二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
「たきってどうやって書くの?」
「……ふん」
「立つに希望で立希だよ」
俺が即座に教えると、立希ちゃんは飲んでいた水でのぼせてしまった。
睨まれたけど、自然と視線を逸らした。
「りっきーじゃん」
「こいつ!まじでムカつくんだけど!」
流石に怒り奮闘の立希ちゃんは美しい台パンを決めて立ち上がった。
流石の音に燈ちゃんもちょっと驚いてる。
「まじで仕切りすぎ」
立希ちゃんはそう言うけど、愛音ちゃんのこういう自己主張の激しいところは嫌いじゃない。
「りっきー苗字なに?」
「りっきーって誰?」
「りっきーはりっきーじゃんそれより苗字」
「椎名だよ」
俺がそういうと、また台パンに加えて睨みつけをくらった。
「ていうかさ、なんでバンドメンバーじゃない結月がここにいるわけ?」
「成り行きというかなんというか……そよさんと燈ちゃんに呼ばれたから」
バンドメンバーになったわけじゃないけど、このメンバーのやり取りを見ているとなんだかほっこりしてくる。
燈ちゃんの方を見ると、口元が緩んで微笑んでる。
―――
「結局なにも決まってないんだけど……」
「まぁまぁ、まだ始まったばっかりなんだし」
「結月は一体誰視点なの……」
燈ちゃんを送ろうと一緒の方に足を進めると、燈ちゃんは足を翻して、愛音ちゃんの方に向かった。
「ありがとう。また、戻れると思わなかった」
俺と立希ちゃんと燈ちゃんの三人で歩道橋に立つ。
「結月はバンド戻る気ないわけ?」
「何言ってるのさ。みんな戻ったんじゃない。始まったんじゃん」
CRYCHICじゃない新しいバンド。
「それじゃあ」
「俺は、もうちょっと燈ちゃんと話があるから」
「えっちょ」
手をこっちに伸ばして困惑している立希ちゃんを尻目に、歩道橋を渡った。
「俺さ、バンド入るの断った時に燈ちゃんが落ち込んでると思ってたんだよね」
離れ離れになりたくない、一緒にいたいって気持ちが強いって思ってた。
「形がなくても……結月くんは一緒にいてくれるって分かってるから」
その時の燈ちゃんの顔は、街頭に照らされてとても綺麗だった。
―――
「……まじか」
愛音ちゃんのギターの演奏……コード弾きに俺と立希ちゃんは頭を抱えていた。
「とりあえず、できそうな曲探してみようか」
「春日影でいいじゃん」
立希ちゃんの発言に、俺たち元CRYCHIC組はハッと息を飲んだ。
「私一回しか聞いてないんだけど」
「でも……」
そよさんは何か考えるように指を口に当てていた。
「なに、あいつに遠慮してるの?」
「俺は反対だけど。あれはCRYCHICの曲だから」
でも、燈ちゃんの歌える曲が春日影しかない。俺自身バンドメンバーじゃないからこれ以上はどうこう言えない……
そんな話をしていると、スタジオのドアを開ける音がして楽奈ちゃんが部屋に入ってきた。
「ちょちょっと待って。誰か呼んだ?」
愛音ちゃんも唐突な野良猫の来訪に困惑している様子。
こっちが困惑している中で、着々と楽奈ちゃんは演奏の準備を始めた。
「やらないの?」
「やらないのって……なにを?」
「バンド」
そう答えると、春日影のフレーズを弾き始めた。もしかして、一回譜面見ただけで弾けたのか……流石だな。
―――
「それで楽奈ちゃんバンドやるってどういうこと?」
「バンドやる」
抹茶パフェを食べながら、ただそれだけ言う楽奈ちゃん。
「バンド、入りたいの?」
「やる」
「なんで?」
まぁ、たしかに。ずっとキラキラしたバンドを探していた楽奈ちゃんが急にバンドに入るなんて言い出すとは。
「それだけ上手ければ他のバンドとかにも誘われてそうだけど」
そよさんの言う通りだ。
楽奈ちゃんの腕は半端じゃない。睦ちゃんとはまた違った魅力があって、色々なバンドから引っ張りだこであった。
でも、いまだにバンドに入ったことは一度もない。
「つまんねー女ばっかだった」
そう言うと、パフェを一口食べて、燈ちゃんの方を振り向いた。
じっと見られる視線に燈ちゃんは怯えて、守るように立希ちゃんが前に出た。
「なに?」
「おもしれー女」
そんな話をしていると、愛音ちゃんが急に「私用事あるから」とRiNGを飛び出した。
「バンド終わり?」
楽奈ちゃんもそのまま帰っちゃったし。
―――
「春日影、変わっちゃったね」
「祥子に遠慮する必要ないから。私燈とバンドできて嬉しいんだ。燈の歌忘れられなかったから」
そう言い残して、立希ちゃんは帰って行った。
「燈ちゃんは変わっていくのどう思う?」
メンバーも変わって、環境も変わって。燈ちゃんはどう思ってるんだろう。
「分からない……綺麗だったのに、形が変わって別の物になって。でも、それも綺麗で」
そっか、燈ちゃんは前に進んでるんだ。
「じゃあ、またね」
―――
「あとはここなんですけど、バンドが一つキャンセルになっちゃって」
「声かけられる子にはかけたんですけど」
RiNGのミーティングでスケジュール管理をしていると、どうしても一バンド分空いてしまう。
ライブに出てくれそうなバンドか……
「そうだ、立希ちゃん出てよ」
「……え?」
―――
「Afterglowさんの主催ライブなんてすごいじゃない立希ちゃん」
「結月に押し付けられたんだけどね」
いつも通り立希ちゃんに睨まれるけど、俺は視線を逸らす。
「でも、私たち全然練習してなくない!?」
「練習なら俺が見るよ。ベースがメインだけどギターの基本くらいは出来るから」
「でっでも……」
あぁ、なんとなく愛音ちゃんのことが分かって来た気がするかもしれない。
「持ち時間は十分だから出来て一、二曲。でも、初ライブだから一曲に集中させた方がいいと俺は思うな」
「それに関しては結月に同意」
「燈はライブどう思う?」
燈ちゃんは一瞬下を向いてから、愛音ちゃんの方を見る。
「うん」
***
「ライブ……やりたくない」
ライブ終わったら……愛音ちゃん居なくなっちゃう。
「燈ちゃんどうして」
「ライブしたら……バンド終わっちゃうから」
そっか、愛音ちゃんの言ってた最低目標とりあえずライブを覚えてたから……
***
「燈ちゃん、本当にショックだったんだねCRYCHICのこと」
燈ちゃんは恐れてる。また、みんながバラバラになっちゃうんじゃないかって。
「ライブやめよっか……」
「私はライブがしたい。燈の歌を聞いた時私のことだと思った。こんな私でも生きてていいんだって」
「立希ちゃんの気持ち伝えるべきだと俺は思う。きっと分かってくれるから」
そういうと覚悟を決めた目で街を見渡す。
「もう二度と燈に寂しい思いさせたくない」
***
「みんな集まってくれてありがとう。でも、このままじゃまたダメになっちゃうから」
燈ちゃんは苦しそうに顔を落とした。
「私はライブをするべきだと思う。バラバラな私たちが前に進むには目標が必要なんだと思う」
これに関しては立希ちゃんの言う通りだと思う。
「燈ちゃんライブ嫌だって言ってるじゃん!今回は急すぎるし」
「ちょっと待ってくれるかな。燈ちゃんがライブが嫌なのはバンドがなくなっちゃうかもって心配だから」
これを言うべきかどうか悩んだ。きっと愛音ちゃんを傷つけることになる。
「それは逃げだよ。ギターから逃げてる。頑張った結果ダメだったなら誰も文句言わないよ」
「結月の言う通り、やる気見せるのはバンド名とか衣装とか、お前こそライブ決めないと絶対に逃げる」
「逃げてない!」
そう言って、立ち上がってどこかに走り去ってしまった。
(いや、逃げとるやんけって言うのは……)
言いすぎたかと落ち込む立希ちゃんの横に座った。
「いずれ誰かが言わなきゃ行けなかったことだから」
あとは燈ちゃんに任せよう。
***
「さっきさ、りっきーが言ってること当たってるんだよね」
「えっ」
「私海外留学行ってたんだけど失敗しちゃったんだよね」
ペンギンを見上げてた顔を下げて、ガラスに手を着いた。
「逃げてばっかの人生だよ。やり直そうと思ったけど、私おわったなぁ」
「終わってない!愛音ちゃんは頑張ればいいって言ってくれて」
そうだ、伝えよう。言葉で。
「愛音ちゃんは進んでる。行き止まりになっても道を探して。私のことも引っ張ってバンドやってくれて……私も!迷ってても進みたい!」
「迷子かぁ。じゃあ一緒に進む迷子のままで私たち」
―――
「あの、」
言葉に言い淀むと、愛音ちゃんが手を握ってくれて、なんだか勇気を貰えた気がする。
「私たち!ライブする」
やばい、原作が完成されすぎてるせいでダイジェストになりかけてる。
何とかしたいとは思ってるので何とかしたいと思います。
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