二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜   作:Tmouris_

36 / 45
CRYCHICが解散してみんなはどんな形を選んでいくのでしょうか。


第33話:形

あれから、睦ちゃんが戻ってくることはなかった。

CRYCHICの解散が相当堪えたんだと思う。

もちろん、俺だってまだ乗り切った訳じゃない。

できればCRYCHICを再結成出来たらって何度も何度も思った。

 

気まずくて練習に参加してなくても、そよさんからは毎日のように相談のメッセージが飛んでくる。

逆に立希ちゃんとはあれ以降全く連絡を取っていない。

紬はまだ練習していた空き教室に足を運んでいる。

祥子ちゃんもどうしているか分からない。

 

――だけど、燈ちゃんからはあの日からメッセージの数が増えた気がする。

 

CRYCHIC再結成のために何か力になれればいいけど……祥子ちゃんの事情に足を踏み込む勇気もなくて何も出来ずにいる。

 

ソファで横になりながらため息をついていると、スマホからメッセージが届いた音が鳴る。

 

『今日会えないかな』

 

ただ、その一文だけが燈ちゃんから送られてきた。

 

―――

 

久しぶりに燈ちゃんの家に来た気がする。

 

「ど、どうぞ」

 

家に上がろうとした時に、燈ちゃんがなぜだかいつもよりヨソヨソしく感じた。

 

部屋に入ると、机を広げて、座布団を敷いてくれた。

 

「飲み物、持ってくる」

 

そう言って、部屋を出ていく燈ちゃんを見ていると、初めて家に入れてもらった時のことを思い出す。

 

プレゼントで贈ったシーグラスも大切に飾ってくれていて嬉しい。

 

「お待たせ」

 

いつもみたいに、ホットのミルクティーを淹れてくれたみたいだ。

 

「いただきます」

 

紅茶を啜る音だけが部屋に響いて、二人とも同時にカップを机に置いた。

 

「……あの」

 

何かを言いかけたところで、息を飲んでもう一度ゆっくり燈ちゃんは口を開く。

 

「CRYCHIC、もう戻らないのかな……私が上手く歌えなかったから」

 

ライブが終わったあとにSNSで書き込まれた『ボーカル必死すぎ』の一文……自分のせいでバンドが終わったと思ってたんだ。

 

「戻れるか……俺にも分からない。でも、バンドが解散したのは燈ちゃんの歌のせいじゃないよ」

 

少し視線を落としつつも、燈ちゃんはこくりと頷いて、もう一口紅茶を口に運ぶ。

 

「祥ちゃん……もう、来ないのかな」

 

なんて言ったらいいんだろう。みんなに全部事情を話せば楽になるのは分かってる。

だけど、どうしてもそれを話す気にはなれなかった。

 

「そう、だね。祥子ちゃんは、戻って来れない、と思う」

 

胸が痛い。しょんぼりとする燈ちゃんに何もしてあげられない。

 

「みんな、離れていっちゃうのかな」

 

震える声で、燈ちゃんはゆっくりと顔を上げて俺の顔を見る。

 

「……結月くんも」

 

そう言うと、燈ちゃんは勢いよく立ち上がった。

 

その勢いに驚いて、俺もなにも言うことができずにいた。

 

「私、結月くんのことが好き」

 

「……はえ?」

 

情けない声が出て、唖然と口を開く。

 

え、告白?燈ちゃんが俺に?

それとも友達としての好き?

 

頭の中がぐるぐると回って考えがまとまらない。

 

「だから、付き合って、欲しい……」

 

「あ、えっと」

 

心臓がバクバクする。顔が茹で上がるみたいに暑い。

 

(燈ちゃんってこんなに可愛かったっけ)

 

付き合ってってことは恋愛的に好きって意味で。

 

なにか言おうと思ったら、一瞬睦ちゃんの顔がよぎった。

 

(そういえば、睦の好きには何も言えてないな……)

 

そんなことを考えていたら、燈ちゃんが俺の真横に座る。

 

「だから、一緒にいて……結月くんは離れていかないで」

 

今にも消えてしまいそうな掠れた声を聞いて、混乱した頭がすぐに覚めていった。

 

***

 

「みんな、バラバラになって……CRYCHIC、私のせいで」

 

ノートにペンをはしらせながら、部屋で一人ポツポツと声を漏らす。

 

(結月くんもいなくなっちゃうのかな)

 

そんなの、嫌だ。

ずっと一緒にいて、やっと隣に並べるようになったのに。

 

(どうすれば離れ離れにならずにいられるんだろう)

 

CRYCHIC、みんな仲が良くって……ずっとこのまま一緒にいられると思ってた。

結月くんもメッセージでやり取りはしてるけど……

 

ミルクティーを淹れながらそんなことを考えていたら、偶然テレビの画面が目に入った。

 

(これ、今やってる恋愛ドラマ)

 

結月くんと離れ離れになりたくない。

――でも、これならずっと一緒にいられるかもしれない。

 

***

 

「ごめん……今の燈ちゃんとは付き合えない」

 

胸が苦しくて顔を合わせずらい。

それでも、しっかりと燈ちゃんと向き合わないと……そう思って逸らした顔を前に向ける。

 

燈ちゃんの顔を合わせると、ポロポロと涙を流していた。

 

「……やだ」

 

「えっ?」

 

燈ちゃんは涙で顔を濡らしながら、俺の胸に飛び込んで抱きしめてきた。

 

「みんなバラバラになって……結月くんまでいなくなったら!私!」

 

一瞬だけ驚いたけど、俺は優しく燈ちゃんの頭の上に手をのせる。

 

「大丈夫。俺はどこにもいかないよ」

 

「だけどCRYCHIC!私のせいでダメになっちゃって」

 

そっか……あれだけ仲良かったCRYCHICが解散しちゃって、不安なんだ。

 

「あのね、燈ちゃん」

 

俺は燈ちゃんの肩を掴んで、お互いに視線をしっかりと合わせる。

 

「燈ちゃんはたまに変なことを言うし、何考えてるか分からないこともあるし、頑固だと思う」

 

「ぉあ、えっと。そう、なんだ」

 

人にこんなことを言うのは初めてで手が震える。

落ち込んでいく燈ちゃんの姿を見るのは心苦しい。

 

「でも、一緒にいる。小学生の時からずっと友達じゃん。そういうところを知った上で、俺は燈ちゃんと一緒にいたいから一緒にいるんだよ」

 

俺の勢いに押されてか少しずつ、呼吸も落ち着いてきた。

 

「じゃあ、なんでCRYCHIC、終わっちゃったの……」

 

……そう言われると難しい。

みんな一緒にいたかったし、解散したかったわけじゃない。それでもCRYCHICは解散した。俺でもずっと続いていくバンドなんだって思っていたのに。

 

「ごめん……言ってる俺にも分からない。今回みたいに痛いこともあるかもしれないし、すれ違うこともあると思う。それでも、今の俺は燈ちゃんの隣に居たいと思ってるよ」

 

絶対にいなくならないなんて保証なんてない。それでも、今伝えられる俺の精一杯の気持ちだ。

 

「それに、俺がダメダメで燈ちゃんに愛想つかされちゃうかもしれないしね〜」

 

少し茶化すように言うと、燈ちゃんはいつもみたいに微笑む。

 

「私は、結月くんの隣にいたい、から」

 

きっと、燈ちゃんに恋愛は分からないと思う。それでも、燈ちゃんにとって誰かと離れない形が恋人に見えたんだと思う。

 

「ありがとう。高校生になっても友達でいてね」

 

俺が握手のために手を差し出すと、少しだけその手を眺めてから燈ちゃんもその手を握った。

 




ここまで読んでくださりありがとうございます!
お気に入り登録、評価、感想非常に励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。