二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜   作:Tmouris_

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独りと1人の違いってなんなんでしょう。
少し寂しくって温かいお話です。


第20話:独りってなんだろう

勉強の休憩中に、指先に貼ったペンギンの絆創膏が視界の端に映る。

 

(そういえば、水族館には行くけど動物園にはあんまり行ったことないな)

 

……動物園、どうなんだろう。

 

「ねえ、燈ちゃん」

 

「……?」

 

俺の声に反応してノートに向けた顔を上げると、少し首をかしげる。

 

「今週末の休みに動物園行ってみない?」

 

急にこんなこと言い出して困らせたかと思ったら、燈ちゃんはこくりと頷いて立ち上がると、自分の机の中からごそごそと何か探し始めた。

 

「あの、これ」

 

俺に差し出したのは近くにある動物園のパンフレット。

 

「ここ、行きたい!」

 

パンフレットから顔を上げると、燈ちゃんは体を少し前に乗り出してもう一度首を縦に振った。

 

「それじゃあ、週末は動物園に遊び行こうか」

 

―――

 

集合場所に着くと、燈ちゃんはいつものパーカーとショーパン姿で待っていた。歩きまわるから靴はスニーカー。

汚れたりするかもしれないから、燈ちゃんのお母さんもおしゃれな服を着せなかったんだな。

 

「おまたせ燈ちゃん」

 

「わたしも、来たばっかりだから。大丈夫」

 

二人で動物園に入園して、順路通りにコーナーを回っていく。

 

「見て見てペリカンだよペリカン。前にカメラにかぶりつく写真がSNSで回ってきてさ」

 

「お……カメラ食べられるのかな」

 

鳥類コーナーに入ったり、夜行生物を見たり。

俺も普段見ない動物にはしゃいでたけど、燈ちゃんも行く先々で目を輝かせながら眺めてる。

 

「さすがにちょっと疲れてきたかも。燈ちゃんも少し休まない?」

 

夢中で歩き回って、休む暇もなく動物園を散策していた。

少しだけ足が重く感じる。

 

「そこに、ベンチある、から」

 

右前の方を見ると、休憩スペースのベンチと自販機があったから、水を買ってベンチに並んで腰を下ろした。

 

水を飲みながら、パンフレットにもう一度目を通す。

 

「あれ、すぐそこにペンギンコーナーあるじゃん」

 

「ペンギン!見たい」

 

燈ちゃんはペットボトルから口を離すと、食い気味にパンフレットを覗き込んできた。

 

「本当にペンギン好きなんだね」

 

俺の言葉に元気そうにうなずいて、パンフレットの裏側のお土産の欄を指さした。

 

「動物園限定の絆創膏も、欲しい」

 

俺の隣をワクワクしながら歩く燈ちゃんはとても楽しそうだったけど――いざ足を運んでみると、燈ちゃんが急に立ち止まって、一羽のペンギンに吸い込まれるように目を奪われて、どこか上の空に見える。

 

その視線の先には周りがエサやりではしゃぐ中、少し離れたところでエサを食べるペンギンがいた。

 

みんなと一緒にいるのに……独りみたいな。

 

***

 

「おはよう高松さん」

 

教室に入ると、クラスの子があいさつをしてくれる。

 

「あ、お、おはよう」

 

みんな声をかけてくれるし、話もしてくれる。でも、話してるのに……時々独りみたいで。

 

「昨日のドラマ見た?森みなみ出てたけど、結月君ともそういう話するの?」

 

胸が少しぎゅっとする。こういうとき、わたしが話してるはずなのに、わたしの先の誰かを見られてるみたい。

 

「えと、そういう話、しない、かも」

 

「そうなんだー。じゃあ普段どういう話してるの?私気になる~」

 

「石とか、空とか……動物のこととか」

 

その子は一瞬首をかしげてから「何それ、面白いね」って笑ってる。

 

この子だけじゃない。みんな、わたしの言ってること面白いって笑うことがある。けど、嫌がらせとかじゃないと、思う……でも、結月君みたいな温かさではなくって、ちょっとだけ寂しい、かも。

 

―――

 

(あの子は上手くやれてるのかな)

 

視線の先のペンギンはエサを咥えて、満足そうにしてる。

 

(わたしは上手くやれてるのかな)

 

嫌われてはないけど、まだ友達もいない。

晴れた空を見上げてそんなことをぼんやりと考える。

 

「燈ちゃん?」

 

「あ、えと。ごめん。ぼーっと、してて」

 

ぼんやりとしてて、ペンギンコーナーからのことはあんまり覚えてない。でも、結構な距離を歩いたみたいで、結月君の声で前を向くと、見覚えのない光景が目の前に広がった。

 

「もしかして、何か悩んでる?」

 

心配そうにわたしの目を結月君はじっと見つめてる。

 

「……えと、どうして」

 

「ふっふっふ。普段から感情表現が薄い睦と一緒にいるからね、鋭くなるんだよ……って言いたいところだけどさ。気づいたのはついさっき」

 

ほんの少しだけ視線を下に向けて、結月君は話を続けた。

 

「ペンギンコーナーを見終わったあたりからかな、何回か声かけたのに上の空だったよ?」

 

嫌な思いさせちゃったかな……一緒に遊びに来たのに。考えごとしてて。

 

「ごめん……」

 

思わず少し俯いて、目を逸らしちゃった。

 

でも、結月君は「いいのいいの」と軽く手を横に振って笑ってる。

「それで、どうしたのさ」

 

喉がぎゅっと締まる。何から話していいか分からなくて、どう伝えたらいいかも……

胸を両手で押さえながら顔を上げる。そこには結月君がいて、お互いに目が合う。

体の力がすっと抜けて、振り絞るように声を出した。

 

「教室で一人じゃないのに、独りぼっちで。みんなわたしと話してくれてるのに、どこか寂しくて……」

 

顔が上げられない。上手く伝えられたかな。結月君はどんな顔してるのかな。困らせちゃった……よね。

 

「その気持ち、少しだけ分かるかも。小学生の時、俺が話してるはずなのにさ、みんなが母さんと睦のことばかり見て、燈ちゃん以外誰も見てくれてないと思ってたから」

 

そう言うと、たまたま通りかかったライオンコーナーの窓に結月君はそっと手をついて、ライオンの集団を指さした。

 

「知ってる?百獣の王なんて言われてるけど、ライオンって実は臆病なんだって」

 

結月君の横に並んで視線を追うと、端の方の一匹のライオンを見てた。

声はどこか優しくて、わたしは窓の先から目を離せない。

 

「狩りをするときはみんなでするし、負けそうな相手には喧嘩をうらないとか。きっとあいつだって、何かするときは仲間と一緒にするんだと思う」

 

その言葉を聞きながら眺めていると、不思議と結月君の面影を感じる。

 

「でも、それって仲が良いとかじゃなくって、一緒にやらなきゃいけないからだと思う」

 

結月君はこちらに振り向いて、もう一度口を開く。

 

「燈ちゃんのクラスの子はお願いしたら助けてくれる?」

 

視線が床に落ちて、教室でのことを思い返す。

 

「黒板綺麗にしようとしてたら、手が届かなくって、クラスの子が手伝ってくれた」

 

「それなら上手くやってるんだよ。本当に独りだと誰も助けてくれないからね。だから、1人に見えても、燈ちゃんは独りぼっちじゃないんだよきっと」

 

結月君はにこっと笑って、話を続ける。

 

「それに、友達って無理に作るもんじゃなくって、仲良くなりたいなって思ったらなってるもんじゃん?」

 

そう言って、わたしと結月君を交互に指さした。

 

***

 

燈ちゃんは「うん」とうなずいて微笑むと、さっきまで眺めていたライオンに再び目を向ける。

しばらくじーっと眺めてから、燈ちゃんが窓をなぞるように触れて、静かに口を開いた。

 

「あのライオン、結月君みたい。だらっとしてるのに、みんなのこと、見てる、から」

 

俺は頭をポリポリと掻きながら少しだけ視線を逸らした。

燈ちゃんはよく褒めてくれるけど、なぜかこの時だけは少し褒め言葉がむずがゆく感じる。

 

「じゃあ、あれは燈ちゃんだね。あんなのと仲良くしてあげてるし」

 

冗談めかしに端に歩み寄っていくメスライオンを指さすと、二匹が静かに寄り添っていった。

 

慌てて隣を見ると、燈ちゃんは少しだけ俯いて、ほんのりと頬を赤くして笑ってた。

その横顔にドキッとしつつ、誤魔化すように俺は次のコーナーに向かって歩き始めた。

 

「まだ見れてないところあるから次行こ」

 

いつも通りに話せたのに、その足はいつもより少しだけ早かった気がする。

 

***

 

動物園限定のペンギン模様の絆創膏をしまって、机の上に置いたパンフレットに視線を落とす。

 

(今日、楽しかった)

 

いつもと違う場所で、結月君と一緒に回って。

 

いろんなこと考えちゃったし、今でもあんまり分からないけど……独りじゃないって教えてくれた。

 

(結月君のそばにいたい……な)

 

隣にいるとポカポカしてて、温かい気持ちにしてくれる。

 

……でも、踏み出したら戻れなくなる気がして。隣を歩いてるはずなのに、一歩後ろを歩いてる。

 

 




読んでくれてありがとうございます。
燈ちゃん大好きでも、燈ちゃん特有の言い回しは中々思い浮かびません……燈ちゃんってすごいな。

お気に入り、感想ありがとうございます。いつも励みになっています。
次の話の投稿はいつになるのやら……
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