二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
その雲行きはどのように変わっていくのでしょうか。
日曜日の昼間、俺たちは約束通り三人で集まって話し合いをしている。
「清告さんの様子はどうだった……?」
掃除をしてた時は、大量のビール缶に囲まれてた。
とてもじゃないけど普通の状態とは思えなかった。
「少しだけ目を合わせただけで、お酒を買いに外に行く程度で、それ以外は……」
俯むく祥子ちゃんは力が入って拳を握っていた。
「清告さんのことは今はどうにもならなそうだね……生活費とかは?」
「勝手に家に上がり込んでおいてお父様のお金を頼るわけにも、おじい様にも……」
清告さんにもある程度貯金はあるだろうけど、あの勢いでお酒を買っていったらどうなるかもわからないし、何より俺たちは来年高校生だ。
「生活費もあるし、CRYCHICの活動費とか、何より学費が……」
「……月ノ森の学費は高い」
睦ちゃんが言う通り、お嬢様学校なだけあって月ノ森の学費はかなり高い。中学生が一年頑張って働いて払えるような額じゃない。
「俺たちも、働いて生活費とか雑費とか色々払ってるけど、学費とか大きいお金とかは母さんに頼りっきりだよ」
その生活費だって、一部は母さんに支援してもらって余裕のある生活できてるわけだし。
「それじゃあ、わたくしはどうしたら……」
「月ノ森に学費免除制度とかないの?」
睦ちゃんの方を向くと、首を横にふった。
「となると、清告さんかお爺さんに支援してもらわないといけないわけだけど……」
チラリと祥子ちゃんの方を見ると、下唇を少し噛みながら「それは……」と呟いていた。
「だよねぇ。となると別の高校に進学することになるけど……それでもいいの?今後の人生に関わることだよ?」
祥子ちゃんは頭もいいし、色々あったとはいえ豊川グループの一人娘……下手なところに進学する訳にはいかないよな。
「羽丘がある」
そう言って、立ち上がった睦ちゃんは、自分の部屋に入っていくと、何かパンフレットを持って戻ってきた。
「ここなら特待生で学費免除もある。祥なら大丈夫」
羽丘女子か。祥子ちゃんの家からも無理なく通えるし、立派な進学校だったはず。
祥子ちゃんはパンフレットを手に取って、睦ちゃんに視線を向ける。
「ありがとう……でも、どうして睦が?」
そうだ、祥子ちゃんからすれば違和感のある話だ。睦ちゃんがわざわざ月ノ森以外の高校を調べる必要なんてないんだから。
……それに、俺も睦ちゃんがそんなことまで考えてるなんて思わなかった。
「ほら、俺とかは高校探しとかしてたし、睦ちゃんも試しに他の高校のこと知るのもいいかもよって話してたんだよね?」
そう言うと、睦ちゃんは一瞬固まってから、こくりと頷いた。
「羽丘……少し考える時間が欲しいですわ」
そりゃ、こんなことすぐに決められないよね。
とりあえず、学校のことはこれ以上話しても仕方ないか。
みんなで紅茶を一口飲む。一息いれてから、もう一度俺が話しを切り出した。
「次にお金のことだけど……自分の生活費を全額ってなると相当切り詰めなくちゃならないと思う」
俺たちの場合、俺の生活費は母さんが仕送りしてくれてるから、睦ちゃんの分だけ二人で稼げば回せてた。
最近じゃ少し余裕もあったからバンドにも参加できたわけだし。
「わたくし、頑張って働く覚悟ですわ!」
祥子ちゃんはそう意気込んでるけど、そう簡単な話じゃないんだよな……
これでも二人暮しを始めるって考えた時に色々調べたんだ。
「説明してなかったんだけど、中学生が1日に働ける時間と一週間に働ける時間が決まってるんだよ」
たしか、就学時間と合わせて一日7時間。週40時間までしか働けないんだったかな。
俺の場合は平日は二時間で土曜日は5時間働かせてもらってる。
日曜日も働くって言ったんだけど……今考えるとオーナーに無茶なお願いしてたな。
「大体稼げても月に7万円くらい。食費とか色々考えるとご飯は食べてバンドを続けるなら、余裕は持てないレベル。病院行ったりとか服買ったりとかあると厳しいよ」
俺が延々と語ると、祥子ちゃんは俯いて少し涙ぐんでいるようにも見える。
「もう少しどうにかなりませんの?」
「こればかりはどうにも……」
いくらやる気があっても制限がある以上どうにもできない。
「まずは働く先をどうにかしないと」
睦ちゃんもこくりと頷く。
「最低賃金にはなるけど、安牌は新聞配達とかかなぁ」
学校の時間とも被らないし、朝刊と夕刊で一時間ずつなら家事とかバンド活動にも影響は少ないだろうし。
「やはり、そこも条件が厳しいんですの……?」
「まぁ……俺たち中学生だからね」
spaceで働いてた時は色をつけてもらってたけど、Ringに移ってからはちょっと高いくらいだし。高校に入ったら時給上げてくれるって凛々子さん言ってたな。
「睦ちゃんと少しでも余裕のある生活したくて俺も頑張って探したけど、どこも門前払いだったよ」
おっと……昔のことを思い出してたら少し話しすぎちゃったな。
「とりあえず、バンド活動は休もう」
「それは……!皆さんにご迷惑を」
「――祥がいなくても、練習できる」
睦ちゃんの言葉に俺も祥子ちゃんも口を開いて驚いた。
少し言葉は尖ってるかもしれないけど、言ってることは正しい。
「祥子ちゃんのやる気も覚悟も分かってる。でもね、これから覚えなきゃいけないこともやらないことも今は山積みなんだよ。初めて仕事をして、家事なんかも覚えて、自炊とかもしないと食費も馬鹿にならない」
ちょっと強めに言うと、祥子ちゃんは視線を下に向けつつ「分かりました」と納得してくれた。
「まあ、いざって時は俺たちを頼ってよ。料理のこととかは睦ちゃん詳しいし、俺も何か力になれるかもだからさ」
「私も……応援してる」
「えぇ……えぇ。ありがとう」
最後は祥子ちゃんが顔を抑えながら涙を流していた。
―――
あれから1ヶ月くらいが経った。順調とは言わずとも、何とか祥子ちゃんも生活に慣れてきて、今日はついにバンド練習に参加するという連絡が入った。
「久しぶりにみんなで集まれるね燈ちゃん」
「うん……楽しみ」
燈ちゃんはノートを胸に抱き寄せ、嬉しそうに頬を緩めた。
みんなで練習の準備をしていると、ドアを開ける音がして、視線がそこに集中した。
「今日は言うことがあってきました……」
ずぶ濡れの祥子ちゃんが誰の目も見ずに、口を開く。
「CRYCHICを辞めさせていただきます」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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ミュータイプも盛り上がって、バンドリ二次創作も増えていくと嬉しいなと思う今日この頃です。