二人だけの音 〜重ならない旋律が響くとき〜 【完結】 作:Tmouris_
あれから夏を終えて秋を迎えた。
「ねえ睦、変なところとかないよね」
「大丈夫……結月くんはかっこいい」
睦との距離もすっかり近くなってしまって、今じゃ紬並みにストレートに色々言ってくるようになった。
「ふざけてる場合じゃないよ……今日は勝負の日なんだから」
「分かってる……上手くいくといいね」
睦は視線を逸らして、少し寂しそうに呟いた。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
―――
集合場所の水族館についたけど、燈ちゃんはまだそこにはいなかった。
あたりを見回しながら待っていると、駆け足でこっちに走ってくる燈ちゃんの姿が見えた。
「ご、ごめん。あのちゃんが中々離してくれなくて」
化粧もしっかりとしてあって、服装も……いつものパーカーと違って燈ちゃんに似合った可愛らしい服を着ていた。
さすがANONTOKYO……センスがいい。
「……めっちゃ可愛い」
「お、あ、えと。ありが、とう」
思わず声に出ていたらしくて、燈ちゃんは顔を真っ赤にしながら顔を下に向ける。
「それじゃあ、行こうか」
水族館の中に入って、二人で色々なところを見て回る。
「なんか、こうしてると小学生の時のこと思い出すね」
あの時は、友達なんかできると思っていなかったし、まさか燈ちゃんとここまで仲良くなるなんて考えもしなかった。
「うん……そうだね。結月くんと会って、水族館行ったり、いろんなところに行って、辛いこともあったけど、結月くんに会えて本当によかった」
CRYCHICにmygo、Avemujicaのこと。今になっては思い出だけど、きっと燈ちゃんがいなければ俺も乗り越えられないこともあった気がする。
昔話に花を咲かせていると、ペンギンのスペースにたどり着いた。
俺は両手に力が入って、頭の中が真っ白になりそうになる。
「あ、あれ」
燈ちゃんが指差す方を見ると、三匹のペンギンが横に並んでいた。
「真ん中が結月くんで左右にいるのが私と睦ちゃんみたい」
このまま、楽しく水族館を終わってもいいんじゃないか……そう思えるくらい、燈ちゃんと遊ぶのは楽しい。
でも、今日こそはって覚悟を決めてきたんだ。
「燈ちゃ――ううん。燈」
「は、はい」
俺が燈ちゃんの方に体を向けると、かしこまったように、どこか涙目になりながら俺の目をじっと見つめてくる。
「俺、燈のことが好きだ」
言ってしまった。耳だけじゃない、顔全体が赤くなっているのが自分でも分かる。
「私で、いいの?睦ちゃんじゃなくて」
「俺が一生隣にいることを考えた時……それは燈がいいなって思ったんだ」
これが俺の本心。睦の気持ちに応えずに燈を選んだ理由。
「私も……結月くん、じゃなくて結月の隣にいたい。形が欲しいからじゃない。離れ離れになりたいからじゃない。ただ、好きだから……一緒にいたい」
俺は、燈の手をそっと握って三匹並んだペンギンたちを眺める。
「でも、燈大変かも。睦、諦めてないみたいだから」
「分かる、かも。私もきっと諦められないから。それに、睦ちゃんは結月のこと大好きだから」
俺が苦笑いをすると、燈は優しく俺に微笑みかけた。
「あとさ、もう一つだけお願いがあるんだ」
立希ちゃんとそよさん、愛音ちゃんに楽奈ちゃんにAvemujicaのメンバーからも許可をとった。
……全員から許可をとるのは本当に大変だった。なによりそよさんのあの笑顔が怖すぎて今でも忘れられない。
「お願い?」
「うん。燈がよければ――」
―――
「ねえ!今日名無しがゲリラライブやるっぽいよ!」
「え!?本当に?絶対見なきゃじゃん」
RiNGでは少し有名な話になっている。
ごく稀に3Pのmygoのカバーバンドがゲリラライブを行うことを。
しかも、そのメンバーがmygoのボーカルの高松燈にAvemujicaのギターの若葉睦、ベースがその兄の若葉結月だというのだから話題も絶えない。
「でも、なんでバンド名が名無しなんだろう?」
お客さんの中にはその理由を気にする人もいる。
「名無しもファンの間で勝手につけた名前らしいよ。本当にバンド名がないんだって」
俺たちの関係に名前なんて必要なかった。一緒にいるのに形なんて必要なかった。
ただ、俺たちは三人で音を奏でたくて、集まれるときに集まってライブをしたくなったらする。それだけの3Pバンド。
燈に迷惑をかけないように、楽曲は全部mygoのカバー曲だし、3P用のアレンジも全部俺がやっている。
睦はさすがというべきか、それともmygoの曲をしっかりと聞いてるのか、楽譜を渡すとあっという間に弾けるようになっているから驚きだ。
むしろ、一番準備に時間がかかるのは俺だからな……
「睦ちゃん、ちょっとだけ、結月に近い、と思う」
「……そんなことない」
観客たちは考えもしてないだろうな、ライブ前の控室でこのメンバーでこんなやり取りしてるなんて。
「睦ちゃんが結月のこと、好きだって分かってる。でも、結月は私の彼氏で」
普段の燈からは考えられない発言。多分、立希ちゃんあたりが聞いたら卒倒するんじゃないだろうか。
「はいはい。言い争いはその辺にして、ライブの時間だよ」
絶対にもう重なり合うことのない音だと思ってた。
mygoとavemujicaに別れて、どちらか一人とだけとしか演奏できないと思ってた。
俺たちの物語は表舞台に立たない影の物語かもしれない。
だけど、たしかに俺たちには俺たちの選択と思いがあったんだ。
「それでは、聞いてください影色舞」
最終話までお付き合いくださりありがとうございました。
ついに書ききったなっていう気持ちが大きいです。
これも、ここまで読んでくださった皆さんのおかげです。
書きたいことは書ききれたのかなと満足しています。
本当に本当に最後までお付き合いくださりありがとうございました。