二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
「もう一回、祥とCRYCHICやりたい……結月くんと一緒にいたい」
「やらないって言ってるでしょ!」
私の意識に割り込むようにモーティスが入って来る。
CRYCHICのことで祥と言い争いになってる。
「祥ちゃんも全然分かってない。睦ちゃんなんて最初からいないよ?」
その言葉を聞いて、祥ちゃんはぎょっと驚いたように少し後ずさる。
「だけど、ギターに出会っちゃった……ギターだけじゃない。お兄ちゃんにまで」
***
私は消えたくない。死にたくない。生きたい。
「私は睦ちゃんを守らないといけない」
それが私が役として残る方法だったから。
「だから、Avemujicaって舞台が必要なの。だからAvemujicaやって」
それが私が消えずに生き残る方法だから。
「それは、睦が苦しみ続けることを望むということですの」
「そうだけど!そうじゃない!」
ただ、私がいないと睦ちゃんが困るから。
脳内でテレビの電源が入ってCRYCHICのライブ映像が流れる。
「CRYCHICはもう終わったの!祥子ちゃんのあの涙はCRYCHICが終わった証拠なの!」
「CRYCHICじゃないのに何がわかるの?祥はAvemujicaの誘いを断った。結月くんも断った」
睦ちゃんが椅子からゆっくりと立ち上がる。
「祥はまたCRYCHICをやってくれる。結月くんは私を大好きって言ってくれた」
「睦ちゃんは自分の見たいことばっか!紬ちゃんも黙ってないで何か言ってよ!紬ちゃんなら分かるでしょ!?」
私は紬ちゃんに視線を送ると、紬ちゃんは目を逸らすことなく口を開いた。
「分かってる。CRYCHICはもうない。でも、結月くんとはまたバンド出来るかもしれない。そうすれば……睦ちゃんでも結月と付き合えるかもしれない」
どうして、私のこともちゃんと分かってくれてるのにそんなこと言うの。どうして?どうして分かってくれないの!
「モーティスは守れなかった。祥も傷つけて、Avemujicaも壊した。結月のこと兄妹として大好きなんて言って……」
「全部やってほしくないことばかりだった」
睦ちゃんの意識がどんどん大きくなって私の方に一歩また一歩と近づいてくる。
「あなたなんていらない」
嫌だ、私も必要。睦ちゃんを守るために。Avemujicaをするために。
「睦ちゃんなんていらない!」
消えたくない。ただ、その一心で私は私自身を否定した。
「いらないのはあなた」
そこで私の意識はプツリと途切れた。
***
睦ちゃんと祥子ちゃんが出掛けて行って、俺も燈ちゃんと一緒にプラネタリウムに来ていた。
「やっぱ星って綺麗だね。星座とか詳しくは知らないけど」
「結月くんが気になるなら、教えてあげる」
プラネタリウムを出て、近くにあったベンチに二人で腰を掛けた。
「燈ちゃんはさ、睦ちゃんとかモーティスのことどう思う?」
そう聞くと、難しそうな顔をして顔を下に向けた。
「難しいことは、よく、分からない。でも、モーティスちゃんの言ってることも睦ちゃんな気がして。自分同士で傷つけあってるみたいで」
……やっぱ燈ちゃんは凄いな。俺はずっと睦と一緒にいたのに、そこまで気付くのに時間がかかった。
「俺もそう思う。多分祥子ちゃんと一緒にいたいっていう睦ちゃんの言葉も睦の本音なんだと思う。だけど、モーティスの言う、祥子ちゃんに傷つけられたくないって気持ちも睦の本音だと思うんだよね。その矛盾してるみたいな気持ちが受け止めきれないで……二人で傷つけあってる」
紬は全部分かってる気がする。なんだか一番自分を俯瞰して見ているように見える。
「睦ちゃんさ、俺のこと好きなんだって。兄妹としてじゃなくて、異性として。変だよね、睦ちゃんから直接聞いてないのに俺は知ってるんだから」
全部紬が伝えてくれたんだ。
「俺は妹としか見てなかったけど、色んなことで傷つけちゃって、守れなかったと思ってる。それでも、睦ちゃんは俺のことを好きでいてくれた。もし、俺が応えることで睦が幸せになるなら応えるべきなのかな」
燈ちゃんは俺の目を一瞬見ると、すぐに視線を逸らして、また顔を下に向けてしまった。
「幸せって今も分からない。睦ちゃんがどうしたら幸せかも、結月くんがどうしたらいいかも分からない。けど……応えなきゃで付き合うのは、違うと、思う」
そこまで言うと、燈ちゃんはいつもよりも力強い目で俺のことを見つめてくる。
「睦ちゃんの気持ちは、睦ちゃんのものだし、結月くんがどう思ってるかも結月くんにしか決められない……」
燈ちゃんはさらに俺の隣にそっと近づいて「けど」と続ける。
「結月くんの隣、取られるのは、嫌」
俺の手を取って、顔を真っ赤にしながらもう一度俺の目を見る。
「私が、一緒に居たい」
「……え」
ドキッとしてしまう。俺のすぐそばに燈ちゃんの可愛い顔があって、お互いの呼吸が触れ合う。
「あ、ああ。別に誰かと付き合っても友達の燈ちゃんから離れるわけじゃ――」
「違う」
口も体も動かない。でも、これを聞いてしまったらもう後には戻れない気がした。
「だって私、結月くんのこと……男の子として好きだから」
燈ちゃんが俺のことを好き?
じゃあ前に言ってた一緒にいたいって言ってたのも?
色々なことを思い出して顔が赤くなる。
それと同時に燈ちゃんが今までよりも可愛く見え始めて、顔を少し離してしまった。
「でも、睦ちゃんのことも、ちゃんと考えてあげて、欲しい」
「じゃ、じゃあ私帰るね」
慌ただしく、逃げ去るように燈ちゃんは駆け足で帰っていって、唖然として動けない俺だけが取り残された。
***
「はぁ、はぁ」
恥ずかしくて逃げちゃった。
でも、今答えを聞くのは違う気がする。
結月くんを困らせちゃったかもしれないけど、何故か気持ちを抑えられなくて……
睦ちゃん、ずっと結月くんのこと好きだったんだと思う。
昔、『兄さんのこと兄妹って今は思ってない』って言ってたのを思い出した。
あれって、兄妹としてじゃなくて異性として好きって意味だったんだ。
……睦ちゃんが選ばれちゃう、のかな。
睦ちゃんは凄く綺麗で可愛くて、ずっと結月くんと一緒にいて。
私は結月くんに助けてもらってばかりで、迷惑もいっぱいかけて……
ううん。考えるのはやめよう。
決めるのは結月くんで、どっちの答えでも、結月くんは離れ離れになったりしないって分かってるから。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
最新話まで追っていただけて素直に嬉しい限りです。
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