二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
燈や睦はうまくやっていくことができるのでしょうか?
「……結月君みたいに上手くやるって、どうしたら、いいかな」
私がそう口ずさむと結月君の勉強するペンが止まって、顔を上げて固まっちゃった。
『好きなようにするなら上手くやらないとね』って言葉が今も忘れられなくって、でも、分からない。
「燈ちゃんは今のままでいいと思うけどな~」
ぽりぽりと頬をかきながら、結月君は視線をノートに落として丸をぐるぐるなぞってる。
このままでもいいのかな――ううん……このままじゃずっとダンゴムシのままで。照らしてもらってるだけじゃ、隣にいられない気がする。
首を横に振って前を向くと、じっと目が合う。
「うーん……燈ちゃんがそこまで言うなら」
結月君は重い口を開くと、私に色々なアドバイスをしてくれた。
「興味がなくても、みんなの話に少しだけ混じって思ったことを言ってみたりとか、あとさ、分からなかったら相槌を打つだけでも違うよ」
もし、その中で面白いことがあったときは笑えばいいし、興味があれば話してみればいいって、教えてくれた。
「それに、友達に森みなみの息子がいるってだけでいい話題になると思うよ」
私は膝の上にのせていた両手を強く握りしめる。
「遊んでるときは笑ってるし……燈ちゃんならきっと大丈夫!」
少しだけうわずった声で結月君が励ましてくれる。
「分かった。頑張ってみる」
私がうなずくと、結月君はノートにペンを走らせて、そのページを破って私に渡してくれた。
「これ、最近流行ってるドラマとか動画。母さんが主演のドラマとかもあるから気になったら見てみて」
そのメモを両手で受け取って眺めてから、胸の前に抱き寄せた。
一枚のメモがポカポカと温かい。
―――
「昨日のドラマめっちゃよかったよね!」
ノートに向けていた視線を上げると、目の前の席でクラスの子たちが集まって話してた。
結月君に教えてもらったドラマ。見てみたけど……私にはよく分からなかった。
でも、内容はちゃんと覚えてる。
「えと、それ。昨日やってたドラマ、だよね」
喉を振り絞って話しかけたら、みんな黙っちゃって、じっと見つめられてる気がした。
(……また失敗しちゃったんだ)
胸が締め付けられるようで、視線が痛く感じる。
「たしか、燈ちゃんだったよね?燈ちゃんもドラマとか見たりするの?」
その一言が温かくて苦しさがほどけて、肩からすっと力が抜けた。
でも、目は合わせられなくて視線を泳がせながら口を開く。
「友達のお母さんが主演だから、気になって」
もらったメモのドラマをどれから見ようか悩んだ時に、結月君のお母さんのドラマを見てみようと思って、森みなみ主演って書かれたドラマを見つけた。
すごかった。結月君のお母さんのはずなのに、テレビの中じゃまるで別の人みたいで。
「あのドラマの主演って森みなみだったよね……てことは睦ちゃんと友達なの!?」
家でのことを思い出していたら、みんなが口を開けて驚いてた。
「えと、睦ちゃんとは、友達……なのかな。でも、結月君とは、友達」
そう呟くと、一瞬静かになる。また、少しだけ胸がきゅっとなるけど、直ぐにみんなが「えー!」って大きな声を上げた。
「えー!結月君ってたしか睦ちゃんのお兄さんだよね。昔雑誌で見たことあるよ!もしかして森みなみにも会ったことあるとか……」
こくりとうなずいて「卒業式のとき。少しだけ」って言ったら、またみんな驚いてた。
「え?燈ちゃんって森みなみと会ったことあるの?」
大声に誘われてクラスのいろんな人が私を囲んで話しかけてくれた。結月君のこととか睦ちゃんのこととか、わたしのことも少しだけ聞いてくれた。
すごく疲れたけど……嬉しかったと、思う。
だけど、一人じゃないはずなのに……少しだけ寂しい気がして。結月君もこんな気持ちだったのかな。
この日からクラスの人だけじゃなくってほかのクラスの人も挨拶してくれるようになった。
今でも友達ができたわけじゃないけど……燈ちゃん面白いねってよく言われる。
***
「祥、男の人と仲良くするってどうすればいい?」
休み時間に祥の席の前に佇んで、声をかける。
最初はきょとんとしていたけど、すぐにかしげた首を戻して口を開いた。
「睦と結月さんは十分仲が良いと思うのだけれど。難しいですわね……」
祥は唇に指をあてて考えるように少しだけ視線を落とした。
「結月の名前、出してない」
そう首をかしげたら、祥は口をポカーンと開けて固まってしまった。
なんで結月のことだって、分かったんだろう。”そんな話一度もしたことないのに”。
「祥?大丈夫?」
「っは!大丈夫ですわ。ですが、どうしてわたくしに?そういったお話は好きですがあいにくと経験は……」
困ったように頬に手を当てて、私に目を向ける。
燈ちゃんとはそんなに話たことない。それに、なぜか相談しちゃいけない気がして……私には祥しかいなかった。
「ちゃんと知ってるの、祥だけだから」
そう言うと、祥は私に歩み寄って手を取った。
「睦は本当に結月さんを慕っているのね。先ほどは取り乱しましたが、困ったことがあればわたくしに相談して!一人っ子で力になれるかは分かりませんが……一緒に考えることはできますし」
にこりと輝く笑顔から視線を逸らせなくて、私はただ、「ありがとう」と感謝を伝える。
***
(中学に上がってから睦は以前よりもよく話すようになりましたわ)
前々から結月さんのことをよく話していたけれど、今日のように仲良くなりたいと相談されたのは初めてですわね。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
(お二人は兄妹なのに、わたくしったら恋愛に結びつけたりして……)
今日のことを思い出しながら枕に顔をうずめる。
耳だけじゃなくて、顔まで熱いですわ。
社会経験……とは言っていましたが、結月さんとの二人暮らし。何かわけがありそうですし、大変ですわよね。
結月さんなら睦と喧嘩をすることもないでしょうが、兄妹仲が良いのは素敵なこと。
(ですが、呼び捨てで呼ぶようになるだなんて)
あれには驚かされましたわ。つい最近まではそんなことはなかったのに。きっと、睦なりに頑張っているのでしょう。
(私のアドバイスなどなくても、心配なさそうですわね)
二人の笑顔を思い浮かべつつ、私は瞼を閉じた。
生じたズレに今は気が付くことが出来ず。
一話当たりの文字数が減ってきていて困っている今日この頃です。
余計な部分が削れてるって証拠なんですかね……
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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