二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
「立希ちゃんコーヒー入れるの大分上手くなってきたね。そろそろホールの練習とかもしてみる?」
「見てれば分かるでしょ、私は接客は苦手なの」
そりゃ立希ちゃんの性格を見てれば分かる。それでも、いつまでもコーヒーだけ淹れて貰う訳にはいかないし。
「いらっしゃい。って。まじか……」
見覚えのある顔が来店してきた。
まぁ、最近ここのカフェSNSでちょっとした話題になってたしな。
「立希ちゃんに……結月くん?」
そよさんを席に案内してから、じーっと視線を感じる。
CRYCHICを再結成したいそよさんにとっては立希ちゃんが同じライブハウスでバイトしているなんて教えて欲しい情報だっただろうし。
「それじゃあ、いつものをお願いできるかな」
「アールグレイのホットを一つですね少々お待ちください」
「へぇ、覚えてくれてたんだ」
ちょっとしっとりとしたそよさんの声が妙にチクチクと刺さる。
「これでもCRYCHICのことは大事に思ってた」
俺がアールグレイを淹れている間にそよさんと立希ちゃんで何やら話をしているようだった。
「お待たせしました。アールグレイのホットです」
「ねぇ、結月くん。私たちでもう一回CRYCHICやれないかな」
この三人が揃ったらこの話題になるよな。
「俺だって出来るもんならやりたいけど、もう無理だよ」
「そうそう、祥子があんなだから」
事情を知らない立希ちゃんの言葉は鋭いけど、その通りでもある。
リーダーであった祥子ちゃんがCRYCHICをやる気がないのだから再結成は難しい。
「そうだよね。みんなバラバラになっちゃって。でも、こうやって三人集まったんだからいつかきっと集まれる日も来るんじゃないかな」
そよさんの気持ちは分かるけど、俺も立希ちゃんもCRYCHICが再結成出来るとはやっぱり思えなかった。
「結月くーん!ちょっと助けてー!」
「はい!今行きます!てかそれ本当にちょっとなんですか香澄先輩!」
結局ちょっとしたことじゃなくてヘルプに時間がかかって、戻った時にはそよさんは店には居なかった。
「立希ちゃんはどう思う」
「CRYCHICはもう戻らないと思う」
バッサリとそう言ってから、一呼吸置いて。
「それでも、燈の歌はみんなに聞いてもらうべきだと思う」
燈ちゃんの歌声は心に響くものがある。俺もバンドでまた燈ちゃんには歌って欲しい……けど。
「俺には何も出来ないな」
そうボソリと呟いた。
***
いつぶりだろう、誰かとカラオケに来るの。
「クーポン使えますか?」
一緒に来たのは千早愛音ちゃん。
『これ、どうやって使いますの?』
視界の端に映り込むドリンクバーを見て、CRYCHICのみんなで初めてカラオケに行った日のことを思い出す。
「sumimi歌える?私、初華やるから、燈ちゃんまな歌える?」
sumimi……最近流行ってるアイドルグループ。
「知ってる……けど、歌うの得意じゃない。それに、私が歌うとまたダメになっちゃうから」
「またダメになるってなに?前のバンド結構もめちゃったの?」
愛音ちゃんはパットを弄りながら、目を合わせることなく質問をふってくる。
「多分……私のせい」
「そっかーそれは辛いなー」
どうすれば良かったのか今でも分からない。
「でもさ、またダメにならないように頑張れば良くない?もう一回やり直せると思わないと。バンドはやって欲しい、なんて?」
もう一回やり直す……CRYCHICじゃないバンドでもう一回。
「じゃあ、一生、バンドしてくれる?」
カラオケの音楽だけが部屋に鳴り響いて、愛音ちゃんは困ったように笑ってた。
それに耐えられなくて、私はカバンを持ってそのまま部屋から駆け出した。
カラオケから飛び出して少ししたところで後ろから腕を掴まれて足を止める。
「ごめん!笑ったりして」
そう、じゃない。
「変なこと言ったのは、私だから。バンド誘ってくれてありがとう」
***
RiNGを閉める準備をしていると、偶然燈ちゃんと、どこかで見かけたことのある女の子が何か言い争ってるように見えた。
俺が事情を聞こうと立ち上がろうとしたら、立希ちゃんが真っ先に駆け出して、二人の間に立ち塞がった。
俺が着いた時には、立希ちゃんとピンク髪の女の子……あぁ、千早愛音さんだ。中学生の時に一回会った。でも、たしかどっか留学したとかなんとか聞いてたけど。
そんなことを考えていると、二人の言い争いを見ていた燈ちゃんが駆け出して逃げだしてしまった。
「燈!」
「待って!」
立希ちゃんは千早さんに腕を掴まれて動けない様子。
「あっちは任せて!」
立希ちゃんの代わりに俺は燈ちゃんの後を追いかけた。
少し先で膝に手をついて息を切らしている燈ちゃんに追いついて、声をかける。
「どうしたの燈ちゃん。何かあった?」
「なんでも、ない……」
***
あの後、結月くんは何も聞かずに急いでバイトに戻って行ってくれた。
私は布団に入りながら今日のことを思い出す。
「一生一緒にいるって無理、なのかな」
離れ離れになるのはもう嫌で、だったら、一生一緒にいるしかなくて。
……どうしたらいいんだろう。
***
「ああ!疲れた!」
「結月どうかしたの」
俺がソファに座り込むとその隣に紬がちょこんと腰を下ろした。
「立希ちゃんとは同じ職場になるし、そよさんにバイト先はバレるし、燈ちゃんは千早さんとなんかあったっぽいし。考えることが多すぎるよ!」
俺はヤケクソまじりにそう叫ぶ。
「紬にも迷惑かけちゃうかもしれないけどごめんね。そよさんが色々知っちゃったから」
「……大丈夫」
俺はメッセージだけだからいくらでも逃げ道はあるけど、紬は同じ学校に通ってる以上、どうしても逃げられない場面があるかもしれない。
***
「睦ちゃん」
「……そよ」
学校にいると、こうやってそよに声をかけられる。
「昨日は立希ちゃんに会えなくって、今日も行くんだけど睦ちゃんも一緒に来ない?」
「今日はバレエの日だから」
そよはCRYCHICを再結成しようと必死に頑張ってる。私も、応援はしたい……けど、祥はそれを望んでない。
「祥ちゃんからは何か連絡あった?もしよければ住所教えてくれれば私が直接会いに行こうかな」
だからこそ胸が痛む。
「……聞いてみる」
***
今日はカフェの受付の仕事をしていると、想定外のお客さんが来客してきた。
(なんでそよさんと千早さんが一緒に?)
楽奈ちゃんのオープンマイクの準備をしつつ、入口の方をチラリと見る。
ちょうどスタッフが出払ってる。
「ごめん!立希ちゃんホールお願い」
準備が終わって、楽奈ちゃんがギターを弾き始める。
一時期触ってないとは思えないほどのテクニックだ。
楽奈ちゃんが弾き終わると同時くらいに、客席の方からガチャンと強い音が聞こえてきた。
「立希ちゃーん。接客態度!」
「ッチ」
「ほら、舌打ちしない」
軽くおでこをチョップすると、軽く睨まれた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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Mygo本編に入って想像以上に原作ダイジェストみたいになってしまう回があると思いますがお付き合いして貰えると幸いです。