二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
睦にもそういうものがあるんでしょうか。
お風呂上がり、化粧水に手を伸ばすと、ふと違和感に気がつく。
(なんか減りが早い気がする)
化粧水だけじゃない、他のお風呂用品とかケア用品も減りが早い。
二人暮らしを始める前は家にあるものを適当に使っていたけど、今はメンズ用で自分に合ったものを選ぶようにしてるから睦とも別々のはずなんだけど……
燈ちゃんと勉強会の合間に化粧品とかケア用品のこと調べて、男性用と女性用じゃ全く違うもの使うって知ったんだよな。
―――
「結月君、なに見てるの?」
勉強の休みがてらyoutubeのにゃむちチャンネルを見ていると、燈ちゃんが隣に正座してスマホを覗き込んできた。
「ん~仕事場の人にさ、『今からスキンケアしないと痛い目見るぞ~』って脅かされてさ」
凛々子さんめ……今まで肌のことなんて気にしたことなかったのに、あんな死んだ目をされると嫌でも気になる。
そのときに見つけたのがにゃむちチャンネル。美容品とかの説明とかレビューをしてて、内容がすごく分かりやすかった。
「この子、俺たちと同じ歳なんだって。なんか親近感湧いちゃって、調べる時はこのチャンネル見てるんだよね」
将来は芸能人になって有名になるんだーって目をキラキラさせながら動画で言ってたのを見た。どうしても、有名人って言われると母さんが頭に思い浮かんで何とも言えない気持ちだったけど……応援したくなるから不思議だ。
「綺麗なほうが、いいのかな。シーグラスみたいに、霞んでても、綺麗な石もあるから……綺麗ってむずかしい」
燈ちゃんはスマホから視線を外すと、胸に両手を当てて少しかがみこんだ。
やっぱり女の子ってそういうのが気になったりするのかな。母さんとか睦を見てる俺でも燈ちゃんのことは可愛いと思う。
「うーん。見た目が良いに越したことはないのかな……でも、綺麗にもいろいろあるのかも?」
正直すぎたかな……?でも、実際に顔とか見てないかと言われると嘘になるし。
「わ、わたしも気になる、から。一緒に勉強する!」
燈ちゃんは嫌な顔をするどころか、動画をじっと見て集中していた。
―――
色々調べはしたけど、結局二人であたふたしながら歩き回ったっけ。
燈ちゃんはそういうのには無頓着だと思ってたから衝撃的だった。
なんて思い返しながら、入浴後のルーティンをすませて、リビングに足を向ける。
「睦さん。お話があります」
俺が椅子に座ると、睦は紅茶を飲む手を止めて、カップをテーブルに置いた。
「もしかして、自分用のケア用品持ってないとかないよね?」
俺が詰め寄るように問いかけると、コテンと首を傾げる。
「私はなんでもいい」
当然のように答えると、紅茶に再び口をつける。
「なんでもいいわけないでしょ!?俺も燈ちゃんと動画とかで調べて知ってるんだからね。肌とか髪の毛が傷んだらどうするのさ」
すると睦は机の端を撫でながら、「結月は燈とすごく仲良し」とぼそりと呟いた。
「どうしてそこで燈ちゃんの名前が出てくるのさ……そりゃ、小学生の時からの友達だし、一緒にいて気疲れしないからね――って!話をそらさないで」
「私は……んで」
そのとき、何か言っていた気がしたけど、何を言っているのかは聞き取れなかった。
「それよりも、睦はせっかく可愛くて綺麗なんだから、俺と一緒の使ってちゃだーめ」
そう言うと、睦は目を逸らして顔を下げる。髪の隙間から見える耳はほのかに赤くなっているように見えた。
「急に言われると、びっくりする」
照れて少し覗かせて見える顔は妹ながら可愛くて、思わず後ずさり、視線が泳ぐ。
「と、とにかく。お金のことは気にしなくていいから、睦に合うやつ買いに行くよ」
声は少し上ずって、誤魔化すように椅子から立ち上がる。
やっぱり顔は良い方がいい。義妹とはいえ、どうして俺が恥ずかしがらないといけないんだ。
―――
週末にショッピングモールに睦を連れて、化粧品コーナーに足を運ぶ。相変わらず広くて、化粧品の種類も多い。
(お金のことは気にするなって言ったけど、余裕があるわけじゃないんだよな)
にゃむちが先日上げてた【中学生でもできる化粧品紹介】の動画に出てた中で、睦に合いそうなものを探す。
睦はというと、俺の後ろにピッタリとくっついて、物珍しそうに辺りを見回してる。
「こういうとこ来るの、初めて」
「前までは母さんが通販で買ってくれてたから、買いに来ることなかったもんね」
これを機に興味を持ってくれるといいな。
「多分、この辺りにあると思うんだけど……」
動画を見ながら同じところをうろうろしていると、「何か探し物ですか?」と後ろのほうから声をかけられる。
スマホから目を離して振り返ると、ピンク髪の女の子が、少し距離を保ったまま、こちらを見ていた。
「えと、これを探してるんですけど」
一瞬、その子の顔をちらっと見てからスマホを見せる。
「あれ?これってレディースですよね?」
画面に映ってるのは睦用の化粧品で、俺が見せたからか少し眉を寄せていた。
「あぁ、俺が使うんじゃなくって妹に会うのを探してるんです」
少し横に避けて、流れで後ろにいた睦を見せてしまう。
すると、その子はすぐさま睦の手をとった。
「睦ちゃんですよね!?わぁ可愛い。妹さんってことは、お兄さんの結月さん?」
やってしまった。睦のことならまだしも、別の学校で俺のことまで知ってる人に出会うなんて。
「あ、えっと……」
睦が後ろに後ずさり、その間に急いで割り込もうとすると、ピンク髪の子はすぐに手を離した。
「ご、ごめんなさい。びっくりして、興奮しちゃって」
一歩後ろに下がると、ぺこりと頭を下げる。
「私、千早愛音って言います。千早って呼んでね」
またいつものかと思ったけど、千早さんからはなんというか、ちゃんと気遣いをしようとしているのを感じる。だからなのか、不思議と安心できた。
「ふむふむ」
千早さんは睦のことをじっくりと見たあとに「ちょっと待ってて」と言って駆け足でどこかに行ってしまった。
「睦、大丈夫?」
「驚いたけど、すぐ離してくれたくれたから」
人見知りの睦はこういうことが苦手だ。だから、芸能界からも離れたってずっと前に聞いた。
でも、今回は大丈夫そうだ。
様子を見てホッとすると、千早さんがカゴに色々と入れて戻ってきた。
「これ、さっきのお詫び。睦ちゃんに合いそうな化粧品とかコスメだよ。もしよかったら、試してみて」
「千早~そろそろ帰るよ~」
カゴを受け取ると、遠くから友達らしき人の声が聞こえてくる。
「ごめん!友達待たせてるから。ばいばーい!」
なんか、嵐のように現れて嵐のように去って行ったな……
カゴの中をみると、探してた商品だけじゃなくって、ほかにも化粧品が入ってて、睦に合うものがあったから助かった。
「また、女の子」
会計が終わって袋詰めしていると、睦が俺の袖を引っ張る。
「勘違いされるようなこと――」
「でも、ありがとう。私のために」
柔らかく微笑む睦にどうこう言う気も失せて、頭に手を乗せる。
「大事な妹だからね」
頭を撫でると、睦は俯いていて、その表情は俺には見えなかった。
帰宅した後にスマホを開くと、千早愛音というアカウントからSNSのフォローが俺にきていた。
(ちゃっかりしてるなぁ)
そう想いながらフォローボタンをタップした。
***
今日買った化粧水を塗って鏡を見つめる。
(……やっぱりわからない)
そこに映るのは人形みたいな、みんなの睦ちゃん。
でも、今日はちょっとだけ違う気がする。
千早が手伝ってくれて、結月と一緒に選んで、二人で買ったもの。みなみちゃんに買い与えられたものじゃない。
部屋に戻って、脱力するようにそのままベッドに入り、まだしっとりとした顔をなぞりつつ、天井を見上げる。
人混みの中で買い物もして、千早に詰められたりしたから、疲れた。
(結月は本当に優しい。私のことをしっかりと見て、考えてくれて……寄り添ってくれる。そんな優しい結月だから――好きになったのかな)
『燈ちゃんは小学生の時の友達だし……』前に聞いた言葉が頭の中で反響する。
結月と燈の間に空白なんてない……私と違って。
分からない。私は結月の隣に……恋人になりたいのに。
(ねぇ睦ちゃん。睦ちゃんはどうして結月のことを好きになったのかな)
落ちる意識の中で自分にないものを探すように、私は自分に語りかけた。
今回もお付き合いいただきありがとうございます。
にゃむや愛音の話への絡ませ方が強引すぎるかな?と思いつつ、こういう回を書くなら出したいなと考えていました。
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