二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
(ついに今日顔合わせか)
学校終わりに集合することになってる駅で、スマホを開いて時間を確認する。
一日中そわそわして、学校が終わってからすぐにここに来たから集合時間よりも少し早く着いたけど。
(……落ち着かない)
誘ったのは月ノ森の生徒って言ってたけど、ガチガチのお嬢様とかだったらどうしよう。
関わったことあるのが睦ちゃんと祥子ちゃんくらいだから、実際にどんな人たちが通ってるのかは知らないんだよな。すごいお嬢様学校って話は聞くけど。
その場でうろうろとしていると、祥子ちゃんと睦ちゃん、そしてもう一人の女の子の影が見える。
「結月さんお待たせいたしましたわ」
祥子ちゃんは俺の顔を見るとペコリと挨拶をして、少しだけ横に避ける。
「紹介いたしますわ。こちら長崎そよさんです」
そう言うと、後ろにいた長崎さんが一歩前に出て、にっこりと笑った。
「ごきげんよう。長崎そよです。君が若葉さんのお兄さん、だよね」
一瞬、衝撃で口が開かなかった。祥子ちゃんが言っているのは聞いたことあったけど、本当にごきげんようとか言うんだ……
「あ、えと。ごきげんよう。若葉結月です」
ついごきげんようって言ってしまって、祥子ちゃんと睦ちゃんは笑いをこらえるように顔を逸らした。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。癖みたいなものだから」
長崎さんは「ふふふ」と口に手を当てながら笑っていて、お嬢様を感じさせた。
「じゃあ、そうさせてもらうね」
……久しぶりに新しい人と関わるせいか緊張する。
睦ちゃんと燈ちゃん以外とはめったに話さないし、取り繕った会話ばっかりしてきたせいだ。
「そういえば、ここって燈ちゃんの家のすぐ近くだけど、迎えにでも行くの?」
「ええ。ですが、わたくしも一度しか行ったことがなくて……結月さんが案内してくださる?」
「おっけー。じゃあついてきて」
俺が先頭に立って、燈ちゃんのマンションに向かう。
「そういえば、長崎さんはどうしてバンドを?」
やっぱり元々友達とかだったのかな。祥子ちゃんってコミュ力というか、人に突っ込んでいくの得意そうだし。
「うーんとね。音楽祭終わりに廊下を歩いてたら、豊川さんに初めて声をかけられて『バンドに興味はありませんか』って誘われたの」
……想像以上の勧誘だった。初対面の相手にバンド誘って、しかも仲良くなるってどんなコミュ力してるんだ。
「長崎さんのコントラバスは素晴らしくて、それでぜひと思い声を」
燈ちゃんもこの調子で誘われたのか。家にも入れたみたいだし、昔と違ってちゃんと話すことができたんだ。
「じゃあ、ベースも経験者だったり?」
俺が後ろを向いて聞くと、長崎さんはふるふると首を横に振った。
「ベースは初めてで、これも買ってもらったばかりなの」
そう言って、背負ったベースを軽く上にあげる。
「そっか、じゃあ同じベース同士一緒に頑張ろうね」
祥子ちゃんがべた褒めするほど楽器が上手なら、心配することもないだろうな。
そう思いながら、俺たちは燈ちゃんの家に向かった。
***
家に帰って、制服のまま机に広げたノートを眺める。
そこには、私が書いた言葉、切り取ってきた言葉がたくさん書かれてる。
(結月君は上手くやれてるって言ってくれてるけど、やっぱり私はズレてて……友達出来ても、独り)
一緒に歩けるのは結月君だけだけど……それじゃあ隣に並べない気がしてた。
だから、祥子ちゃんがノート見て、受け入れてくれて嬉しかった。
日陰に隠れた自分を見つけてくれたみたいで。
ノートを手に取ってページをめくる。【にんげんになりたいうた】祥子ちゃんが作ってくれた、曲。
(バンドしたら……隣に建てるかな。隠してるもの、見つけてくれるかな)
そう考えると、ノートを掴む指先に思わず力が入る。
手が少しだけ汗ばんで、ノートをカバンの中にしまうと、窓の外から結月君たちの声が聞こえてきた。
***
窓越しに燈ちゃんと目が合うと、慌てた様子でカバンを肩にかけてた。
「あのマンションだよ」
みんなが分かるように指を指したときには、部屋のカーテンはもうしまっていた。
マンションの入り口まで行くと、ちょうど燈ちゃんがマンションから出てくるところだった。
「こちらが高松さんですわ」
祥子ちゃんが長崎さんに紹介をすると、燈ちゃんはペコリと頭を下げる。
「高松、燈。です」
「長崎そよっていいます。よろしくね」
二人が軽くあいさつを交わすと、祥子ちゃんが「それでは集合場所に向かいましょう」と俺たちを案内してくれる。
「みんなは高松さんと知り合いなんだよね」
集合場所のカフェに歩きながら向かっていると、長崎さんが口を開いた。
睦ちゃんは無言で頷いて、祥子ちゃんは「偶然お会いしまして」と嬉しそうに笑った。
「俺は小学生の時からの友達で、今回は祥子ちゃんに偶然別々に誘われたんだよ」
すると、長崎さんは口に手を当てて驚いた。
「えぇ!そんな偶然あるんだね。すごいよ」
そんな会話を続けていると、祥子ちゃんが突然声を上げた。
「わたくしたちバンドをするのですわよね!でしたら、他人行儀な呼び方はやめにいたしません?」
突然の提案に一瞬固まったが、すぐに言葉を返す。
「ちょっと待ってよ。俺たちまだ会ったばかりで――」
「……そよ」
言いかけたところで、睦ちゃんがぼそりと呟いた。
「あ、えと。そよ、ちゃん」
それに続くように燈ちゃんも長崎さんのことを名前で呼んだ。
「やはり、こちらの方がいいですわね。そうですよね、結月さん?」
そう言って、祥子ちゃんが笑顔で俺に圧をかけてくる。
ちらりと長崎さんの方を見ると、目が合ってにこりと笑いかけてきた。
「……じゃあ、そよさん」
なんだか凄く照れくさい。耳が熱くなるのが自分でも分かる。
「そんなに照れなくてもいいのに。よろしくね、結月君」
「……兄さん、友達いないから」
「いや、そんなストレートに言わなくてもよくない!?」
思わず燈ちゃんに助けを求めるように視線を送る。
「わ、私は友達」
そのやり取りを見て、祥子ちゃんが「ふふ」と笑って、みんなもつられるように声を出して笑った。
―――
カフェに着くと、入口にイヤホンを付けた黒髪の女の子が一人で立っていた。
「ごきげんよう。椎名立希さんですわよね?」
祥子ちゃんが声をかけると、イヤホンをとって「どうも」と首を少しだけ縦に振った。
中に入って注文を済ませると、祥子ちゃんが皆を見て軽く会釈をする。
「それでは改めて自己紹介を。わたくしは豊川祥子といいます」
そう言って、てのひらを俺に向けて次の番を回してきた。
「若葉結月です。隣に座ってる睦ちゃんとは兄妹なんだ」
ちらりと睦ちゃんの方を見るが、睦ちゃんは表情を動かすことなく口を開く。
「若葉睦」
綺麗なパスを回したつもりだったのに、いつも通り淡々と名前だけ。
「長崎そよです。睦ちゃんと祥子ちゃんとは同じ中学校なの。よろしくね」
そよさんは相変わらず明るい笑顔で話しかけてくれる。
「高松、燈……です」
燈ちゃんは緊張しているのか、視線をテーブルに向けながらも頑張ってる様子だ。
「椎名立希」
立希さんはサバサバしているというか、どことなく不機嫌にも見える……少しだけ怖いのは俺だけか?
ほとんどのメンバーが初対面で気まずい空気が漂うが、そよさんが気を利かせたのか話を振ってくれる。
「立希ちゃんのお姉さんってすごい人なんだよ。吹奏楽部の部長さんしたり、コンクールで一位を取ったり」
となると、立希さんも吹奏楽部に入ったりしてるのかな。
「わたくしもそのご縁でお声がけしましたの」
空気が明るくなったと思ったら、立希さんは更に機嫌が悪くなったように見える。
「今それ関係あります?」
優秀な姉を持つと妹は苦労するってことか……どことなく怒ってるようにも見える。
空気が更に重たくなって、俺は思わず口を開いた。
「俺も大女優の息子で色々言われてきたからな~なんとなく気持ち分かるよ」
すると、立希さんはぴくりと肩を動かした。
「若葉って森みなみの……ッ」
そこまで言いかけたところで、ハッとしたように口を閉じる。
「これでお相子ってことで」
軽く笑うと、立希さんは少しだけ視線を落として「すみません」と呟くように謝った。
想像以上に気にしちゃったらしく、俺は祥子ちゃんの方をちらっと見る。
祥子ちゃんは「任せてくださいませ」と言わんばかりに自信満々な顔をしてから「失礼」と立ち上がった。
「本日は集まってくださりありがとうございます。皆さんとお会いすることを大変楽しみにしておりました」
祥子ちゃんが笑うのをこんなに見たのはいつぶりだろう。お母さんが亡くなってからずっと無理をしてるように笑っていて……だけど、今日はずっと楽しそうに見える。
「これからわたくしたちはバンド……ともに音楽を奏でる運命共同体となるのです」
俺は口に含んだ紅茶を吹き出しそうになりながら、それを何とか堪える。
……運命共同体って。
「運命か~」
そよさんも嬉しそうに笑ってるし。でも、祥子ちゃんらしいといえばらしいか。
俺もなんだか自然と口元が緩む――が次に聞いた言葉に体が固まる。
「差し当たってはわたくしが曲を作り、こちらの燈さんに作詞をしてもらおうかと」
「え……!?」
燈ちゃんは何も聞かされていなかったのか、祥子ちゃんの方を見ながら口を開けて驚いていた。
「……詩って曲の命でしょ?大丈夫なの?」
立希さんのツッコミももっともだ。
冷たいかもしれないけど、どんなに良いメロディを付けたって、詩が良くなければ曲は良くならない。
「心配いりませんわ。燈さんは作詞の天才ですもの。くだんのノートを見せてくださる?」
歌詞を書いてるところとか見たことないけど、実は興味あったりしたのかな。
燈ちゃんの方を向くと、一瞬だけ目が合って、恥ずかしそうに視線を下した。
「見ないとわからないんだけど」
「へ……!?」
悩む間もなく、立希さんの言葉に驚いて、しぶしぶとノートをそよさんに渡した。
ノートが回ってきて詩を読むと、燈ちゃんの言葉が胸に流れ込んでくるみたいに感じた。
(うまくいってるとか関係なかったんだ)
動物園で話したことを思い出して申し訳なさが溢れ出してくる。
ただ、独りなのが不安で……友達がいるはずなのに、自分が独りみたいな孤独感が怖くて。
――周りに合わせられない自分が嫌だった。
「ごめんね。燈ちゃん」
急に謝ると、みんなは不思議そうに俺の方を見た。
「ううん、大丈夫」
でも、燈ちゃんだけは笑顔で首を縦に振ってくれた。
***
(結月君に届いたんだ)
みんながノートを見ながら話し合ってる中で、胸に手を当てる。
うたってすごい。私じゃ結月君に伝えられなかったこと、伝えられた。
作詞……できるか分からない。けど、頑張ってみようかな。
手に力をこめると、祥子ちゃんが立ち上がる。
「それではスタジオに練習に向かいましょう!」
私は何をするんだろう……結月君のベース、聞いたことあるだけで……何も出来ない。
カフェを出て顔をあげると、太陽が輝いて雲一つない青空が広がっていた。
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