二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜   作:Tmouris_

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自分の感情を少しだけ前に出せるようになる……そんなお話です



第27話:ありのまま

昨日の今日で何か変わるなんて思っていなかった。

だから、俺は思わずベースを弾く手を止めそうになる。

 

「ねえ、本当にやる気――」

 

立希ちゃんが何かを言いかけていたけど、俺は燈ちゃんの手を取って喜んだ。

 

「すごい!すごいよ燈ちゃん!歌えるようになってる」

 

昨日は声も出せなくって、みんなの前にずっと立っていることもできなかったのに。声は小さかったかもしれないけど、ちゃんと最初から最後まで歌えてた。

 

「ちょっと、甘やかしすぎじゃない?」

 

「まあまあ、歌えるようになったんだから一歩前進だよ」

 

立希ちゃんの厳しい評価にそよさんがカバーを入れてくれる。

 

「歩道橋ではしっかり歌えましたのに……」

 

歩道橋……?昨日の帰りに祥子ちゃんと何かあったんだろうな。

 

燈ちゃんが歌えるようになって嬉しいはずなのに、なぜか拳にほんの少しだけ力が入る。

 

「もっと気楽に歌える場所があればいいんだけど……」

 

俺がぼそりと呟くと、それを聞いたそよさんが何かを思いついたようにパンと手をたたいた。

 

「ならカラオケに行かない?」

 

―――

 

「ここがカラオケか~」

 

俺と祥子ちゃん、睦ちゃん、燈ちゃんの四人は店に入って呆然と立ち尽くしていた。

 

「みんなカラオケは初めて?」

 

そよさんが受付をする前に後ろを向いて、俺たちに聞いてきた。

 

「噂はかねがね。いつか来てみたいと思ってましたの」

 

「……家にあった」

 

「わたしも、来るの、初めて……」

 

「俺もなんだかんだ来るの初めてだな」

 

実家に住んでた時は睦ちゃんの言った通り家にあったし、中学に上がってからはそれどころじゃなかったし。

友達もいなかったし……ヒトカラするほど好きでもなかったからな。

 

「みんなドリンクだけ入れちゃお」

 

俺がドリンクバーに燈ちゃん、睦ちゃん、祥子ちゃんの三人を連れていくと、不思議そうな顔で機械を見つめていた。

 

人数分のコップを用意している間に燈ちゃんがボタンを押して、祥子ちゃんも興奮したようにドリンクバーに釘付けだ。

 

「遊ばないでくださ~い」

 

そよさんが受付を済ませて笑いながら歩いてきた。

 

……店でドリンクバー使っててよかった。

 

***

 

初めて入るカラオケの部屋はみんながいて、キラキラ輝いてた。

 

「いいですわよー!」

 

楽しそうにはしゃぐ祥ちゃん。

それを見て、結月君と睦ちゃんが口元を抑えて笑ってた。

 

「笑った!?」

 

「睦は結構笑うよ?」

 

そんな光景を見てたら、私も思わず口元が緩む。

 

「ふふふ」

 

気が付けば私も一緒になって笑ってて、温かかった。

 

「燈の笑顔可愛らしいですわね」

 

「あ、え……」

 

まだ、戸惑うこともあるけど、ここでならズレたままの自分も受け入れてもらえる気がして。

 

「ほら、燈ちゃん。あれなら俺も一緒に歌おうか?下手くそだけど」

 

隣に座った結月君からマイクをもらう。

 

「怖い、けど……頑張って、みる」

 

音楽が流れてきて、マイクを持つ手の力が強まって体が強張る。

 

「あ、え……じぶんはここ、にいない」

 

やっぱり、私にはできないのかな。

ちらりと結月君の方を見ると、目が合ってにっこりといつも通り笑ってくれた。

 

(そうだ、いつも通りで……いいんだ)

 

「みんなみたいに友達できたけど」

 

喉につまってたものがなくなったみたいで。胸の中にあった言葉があふれ出てくるみたいだった。

 

「人間になりたい」

 

―――

 

『すごい!めっちゃ上手いじゃん!』

 

結月君、自分のことみたいに喜んでくれた。祥ちゃんも睦ちゃんもそよちゃんも立希ちゃんもみんな温かくて……みんなとなら並んでいられる気がして。

 

今までずっと冬の中で、お日様に照らされて温まってただけ。でも、気が付いたらもう春で……外に出られるようになって。

 

私はノートを取り出して、思い切って結月君にメッセージを送る。

 

『歌詞ってどうやってかいたらいいかな』

 

すぐに既読の文字がつく。だけど、返信は中々返ってこない。

どれくらい、そうしていたか分からないけど、スマホの画面をずっと見ていたら、結月君からメッセージが返ってきた。

 

『うーん。詳しいことは俺も分からないけど、燈ちゃんが思ったこととか感じたことをそのまま書き出せばいいんじゃないかな』

 

ノートを見つめながら、今日あったことを思い出す。

 

温かくて、眩しくって……私はここにいてもいいんだって。

優しくて、綺麗で――楽しかった。

 

自分でも驚くくらいペンがすらすらと進んで、気がついたらノートがいっぱいになってて……

 

(歌の名前……)

 

***

 

「春日影は私たちの歌ですのね」

 

燈ちゃんのノートを読んだ祥子ちゃんは涙を流して、ハンカチでそれを拭った。

 

歌詞を読んだ時に、俺も思わず目頭が熱くなった。

 

(本当に泣けるもの、燈ちゃん見つけられたんだ)

 

「いい曲にしてよ」

 

立希ちゃんは優しい表情で燈ちゃんのことを見つめていた。

 

燈ちゃんの詩って凄いな……こうやってみんなに届いてる。

 

「ちゃんと伝わってきたよ」

 

妹の睦ちゃんと紬の違いにもろくに気づけない、そんな俺にも分かる想い。

燈ちゃんが本当に不安だったことも分からなかった俺にも分かる。そんな感情。

 

「……うん」

 

―――

 

ベースを後ろで弾いてるはずなのに、不思議と隣に燈ちゃんがいるみたいだった。

バンドメンバー全員で一緒に演奏しているんだって感じがする。

 

音もチグハグで、燈ちゃんはついこないだまで声も上手く出せなくて、歌を歌うどころじゃなかったのに……

 

(みんなの音が一つになっていくみたい)

 

最初はみんなバラバラだったのに、気がついたらあっという間に仲良くなって。

 

学校ではクラスのみんなと距離を感じるのに、CRYCHICをしてる時は、ありのままの自分でいられるみたいで。

 

***

 

兄さんと晩ごはんを食べて、自室のベッドに腰を下ろした。

 

立てかけられたギターケースを眺めて、今日の演奏練習を思い出す。

 

……CRYCHICでギター弾いてると、胸の奥で何かが引っかかる。

兄さんと音が合えば合うほど、どこかにぽっかりと穴が空いたみたい。

 

(それに、みんなの演奏は謳ってる)

 

私のギターは音を鳴らしているだけ。謳いたがってるのに、謳わせられない。

 

どうすればいいのか分からない。

……紬が持って行ったものが分かれば、少しはよくなるのかな。

 




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