二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜   作:Tmouris_

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第40話:見守りたい

あれから燈ちゃんは何度もステージに立った。

一人だった歌に楽奈ちゃんのギターが加わり、立希ちゃんが戻って、愛音ちゃんも戻ってきた。

そよさんとも色々あったみたいだけど――結局、五人はもう一度同じ場所に立った。

 

「俺もこっちをどうするか考えないとな」

 

祥子ちゃんから届いたメッセージに目を向ける。

 

『お話があるのですが、お時間ありますか?』

 

久しぶりの祥子ちゃんからのメッセージで喜ぶところなんだろうけど、少し嫌な予感がする。

 

―――

 

「それで話って何かな……祥子ちゃん」

 

羽沢珈琲店でコーヒーを1杯口に運んで、祥子ちゃんの方に顔を向ける。

 

「今度、新しくバンドを作ろうと思っていまして」

 

「まじで言ってる?」

 

祥子ちゃんが新しくバンド?CRYCHICを自分で終わらせた祥子ちゃんが?

 

「メジャーデビューしてプロを目指すつもりですわ」

 

プロ?だめだ、話に頭が追いつかない。

 

「俺はやらないよ。そもそもプロで通用するほどベースが上手いわけじゃないし」

 

「あなたならそう言うと思っていましたわ」

 

じゃあ、なんで俺は今日呼ばれたんだ。

 

「安心してください。私がやるのはガールズバンドですわ」

 

……なんとなく話が読めてきたぞ。

 

「睦のことか」

 

知名度も若葉の娘として十分。ギターの腕のプロ遜色ない。

事務所とかを説得するのにもちょうどいいんだろう。

 

「話が早くて助かりますわ」

 

「だったら、直接睦に聞けばいいじゃん」

 

言い返すと、祥子ちゃんは紅茶を飲むと安心したように微笑む。

 

「睦からは承諾を得ました。あなたにはスケジュール管理を手伝って欲しいんです」

 

「なんで俺に?」

 

事務所との契約なら専門の人を雇えばいいのに。

 

「睦の要望ですわ。それに、もちろん仕事としてなので給料も出させていただきます」

 

ライブハウスでの仕事である程度のスケジュール管理の心得はあるけど……

 

何より、いくら祥子ちゃんが着いていても、紬ちゃんを一人で芸能界に立たせるのは心配だ。

 

「わかったよ。ここまで外堀埋められたら断るにも断れな――」

 

そういえば……あと一回だけ、燈ちゃんがライブの予約してたっけ。

 

「いや、もうちょっとだけ待ってくれないかな。仕事は受け入れるよ」

 

メンバーではないけど……あの五人といる時間は心地よかった。

 

「分かりました……それでは連絡お待ちしております」

 

―――

 

『結月、新曲作るから準備すんだらうち来て』

 

……ほら、やっぱりこうなった。

 

立希ちゃんの家に行くと、楽奈ちゃんがベッドの上でギターを弾いていて、燈ちゃんは机に向かって必死に歌詞を書いている様子。

 

「これ、俺必要?」

 

「結月くんがいると……心強い、から」

 

燈ちゃんにそう言われると俺も何とも言えない。

 

「今、バンドのグループ送ったから入っといて」

 

立希ちゃんからグループのURLがメッセージで飛んでくる。

 

「あのぉ……俺一応バンドメンバーじゃないんだけど」

 

「はぁ?今更何言ってんの?メンバーじゃなくても手伝って貰うから」

 

俺がグループに参加するって画面でスマホを止めていたら、横から楽奈ちゃんが勝手にボタンを押した。

 

「もう……今回だけだからね」

 

グループに入ると、愛音ちゃんがグループ名について案を出しているところだった。

 

『ANON TOKYO』

 

元々自己主張というか承認欲求高めだったけど、なんというか……吹っ切れたって感じだなぁ。

 

『俺は好きだよ』

 

みんなの反感を買う中で、一言だけメッセージを入れておく。

 

「結月、愛音が調子乗るんだけど」

 

「いいじゃん、楽しそうだし」

 

燈ちゃんはノートの歌詞を見返して、机につっぷしてるけど……三日後にライブ大丈夫かな……

 

―――

 

次の日はみんなで集まって話し合い。

 

「ごめん……私が歌詞書けないから」

 

「無理しなくていいから」

 

落ち込む燈ちゃんを立希ちゃんが慰めてるけど、追撃するようにそよさんが口を開く。

 

「無理しないで間に合うの?」

 

……ずばっと言うようになったなぁ。

 

「でも、正直このままのペースじゃ厳しいよな」

 

「新曲は今夜中に形にしないと……みんなで集まる?」

 

立希ちゃんの提案はもっともだけど、立希ちゃんの家に六人は入れないし、燈ちゃんの家も俺の家も厳しいからな。

 

「なら、うちで話す……?」

 

そういえば、そよさんって月ノ森のお嬢様だったな……

 

そよさんの家は高層マンションの上層で、初めて来た俺や燈ちゃん、立希ちゃんの三人は口を開けて驚いていた。

 

愛音ちゃんは前に来たみたいで、まるで自分の家に招くように振舞ってるし、楽奈ちゃんはソファーに座って蕎麦食べてるし……なんなんだこのバンド。

 

案の定、楽奈ちゃんは好き勝手にギターを弾くし、愛音ちゃんも買ったばかりの機材をいじって音を出しまくってる。

 

「燈ちゃん、そっちの方で歌詞考えようか」

 

そう言って、燈ちゃんを二人から離すと、そよさんが燈ちゃんに紅茶を持っていくついでにこっちを見た。

 

「二人ともDTMいつから勉強してたの」

 

「私は中学。またバンドやる時必要かと思って」

 

「俺は高校入ってから。立希ちゃんが勉強してたから一緒にやろうと思って」

 

単純な好奇心で勉強してたけど、まさかここまでこき使われることになるとは思わなかった。

 

結局そのあとも新曲作りは難航して、晩御飯をみんなで取ることにした。

 

『ごめん、今日帰れるか分からないかも』

 

『分かった。気を付けてね』

 

一応、紬にも連絡を入れて晩御飯に手を伸ばす。

 

「衣装なんだけどさ、こういうのどうかな」

 

愛音ちゃんの提案する衣装は、どれもバンドで着るような衣装ではなかった。

 

立希ちゃんとそよさんからは不評だったけど、流石の俺も擁護できない。

 

「えーりっきーもそよりんも酷くない?」

 

「そよりんはちょっと嫌かな〜」

 

そよさんは愛音ちゃんの方を見るまでもなく即答して返す。

 

「え、可愛くない?」

 

「かわいい〜」

 

「嫌だっていってるよね」

 

俺が冗談で便乗したら、今まで見たことの無いような鋭い目つきで睨まれた。

 

「ていうか夜景やば!みんなで写真撮ろうよ!SNS上げるやつ」

 

愛音ちゃんのメンタル強すぎて、気にする様子もなく、高層階から見える夜景にご執心だ。

 

そよさんは乗り気じゃない。まぁ、CRYCHICのことが無くなったわけじゃない。思うところもあるんだろうな。

 

みんなで外に出て、俺はポケットからスマホを取り出した。

 

「俺が写真撮るから、みんな並んでー」

 

「えー!結月くんも並ぼうよ」

 

「は?こいつメンバーじゃないから」

 

立希ちゃんの言う通り、俺はこのバンドのメンバーじゃない。さすがに弁えないといけない。

 

「えーじゃあ、これ撮ったあとに別で撮ろうよ。ね!ともりん」

 

「私も、結月くんと写真撮りたい、かも」

 

結局愛音ちゃんに押し切られて、二枚目の写真には俺も映るはめになった。

 

写真を撮り終えたあと、燈ちゃんと愛音ちゃんと楽奈ちゃんの三人はすぐに屋内に戻って行って、俺とそよさん、立希ちゃんの三人が残った。

 

「結月は私たちに怒んないの」

 

「どうして?」

 

「事情知ってるあんたなら、私たちが何考えてるかくらい分かってたでしょ」

 

……立希ちゃんの言いたいことは分かる。そよさんがCRYCHIC再結成のためにみんなを利用しようとしてたのは分かってたし、立希ちゃんがそれに便乗して燈ちゃんとバンドしたかったのも分かる。

 

「分かってても何もしなかった俺も最悪だよ」

 

最初は燈ちゃんが前に進めればいいなって思ってた。結果的に燈ちゃんを傷つけることになっちゃった。

 

……それに、CRYCHICの時は全部知っててなにもしなかった罪悪感が二人を止められなかったのかもしれない。

 

―――

 

そして、朝になっても新曲作りは進まなかったし、衣装作りも何も着手していなかった。

 

「燈休む?」

 

立希ちゃんは何の違和感もなく燈ちゃんに学校をサボらせないで欲しい。

 

だけど、優等生の愛音ちゃんはそれは許せないらしく、燈ちゃんの腕を掴んで登校して行った。

 

授業中、スマホの通知音が聞こえて、バレないように画面を覗き込むと、歌詞が出来た報告と、立希ちゃんから、今すぐうち来てとの招集命令。

 

……俺に授業サボらせるのには躊躇しないんですね立希さん。

 

「全くさ、俺は成績そんないい方じゃないんだからね」

 

「うっさい。作業に集中して」

 

体調不良って嘘ついてまで来たのにこの言いようは酷くないか。

 

……今度燈ちゃんに勉強教えてもらおっと。

 

ただでさえ新曲の制作で忙しいのに、更に追い討ちをかけるようにスマホの通知音が響く。

 

『衣装手伝って〜!』

 

波乱万丈すぎる。

 

―――

 

「曲できた〜?」

 

メロディだけは作り終わって、愛音ちゃんの家でみんなに合流すると、みんな死んだようにダウンしていた。

 

すると、突然楽奈ちゃんがギターを弾き始めた。

そういえば、楽奈ちゃんのギターって元々オーナーのやつだったんだよな。

 

「楽奈ちゃんのおばあちゃんはSpaceってライブハウスやってたんだよ」

 

「へぇ」

 

「一生あると思ってた、なくなったけど」

 

俺も、Spaceはずっとあるものだと思ってた。小学生の時に出会って、色々な人にお世話になった。

 

「でも、居場所ってまた誰かが作るんだって」

 

楽奈ちゃんはそれだけ言って、愛音ちゃんのベットに飛び込んで行った。

 

***

 

「一生って難しい」

 

傷つくのが怖かった。バラバラになるのが怖かった。

 

「一生バンドやりたかった。だけど、傷つかずに一生は無理」

 

傷ついてでも、みんなと一緒にいたい。私が一緒にいたいから一緒にいたい。

 

「何回転んでも、迷っても」

 

「それだよ!」

 

そう言って、愛音ちゃんは立ち上がると、一枚の紙を取り出した。

 

「私たちのバンド!迷子のバンド!」

 

―――

 

朝、日が昇り始めた時に目が覚める。

 

当然みんな眠っていて……視界の端に真っ二つになった衣装が見える。

 

「俺はここまでだな」

 

荷物をまとめて、愛音ちゃんの家を後にした。

 

迷子のバンドのライブは大成功に終わった。元々燈ちゃんのファンが多かったのもあるけど、それを除いてもいいライブだった。

 

ライブが終わって舞台裏に行くと、みんなでノートを囲んで何かを話していた。

 

「見て結月くん!私たちのバンド名!」

 

見せつけられたノートには『Mygo!!!!!!』の文字。

 

迷子とmygoをかけてるのかな。ていうか、この!ってメンバーのこと?

 

「なんで!が六本あるわけ?」

 

「えー!だって結月くんがいなかったら私たちバラバラのままだったし!存在しない六人目のメンバー?的な」

 

俺がみんなを見回すと、こくりと頷いてくれた。

 

「はぁ……俺はメンバーじゃないからね」

 

軽く手を振って、俺はその場を後にした。

 

凛々子さんに最後の挨拶を済ませて、RiNGを出てスマホを取り出した。

 

「祥子ちゃん。準備できたよ」

 




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