二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
みんな、またバラバラになっちゃった。
もう、こんな思いはしたくなかった。
――バンドなんてしなければよかった。
『燈はそよがいいの!?こいつらがいいの!?』
何度も響くように頭の中で繰り返される。
立希ちゃんのあんな声……初めて聞いて、胸がズキっとした。
机の上に開かれたノートに頬をつけて突っ伏していると、チャイムの音が聞こえて来た。
「こんにちは。燈ちゃん」
玄関を開けると、結月くんが心配そうに顔を覗かせた。
「あ、どうして……」
「そりゃ、何日も既読スルーされたら心配もするよ」
メッセージ返さないとって思っても気力が出なくて返せずにいたんだっけ。
「入っても大丈夫?」
「……うん」
結月くんを部屋に案内して、二人で座布団に座る。
「それで?バンドで何があったの?立希ちゃんは話をふっても話を逸らすし」
私は結月くんの目を見られずに、下を向いたまま話し始めた。
「そよちゃんが、CRYCHICのためにバンド利用してたって……そしたら、愛音ちゃんもいなくなっちゃって。みんな……ばらばらになっちゃって」
ちゃんと説明できた自信なんてなかった。でも、結月くんは静かに私の話を聞いてくれた。
「一生バンドやるって約束したのに……そよちゃんか、愛音ちゃんか、楽奈ちゃんなんて選べなくて」
「何かをするって凄い難しいことだよね。考えたり、選んだり、傷つくこともある」
傷つく……そうだ、私が何かしようとすると、みんなを傷つけて、自分も傷ついて。
「だから、ずっと一緒にいるためにはさ、お互い傷つけあって、寄り添いあって……そういう温かいことだけじゃないんだと思う」
一緒にいるなら……お互いに、傷つけあう……じゃあどうしたら。
『俺は燈ちゃんと一緒にいたいから一緒にいるんだよ』
――そっか、お互いに話して、傷ついて……それでも一緒にいたいから頑張るんだ。
「燈ちゃんはどうしたい?」
私は……私は。
「みんなと、一緒にバンドしたい!そよちゃんも愛音ちゃんも楽奈ちゃんもみんなとバンドしたい!」
「じゃあさ、誰かを傷つけるかもしれない、俺らが傷つくかもしれないけど……もうちょい頑張ってみようよ」
私は力強く頷いた。きっと、まだ出来ることがあるから。
***
俺はバンドメンバーじゃないし、余計なお世話かもしれない。だけど、友達が頑張ろうとしてるんだから、できる限りのことをしよう。
今回は何も遠慮することはないんだから。
正直、燈ちゃんがやる気になった今、あんまり心配はしていない。
そよさんは……優しい人だから。
「結月くん。急にメッセージくれたけどどうしたの?」
羽沢珈琲で愛音ちゃんを待っていると、いつも通り明るく挨拶をしてくる。
「バンドのこと聞いたよ。今やばいんだって?」
「あー」
早速話題に入ると、愛音ちゃんは気まずそうに視線を逸らした。
「話聞いたんだ」
「燈ちゃんから大体のことは聞いたよ」
「じゃあ、知ってるでしょ私いらないんだって」
そう言いながら愛音ちゃんは自分の指を撫でる。
「燈ちゃんが愛音ちゃん誘ったら断られちゃったって悩んでたよ」
もうやる気ないんだって、今日会うまでは思ってたけど、全くそんなことないじゃん。
「私、そんな本気でバンドしてたわけじゃないし。あっちはあっちでやれば――」
俺はそれを遮るように愛音ちゃんの手を握った。
「そんなの嘘。だったら、こんなになるまでギターの練習しないでしょ」
指には絆創膏が貼ってあって、指の皮も固くなって……練習してなきゃこんな風にはならない。
「こんなの、気分だよ気分。まだバンドやるかもしれないし」
そんな軽いモチベーションでそんな練習は出来ない。
必死に練習をしてたから分かる。
「じゃあ、それでもいいよ。愛音ちゃんがなんで意地になってるか分からないけど。ギターの練習手伝ってあげるよ」
「結月くんって優しいと思ったけど、結構意地悪なんだね」
「いいや、今回はやりたいことをやってるだけだよ」
愛音ちゃんが張ってる意地がいつなくなるか分からないけど、次のライブの時にきっと役に経つ。
―――
「え?ライブ?」
RiNGで受付をしてたら、燈ちゃんが一人でライブの予約をしに来た。
いつもの歌詞のノートを手に持って。
「やる気なんだね」
燈ちゃんの目を見ると、こくりと頷いた。
「凛々子さん、スケジュールでソロ入れられるタイミングありますかね」
―――
「え、燈が?」
俺がライブのことを話すと、コーヒーを淹れる手が来るってお湯を零していた。
「結月なんで止めなかったわけ!?」
胸ぐらを掴むくらいの勢いで距離を詰められる。
「それが燈ちゃんのしたいことだし、俺もそうすればいいと思ったから」
そう言い返すと、舌打ちしながら作業に戻った。
「行かなくてもいいの?」
「……どんな顔して会えばいいんだよ」
―――
「楽奈ちゃんやっぱりここにいた」
Spaceのあった夜の駐車場で猫集会を開いてる、楽奈ちゃんを見つけた。
「バンド、やらないの?」
「バラバラで、つまんなくなった」
俺は楽奈ちゃんの横に座って猫を撫で回す。
「それならさ、めっちゃ面白い女の子がライブやるけど?」
スケジュールに高松燈って書いてあるのを見て、ピクリと肩を動かした。
「じゃ、俺は帰るから」
「やっぱり、おもしれーやつ」
―――
「疲れた……」
紬が淹れてくれた紅茶を口に運びながら椅子にもたれ掛かる。
「終わったの?」
「やれることはやったかな。これで元に戻らないなら仕方ない」
でも、きっと大丈夫。燈ちゃんの声はみんなに届くと思う。
だって、燈ちゃんの歌は心の叫びだから。
「紬も大変だったでしょ。そよさんのこと」
「……うん」
俺の隣に座った紬は肩に頭を預けた。
「俺も……久しぶりの演奏気合い入れないとな」
―――
「緊張してる?」
「結月くんと二人のライブ……楽しみ」
顔を強ばらせながらも口角を上げて俺に微笑みかけてくれた。
ライブが始まって、燈ちゃんのポエムリーディングが会場に響き渡る。
俺は、軽いメロディを流しつつ、燈ちゃんの邪魔をしないように演奏をした。
燈ちゃんの気持ちが伝わってくる。
どうしたらいいのか分からない。だけど、一緒にいて欲しい。この気持ちが届いて欲しいって。
ライブが終わって控え室にいくと、楽奈ちゃんが抹茶コロネを食べながら座ってた。
「ね?言ったでしょ?」
俺が楽奈ちゃんの正面に座ると、嬉しそうに笑う。
「おもしれー女の子」
「じゃあ、あとはよろしくね」
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