二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜   作:Tmouris_

37 / 39
中学生活を終えた結月たちはどのように進んで行くのでしょうか。


Mygo編
第34話:新しい風


あれから数ヶ月が経った。

 

「おはよう結月」

 

「おはよう」

 

あの日から変わらない日常。

ただ、今日だけは二人ともいつもより早く目が覚めた。

 

「朝から母さんが『今日から高校生なんだからしっかりね』だってさ。ただでさえ緊張してるんだから勘弁してほしいよね」

 

母さんとは今も連絡を定期的に取っている。それに、今日は驚くこともあった。

 

「あと、『睦ちゃんは元気?』だってさ」

 

なんだかんだ、中学の卒業式も乗り気ではなかったけど、俺に付き合って紬の卒業式にも参加してくれた。

 

「……そう」

 

紬は一瞬朝ごはんを食べる手を止めてから、少し複雑そうにポツリと返事をした。

 

まあ、母さんも睦もそう簡単に仲良し家族ってわけにはいかないよな。

 

「祥子ちゃんは月ノ森には来ないだろうね……」

 

そう言うと、紬はこくりと頷いた。

 

あれから俺は連絡を取ってはいないけど、紬は定期的に祥子ちゃんと連絡を取っているらしい。

 

「でも、そうなると……燈ちゃん大丈夫かなぁ」

 

きっと、燈ちゃんと祥子ちゃんは同じ高校だから、少し心配だ。

 

―――

 

学校が終わり、ついに正式に解禁されたバイトをするためにRiNGに向かうと、凛々子さんが嬉しそうに出迎えてくれた。

 

「これで、受付とかカフェとか表の作業も手伝って貰えるから助かるよ〜」

 

一応、中学生ということもあって、今まではあくまで裏方、表の作業は手伝っていなかった。

……と言っても、数ヶ月前から「結月くんもう少しで高校生だもんね」と言われてそっちの作業も仕込まれてたけど。

 

「大人が子供をそんなに頼らないでくださいよ」

 

「ここにいる子たちも、みんな結月くんのこと子供なんて思ってないよ。だってオーナーに直接仕事を叩き込まれた大ベテランだからね〜」

 

そんなことを冗談混じりに話して、いつも通り仕事に向かおうとすると、凛々子さんに呼び止められた。

 

「こらこら、一応結月くんは今日からバイトを始める新人さんなんだから、そこの部屋で待ってて。もう一人の子もそこにいるから」

 

そういえば、俺以外にも高校に入ってからすぐにバイトを始めたいって女の子が一人今日から入るって言ってたっけ。

 

一応ノックをしてから、ドアを開ける。

 

「椎名立希です!今日からよろしくお願いします」

 

「……まじか」

 

俺をスタッフと思い込んで……いやスタッフではあるんだけど。

 

「立希ちゃん、顔上げて」

 

俺がそう言うと、立希ちゃんは顔を上げて鳩が豆鉄砲でも食らったみたいに呆然としてた。

 

「え、は!?結月?なんでここにいるわけ?」

 

「なになに?二人とも知り合い?」

 

凛々子さんが俺の後から部屋に入って来て、嬉しそうに俺の顔を覗き込む。

 

「まあ、ちょっと色々と」

 

俺が立希ちゃんの方に視線を向けると、立希ちゃんは顔を逸らした。

 

「とりあえず、二人には自己紹介と新人研修を受けてもらうね」

 

あぁ、一応俺も新人研修を受けさせられるのか。

懐かしいな……オーナーに研修でこっぴどく怒られたのが。

 

―――

 

「立希ちゃん、コーヒー豆はそこにあるから。あと次は淹れ方教えるね」

 

「わ、わかった」

 

なんで凛々子さんがあんなに笑顔だったのかわかった気がする。新人研修を正式に受けさせるなんて建前で、俺に新人研修をやらせるなんて、全く。

 

「すいません、注文お願いしまーす」

 

「少々お待ちください」

 

こうやって、仕事をしつつ、立希ちゃんにカフェの仕事を教えている。

 

「二人ともそろそろ時間だよ〜」

 

おっと、もうそんな時間か。

立希ちゃんの事があったり初めての仕事だったりで時間が経つのが早かった。

 

休憩室で椅子に座り込んでいる立希ちゃんに、俺は缶コーヒーを差し出した。

 

「お疲れ様、初めてのバイト疲れたでしょ」

 

「……ありがと」

 

缶を開けてコーヒーを一口飲むと、俺の顔を見て口を開いた。

 

「いつから、働いてたの」

 

「……なんのことか」

 

「誤魔化さなくてもいい。あれだけ仕事できてれば嫌でも分かるから」

 

ぐぬぬ……凛々子さんが俺を教育係に置かなければ。

 

「中学校一年生の時から別のライブハウスで働いてて、最近RiNGに移って来たってわけ。凛々子さんはその時からの先輩」

 

「働きながらバンドしてたんだ……」

 

「まあね」

 

少しだけ気まずい。CRYCHICが解散してから立希ちゃんとは全く連絡を取っていなかったし。

そんなことを考えていると、立希ちゃんのカバンからはみ出しているDTMの教本が目に入った。

 

「DTM勉強し始めたんだ」

 

「……またバンド始まったら必要だと思って」

 

疲れているせいなのか、久しぶりで立希ちゃんも気まずいのか、いつもよりも素直な気がする。

 

「俺も勉強してみようかな」

 

すると、立希ちゃんは驚いたような表情で俺の顔を見た。

 

「新しくバンド始めるわけ?」

 

「いや、単純な好奇心。バンドは……俺のバンドはCRYCHICで終わったんだよ」

 

「……あっそ」

 

俺はどうしてもCRYCHICを忘れられなかった。バンドの解散を聞いて、バンドに勧誘してくれる人もいたけど、全部断ってきたし、これからも断るんだと思う。

 

「燈は……燈は元気にしてる?」

 

缶コーヒーをぎゅっと握りしめながら、立希ちゃんは体を屈める。

 

「元気にしてる……でも、ちょっとだけ心配だけどね」

 

「そっか、でも元気なら良かった」

 

その日の会話はそこで終わった。

どうせ明日からも顔を合わせるんだし、会話出来るようになっただけましだ。

 

―――

 

「ただいま」

 

「おかえり、バイトどうだった?」

 

家に帰ると、先にバイトが終わった紬が晩御飯の支度をしながら声をかけてくる。

 

「特別変わったことはなかったかな。紬は?」

 

「私も同じ。量が増えただけかな」

 

高校生になってバイトが解禁されたおかげで、働ける時間は伸びたけど無理に時間は伸ばしてない。

前よりは多い時間働いてるけど、特別お金に困っている訳じゃないから。

 

「立希ちゃんが新人でバイトに入ったよ」

 

そう言うと、紬ちゃんは手を止める。

 

「……どうだった?」

 

「元気そうだったよ。DTMの勉強を始めたりとか、仕事も頑張ってたし」

 

「そう」

 

会話を終えると、再び紬は手を動かし始めた。

 

俺はスマホを取り出して通知欄を見ると、燈ちゃんとそよさんからメッセージが飛んできてた。

 

そよさんは相変わらずCRYCHIC再結成を諦めずに動いているようで、紬や俺に祥子ちゃんのことを聞いてきたり、燈ちゃんのことを聞いてくる。

 

燈ちゃんの方は……やっぱりか。

 

『祥ちゃん、同じ学校だった』

 

『そっか、なにかあった?』

 

メッセージを返すとすぐに既読の文字が付いて返信がくる。

 

『目が合って驚いてたけど、何も無かった』

 

多分、燈ちゃんは祥子ちゃんのことを凄く気にしている。そして、それについて一回聞いてきたけど、一回俺が誤魔化してから深く聞いてこない。

 

『そっか……お互い高校生活楽しめるといいね』

 

『うん。ありがとう』

 

そこで、メッセージのやり取りを終える。

 

「結月、ご飯できた」

 

俺が席につくと、紬も俺の隣に座って二人で晩御飯を食べる。




ここまで読んでくださりありがとうございます。
お気に入り登録、感想、評価はとても励みになるので気に入ったらぜひお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。