ。

 ヤン・ミィチェンを失意のドン底に叩き落した北の国の陥落、それを指示したのは自分たちの始祖である小田原修司であり、行ったのは自分らと同じ二次元人。この事実に新世代型は落胆するしかなかった。

「なにが解放だ、なにが復興だ……これじゃ、完全に…………侵略と変わりないじゃないか……!」

 北の国の事実を知って悲嘆する真鍋義久は、聖龍隊の行いと小田原修司の決断に疑問を持った。

 すると其処に、彼ら新世代型たちと同じくサコンの昔語りを聴き入ったカァチェンがやって来た。

「皆様方……」「カァチェン……」

 カァチェンは琴浦春香たち新世代型たちに声をかけると、彼らに問い質した。

「皆様方も聴いていたのですか……? あのマン・サコンなる人物の生い立ちと、ヤン・ミィチェンとの過去を……」

 カァチェンが問い質すと、真鍋義久が悲愴な面持ちで「う、うん」と小さく呟き返す。

 新世代型たちが自分とサコンの会話を立ち聞きしていたのを知ったカァチェンは、再度新世代型たちに訊ねた。

「では貴方達も知ってしまったのですね……あのサコンなる若者が経験した哀しき過去を……彼がヤン・ミィチェンをどんなに慕っていたのか、そして何ゆえ二次元人を憎んでいるのか……」

 カァチェンのこの問いに、新世代型の星原ヒカルと瀬名アラタが返事した。

「ええ、彼の主君ヤン・ミィチェンがどの様な人間だったのか。それを知りました……」

「自分の部下や、祖国にとても思いやりがあったんだな。ミィチェンって武将……」

 二人に続いて出雲ハルキも真顔で答えた。

「愛国心と忠義は誰よりもあった分、純粋で真っ直ぐすぎて損をしてしまう人柄……それがヤン・ミィチェンなんだと、お二人の話を聞いて思い知らされました」

 真顔で返答するハルキに続き、斉木楠雄も真顔で述べた。

「歴史の勉強では決して教えてもらえない、凶王ヤン・ミィチェンの実態……それを垣間見ましたよ」

「ウグッ、ウっ……な、何だかミィチェンって人が可愛そうだよ……ッ!」

 真顔で述べる斉木楠雄の横で、話を聞いてヤン・ミィチェンに同情する燃堂力が涙顔で述べる。

 そう、新世代型たちは此処でようやく歴史の真実に気付かされた。

 所詮、解放という大義名分があったとしても戦争は戦争。その陰で涙を流し、絶望する者も存在する事に。

 そして、その絶望した挙句、狂気に駆られ、怒りと憎しみの狭間で苦しみながら祖国を想い戦い続ける武人ヤン・ミィチェンの存在があった事を思い知ったのだ。

 そして更に、その主君ヤン・ミィチェンを失ったマン・サコンにも同様の怒りと悲しみ、そして憎しみが滾っている事実も容認したのだった。

 

 と、その時だった。基地内に警報が鳴り響いた。

「な、何事です……?」

 カァチェンと新世代型たちは、突然の警報に驚いた。

 すると聖龍隊士が大声を上げながら挙って駆け出してきた。

「大変だ! 座敷牢からマン・サコンが脱走した!」「え!」

 隊士の一言にカァチェンも新世代型たちも一驚した。

 すると隊士は唐突に文句を言った。

「誰だ! 飢えていたサコンに飯なんかやったのは!? お陰で元気が出て逃げ出しちまったじゃねえか!」

 なんと食事も喉を通さなかったサコンに、食事を与えたことで彼が元気付いて、それで逃げ出したの事。これを聞いてカァチェンは衝撃を受けた。

「わ、私の握り飯が原因で、逃げ出してしまったのでしょうか……」

 そんな落ち込むカァチェンに、新世代型で彼に握り飯の作り方を教えた田所恵が優しく声をかける。

「か、カァチェン、今は落ち込むよりもサコンを探し出した方が懸命なんじゃないかな……?」

「そ、そうですね、恵殿……あのサコンの事です、まだ遠くには……いえ、この基地内からは逃げてないと思います。二次元人への憎しみ、そして主君の無念を晴らす為……おそらくHEADやスター・コマンドーを狙って暗躍している可能性があります……!」

 カァチェンは田所恵たち新世代型に、サコンは今は亡き主君の無念と二次元人への憎しみから、単身暗躍していると推測を立てる。

 警報が鳴り響く基地内を走り、一同はサコンが狙っていると思われるHEADやスター・コマンドーの姿を探した。

 一方のサコンは、カァチェン達の懸念通りHEADやスター・コマンドーの面々を狙って基地内を暗躍していた。その手には、遂先刻聖龍隊士から奪った脇差を両手に一刀ずつ持っていた。

 

 そんな暗躍するサコンと同等にHEADやスター・コマンドーを探すカァチェンたち。

 すると彼らの視界に、サコン脱走を聞き付けて彼を懸命に捜索するHEADの姿が飛び込んできた。

「ば、バーンズ殿! アッコ殿……!」

 カァチェン達は急ぎ、HEADの元へと駆け寄ろうとした、その瞬間。

「見切った!」

 物陰から突然、両手に脇差を構えたサコンが飛び出してきて、あろう事かHEADの元に駆け付けようとする新世代型たちに斬り込んで来た。

「うわッ!」

 物陰から不意打ちの如し斬り込みに驚き、慌てて身を反らす真鍋義久。

 だがサコンの攻撃は収まることは無く、新世代型たちに攻撃を続ける。

「真鍋! みんな! (チッ、寄りにもよって新世代型を狙ったか!)」

 斬り込まれそうになる真鍋を見て、バーンズはサコンが自分たち聖龍隊の二次元人ではない新世代型に狙いを付けた事に表情を険しくする。

 一方で新世代型たちに斬り込んだサコンに、先ほど彼と対話をしたカァチェンが逆刃薙(さかばなぎ)でサコンが振るう二対の脇差を防ぎながら訴えた。

「サコン……貴方が現実(いま)に絶望している理由は、しかと私やこの新世代型たちの耳に入りました……武器を捨て、大人しくしてください」

「うるせえッ! やっぱあんたも、二次元人の側に付くのか……!」

 二次元人を庇い立てするカァチェンを見て、サコンは彼もまた二次元人贔屓する三次元人だと認識して敵視する。

 そのままカァチェンとサコンの二人は闘いを始めてしまった。

 サコンが振るう二対の脇差からの斬撃を、カァチェンは逆刃薙(さかばなぎ)で防御。だがサコンは即座に攻撃の手段を蹴りに転換してカァチェンの逆刃薙(さかばなぎ)に強烈な蹴りを一発お見舞いした。カァチェンは蹴りの凄まじい威力で弾き飛ばされ、危うく転倒してしまう所だった。

 するとサコンはカァチェンが弾き飛ばされた隙に、再び新世代型たちを標的に、視界に入った月影ちありたち目掛けて刃を振るった。

「っ!」「へっ」

 サコンは容赦なく幼い月影ちあり達に刃を振り付けて、嘲笑を浮かべてその命を奪おうと目論む。

 が、その時。幼い少女たちに斬り込もうとするサコンの眼前に、血の刃で対峙する栗山未来が間に割り込んだ。

 血の刃で自身が振るう二対の脇差の攻撃を防いだ未来を前に、サコンは一瞬驚きながらも彼女達を嘲笑った。

「! ……へっ、二次元人(バケモノ)風情が……!」

 このサコンの一言に、未来はもちろん周囲の新世代型たちはサコンが二次元人を指して物言った発言だと自負した。

 そしてサコンは未来に対しても容赦なく殺めようと斬り込んで来た。

「おりゃおりゃおりゃッ」

 二対の脇差、いや小刀から繰り出される鮮やかな戦法に栗山未来は応戦するのが精一杯。

 するとこの未来の危機に【ガッチャマンクラウズ】の面子である一ノ瀬はじめがガッチャマンに変身して未来に加勢した。

「やめるっす! ボク達は貴方と戦いたくない!」

 はじめの一言にサコンは強く反論する。

「黙りやがれッ! テメェらイカサマ師の二次元人の言うこと、俺が聞く訳ないっショ!」

 共に独特の若者言葉で言い合う、はじめとサコン。しかし戦いは更に加熱。

 サコンの怒りの凶刃が新世代型たちを襲っていると、そこにスター・コマンドーが駆けつけた。

「みんな、戦いをやめるんだ!」「! 村田順一……ッ!」

 目の前の皆々に戦いをやめるよう呼び止める村田順一の姿を目視して、サコンの目付きが一層鋭くなった。

 そして案の定、サコンは新世代型たちの次に順一たちスター・コマンドーに斬り込んでいった。

「死に曝せーーッ! 村田順一ィーー!」

 怒号を上げながら迫ってきたサコンに、順一は新たに得た手甲でサコンの刃を受け止める。

「サコン……! 君が僕らを許せないのは解る……だが関係ない新世代型の人々まで敵意を向けないでくれ!」

 刃を受け流しながらサコンに訴える順一。だがサコンは狂犬の様な目付きで順一に言い放った。

「なにを訳わけんねえこと言ってんだ、テメェは……! あの鬼の……小田原修司のクローンっていう新世代型が関係ないだと……フザケんな!!」

 新世代型が北の国への進攻を決定した小田原修司のクローンという事実だけでも関係あると説き返すサコン。このサコンの思考に順一も新世代型たちも愕然とする。

 そんな蹴りと斬りの二つの攻撃方法を巧みに使い分けて攻め続けるサコンを相手に、順一も新世代型たちも防戦一方。

「ミィチェン様、見ていてください……このサコン、命尽きるまでの間、せめて一人だけでも二次元人を……小田原修司に関係している二次元人をソッチに送ってみせやす……!!」

 小田原修司と関係している二次元人を一人でも主君ヤン・ミィチェンが逝った冥途へと送り出そうと呟くサコン。彼の必死の形相を見て、二次元人たちは悲愴な心境を募らせる。

 そんな狂犬の様に暴れ回るサコンの瞳に、何故か小さな雫が一滴あるのを新世代型たちは気付いた。

 それでもサコンは狂犬の様に周りに噛み付いていく。亡き主君の無念を想いながら。

 

 

 

[慟哭する狂犬]

 

 北の国の残党軍総大将ヤン・ミィチェンの腹心マン・サコンは、怒りと憎しみの両刀を、小田原修司のクローンである新世代型二次元人とヤン・ミィチェンを死に追いやったスター・コマンドー総部隊長村田順一に振るい続けた。

 そんな凶刃を振るうマン・サコンに順一は再び説き掛ける。

「サコン……! ミィチェンは本当に純粋な武人だった。僕らスター・コマンドーは、そんな武人を……ヤン・ミィチェンという素晴らしい逸材を死に追いやった。僕達は、その罪を背負い続ける腹だ……!」

「だったら、その腹カッ割いでやるよ……ッ!」

 しかしサコンの凶刃が鎮まることは無く、サコンは順一の腹を二対の脇差で切り裂こうと突っ込む。

 そんなサコンの凶行に、戦闘型の新世代型が加勢しては、サコンを抑制しようと乱闘に割り込んだ。

「君たち危ない! 今のサコンに近付くのは危険だ!」

 そんな新世代型たちに順一は危険だと訴える。

 が、サコンは乱闘に割り込んでくる新世代型たちを視認して、彼女達にも容赦なく凶刃を振り付ける。

「テメェらぜってぇ……ぶっ殺す!」

 狂犬の様な鋭い目付きでサコンは新世代型たちを睨み付け、両刀で斬りかかっていく。

 そんな暴走するサコンは、両刀で攻め続けながら全ての新世代型たちに訴えた。

「ミィチェン様を、俺たちの祖国を……全てを滅ぼした小田原修司の申し子! この場で全員、切り刻んでやるッ!」

 サコンはガッチャマンや栗山未来そして名瀬兄妹たちに叫びながら刃を振るう。

 しかし、このサコンの訴えに新世代型の森谷ヒヨリが涙目で訴え返す。

「わ、私達だって……好きで小田原修司のクローンとして生まれた訳じゃない! それなのに……」

 だが、この森谷ヒヨリの訴えに対し、サコンは怒鳴り返した。

「黙りやがれッ! テメェら鬼の申し子が、勝手なこと抜かしてんじゃねえ!! 二次元人ってだけでも異質な上に、あの鬼神小田原修司のクローンだなんて……バケモノ以外の何だって言うんだ!? 俺は許さねえ……天地が引っくり返ってもテメェらを許さねえ! ミィチェン様を……北朝鮮の同胞を……過去の俺を奪った小田原修司も、聖龍隊も……二次元人を許しはしねえぇ!!」

 サコンは更に怒りを増して両刀を振り翳す。サコンが斬りつけて来る両刀を、栗山未来や順一は受け止めるだけで精一杯だった。

 だが、それもその筈。未来たち戦闘型の新世代型も村田順一も、本気でサコンと戦ってはいないからだ。

 サコンの境遇、それに同情して彼に本気の戦意を向けられなかったのだ。

 故に順一も、未来たち新世代型たちもサコンに対しては防戦一方の戦況。

 そんな戦況を見越して、激しいサコンの攻防に愕然と見入ってしまってる聖龍HEADから一人の強者が飛び出した。

「待って、これ以上は争わないで!」「ミラーガール!」

 それはミラーガールに変身したアッコだった。ミラーガールはサコン達に争わないよう訴え出る。

 しかしミラーガールの出現に、サコンの目付きは一層鋭くなった。

「ミラーガール……ッ! 鬼神、小田原修司の婚約者にして、聖龍隊の副長……なにが争わないでだよ! お前らが争いの元凶じゃんかッ!」

 サコンは怒りに身を任せてミラーガールに斬りかかった。ミラーガールはサコンの凶刃を盾で防ぐ。

「サコン……貴方の怒りや憎しみは最もよ。私たち聖龍隊は、自分たち二次元人の人権確立の為に北の国を利用した……当時からアジアを脅かしてた北朝鮮を攻め落とす事で、二次元人が如何に優れているか世間に示す為に進攻した。私たちは結局、保身の為に北朝鮮を利用してしまった……!」

 涙声でサコンに訴えるミラーガールの話を聞いて、愕然とする新世代型たち。しかしサコンの怒りは収まらない。

「そうだ……お前達は自分自身の為に俺らの国を……ミィチェン様の夢を! 希望を奪ったんだ! そして最終的にはミィチェン様までも……チクショーーッ!!」

 サコン自身にとっての希望であるミィチェンまでも奪った二次元人たちの行為に、サコンは怒りを露にして斬り続ける。

 ミラーガールと激しい攻防戦を展開するサコンだったが、次第に彼女の鏡の様な瞳に映る狂犬の様な自分の表情を見入ったのか、此処で遂に心が破れて本心を曝け出した。

「返してくれよ! 俺たちの国を、仲間を……ミィチェン様を返してくれよッ!!」

 ついに涙ながらに本心を訴えるサコンに対し、ミラーガールも美しい瞳に涙を溢れさせて申し返した。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 国を守る為、他国を滅ぼした。大切な者を守る為に、他者を亡くした。その繰り返しこそ、今目の前で起きている悲劇の発端である事を新世代型たちは痛感した。

 

 激しいサコンの攻撃に、ミラーガールが悲痛な想いで盾で防いでいた、その時。

 サコンの強烈な蹴りを、ミラーガールは寸でのところで防ぐが、彼女が蹴りを防いだその隙にサコンは両手からの斬撃をミラーガールの頭部目掛けて打ち込もうと刃を上へと流した。

 ミラーガールの危機を皆が周知した、その瞬間。

 ミラーガールとサコンの間に、メタルバードに変身したバーンズが割り込んだ。

「双方待ったッ!」

 メタルバードはミラーガールの盾を片手で押さえ込むと同時に、サコンが振り翳した両刀を自身の鋼鉄化している腕で受け止めて、双方の動きを止めた。

 メタルバードの制止にミラーガールもサコンも動きを止めていると、メタルバードがサコンに金色の瞳を向けて言った。

「サコン、憎しみは人の眼を、心を曇らせる……だが、その憎しみをオレたち二次元人がお前に与えちまったのなら、その憎しみはオレら聖龍HEADにぶつけろ……!」

 自分たち二次元人がサコン本人に限りない憎悪を与えているのなら、その憎悪は自分たち二次元人を保守する聖龍HEADにぶつけろと説くメタルバード。

 このメタルバードの言葉に、サコンはその場で泣き崩れた。

「ッ……どうしたら良いんだよ……俺はどうすりゃ良いんだよ……! あんた達に全てを奪われて、俺はどうしたら良いんだッ!」

 二次元人に祖国を、そして尊敬していた人物すら奪われて慟哭し出すサコン。

 慟哭するサコンを前にして、此処で駆けつけて来たイン・ナオコも山中鹿之助も、そして終始見届けていた新世代型たちも悲痛な想いで胸を締め付けられた。

 

 それから数時間後。

 聖龍HEADは会議の末にマン・サコンを釈放する決断をした。

 自分たち聖龍隊に、何より二次元人に彼を捕縛する権限は無いと自覚した末での決断だった。

 サコンは聖龍隊やナオコ、鹿之助や順一、そしてカァチェンや新世代型たちに見届けられながら基地を出て行った。

「……どうして捕らえて置かないんだ? あいつ、またいづれ二次元人でるお前達を殺しに来るぞ……!」

 ナオコの訴えに対して、バーンズは答えた。

「オレたち聖龍隊に……いや、二次元人があいつをどうこうする権限は無いからさ。大丈夫、あいつはオレたち二次元人への殺意や憎しみ以外は今はまだ何も持っちゃいない。誰かを、無関係な人間を殺傷するほど危険な奴じゃねえよ」

 二次元人以外の三次元人などを無闇に殺傷する危険人物ではないとナオコに説くバーンズ。

「何だか可愛そうです……あのサコンって人、どこにも居場所が無いだなんて……」

 祖国も主君も無くし、何処にも居場所が無いサコンを哀れむ鹿之助。彼だけでなく多くの新世代型たちもサコンに対して哀れみや同情を掛けていた。

 しかしサコンの方は、そんな哀れみの眼を向けてくる新世代型たちに殺意と憎しみの禍々しい狂犬の様な目付きを向け返した。

 サコンの殺意に満ちた狂犬の様な目付きに睨まれて、新世代型たちは恐れおののいた。

 そしてサコンは失意の内に、基地を抜けて何処か当ても無く去っていった。

 

 祖国を失い、主君に先立たれ、居場所すら無く、ただ彷徨いながら悲しみと憎しみを滾らせる両刀と蹴りの名手マン・サコン。

 その全てを奪い、壊したのは紛れもなく二次元人。そしてそれを命じたのが他でもない小田原修司。

 その二つの血を受け継いだ新世代型二次元人たちにサコンは限りない憎しみを向け続ける。

 サコンも、そして新世代型たちも何処へ向かい、何処へ辿り着くのだろうか。

 シバ・カァチェンは、その虚ろな眼差しで彼らの行く末を見据えていた。

 

 

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