別のほうに載せてます。
こっちがそもそも外伝みたいなものなので
◇◆
チェス盤を挟み2人の男が言葉を重ねる。
彼らは、異世界から招いた人間に対する失態を、その取り繕いをどうするか検討していた。
幾つの村が犠牲になっただろう。
何人の人間が非道に死に、人としての尊厳を奪われただろう。
はじめは、〈マスター〉達の良き着火剤あるいは活性剤となればと考えていた。
だが、彼らの矛先はもれなくティアンへと向かい、世界そのものによくないものをもたらそうとしている雰囲気であった。
彼らは別に人間の生き死になどどうでもいい。
ただ、その責任の所在を問われた時に真っ先に名が挙がるのが、そしてこの目論見が何の効果を生み出さないだろう、と観測された結果、計画を潰すべく動こうとしていた。
ピエール、マニ・メイル、オキード、そしてアウロラ。
異世界から召喚され、そして人間にあるまじき精神性で依り代としたトランプマンのハートをスートとする13のうち上位4名を乗っ取った。
「奴らの動向は?」
「それが……今も分かっていません。こちらの権限は尽く潰されていて……。情報操作に類するエンブリオが発現したわけでもないでしょうし」
「……ジョーカーの代償か」
召喚時に用いたジョーカーという鬼札。
それは大抵のことを叶えてしまう代わりに、意に反した代償をもたらすとトランプマン・ハートワンは言っていた。
ならば、観測の制限こそが代償であったのではないか。
ハートワンの対面でチェス駒を手の中で弄ぶエグゼ・キューショナーはそう推測する。
「兎に角。奴ら単体の動きを追えないというのであれば、全体の中から見つける他あるまい。……虱潰しとなるだろうが、それでもやらないよりはマシだ」
「そう、ですね。すぐに各国も指名手配に動き出すでしょうし、そうなれば目撃情報も増えるでしょう」
「しかしそうなれば……」
「……ええ。他の管理AIにも勘付かれる。裏である僕達をそもそも疎んでいる連中だ。今回を機に本格的に潰しに来かねない」
「……チッ」
数においても出力においても勝る者達を思い浮かべエグゼは苛立つように舌を打つ。
搾りかすのように生み出されたトランプマンやエグゼ・キューショナーにとって、源流のような管理AI達は本来であれば敵うべくもない存在。
だが、こうして裏をかき、存在を秘匿し、戦力を整えればやれることもある。
今回の異世界からの召喚も管理AI達に一矢報いようとした結果なのかもしれない。
「……ん?」
と、ハートワンが表情を硬くした。
普段からにこやかな薄っぺらい笑顔を張り付けたような彼の顔から表情が消える。
「どうした」
「いえ……その……杞憂でなければいいのですが……」
「早く言え。既に計画は頓挫しているのだ。これ以上悪くなることも――」
「奪われたのはハートの上位4名……そう思っていたのですが……」
ちなみに下位はハートワンである彼だ。
ダイヤ、スペード、ハート、クローバーそれぞれ13名にジョーカーを加えた53名。
その全てを指してトランプマン。
「僕と彼らに奪われた4名、その残りである8名のハートとの連絡が絶たれています」
「……は?」
この時のエグゼの顔。
それをハートワンはこの先にかけても今回が最高潮だろうなと思った。
「最悪です……。もし、もしも……奴らが他にも異世界から同等の質を持つ魂を招こうとしていたら……」
ハートは受け皿としては最高だ。
自身に暗示をかけることで異世界の魂と限りなく同調できるように整えることが出来る。
「馬鹿な! 4人だけでもこの有様だぞ。それを残り……8人も増えれば世界が破綻する!」
異世界の来訪者が何を目的としているかさえ不明だ。
だが、彼らは〈超級〉となるべくして選出された、力だけは本物の連中。
〈超級〉が数名、徒党を組むだけでも一国を相手にするようなもの。
奪われたハート全てが異世界の人間の魂に汚染され、その12名が世界を破壊しようと目論む可能性とてある。
「すいません……不覚でした。まさか、他に限っては問題ないと思っていまして……。そもそもいつから連絡が途絶えていたかさえ分からない……あれ? ハートは僕以外……」
「チッ……おい、今すぐに他の個体との同期を切れ。ハートに限らずだ。ダイヤもスペードもクローバーも! 汚染が流れ込む前に!」
想定以上に異世界の人間の魂が強力であったとみるべきだ。
もはやハートワンは他のハートについての認識すらできない状態である。
もしかするとそれは以前からであったのかもしれない。
異世界からの召喚の儀を成功させるためにハートワンだけ残されて……
「(いや……考えすぎか。そうであったならば、こちらが招いたのではなく、向こうがこじ開けたということになる)」
エグゼは切り捨てる。
そこまでの力は無いだろうと。
異世界を観測できたのはジョーカーがいたから出来たことであって、向こう側に同等の力があるわけなどないのだから。
「対策だ。兎に角。4人にしろ8人にしろ、叩かねばなるまい」
だが、問題はここからだ。
彼らはまだ〈マスター〉の範疇を超えたわけではない。
自由に〈マスター〉らしくティアンを虐殺しているだけだ。
世界そのものを壊そうとしているのは、それはトランプマンやエグゼが始めたことであるため、そちら側からアプローチしてしまえば過去の己を否定することとなる。
そうなれば、待ち受けるは自己否定からの破滅のみ。
故に、あくまでやり過ぎてしまった〈マスター〉に誅を下すべく、対応策を練らねばならない。
「居場所は……このまま奴らが好き勝手に動けばその被害場所からおおよそ推測は出来るだろう。現在は大陸の西武付近に留まっているのだな?」
「ええ。確認されている限りではレジェンダリア、グランバロア、カルディナ。この3国です」
「ならば見つけ次第戦力を送り込む……のが良いのだろうが」
表立って動けず、そして今のエグゼもトランプマンも戦いのうえでは本来の力を出すことができない。
もし彼らが既に〈超級〉に到達していたとすれば、返り討ちにあう可能性が高い。
「ふふ。エグゼさんの表の顔は王国の処刑人ですからね」
「……?」
「私はあらゆる場所へ潜り込み、それぞれで活動しています。ティアンとの交流もそれなりです。なに、任せてください。適切な戦力を送り込んでみせますよ」
少しばかり自信のあるように胸を叩くハートワンをみてエグゼは思う。
「(こいつ……それで計画が頓挫したのを忘れたのではあるまいな)」
なにはともあれ、ピエールら4人へと腕利きが送られることとなる。
トランプマンもエグゼもこれ以上出来ることは無い。
ただ戦いの行末を眺め、せめて偽〈超級〉の力を見定めるだけだ。