HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~   作:やままん

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※暗闇の未来。
・11年前、プリキュアが「クライアス社」に敗北した世界線。
"時間"という概念を奪われ、その代わりに"永遠"を手にした世界。
ここで生きる人達はその"永遠"に対して喜び、幸せを感じている。
そして、「プリキュア」と呼ばれる戦士は歴史の影に埋もれてしまった――。


EX01 暗闇の未来で――

 

――あの日、赤ちゃんの声が聞こえてから何かが変わり始めた。

それまで動かなかった時計の針が動き出すように、私の中で何かが変わり始める。

 

あれから、赤ちゃんの声が聞こえる事は無かった。あれは一体、何だったのか…ほんの微かに聞こえたか細い声。泣いているのか、叫んでいるのか…全く分からないけど、とても不思議な経験だったと私は思う。

 

 

「……ふぅ……。」

 

 

シャワーを浴び、髪を乾かして左右高めに長い髪の毛を2本に分けて結う。次に制服に袖を通して身支度を整える。そうして、準備をしていると一枚のパンが焼き上がった。

 

 

「……熱ッ……。」

 

 

…少し、焼きすぎたかな。

トーストの設定を見るとやはりそうだった。表面が黒く染まり、見るからに焦げている。でも、無駄には出来ない。料理の失敗なんていつもの事だ。パンですらちゃんとに焼けない。ただ、セットするだけなのに。

 

 

 

 

 

 

――私の名前は暁ハルカ。何をやってもダメダメな中学三年生だ。

勉強は人並みぐらい、運動神経は殆ど無い。物心ついた時から親は居なく、双子の"姉"と暮らしていた。小学校高学年までは、"おじさん"が一緒に居てくれたけど、ある日を境にその"おじさん"は居なくなってしまった。聞くに、クライアス社の関係者だったそうで恐らくだが"異動"になったんだと。

 

だけど月に3回、小分けにして口座に生活費としてお金が振り込まれている。だから、"おじさん"はきっと忙しいのだろうとずっとそう思っている。名前も知らない、教えてくれないからだ。けど、凄く優しい人だった。

 

――私の"お姉ちゃん"はいつも警戒していたけど。

基本的に他人をあまり信用しない人だから、誰に対しても常に心を開こうとしない。上辺だけの関係であればそれで良いと思っている人"だった"からだ。でも、私は"おじさん"を凄く慕っていた。本当の親のように接してくれたあの"おじさん"の優しさは紛れもなく本物だと思うからだ。

 

ここには私1人しかいない。"おじさん"も居ないし、そしてお姉ちゃんも…居ない。

 

2年前、私のお姉ちゃんは突然「行方不明」となった。

学校から帰って来たと同時に「少し、出かけてくるね」とそう言い残して家を出て行ったきり、帰って来なかった。私は何度も捜索願いを出した。クライアス社に連絡も入れた。けど……。

 

 

「そのような人物は"該当"しません。」

 

 

――こんな回答が返ってきた。

もう、何のことかサッパリ分からなかった。家族が次々と消え、とうとう一人ぼっちになっちゃった。毎日、泣いた。学校も数ヶ月休んだ。嫌な事ばかり…それ以前に、泣くばかりで何も出来ないししない自分に無性に腹が立った。そんな毎日を過ごしていた中、何気なくやった部屋の片付けである一枚の写真が見つけた。

 

 

かつて"プリキュア"と呼ばれた戦士の写真。

その写真を見た途端、小さい頃の記憶が蘇った。11年前、大雨が降る中で世界が暗闇に包まれ、何もかもが「止まり始めた」時に手を差し伸べてくれた人達。その中で一番傷付いているにも関わらず、常に先陣を切って戦った人が居たことを。そして、こんな言葉を掛けてくれた。

 

 

「大丈夫、オレが何とかする」と。

 

 

その言葉を思い出すと、不思議と勇気が湧いてくる。あの時も確か泣いていた、お姉ちゃんと一緒に。けどあの人は私達の頭に手を置いてニッコリと笑った。傷だらけのその手は痛々しかったけど…凄く"大きかった"。

どんなことになっても、"プリキュア"達は絶望していなかったんだ。私もああなりたい…だから泣いてばかりいられないと、何とか立ち直れた。それが今。

私は今、その「恩人」とお姉ちゃんを探すためにこの暗い未来で必死に生きている。

 

 

 

―――――――

 

 

 

あっという間に時間が過ぎ、学校に行く時間になった。家を出る前に私は飾られた二枚の写真にいつも挨拶をする。一つは"おじさん"、そしてもう一つは幼い私の隣に写る大人びた雰囲気を持った少女…「暁カナタ」。私のお姉ちゃんだ。

 

 

「行ってくるね。おじさん…お姉ちゃん。」

 

 

日課である挨拶を済ませ、玄関の扉を開く。

すると、外には見慣れた風景がそこにあった。全員が無機質にも、ある一点の場所をめがけて歩いていく。

 

クライアス社への「出勤」だ。

この世界の人々は全て、あの会社に勤めている。11年前の「世界停止」から世界中に支社を持つ巨大企業。全ての人々は無条件にあの会社に勤めることが義務付けられている。

これだけを聞けば、強制労働のように聞こえてくるかもしれないが待遇はかなり良い方だ。務めている人々は皆、生活に苦労していない。有給制度もある。定時も約束されている。だから、生きていく上では何の不自由もない優良企業とも言えるだろう。

だけど、私はこの世界の"今"に対して虚無感を抱いている。

 

"時間"という概念を取り上げられ、その代わりに得たものは幸せを永久に留めるための"永遠"。

初めは、この世界の"在り方"に関しては不安しかなかった。だけど、蓋を開けてみればその"永遠"は人々にとっては"幸福"に近いものだった。

 

"未来"が無いから、失うものも無い。恐れるものもない。その場にあるのは"永遠"のみ。得たものは全て「そのまま」だ。増えることも減ることも無い。尊厳が傷付けられることも無い、傷付くことも無い。

 

だけど、本当にそれが"幸せ"と言えるのだろうか?。

失うものはない…確かにそれはいい事だ。失う事の恐怖に怯えることは無い。だから、一度得たものがその手から離れることは永遠に無いというのは人々にとっては安心できる事だ。

 

けど、それはあくまで「安心できる"だけ"」の話。夢を見て前に進むこともしなくなることに、果たして「生きている」と言えるのか……。

 

私は家族を失った。

ただ、居なくなっただけで他の人からすればなんてことの無いほんの小さな不幸なのかもしれない。

けど、少なくとも私にはおじさんとお姉ちゃんに囲まれた暮らしがとても"幸せ"だったと感じている。永遠に続けばいいなと思ったりもした。でも…何かが違う気がする。確かに失って悲しんだけど、その代わりに何としても「見つけ出したい」「また会いたい」と思う気持ちの方が強い。それを成すためには行動を起こさなければいけない。二人との別れがこの作られた"永遠"の中の一部だとしても、"未来"を動かすためには小さな一歩を踏み出さなければ何も始まらないからだ。

 

それが"夢"だとすれば、どうしていけない事なのか…私はこの"永遠"の中で生きて得られるこの嘘の幸福に不信感を抱いている。

 

ゾロゾロと「出勤」する人達を見て心が痛む。「本当に"そのまま"でいいのかな」と。

 

"困難"を捨てた世界…私は、そう思う。

 

そんな時、黒服を着た数人の人間が私の元へとやって来る。

 

 

「――見つけました、"赤ん坊の声"を聞いた人間!!。」

 

 

一人がそう叫ぶ。

私は訳が分からなくなり、思わず取り乱してしまって。

 

 

「な、なんですか貴方達は…!?。」

 

「確認する。数日前に"赤ん坊の声"を聞いたというのは本当か?。」

 

「だ、だから何の話……痛ッ…!。」

 

 

手を強く掴まれ、私は小さな悲鳴を上げる。心臓の鼓動が早くなり、音も感じ取れる…"怖い"…そう思って、私は動くことが出来なくなってしまった。

 

 

(赤ん坊の声って…あの時に聞いた声の事?。なんでそんな事で…?。)

 

「悪いが、クライアス本社に来てもらいたい。」

 

 

…何か、危ない気がする。

ここで、振り切らなければ"大きなもの"に巻き込まれそうな…。

 

そんな気がして、私は――"勇気"を振り絞る。

 

 

「ご、ごめんなさいッ!。」

 

 

強引に腕を振りほどき、私は全力で逃げる。カバンを両手に抱えながら後ろを振り返ることも無くただ、ひたすらに走る。

 

怖い…怖い怖い。

小心者の私に得体の知れない恐怖がのしかかってくる。後ろを振り向いちゃダメだ。追いかけて来てるはず…見ればきっと、心が潰されるはずだから―――

 

 

――――

 

 

それから、どれだけ走ったかなんて覚えていないが私は、ありとあらゆる裏道を使って、何とか追手を振り切った。

息が切れて呼吸がままならないままその場にへたり込み、走り込んだことと恐怖で心臓が張り裂けそうになるもとりあえず、逃げ切れたことに若干の安心感で満たされる。

 

でも、どうして追われるのか……。

訳が分からないこの状況に翻弄されながらも、これからどうなるのか分からない不安感で泣きそうになる。

その場に蹲り、頭を下ろしながら呼吸を整える。

 

 

(これじゃ、家に帰っても待ち伏せされてる…学校にも連絡が入ってるはずだし……どうしよう…私、どうなるの…。)

 

 

―――――

 

――しばらく、顔を埋めて考えるも何も浮かばない。怖くなって、スマホの電源もOFFにしてしまった。

 

 

 

 

―"赤ん坊の声"を聞いたか?―

 

 

 

 

――彼らは確かに、そう言っていた。これが何の事なのかさっぱり分からないけど、あの時聞いた赤ん坊の声に答えがある…そもそも、赤ん坊の声を聞いただけで何だというのか…特別な事でもない。

でも、どうしてそれだけでクライアス社から追われなければならないのか……私はそう思う。

 

――それからしばらくの間、足音に怯えながら私は息を潜めて自分という存在を出来る限り失くすように身を屈める。時折、聞こえてくる人々の話し声が全部自分に向けられているようで、軽い人間不信のような精神状態へと陥る…もう、どれだけこの裏路地に隠れているかなんて分からない。それに、隠れ切ってもどうすればいいのか…検討も付かない。

…そんな時、私の脳裏にある思いが過る。

 

 

 

―"未来"を動かすためには小さな一歩を踏み出さなければ何も始まらない―

 

 

――そんな、思いだ。

ここでずっと蹲っていても何も始まらない。ただ、怯えて行動しないのは絶対に違う。分からないからこそ、動かなければいけない…じゃないと、何も変えられない。

私は自分の事が大嫌いだ。長所も何もない、何をやらせても中途半端、言いたいことも言えずに自分の本音も出せない小心者。そんな性格だからこそ、過去に壮絶なイジメにもあった。あの時はお姉ちゃんが庇ってくれたけど、今はもう居ない…おじさんも居ない。

 

大切な人を探さなければいけない…自分に勇気をくれた"恩人"にお礼を言わなければいけない。

だから私は…一歩踏み出そうと思う。この、"止まった世界"で。

 

そう、奮い立たせて何とか立ち上がっては表通りに出ようとする。心臓の鼓動は未だに早い。

 

 

だが、その時―――

 

 

「居たぞッ!。」

 

 

…運悪く、黒服に見つかってしまった。もう、心がぐちゃぐちゃで涙が溢れてくる…でも…。

 

 

(動いて…動け、私の足!。お願いだから……動いて…!。)

 

 

ガタガタと震えながら、逃げようと勇気を振り絞る。でも、数人の人間がこちらに走って来る。

もう、ダメだ…そう思った時、一台の車が私の前に滑り込んでくる。

 

 

「乗ってッ!。」

 

 

助手席を開けて手を伸ばすメガネをかけた青髪の女の人。

何も考えずに私はその人に従い、手を取った。

 

 

「しっかり掴まっててねッ!?。」

 

 

そう言って、アクセルを踏み込んで急発進する車。華麗なハンドル捌きで後輪から煙幕のように煙を立たせてその場を走り去る。バックミラーに映る黒服達が追跡を諦めたのか、その姿がどんどん小さくなっていく。

 

とりあえず、逃げ切れた…私は安心感から思わず泣いてしまった。

 

 

「ごめんね、怖かったでしょう?でももう大丈夫、私が安全な所まで貴女を運ぶから。」

 

 

優しいその声に、私は凄く安心する。

私は涙を流しながら、その女の人の顔を見る。「落ち着いてからで良いから」と言われたが、どうしてもお礼と同時にその人がとても気になっていた。涙を拭い、私は声を振り絞った。

 

 

「えと…あ…ありがとうございます…その……。」

 

「暁ハルカさん…よね?。知ってるの、貴女の事。」

 

「えっ…どうして私の名前を……?。」

 

 

その女の人はメガネを取り、横目で私を見ながら自分の名前を名乗る。

 

 

「私は薬師寺さあや。"赤ちゃんの声を聞いた"貴女を保護しに来た…医者だよ。」

 

 

………to be continued。




次回
EX02 "真珠星"。
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