二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 作:Tmouris_
第49話:誰を見るのか
最近、モーティスが海鈴さんに会ってから、ギターの練習をしてる。
正確には、ギターの演奏のマネって言えばいいのかな。
多分……海鈴さんは本気でAvemujicaを再結成させるつもりでいるし、モーティスもそのためにエアギターの練習をしてる。
だけど、睦ちゃんはCRYCHICを今もまだやりたがってる。
睦はCRYCHICが終わってしまったって、どこかで認めている。だけど、認めきれない。
だから、睦ちゃんはCRYCHICをやりたいし、モーティスはAvemujicaをやりたい。
お互いぶつかりあってる。
でも、話してる感じだと……モーティスは自分が自分でいるためにAvemujicaをやりたいみたい。
そんなことを考えながら祥子ちゃんに呼び出されて、カフェに向かうと、そこには愛音ちゃんと燈ちゃん、祥子ちゃんの三人が座って待っていた。
少しだけ燈ちゃんと目があったけど先日の告白を思い出して、お互いに目を逸らしてしまった。
とりあえず席について俺たちは祥子ちゃんの話を聞くことになった。
「単刀直入に申し上げます。燈、結月さん。わたくしとCRYCHICをもう一度やっていただけませんか。わたくしも睦も本気ですわ」
祥子ちゃんは過去の誤ちを語りながら俺たちに頭を下げた。
「もちろんmygoには迷惑はかけません」
燈ちゃんは下を向いたまま何も言えずにいた。
それはそうだ、愛音ちゃんに聞いたけど、前に一度祥子ちゃんにバンドやろうって誘ったって聞いたから。
「……俺はもうCRYCHICは終わったバンドだと思ってる。でも、睦と燈ちゃんとまた一緒にバンドしたいなとは思ってた」
「ゆ、結月くん」
燈ちゃんは嬉しそうにしてたけれど、すぐに何かを思い出したように俯いてしまう。
「で、でも。私にはmygoがあって……そんな器用なこと出来る自信、ない、から」
燈ちゃんには普通に掛け持ちバンドなんて出来ないのは分かっていた。分かってはいたけど、この機会にまた二人とバンドをしたいっていう気持ちは本物だった。
―――
日も落ちて、燈ちゃんを送った帰りの歩道橋で睦ちゃんと出くわした。
「睦ちゃんどうしたの?」
「……燈と話したいと思って」
「一緒に行く?」
そう言うと、睦ちゃんはコクリと頷いて、俺の服の袖をつまんだ。
そして、燈ちゃんの家に戻ろうと思ったところで、燈ちゃんがこっちに駆け寄ってきた。
「星、一緒に見る?」
俺たちは燈ちゃんの提案でプラネタリウムへと向かった。
道中交わす言葉はなく、ただ静かな夜の道を三人で歩いて行った。
***
「二人はCRYCHICやるの!?」
三人でプラネタリウムまで来て、入口で初華に出会って口にした言葉は私にとっては衝撃的だった。
「燈、本当に祥が言ったの」
嬉しかった。祥がCRYCHICのこと考えてくれてて、またみんなとバンドできる。
結月くんと一緒にいられる。
少し話したら初華はすぐに帰っていってしまった。
そして、私はモーティスからついにギターを取り返せた……そう思っていたのに。
「返して!Avemujicaやるんだもん!」
モーティスと言い争いになって、私は舞台の底に落ちた……
***
「睦ちゃんが死んじゃった!死んじゃった!」
家に帰って急いで電話を手に取ってお医者さんに電話しても、誰も電話を取ってくれない。
「モーティス!?どうしたの?大丈夫?」
「違う、私悪くない!勝手に落ちたんだもん!」
しかも、紬ちゃんまで。なんで!?なんで睦ちゃんを追って飛び降りたの!?
その時、スマホのメッセージの通知音が聞こえてきて、私はすぐさまスマホを手に取った。
『明日、Avemujicaのことでお話があります』
***
祥子ちゃんに呼び出されて、俺は翌日RiNGに向かった。
モーティスのことが心配だったけど、モーティスも海鈴さんと話があるって家を出て行ってしまった。
mygoのみんなと祥子ちゃんと俺が集まって、今後について話し合っていた。
「もう、あのころにはきっと戻れない。本当にそれが睦ちゃんの幸せなのかな」
そよさんの言う通りかもしれない。
みんな、変わった。お互いのことを知った。CRYCHICを再結成してもあのころみたいにまたキラキラした日常が待っているとも限らない。
そこに、海鈴さんと初華とモーティスの三人が俺たちの元を訪れた。
「モーティスあなたの願いは睦を苦しめることですわ」
祥子ちゃんはモーティスがAvemujicaにしがみつき、再結成しようとしてる理由を語る。
俺も薄々感じてた。最近のモーティスは睦ちゃんを守るためにいるというよりかは、睦ちゃんを守るっていう自分の存在意義を何よりも大切にして……ううん、最近に始まったことじゃないかもしれない。
モーティスはずっと自分の役割……消える事を恐れていたんだ。
海鈴さんと祥子ちゃんの言い争いが続き、祥子ちゃんはついに核心に触れる。
「Avemujicaをすればモーティスさんも睦さんも生き続けられる」
「それでも、わたくしにAvemujicaを選べませんわ」
その言葉は前とは違って、全てを理解した上で、睦ちゃんとモーティスの関係性を理解しての発言だったと思う。
「モーティスさんを見殺しにするんですか!?」
「覚悟の上ですわ」
俺は、見て見ぬふりをしていたんだろうか……睦ちゃんを選べばモーティスは消える。モーティスを選べば睦ちゃんも紬も傷つき続ける。
でも、どちらも選べずにいた。だって睦ちゃんもモーティスも紬もみんな睦の意思には違いないんだから。
「祥、モーティス消えたくないって。私も祥が私を選んで傷つく姿を見たくない。祥が思ってくれてるように私も祥を思ってるから」
睦の中でみんながみんな傷つけあって……でも、その傷だってみんなが感じてるもので。
「CRYCHICじゃなくてもいい。祥とバンドが出来ればそれで」
それが睦ちゃんとモーティスの意思なら俺もそれを尊重したいと思う。
「何それ」
カフェの二階から、にゃむちが降りて来て、睦ちゃんのことを見下ろす。
「きんも」
一瞬なにを言っているのか分からなかった。俺たちのやりとりを聞いてそう思ったのか。何か気に入らないことがあったのか。
「それってむーこの演技?完璧じゃん。本当に気持ち悪い」
睦ちゃんの……演技?
「CRYCHICじゃなくてもいい。祥とバンドが出来ればそれで」
何度も何かを確認するように、モーティスは同じ言葉を繰り返した。
「あれ?どれ?」
「モーティス、睦ちゃんは……睦ちゃんはどうしたの?」
なんで、わざわざ睦ちゃんの演技なんか?俺たちを説得しようと思って?でも、そんな嘘ついたって、睦ちゃんが表に出てきたらすぐばれる。
嫌な汗があふれ出る。なにかとても嫌な予感がして。
「あたしのせいじゃないもん!勝手に落ちたんだもん!本当に……わざとじゃ!」
モーティスはその場で膝から崩れ落ちて泣きじゃくった。
俺はそれを見て唖然として、何も出来ずに固まっていた。だけど、優しくモーティスを抱きしめるそよさんを見て、モーティスの手をそっと握った。
「大丈夫。大丈夫だよ」
まるで自分にも言い聞かせるように何度も何度も。モーティスの手をとって、家に向かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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ついに、この物語も最終章に突入しました。
もし良ければ最後までお付き合いください。