HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~   作:やままん

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※薬師寺さあや(11年後)
・クライアス社が勝利した世界線"暗闇の未来"で医師となったさあや。
11年前に敗北してから「プリキュア」としての能力は失われ、一般人として暮らしていた。
ふとある日、"赤ん坊の声"を聞いたハルカの事を聞きつけて、彼女に降り掛かる困難を懸念し、クライアス社に追われる身となった彼女を保護する事に。


EX02 "真珠星"。

 

「私は薬師寺さあや。"赤ちゃんの声を聞いた"貴女を保護しに来た…医者だよ。」

 

………………………………。

 

…あれから、どれだけの時間が経ったのだろう。

私を助けてくれた「さあやさん」は追手が届かない場所にまで車を動かしている。色々、聞きたい事はあったけど私は安心感から車の中で眠ってしまった。その間、さあやさんは起こす事なく静かに車を運転してくれていて。

 

――そして。

 

「――ハルカちゃん、起きて?着いたよ?。」

 

「ぇ…ぁ…ご、ごめんなさいッ!私、眠っちゃってて…!。」

 

 

そんな私を見たさあやさんはニッコリと笑みを浮かべ「大丈夫だよ」と一言だけ掛けてくれる。辺りを見渡すと、見慣れない場所だった。

 

 

「えと…ここは……?。」

 

「私が住んでる家だよ。ここなら大丈夫、私はその…"ブラックリスト"だから。」

 

 

"ブラックリスト"。

それは、クライアス社の定めた規定に従わない人間の事。

といっても、狙われの身とかそう言った意味合いでは無い。将来が"約束"されたこの世界の人間は学業を納めた後はクライアス社への入社を義務とされている。だが、「ある"申請"」を通せばその制度を無視できる。それは、「自分の"未来"を差し出す」事。どういう事なのかさっぱりわからないが、それが通った人間はクライアス社の定める規定に従わなくても良い。その代わり、行政サービスそのものを受ける事が出来ず、生活支援も全く無い上に未来永劫、その烙印は押されたままとなる。いわば、「世界からの爪弾き者」として人々からそう言った目で見られる。さあやさんはそのリスト入りした人間という事だ。

 

 

 

「…その、失礼ですけど…どうして"ブラックリスト"に?。まさか、誰かに脅されて…とか…?。」

 

「ううん、そうじゃない。これは私自身の"意思"。私が自分の意思で選んだ"未来"だよ。」

 

「…未来…。」

 

 

そう言って、さあやさんはホットココアを差し出す。精神状態が不安定な時に飲むと少しは和らぐらしい。

 

 

「…美味しい…。」

 

 

そして何故か、急激に悲しくなってきた。元々、心が弱い人間だ。誰かに優しくされると、甘えたくなる。

けど、泣いてばかりじゃいられない。

また泣きたくなる気持ちを抑えて、私は本題を問う。

 

 

「さあや…さん。その…"赤ちゃんの声"が聞こえたって…あれって何なんですか?。私、どうしてそれだけで追われることになっちゃうのかなって…!。」

 

「ああ…その事だね。うん、分かってる。貴女にちゃんと説明しないといけないから。クライアス社に追われた事も…ここに来たことも。」

 

 

少し考え込んだ後、さあやさんはコッブを静かに置いて外の景色を見ていた。

 

 

「11年前、"プリキュア"と呼ばれる戦士がクライアス社に負けた事は知ってる?。」

 

「え…あ、はい。でも、その名前は出しちゃいけないって学校で言われて…でも私、小さい頃に助けてもらった事があって…!。」

 

「そう…なら、プリキュア達も喜ぶと思う。忘れ去られたはずなのにこうして、過去に助けてもらった事を覚えてる子がいるんだって。」

 

「じゃあ、さあやさんも…?。」

 

 

その質問に、さあやさんは儚い顔をして優しい微笑を浮かべるだけだった。その儚げの意味は分からないが、きっとこの人も"プリキュア"に対して思い入れがあるのだろう。でも、語らないということはあまり良く無い思い出なのかもしれない。だから、これは踏み入れちゃいけないんだってそう思い、これ以上は問わない事とした。

それよりも、気になるのが――

 

 

「本題に戻るね。あの赤ちゃんの声を聞けるのはこの世界では貴女しか確認されていない。」

 

「え、そんな…だって、ただの赤ちゃんの声ですよ!?。」

 

「ううん、違う。あの赤ちゃんの声はね…特別なの。」

 

「特…別……?。」

 

 

"特別"。

さあやさんは、そう言う。だが、私には全く理解出来なかった。確かに、あの時聞こえてきたのは空からだった。最初は、近くの家から赤ちゃんの声がしたと思っていたが、どこか不思議な感じがしたとだけは覚えている。

なら何故、その赤ちゃんが"特別"なのか…その口ぶりから、この人は何かを知っている…私は、そう思う。

 

 

「ここからは信じ難いことかもしれないけど、聞いてね?。その赤ちゃんの声はね…時空を超えて聞こえてくるの。」

 

「時空…ですか…?。」

 

「ええ。時代を超え、闇を照らす光を持つ者にだけその声を聞くことが出来る…つまり、貴女は…。」

 

「――私には…無理です。」

 

 

――さあやさんが何を言おうとしているか、私には理解出来た。

でも、私には無理だ…いや、出来ない。

何をやらせても中途半端、言いたいことも言えずに本当の気持ちを押し殺して周りに解け込もうとする。

この世界に馴染む以前から、私はそういう性格の人間だ。「自分」という個性を出そうとしない。そんな勇気が無い。仮に、私にそういう力があったとしても人の役に立てる程、出来た人間じゃない。

 

そして、さあやさんはそれ以上は何も言わなかった。私の気持ちを汲んでくれたのだ。

――本当に私は、ダメな人間だ。危険を冒してまで私を助けてくれたのに、気を使わせてしまった。

 

…本当に、嫌になる――

 

 

 

「――どうして、私がその秘密を知っているのか…気になる?。」

 

 

一時の沈黙。飲み干したココアのマグカップに目を向けていた私に、そう語りかけてきた。

 

 

「…はい。でも、聞いていいのか……。」

 

「ううん、貴女をここに連れてきた責任もある。それに貴女には…知る権利がある。」

 

 

そう言って、さあやさんは語り始める。

 

 

―――――――――

…11年前の"あの日"、世界は時間を失った。

"未来"と"永遠"を分けたあのクライアス社との最後の戦いで、私達は敗北した。

追い詰められたクライアス社社長「プレジデント・クライ」…いや、「ジョージ・クライ」は本の中に刻まれた"禁忌"を作動させ、現れた時空の歪みは全てを飲み込み始め、世界は滅びへと向かった。

 

彼は、"永遠"を手にするために世界の時を止めて"未来"を殺そうという。

だが、私達の攻勢が想定を遥かに上回ったのと、何としても自分の元に置きたかった「野々はな」が拒絶した事で、彼は全てがどうでも良くなった。

 

この"大穴"は世界の全てを飲み込む滅びの穴。自らの理想が叶えられないのなら、全て滅べばいい…最後の切り札を使ったその表情はどこか満足げに、そして安らかな表情をしていた。

 

でも…"彼"がそれを許さなかった。今でも、鮮明に覚えている。僅かに残った"アスパワワ"を纏い、あの大穴に向かっていった彼の背中を。

 

 

"時の崩壊"は進み、世界は間もなく停止する。

"未来"は死に、その先は"永遠"が支配する世界…だが、この大穴は全てを飲み込むもの……勿論、ジョージ・クライもどうなるか分かったものじゃない。しかし、これを止めなければ全てが滅ぶ。

 

だけど、"彼"がたった一人でその大穴へと身を投じた。

 

……世界の崩壊は免れた。「来嶋燈火」という一人の男の子の犠牲によって。

彼がどうなったかなんて誰にも分からない。死んだとも言えないし、生きているとも言えない…"行方不明"となったのだから。

 

でも、世界は…"止まって"しまった。そして、皮肉にも彼が取った行動がジョージ・クライの思い描いた絵の通りとなり、彼の理想が成就されてしまった。

 

こうなればもう、手立ては無い。世界中から"アスパワワ"が消滅し、私達の「ミライクリスタル」も砂のように消えてしまった。そう…"プリキュア"として力を失ってしまったのだ。

 

しかし、これしか方法が無かった。あのままでは時間どころか、世界そのものが消えてしまう所だったからだ。

「命」というチップを賭けたジョージ・クライの"賭け"は成功してしまい、その代わり私達は大事な友達を一人、失ってしまった。

 

…そう、私達は"未来"を守れなかった。あの場で命を奪う事も出来ただろうに、彼は変身能力を失った私達を見逃したのだ。そう…私達は"生かされた"。トーカ君にも、ジョージ・クライにも。

 

あれから、みんなバラバラとなりこの止まった世界で生きていくしかなかった。

はな…ほまれ…えみるちゃん…ルール―…ハリー…はぐたん……そして、トーカ君。

もう、9年は会っていない。きっと、私のように何処かの土地でひっそりと暮らしているのだろう。

"彼"一人を除いて――――

 

 

…………………………。

…11年前の事の顛末を語ってくれたさあやさんの瞳からは一筋の涙が零れていた。

悔しかったのだろう、この世界を守れなかった事に。

そして、守りたかった今の世界の現状は非情にも不幸ではなく、寧ろ"幸福"に包まれていたことに。

 

ジョージ・クライの言った通り、「何も失わない世界」は人々にとっては永遠の幸福なのだろう。"未来"なんて不確かなものに手を伸ばすよりも、苦労して得たものを逃すことのない"永遠"の方が人々にとって身近な幸せだという事を叩きつけられたのだから。

 

でも、絶望はしていなかった。確かに敗北はした、敵に生かされてこの止まった世界で生きていくしかなかった。それ故に彼女は…"自分だけの未来"を見つけて、この道を選んだという。

 

だから、「今」を精一杯生き抜く……さあやさんは、絶望よりもこの止まった未来でも前進する事を選んだんだ。

 

――本当に、強い人だ。

11年前、私とお姉ちゃんを助けてくれた時と何も変わらなかった。今、思い出す…あの時、私達に飴をくれた優しいお姉さん…青色の天使のような人。それがこの人、薬師寺さあやさん。

そして今もまた、私を助けてくれた。

 

それなのに、私は自分のことばかりしか考えていなかった。

 

そう、悲観していると一時の安堵はすぐに崩れ去って。

 

 

 

 

 

「……よもや、君が彼女を匿うとは私も思わなかったよ。」

 

 

扉が急に開き、そこには数人の黒服と中年の男の人…その男の人を知るさあやさんは思わず驚いて。

 

 

「……ダイガンさん…ッ!。」

 

 

「ダイガン」と呼ばれた男は眼鏡を曇らせながら、ため息を吐く。

 

 

「社には黙っておく。私は君に借りがあるのでね…すまないが、彼女をコチラに引き渡してくれないかね?。」

 

「…お断りします。貴方がクライアス社に戻った事は知っていました…でも、何故…ッ!。」

 

「社会の闇というやつだよ。クライアス社が勝利してしまったおかげで、パップルの会社があっという間に倒産に追い込まれた。路頭に迷った私達はどうする事も出来ずに、社長によって再びクライアス社に戻されたのだ。何、君が悔やむことは無い。これが…社会の厳しさというものだ。」

 

「ッ…一度は切り捨てられたのに何で…ッ!。」

 

「…"博士"も行方を眩まし、リストルもいない……一度は去ったとはいえ、元社員…どこで何をしようが全て筒抜けなのだ。戻る他、私たちには選択肢が無い。とはいえ、待遇は以前と同じものだ…皮肉だが、生きるのに苦労はしない。」

 

「それが…貴方の選んだ"未来"なんですか……。」

 

「いや、"運命"だ。"未来"は死に、"永遠"が支配するこの世界…生きるだけなら、全てが上手くいく…失うものもないのなら、現実を知った人間がその餌に食い付くのは明白だろう?私もその一部だったという事だ。さぁ、彼女を…暁ハルカをコチラに引き渡したまえ。」

 

 

――黒服達は何もしない。多分、このダイガンという人がそうさせているのだろう。この人とさあやさんは過去に関わった事がある…だから、これは恩情だと思う。

 

ここまでかな…さあやさんに迷惑はかけられないし、この人はさあやさんが私を匿った事を不問にしてくれるという。どうなるのかは分からないけど、きっと殺されたりはしないはず…うん、多分だけど……管理されて生きていく人生になると思う。それだけ………私が我慢すれば、この人は今までとは何も変わらない。今を維持したまま、生きていける。

 

全てを諦めて、自らがその身を差し出そうと動いた時、さあやさんがそれを…遮った。

 

 

「絶対にクライアス社に彼女を引き渡したりはしない!。」

 

「…いい加減にするのだ。逃げることは不可能ということは理解出来るだろう?それだけ、今のクライアス社は巨大なのだ。安心すると良い、彼女の安全は保証する。だが…"芽"は狩らせてもらう。それだけだ。」

 

「…その"芽"を狩らせたくないから、私は抵抗しているの。」

 

「……仕方ない。おい。」

 

 

ダイガンの声に、黒服達は一斉に私達を取り囲んでさあやさんの両手にエネルギー状の枷を嵌め込んだ。そう…"拘束"されたのだ。

 

 

「ッ…逃げてハルカちゃん!。私のことはいいから、貴女は逃げてッ!。」

 

「最後通告だ、暁ハルカ。彼女の身を案じているのなら、任意で我々と共に来るのだ。」

 

「ダメよハルカちゃん!!。」

 

「わた…私は……ッ……!。」

 

 

…どうすれば良いのか、どうすれば正解なのか全く分からない。

またガタガタと体が震える…何も決められない…勇気が湧かない…逃げることも、さあやさんを助ける為に自分の身を差し出すことも出来ない。さっきまでは、覚悟を決められたのにこうなると体が動かなくなる。

 

――でもね、やっぱり私は………。

 

 

「うわぁあああああッッ!。」

 

 

キッチンの引き出しを開けて、包丁を向ける。その切先はダイガンという人にだ。

 

 

「何の真似かね?。」

 

 

わかってる。こんなもの、ただの子供騙しで刺す勇気なんて全くない事なんて、大人には手に取るように分られている。無意味な抵抗だというくらいは理解してる。けど、私は…ここで立てなきゃ変われないから……。

 

 

「さあやさんを…離して!。」

 

「ッ…この…!。」

 

 

黒服の1人が、私の手を掴もうと手を出してくる。だが……。

 

 

「私の指示無しに動くな、この無能がッ!。」

 

 

ダイガンの放った怒気に、黒服は動きを止める。この件は自分自身で片付けるつもりなのだろう、相手がさあやさんと知ったから。そして、彼は私に近寄り手を差し出してくる。

 

 

「いいからそんなもの、放しなさい。」

 

「ッ…イヤ…ッ…!。」

 

「抵抗はよせ、もう逃げ場はない。私がこうしている内に従うのだ。でなければ…"奴ら"が派遣される…ッ!。」

 

「…"奴ら"…?。」

 

 

何かに焦るダイガン。でもその時…空気が一気に凍り付くかのように冷たくなって。

 

 

「……時間切れだ。社長命令により、"業務"を遂行する。」

 

 

その場に居ないはずの声…それと同時に、ダイガンが後ろを振り向いた。

 

 

「ま、待て…ッ!。何も命を奪う事は……ッ!。」

 

 

ドシュッ。

……目の前に広がる赤い液体。私の顔にそれが付く。そして、目の前に居たダイガンのお腹から鋭い爪のようなものが突き出ていて…。

 

 

「ゴフッ…!。」

 

 

…ゴトッと、鈍い音がして彼が倒れる。足元にまで広がる赤い液体。我に帰った私はつい……。

 

 

「イヤァアアアアアッッ!!。」

 

 

――絶叫した。大粒の涙をボロボロと流し、その場に座り込んでしまう。人が…人が刺された?。いや…死んだ…?。何これ…こんなの知らない……。

 

 

「…次は貴様だ。」

 

 

―――その爪先が向いた先はさあやさん。

黒服達はいつの間にか、消えていた。それも不自然だが、何よりもさあやさん自身に死が迫っていて。それでも、あの人は……。

 

 

「逃げて、ハルカちゃん!。」

 

「あ…あ…あぁ………。」

 

「…いいの、私は十分に生きた。世界は守れなかったけど、せめて貴女一人くらいは守りたい…。」

 

 

…心臓の鼓動が早くなる。

 

 

「生きて。"未来"を繋ぐあの子の声が聞こえた貴女は生きなきゃいけない。この世界で失ったたった一つの"未来"……貴女は私の…私達の…"未来"なのだから――。」

 

 

――その爪が、さあやさんに迫る。

死を受け入れたのか、安らかに目を閉じてあの人は運命を受け入れようとする。

 

――――

――――――

 

「……何…?。」

 

 

――その爪が、さあやさんを貫くことは…無かった。

 

「――えっ…?。」

 

何故なら――

 

 

「はぁ…はぁ……はぁ……ッ……!!。」

 

 

"私"がそれを…防いだからだ。

 

 

………to be continued。




次回
EX03 閃光のキュアスピカ。
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