二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 【完結】   作:Tmouris_

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今まで隠されてきた事実を知ったみんなはどのように行動していくのでしょうか。


第46話:真実

「睦ちゃんと紬を起こすためにはどうしたらいいんだろう……」

 

結局のところ、解決策はまだ見つかってない。

そよさんと一緒に頭を悩ませていると、そよさんが時計を見てふと何かを思い出したように口を開いた。

 

「誰かの演奏を聴いたり、ギターを弾いてみたりするのはどうかな。睦ちゃんギター大好きだったし……紬ちゃんも好きだったんでしょ?」

 

「試してみる価値はありそうだね」

 

俺はモーティスの部屋のドアをノックして中に入る。

 

「外行くけど、一緒に行けるかな」

 

そう言うと、モーティスは少しプルプルと震えながら少し考えて、俺の袖を掴んだ。

 

「お兄ちゃんとそよちゃんが一緒なら」

 

こうして俺たちはRiNGに向かった。

 

―――

 

「そよりん!と結月くん?」

 

mygoのみんながRiNGからちょうど出ていこうとしたタイミングで俺たちは鉢合わせた。

 

最初は俺がいることに首をかしげている様子だったけど、後ろからモーティスが顔を出して、困惑の色を隠せていなかった。

 

「寝てる」

 

ただ、楽奈ちゃんだけはモーティスのことを見つめてそう言った。

 

「二人いる」

 

「睦ちゃんのこと分かるの?」

 

けれど、いつも通りのマイペースな楽奈ちゃんはおそらく猫集会に向かったのか、そのまま帰って行ってしまった。

ところが、モーティスまで後をついて行ってしまったので、俺も慌てて後を追いかける。

 

「ごめん!そよさんここはお願い!」

 

さすがにあの二人だけでは放っておけない。楽奈ちゃんのこと信用してないわけじゃないけど、今のモーティスは不安定だから。

 

そう思っていたんだけど、そんな不安は杞憂だったみたいで、楽奈ちゃんはいつも通り猫集会に参加して、猫に懐かれるモーティスという微笑ましい時間を過ごすだけだった。

 

―――

 

「私、三日三晩一緒にいたんだけど」

 

そう嫉妬気味に言うそよさんの視線の先には、すっかり楽奈ちゃんに懐いたモーティスの姿があった。

 

「それに関しては本当に感謝してます」

 

代わりに俺が頭を下げておく。多分、そよさんがいなかったらあのまま良くない方向に進んでいた気がするから。

 

そんなやり取りを俺たちがしていると、楽奈ちゃんのギターの音がカフェに響き渡る。

 

「謳ってる」

 

***

 

お人形さんみたいに小さい意識だけど、二人とも起きてくれた。

 

「睦ちゃんに紬ちゃん!やっと起きた!二人がいない間大変だったんだから」

 

二人に声をかけても、楽奈ちゃんのギターに夢中で私のお話を全く聞いてくれない。

 

私はテレビの電源を消して、視界から映る景色を消す。音を遮る。

 

「睦ちゃんがギター弾いてくれれば、これでmujicaが再開できる」

 

テレビのリモコンを手に取って、今まであったことを再生する。

 

紬ちゃんは何か言いたそうにしてたけど、最後はどこか安心したように静かになった。

でも、睦ちゃんは違った。

 

「どうして祥にあんなこと言ったの」

 

***

 

しばらくの間モーティスは固まっていたが、次の瞬間、勢いよく俺の胸に両手を押し当てて体を預けた。

 

「結月ありがとう……私たちを大切にしてくれて」

 

突然の出来事に何も出来ずにいると、紬は俺から距離をとった。

 

「紬ちゃんこんな時に何言ってるの!?二人とも何にも分かってない!」

 

「お願いだから祥に合わせて……」

 

「ダメ!」

 

そんな一見すると一人芝居にも見える押し問答にそよさんを除くmygoメンバーが困惑している。

 

「睦!危ない!」

 

ひたすら前に進んでいた睦は階段から勢いよく転がり落ちる。

 

それでも、再び立ち上がって、モーティスと睦ちゃんの押し問答は続く。

 

RiNGの外に出ると、色んな人にすぐさま囲まれてカメラを向けられる。

 

俺とそよさんはすぐさま睦に駆け寄って、そよさんは守るように抱きしめ、俺は立ち塞がるように壁になる。

 

「「撮らないでください!!」」

 

―――

 

モーティスをそよさんとなんとか家に連れて帰って、今は随分と落ち着いた。

 

「睦ちゃんは?」

 

「祥子ちゃん祥子ちゃんってうるさいから嫌なものぶつけて閉じ込めちゃった」

 

今はそよさんがモーティスのことをなだめて、話を少しずつ聞いている途中だ。

 

……それにしても、睦ちゃんは会いたいのに、モーティスは祥子ちゃんのことが嫌い、か。矛盾しているその気持ちを今の睦には受け止めることが出来ないんだ。

 

「私が祥子ちゃんに会って話をしてくるよ、モーティスちゃんの話を聞いて何もしないなんて私にはできない」

 

もう、隠しきれないかな……ううん。ここまでそよさんにmygoのみんなまで巻き込んでこれ以上隠すなんてできない。

 

俺は、モーティスが祥子ちゃんの住所をそよさんに話すのを部屋の端で黙って聞いていた。

 

***

 

「どうして、そよに話したの」

 

「出てきちゃダメ!睦ちゃんはギターを弾く時だけでいいの!紬ちゃんも手伝って!」

 

たくさんの人形に埋もれた睦ちゃん人形は嫌なものをかきわけて、表に出てこようとする。

 

「結月も見てただけ。それでも、そよちゃんを止めるの?睦ちゃん」

 

「でも、それじゃあ祥が」

 

「祥ちゃんと結月どっちが大切なの」

 

言ってることはめちゃくちゃ。だけど、それも私の考えで、私にとっては結月の方が大切。

 

「私、は。結月くんのことが好き。だけど、祥も大切な友達」

 

「うるさーい!」

 

モーティスが無理やり睦ちゃんを押し込んで、また睦ちゃんを閉じ込める。

 

「どうして分からないの!祥子ちゃんは私を傷つける!紬ちゃんもそう思うよね」

 

「分からない……でも、傷つけられたのは事実だから」

 

***

 

「モーティス。一人でお留守番出来るかな」

 

翌日、mygoメンバーに祥子ちゃんの事情を説明しようと、RiNGに向かおうとしたが、俺が向かったらモーティスが一人ぼっちになってしまう。

 

案の定モーティスは首を横に振って、不安そうに俺の袖を掴んだ。

 

「紬はいる?」

 

「……いる」

 

モーティスがそう言うと、俯いていた顔を上げた。

 

「一人で留守番できそう?」

 

「大丈夫。結月いってらっしゃい」

 

そっと俺の袖を離して、ベッドの方に紬は戻っていく。

 

―――

 

「168億!?」

 

RiNGに入ると、ちょうど愛音ちゃんの大きな声が響いてきた。

 

「祥ちゃんも何か言えない事情があったのかも……」

 

「そろそろ、話さなきゃだね」

 

俺がそよさんの話に割り込むと、みんなの視線が俺に集まった。

 

そして、俺は祥子ちゃんの色々な事情をほとんど話した。

168億円の損失を出してしまったのがお父さんだったこと、お父さんが理由でCRYCHICをやめるしか無かったこと……そして、CRYCHICを忘れるためにAvemujicaを結成したこと。

 

「そっか、あれそういう意味だったんだ」

 

「あれって?」

 

俺の話を全部聞いた後に、愛音ちゃんはなにか思いついたかのように呟いていた。

 

「CRYCHICのことも、Avemujicaのことも、睦のことも知りませんって」

 

「それ、本当に祥ちゃんが言ったの」

 

俺の隣にいたそよさんの目は鋭く、声色も怒っている。

 

「結月くん、明日祥ちゃんのこと連れてくから家で待ってて」

 

そう言って、mygoのみんなはスタジオ入りして練習に向かった。

 

……俺の登校日数大丈夫かな。

 

―――

 

心痛いけど風邪気味ということで仮病を使って学校を休んでいると、インターホンの音が鳴った。

 

玄関を開けると、そこにはそよさんと祥子ちゃん、なぜか愛音ちゃんと燈ちゃんまで後ろに立っていた。

 

「モーティスちゃんは?」

 

「部屋にいるよ」

 

そうして、俺は四人をモーティスの部屋に招き入れた。

 

「お兄ちゃん!?どうして祥子ちゃんが居るの!そよちゃんもなんで連れて来ちゃったの!祥子ちゃん悪い子なんだよ!?」

 

怒鳴りながらモーティスは傍にあった人形を手に取った。

 

「帰って!」

 

そして、それをそのまま祥子ちゃんに向けて投げつけた。

 

「本当に人間の血流れてる?」

 

その瞬間、モーティスの声色が変わる。まるで、何かスイッチが入ったかのように。

 

「この人でなし……どうして!今まで放っておいて、のこのこと!」

 

あぁ……そうか。モーティスはこうしないと感情を表現出来ないんだ。

 

「帰って!顔も見たくない。あなたも裏切り者よ!あなたも!あなたも!帰ってよ!」

 

これ以上はモーティスを傷つけるだけかもしれない。

 

「みんな、今日はこの辺にしよ。モーティスも驚いてるから」

 

―――

 

「あのさ、さっきの人でなしって森みなみの」

 

「……よく気づいたね」

 

愛音ちゃんの言う通り、あれは母さんが出ていたドラマのワンシーン。

 

「なに、考えてるんだろう」

 

燈ちゃんもモーティスのために必死に考えてくれてる。

 

「人形、ですわ。演じるだけの空っぽな人形……わたくしが睦を人形にしたから」

 

「それは――」

 

違うといいかけたところで、燈ちゃんが被せるように口を開いた。

 

「それは……違う気がする。分からない、けど」

 

「そうだよ。難しく考えることなんてない。モーティスが伝えたいこと。それを演技で伝えようとしてるだけ……だと俺は思ってる」

 

空っぽなんかじゃない。モーティスにはモーティスの気持ちがある。

 

「それでも、わたくしは人でなしですわ……人間になりたいって。こういうこと、ですのね」

 

祥子ちゃんは膝から崩れ落ちて涙を流す。

 

人間になりたい……か。正直、その言葉の意味は俺には分からない。それでも、深く傷ついて反省している祥子ちゃんにこれ以上なにも言うことはできなかった。




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