二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
私……バンドしたいのかな。
学校の机の上に並べた絆創膏を整理しながら、愛音ちゃんにバンドを誘われたことを思い出す。
「燈ちゃん、おはよう!」
愛音ちゃんは笑っていて、どこか機嫌が良さそうに見えた。
「この前はごめんね。強引にバンド誘っちゃって」
嫌ではなかった、と思う。でも、どうしたらいいのか分からなくて。また、私がバンドをダメにしちゃう気がして。
「もう誘わないし、安心して」
「……えっ」
自分で断ったはずなのに、その言葉が妙に胸に突き刺さった。
***
祥にそよのことでメッセージを送ったけど、返信が来ない。
いつもなら、遅くても毎回返信してくれるのに。
――やっぱり、睦ちゃんじゃないとダメなのかな。
どうしたらいいか分からなくて、直接校門の前で待っていることにした。
少しの間待っていると、祥が来たけど、私のことを無視してそのまま横を通り過ぎた。
私は、そのあとを追って歩み始めた。
あとを追うと、着いたのは羽沢珈琲店だった。
……みんなが初めて集まった場所。
「どうして勝手に来たんですの?」
「返事なかったから。結月にも頼れなくて。そよが心配してた。家に行きたいって」
そう言うと、祥は肩をピクリと動かして反応した。
「引っ越したとでも言っておいてくださる?」
そう言っても、きっとそよは結月の方に聞きに行く。
結月に迷惑、かけたくない。
視線を下に向けて、頼んだマンゴージュースを一口ストローで啜る。
すると、祥はため息をついて立ち上がった。
「睦にそんな芸当できませんわね」
祥は伝票を手に、去り際こちらを振り向いた。
「睦、伝書鳩になってはいけませんわ」
分かってる……でも、自分でもどうしたらいいのか、どうしたいのかなんて、分からない。
***
今日もカフェではそよさんと千早さんが何やら話し込んでいる。
「こちら、ダージリンになります」
カップを置くタイミングで、そよさんが「ベースとドラムには心当たりがあるんだよね」と俺と立希ちゃんに視線を飛ばす。
「なに?」
その視線に気がついた立希ちゃんは、すぐさま不快そうに反応を返す。
「愛音ちゃんとバンドするんだけど、立希ちゃんと結月君もやらない?」
そよさんが俺たちを勧誘すると、千早さんはドンと机を叩いた。
「えっ!そよさんこの人いらないんでって……結月くん!?なんで声掛けてくれなかったの!?」
やっぱり、気がついてないよね。俺は千早さんと違ってSNSとかに写真上げたりしないし。
「私はやらない」
「俺もパス。それにベースはそよさんで足りてるでしょ」
立希ちゃんが何を考えて断ったかは分からないけど、俺は未だにCRYCHICのことが忘れられてないし、新しくバンドに入ろうっていう気持ちもない。
「燈ちゃんも一緒にやるって言ったらどうする?」
……どうしてそこで燈ちゃんの名前が。
「燈がやるわけない」
「どうして?」
「燈は傷ついてる」
二人は顔を下に向けた。
「……みんな傷ついてるよ」
俺と立希ちゃんは作業に戻った。
「立希ちゃんはなんでバンドの誘い断ったの?」
「別にいいでしょ」
燈ちゃんは……バンドのことどう思ってるんだろう。
***
プラネタリウムを見終わってスマホを開くと、そよちゃんから『愛音ちゃんが会いたいって』ってメッセージが入ってた。
集合場所に行くと、愛音ちゃんが階段に座って待ってた。
「そよさんから聞いたよ、CRYCHICのこと」
CRYCHICのこと……そよちゃん、なんて言ってたんだろう。
「本当はバンドやりたいんじゃないの?」
分からない。でも、愛音ちゃんにバンド誘われた時嬉しかった。
また、前みたいに居場所が出来るのかなって。
――でも、同じくらい怖かった。
また自分がみんなの居場所を壊しちゃうんじゃないかって。みんな離れ離れになっちゃうんじゃないかって。
「私のせいだから……CRYCHIC解散したの」
「別に燈ちゃんのせいじゃないと思うけど。むしろ、勝手に辞めた子のほうが悪くない?」
愛音ちゃんが話していると、そよちゃんがこっちに歩いてきた。
「祥ちゃんも悪くない。誰も悪くないんだよ」
そう言いながら、そよちゃんは私のよ横に座った。
「誰も悪くないなら……なんで解散したの」
二人の顔も見ないで、私はカバンを抱えながら駆け出してしまった。
―――
祥ちゃんはなんでCRYCHIC辞めちゃったんだろう。どうして、みんなバラバラになっちゃったんだろう。
天文部の部室で春日影の歌詞を眺めながら、そんなことを考えていたら、ドアが開く音が聞こえた。
「きのうさ」
愛音ちゃんが急に入ってきたのに驚いて、立ち上がった時にノートも地面に落としちゃった。
だけど、愛音ちゃんと目を合わせられなくて拾えずにいた。
そしたら、愛音ちゃんがノートを拾ってくれて私の目をじっと見つめた。
「言いたいことは言ったほうがいいよ」
***
「失礼します。結月くんいますか」
「一応ここ関係者以外立ち入り禁止なんだけど……千早さん」
「お前なんなの本当」
休憩室で休んでいたら、千早さんが突然部屋に押し入ってきた。
「ほら、二人とも来て」
千早さんは在庫の整理をしている立希ちゃんの
腕を引っ張ると部屋の外に無理やり連れ出して行った。
……バイト中なんだけどなぁ。
「本当なんなの!」
「だって、これ解決しないと燈ちゃんバンド出来ないじゃん」
千早さんのあとを追って表に出ると、燈ちゃんにそよさんの二人が居た。
「はい。話し合って」
「「「「え?」」」」」
話を整理すると、千早さんが燈ちゃんとそよさんを連れてきて話し合って欲しいとのこと。
そよさんは少し何か考えてから、千早さんにお礼を言うと、燈ちゃんにもお礼を言った。
「どうしてCRYCHICが解散したのって言ってたよね。あれから燈ちゃんも来なくなって、少しづつみんな集まらなくなって」
「祥子のせいでしょ、いきなり辞めるとか言うから」
「なにか理由があるんだと思う」
そう言いながら、そよさんは俺に視線を飛ばしてきたが、咄嗟に俺は視線を逸らした。
「私がライブ上手く歌えなかったから、だから、祥ちゃん来なくなった」
「燈ちゃんそんな風に思ってたんだ。でも、私、燈ちゃんにバンド嫌いになって欲しくない。立希ちゃんも結月くんもそう思うよね」
それに関しては同感だ。燈ちゃんの歌ってる姿は生き生きしてて輝いてた。出来ればバンドを続けて欲しいと思ってる。
「ほら、聞かれてるよ立希ちゃん」
「結月、他人事だと思って」
他人事ではないんだけど……CRYCHICのことに関してはあまり何も言えない。
「立希ちゃん、燈ちゃんが練習に来るのずっと待ってたんだよ」
睦ちゃんに話では聞いてたけど、立希ちゃんって健気なところあるな。
俺は真っ先に練習に行けなくなって話でしか聞いてないけど。
「怒ってないの?」
「怒るわけない!」
そっか……燈ちゃんそんなこと考えてたんだ。
自分のせいでバンドがダメになってみんな怒ってる、責められてるって……
「私は喧嘩より、燈が練習に来ないことの方が応えたから」
「やっぱり、私のせい……」
燈ちゃんは視線を落として、気まずい雰囲気が流れる。
「千早さん、実はそんなことなくて、立希ちゃんは燈ちゃんのこと大好きなんだよ」
「ふ〜ん」
「お前ら!」
立希ちゃんに本気で睨みつけられてちょっとだけびびった。
「ねえ、私たちもう一回やり直せないかな。私と燈ちゃんと立希ちゃんと結月君と」
そう言って、そよさんは俺たちのことを見回した。
「誤解してすれ違っちゃったけど、やっと分かり合えたんだよ。なのに……このまま離れ離れなんて寂しすぎるよ!また一緒にやってみよ」
「……一緒に」
みんなの視線が燈ちゃんに集まる。
「あの〜私は?」
若干空気になっていた愛音ちゃんが口を挟むと、燈ちゃんは嬉しそうに笑った。
「うん。愛音ちゃんも。一生やろう」
燈ちゃんの声は大きくはなかったけど、一生という言葉が今までで一番力強く感じた。
「私も燈となら一生やってもいい」
「私も誓うね」
やばい……俺はやらないよって非常に言い出しにく。
「ちょちょっと、一生だよ一生!平均寿命知ってる?」
ここで、悩むあたり俺的には千早さんの好感度は高いかも。
なんか、ちゃんと考えてるって感じがするし。
……ただ重いのが苦手なだけかもしれないけど。
「無理はしなくていいよ?」
「じゃあ、俺はやっぱりパスで」
改めて俺はバンドの誘いを断った。
燈ちゃんが落ち込んでると思って顔を向ける。
「うん、分かった」
意外にも二つ返事で納得してくれた。
その後は、千早さんの一生に対する対抗で燈ちゃんが落ち込んだり、忙しい一日になった。
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