二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
「……なんかさ、二人とも距離近くない?」
練習の休憩中に床に座って水を飲んでいると、ジト目で立希ちゃんが俺に視線を浴びせてくる。
「結月君も睦ちゃんも仲良し兄妹だね~」
そよさんは微笑ましいものを見るように笑っていた。
まあ、二人の言いたいことは分かる。
隣に顔を向けると、ギターを膝に乗せて、俺の肩に頭を預ける睦ちゃんがいるからだ。
「睦は結月さんのことが大好きですから。むしろ、最近は距離が離れていたくらいですのよ?」
祥子ちゃんの言葉を聞いて、立希ちゃんは俺と睦ちゃんを目を見開きながら交互に見つめる。
「睦が?結月を?え、結月が睦じゃなくって?」
ちょっとややこしいことになってきたな。
睦ちゃんも首を縦に振るのはやめなさい。そよさんが頬を赤らめながら口元を隠して俺たちを見てる。
「兄として!兄としてね?俺も妹として睦のことが大好きだよ」
直後、ひじあたりに引っ張られるような痛みを感じた。
視線を少しだけ逸らしながら、睦ちゃんが無言で俺のひじをつまんでくる。
「だけど、二人とも血はつながってないんだよね」
「結月君も、睦ちゃんも……ずっと仲良し」
俺たちが血が繋がっていないって言うのは特別隠していない。そよさんも立希ちゃんも最初は驚いてはいたけど、今では普通にこうやって口に出すくらいには受け入れてくれてる。
(それはそれとして、このタイミングで……)
「結月最低」
立希ちゃんの冷たい視線が痛い。
だけど、昨日の今日で急にこんな距離感で一緒に居られれば落ち着かないか。
睦ちゃんが俺を結月君と呼んだあの日から数日。
紬ほどじゃないけど、明らかに距離が近くなった。不器用ながらも少しでも側にいようとするみたいで……まるで、なにか焦ってるようにも見える。
***
きっと、この時間も長くは続かない。
元々、私から取り上げられた役……ううん、大切な気持ち。
ありのままでいられるCRYCHICのおかげで思い出せた。
「ライブ近いんだからシスコンもほどほどにしてよ」
ため息をついて、ジトっと結月君を見つめる瞳は最初と違ってやわらかい。
不器用で厳しくてストイックで……それでも、みんなの頑張りを見てる立希。
「結月君すごくベース上手いし、心配しなくても大丈夫だよ立希ちゃん」
指先を合わせて、楽しそうな笑顔は相変わらず温かい。
そよはいつも優しくて、CRYCHICを大切にしてくれてる。
「みんな、楽器上手くて、凄いと、思う」
ノートを片手に、ぐっと乗り出すような声には勇気がこもってた。
燈はいつも一生懸命で、頑張ってる。
「燈も歌がとても上手くなりましたわ」
そう言いながら、燈に水を渡す。
祥はみんなのことを引っ張ってまとめてくれてる。
「そうそう、今日までみんな練習してきたんだし。大丈夫大丈夫」
どこか冗談めかしているのに、不思議と納得してしまう。
結月君がいると場が和んで……みんな落ち着く。
まるで、元々ここがみんなの居場所だったみたいで、ありのままでいられる。
私が私のまま結月君のことを好きでいられる大切なバンド。
***
温かい。
祥ちゃんがいて、そよちゃんがいて、立希ちゃんがいて、睦ちゃんがいて……結月君がいる。
みんな音楽が上手で、私も……もっと頑張らないと。
ノートのページを1枚ぺらりとめくって、歌詞に目を通す。
春日影。
初めて自分で作った歌詞。
私の……私たちCRYCHICの曲。
ノートから顔をあげると、みんな笑顔で笑ってた。
学校だと顔を見ても分からないのに、ここだとなんだかわかる気がして……
「どうしたの燈ちゃん。なんかいい事でもあった?」
さっきまで睦ちゃんと座っていたはずなのに、気がついたら結月君が隣に座ってた。
「ど、どうして?」
「いやだって、笑ってたから」
そう言われてスタジオのガラスを見る。
「あ、えと。ほんとだ」
ぼーっと自分の笑顔を見つめてしまう。
……こんな顔、出来たんだ。
「二人で遊んでる時以外でも、最近はそうやって笑うよね」
結月君は体を伸ばしながら天井を見上げてた。
その横顔を見ていると……なんでだろう、胸の奥が少しずつ温かくなって、ちょっとだけ落ち着かない。
睦ちゃんの言う、好きって言うのは、まだよく分からない。
でも、結月君の隣にやっと立ってた。
そこは、とても居心地が良くて、みんながいて……これからも一緒に居られたらなって思う。
***
「ふぅ……今日の練習も疲れたな」
家に着いて、俺は倒れ込むようにソファーにダイブする。
もう少しみんなと練習していたかったけど、明日はバイトがある日だから早めに帰ってきた。
(結局みんなにはあそこでバイトしてるのバレずにすんだな)
練習の時はみんなで一緒だったおかげで、バイト中に鉢合わせしなかった。
体を振って勢いで起き上がる。
疲れた体でキッチンに向かってお湯を沸かしていると、インターホンが鳴る音が聞こえてきた。
「はいはーい」
ドタドタと玄関に向かって廊下を歩く。
扉を開けると、そこには祥子ちゃんのお父さん。清告さんがどこか力が抜けたように立っていた。
「……結月君。君にお願いがあるんだ」
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