二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
「燈ちゃんごめんね。つきっきりで勉強見てもらっちゃって」
「大丈夫。バンドの練習休みだから」
ここ最近はmujicaのスケジュール管理とか睦ちゃんの仕事の付き添いですっかり勉強を疎かにしてたから、燈ちゃんに勉強を教えてもらってる。
「そういえば、まだ続けてるの。祥子ちゃんに付箋」
燈ちゃんは机の端に置いてある付箋に視線を向けて、こくりと頷いた。
「私の声じゃ、届かない、けど。言葉なら届くかなって……」
……きっと祥子ちゃんにとっては辛いとは思う。でも、俺にはやめた方がいいとは言えない。
そこには燈ちゃんの気持ちもあって、なによりも……祥子ちゃんも向き合わないといけないことだと思うから。
「届くといいね」
「……うん」
時計の方をちらりと見ると、そろそろmujicaの初めての生放送の時間だ。
「ごめん、ちょっとだけスマホ見てもいいかな」
「mujicaの生放送、だっけ」
「そうなんだよね。睦ちゃん、顔出しでテレビ出るのは久しぶりだから心配で」
ポケットからスマホを取り出して、mujicaの生放送を開くと、ちょうど睦ちゃんが母さんのこととかを聞かれてる最中だった。
(睦ちゃんはそういうの一番苦手なのに)
だけど、祥子ちゃんが何とかフォローを入れながら番組は進んでいく。
番組的には微妙かもしれないけど、祥子ちゃん……睦ちゃんのことちゃんと守ろうとしてくれてるんだ。
だけど、テレビに映る睦ちゃんの様子は明らかにおかしい。画面越しだからうまく見えないけど、顔色も少しだけ悪く見える。
「睦ちゃん大丈夫かな」
昔から、俺の前では体調不良とか隠すのは上手かったあの睦ちゃんが、自分の不調を隠せないほど追い込まれてる……
『長くは続かない』
睦ちゃんがそう言った瞬間に現場の空気が凍って見えた。
何を思ってその言葉を選んだかは俺には分からない。ただ、まるでふり絞るように、何を言っていいか分からない中で、見つけた言葉をぽっと出したような感じだった。
俺は、すぐさまSNSを開いてトレンドを確認する。
そこにはすでに、Avemujica解散の文字がトレンドに並んでいた。
「俺が……そばにいなかったから。何も考えずに自分のこと優先してmujicaを抜けたから」
腕から力が抜けてスマホが手から抜け落ちる。
燈ちゃんはスマホを拾い上げると、心配そうに俺の方を見つめている。
「でも、結月くんは頑張ってて、睦ちゃんのこと大切にしてて……」
「だけど、それだけじゃ睦ちゃんは守れなかった!」
突然声を荒げたせいで、燈ちゃんが肩を揺らした。
それでも、燈ちゃんは引き下がることなく、スマホを持った手で俺の手を両手で包み込んだ。
「結月くんは、全部できなかった、のかもしれない」
顔を下げた燈ちゃんの手はプルプルと震えていた。
「でも!ずっと、考えてたのは知ってる……」
ばっと顔を上げた燈ちゃんにつられて、俺も少しだけ顔を上げると、力強く俺を見る燈ちゃんと目が合う。
「きっと、そんな結月くんがいてくれたから睦ちゃんも頑張れて、私も、隣にいたいって、思えるんだと、思う」
「あり、がとう」
少しだけ落ち着いて、息を整える。
「急に大声出しちゃってごめん」
「ううん。結月くんが睦ちゃんのこと大事にしてるって分かってるから」
そっとスマホを受け取って、俺たちはもう一回机に向き合って勉強に戻った。
今は睦ちゃんに何もしてあげられないけど、家に帰ってきたらいっぱい褒めてあげよう。
結果的には失敗しちゃったかもしれないけど、仮面を外したままメディアに頑張って出た睦ちゃんを。
―――
勉強を進める中でわからないところがあって、燈ちゃんに質問すると、俺のノートを覗き込むように体を寄せてきた。
(顔が近い……)
冷静に考えたら、さっきすごいこと言われたんじゃ……
『私も、隣にいたいって、思えるんだと、思う』
それってそういうことなのだろうか。いや、でも燈ちゃんに限ってそんな意味はないだろうし……どっちなんだ。
***
勉強会が終わって、結月くんもお家に帰っちゃった。
一人になった部屋は静かで、少しだけ寂しい。
「……言っちゃった」
一緒にいたいって気持ちが好きって気持ちなら、きっと、私は結月くんのことが好きなんだと思う。
前は、付き合えば離れ離れにならないって思ってたけど……今は一緒にいたいから、付き合いたいって、そう思える。
それを自覚していけばいくほど、自分の顔が熱くなって行くのがわかる。
ベッドに飛び込んで、枕に顔をうずめる。
「私、結月くんのこと……好き、なんだ」
***
仕事が終わって、気がつけば実家の玄関を開けてシャワーを浴びていた。
色々な言葉をぶつけられて、自分でもどうしたらいいか分からなくて。祥が全部話してくれて……
「また……私のせい」
CRYCHICの時も私が余計なことを言ったから、バンド……ぐちゃぐちゃになって、結月くんも傷つけて。
服を着てギターを抱きしめ、スタジオの椅子に腰を下ろす。
疲れて、眠いはずなのに、眠れる気がしない。
「私が話したから……」
きっと、結月くんは私のことを心配してる。仮面のこともそうだし、mujicaを抜けちゃったことも気にしてると思う。
だけど、こんな状態じゃ結月くんに会えない……嫌われたくない。
バンド内の言い争いを思い出して、頭の中がまたごちゃごちゃになる。
体は疲れてるのに、瞼はこんなにも重いのに、どうして眠れないの。
ギターを抱きしめたまま、ポケットからスマホを取り出して、結月くんのメッセージ欄を開く。
『助け』
そこまで文字を打ったところで指を止める。
優しい結月くんはきっとこんな私でも受け入れてくれるはずなのに。嫌われたら?拒絶されたら?そんな考えが止まらない。
『しばらく、仕事で家に帰れない』
メッセージを送信して、スマホを閉じる。
ギターを弾こうにも、体が重くて腕が動いてくれない。明日も仕事なのに、プロとしての意識を持ってって言われたのに。
このままじゃ私のせいでAvemujicaが……祥にはもうAvemujicaしかないのに。
時計が進む音だけが部屋に響き渡る。何もできずにただ座っているだけで時間だけが過ぎていく。
そして、私が望まなくても朝を迎える。
現場に行けば、私の気持ちなんて関係ない。
mujicaの解散。みなみちゃんのこと、たーくんのこと。どこに行っても言われるのはそればかり。
「すごいよ、すごいよ睦ちゃん。さすが『森みなみさん』の娘」
仮面を外しても見られるのは私じゃない。それなのに、みんな私に質問するのをやめない……誰も私に興味なんてないのに。
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アワーノーツにこもるかもしれないので投稿遅くなるかもしれません。