HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
――私は、自分が何をしたのかさっぱり分かっていなかった。
気が付けば私は、さあやさんの前に立って目の前の刺客の攻撃を防いでいた。
何よりも、驚いたのが…――
(何…この姿…!?。)
いつの間にか身に纏っていた純白の衣装。
突き出した手の平から星形のエネルギーが現れ、それが攻撃を防いでいたからだ。
それは、やって来た刺客と瀕死のダイガンも同じように驚いていて――
「貴様…"プリキュア"か!?。」
「え…わ、私が!?。」
そう言われると、確かにそんな気がする。そんじょそこらの普通の…それよりも弱い自分が人の身体を貫けるほどの威力を誇る攻撃を防げるはずがない。
無我夢中で、さあやさんの間に割って入った事は覚えている。でも、どういうわけか自分は間違いなく"変身"していた。そう自覚すると、頭の中に色んな情報が入り込んできた。
そして…こう名乗る。
「私は…キュアスピカ。」
「キュアスピカ…だと?。」
「そう……輝く未来を護り抜く!閃光のプリキュア、キュアスピカ!。」
辺り一面が光り輝く。それと同時に、地面から淡い光が溢れるように出てきて。
「…まさか…"アスパワワ"か……がふッ!。」
「ダイガンさんッ!。」
拘束が解かれたさあやさんがダイガンに駆け寄る。腹の傷は深く、生死に関わる程の出血量。しかし…。
「気をしっかり!死んじゃダメッ!。」
「…すま…ない……私はまた、君に……。」
「ハルカちゃん!ううん……キュアスピカ!。」
「は、はいッ!?。」
「この人は私が必ず助ける!。だから、貴女は時間を稼いで!?。」
「え…え…えぇッ!?。」
「大丈夫、自分を信じて。」
そうやって声を掛けてくれるさあやさん。不思議と自分の中から勇気が溢れてくる。
「この光は貴女が生み出したもの…"未来"を信じて羽ばたける人の光だよ。この世界が失った光が貴女にはある。だから、今度こそ自分を信じてあげて?。大丈夫、必ず"出来る"から。」
自分を信じてくれるさあやさん。その言葉がとても…突き刺さった。
「はい…分かりました!。」
――初めて、心の底から湧いてきた自信。怖くないかと言われれば怖い。けど、自分を信じてくれる人がそこに居るから、こんな私にも託してくれる人が居るから…頑張れる。
―"大丈夫、オレがなんとかするッ!"―
あの人のように、どんなに傷つけられても立ち上がれる人間になれるように、私は…。
「大丈夫、きっと…何とかなる。」
自分自身を信じて……戦う。
「はぁああああッッ!。」
…時間さえ稼げればそれでいい。私がここで頑張れば、救える命もある。今度は…後ろを向かないんだ。
そう心に決め、刺客とぶつかり合う。
身体が軽い…それに、見たこともない力が自分の中で溢れてくる。いつの間にか、怖い気持ちをそっちのけで私は攻撃し続ける。
暴力なんて振った事はないし、大嫌いだ。どれだけ正義を振り翳しても、他人を傷付ける事に変わりはない。だけど、人を守る為なら例えそれが自分の嫌いな事だとしても、躊躇してはいけない。
命は…何にも変えられないものだから。
「…11年ぶりのプリキュアか…だが……青いな!。」
反撃が来る。繰り出されたどの攻撃も確実に命を狙ってくる。だけど、それを防ぐためにスピカはバリアを張り続ける。
「ステラ・バリアッ!!。」
星型のバリアが、刺客の爪を弾く。強固なバリアに、防がれた方がダメージを受けるように爪が砕けて。
「…戦術はまるでなってはいないが…あのバリアが厄介だな……。」
「はぁ…はぁ…はぁ……。」
(しかし、心までは変わらない。気持ちが折れる方が先だろう。このまま、嬲るように削っていけばやがて……。)
スピカの元の性格を考えると、精神性が脆弱な事は見え透いている。彼は戦闘のプロだ、戦術に置いて焦りが禁物という事はその身体に叩き込まれている。強固なバリアが主軸なら、やり方を変えればいい…攻撃に転じないなら、逆にその長所を利用する……彼は、そう思う。
だけど、スピカは声を張って――
「答えて…貴方はクライアス社じゃないんですか…!?。」
「クライアス社だとも。まぁ…"別部署"と言えば理解してもらえるか?。」
「…奴らは…11年前にクライアス社が契約を結んだ……"人材派遣会社"だ…!。」
"人材派遣会社"。
そんなものがあったかなんて知りもしなかった。だけど、さあやさんはその会社を良く知っているようだった。
「彼らは戦闘請負業者…つまり、傭兵のようなもの。」
彼ら"人材派遣会社"の事を良く知っているのか、さあやさんは苦虫を嚙み潰したような表情で、声を震わせて語る。
きっと、何か大きな因縁があるに違いない…そう、思った。
そしてその刺客…戦闘員は得物の爪を袖からスルリと抜き出して。
「これ以上、語っても意味はない。何故なら…ここで死ぬからだ。」
「…させない。」
そう言って、私は二人の前に立つ。
砕いたはずの武器がもう一つ…予備の武装だろう。
「――さあやさん。」
「…分かってる。」
私の意図を汲んでくれたさあやさんは応急処置を済ませたダイガンの肩を担いで戦闘区域から出るようにゆっくりと歩を進める。勿論、刺客は妨害しようとするが私がそれを許さない。
「させないって言ったでしょ…!。」
「フン、その強がりがどこまで持つかな!?。」
刺客の攻撃が苛烈さを増す。だけど、私はその軌道を読むように全ての攻撃を防ぎ続ける。まるで本能のように、目を逸らす事無く的確に防ぎ続けて。
正直、必死過ぎて何も考えていないのだ。いや、考える暇もない。ここで自分が倒れたら彼はさあやさん達を傷付けると分かっているから。
だから、倒れるわけにはいかない…逃げ切れる時間さえ稼げればそれでいい。後は自分の問題…自分ならどうにでもなる。
だけど、状況は少しづつ傾いていく。
「ッ……!。」
「はは、どこまで防げるかな!?。」
バリアと爪が激しくぶつかり合い、重い金属音のような音が響き渡る。
ダメージは受けていない…だけど、防戦一方だ。さあやさん達はまだ遠くに逃げ切れていない…このまま持ちこたえるのもすこしばかり無理があるか……。
(…反撃……!。)
攻撃に転じなければ…そう思うが、どうすれば良いのか分からない。
今まで殴ったことも無いしそんな勇気も無い。頭の中では理解しているが、身体がそれを全く知らないから動こうにもそれを実行に移す方法が分からない。
次第に焦りが浮き上がってくる…当然、プロである彼はそれを逃すほど甘くは無かった――
「そうら、限界が来たな!?。」
「ああ…ぅ……ッ…!。」
僅かに鈍った隙を突いて、私の右腕を切り裂いていく。傷は浅いが、血がしとどに流れてくる…。
――痛い。
ずっと気を張っていたせいか、傷付くとメンタルが一気に削られてしまった。
「フン、例え身体が強化されても精神性が脆弱であればそれはすぐに崩れ去る…お前の弱点だ。強固な防御力も何の意味も成さない。」
「ぅう……。」
「だから、"その程度"の傷で何もできなくなる。防ぐことしか出来ないから、お前は一歩を踏み出せない。」
"防ぐことしか出来ない"。
その一言を聞いて、私は撃たれたかのように心の奥底に"痛み"が走った。
私のこんな性格が災いして、小学生の時にイジメに遭っていた過去。
「やめて」と言えずに、周囲からの扱いは日を追っていくごとにエスカレートしていき、毎日影で泣いていた。
当時、お姉ちゃんとおじさんはそんな事は知らなかった。気付かれたくなくて、家族の前ではいつも笑っていたからだ。
でも、それは"嘘"の笑顔であって、流石にお姉ちゃんの目は誤魔化せなかった。
ある日を境に、イジメはパッタリと止まった。見て見ぬ振りをしていた当時の先生も私に謝罪をして来た。
何の事かと思ったが、今思うとあれはお姉ちゃんとおじさんのおかげだったのかもしれない。
どうやったかなんて分からないが、私はずっと守られっぱなしだったということだ。
たった一言、「やめて」と言うだけなのに私に勇気が無かったからお姉ちゃんとおじさんに迷惑をかけてしまった。
耐えていればいつかきっと無くなる…私は"防ぐこと"でその場から逃げていただけだったのだ。
そして今、私は自分が傷付いただけでこうしてまた"怯えている"。後ろには守りたい人が居るのに、またこうして自分だけを"守ろう"としているのだ。
――そんなのは嫌だ。
この一歩を踏み出さなければ私は変わらない、変えられない。
怖くても、やらなくちゃいけない時がある。憧れるだけじゃダメだ、その背中を追いかけるだけじゃダメだ…"未来"を手にする為に私は一歩を踏み出さなくちゃいけない。
……やるんだ、勇気を持って!。
「――やああああッッ!。」
「何…ッ!?。」
右腕から流れる血を気にすることなく私は地面を蹴って飛び出し、刺客の後頭部にキックを入れた。
それが虚を突いたのだろう、油断さえしていなければ簡単に避けられる素人の攻撃を簡単に受けてしまったのだから。
とはいっても、プリキュアの攻撃だ。ただの人間が繰り出せる一撃じゃない。
刺客は堪らずに地面を転がり、止めていたさあやさんの車に激突した。
「はぁ…はぁ……やった……の……?。」
――初めて、人に暴力を奮ってしまった。
でも…これは人を傷付けるためだけの"暴力"じゃない……人を守るための"暴力"だ。
だから、不思議と身体の震えが止まっていた。一歩、踏み出せたから。
だが、そんな攻撃一発で倒せるほど甘くはない。ゆるりと立ち上がり、被っていたフードを脱ぐ。
その素顔は以外にも、自分と歳が近い男の子だった。
「…キュアスピカ……よくもこのオレの顔を見たな…?。」
「それが…どうしたというの…?。」
「…オレの名前は"ナムタル"……クライアス社執行部の"リーパー"だ。そして…。」
"ナムタル"と名乗る男の子が、私に向かって飛び出してくる。
「!!!。」
「素顔を見た者を殺す"アサシン"だッ!。」
両手の爪…カギ爪が私の喉元に迫る。
だけど、今は怖くない…守るんだ、さあやさんを!。
「はあああッ!。」
「むぅッ!。」
咄嗟に左足にバリアを纏い、ナムタルの両手を蹴り弾く。
キックならいける……私は勢いに乗って攻撃に転じる。
「もう退いて、そしてもう私に関わらないで!。」
「調子に…乗るな…!。」
カギ爪に黒いエネルギーが籠る。
それを見たさあやさんは私にアドバイスをくれる。
「"トゲパワワ"の力は"アスパワワ"で対抗出来る!。意思を強く持てば、貴女から溢れている"アスパワワ"が力を貸してくれる!。」
「――はいッ!。」
言われるがままに、私は自分の意思を強く保つ。
人を守りたい…そう思えば思うほど、私の中から光が溢れてくる。
「クソ…アスパワワがこんなにも…!?。」
「やあああああッ!!。」
光を帯びた私の蹴りが、ナムタルの腹部に深く食い込む。
「ごふッ!!?。」
「――ごめんなさい、けど私は…負けられないから…ッ!。」
渾身の一撃。
私はさらに足に力を込め、押し出すようにナムタルを蹴り飛ばした。それは、逃げるのに十分な距離だった。
「さあやさん、ダイガンさん!私が二人を運びます!!。」
「分かった!!。」
…応急処置を受けているとはいえ、ダイガンさんの容体は一刻を争う。彼も察してくれたのか、首から下げている「社員証」を手放した。
「逃げますッ!。」
二人を抱えて大きく跳躍。
何も考えずに一心不乱に逃走する。
「……取り逃がしたか……この失態は"成績"に大きく響くぞ…。」
腹を抑え、ナムタルはスピカの去っていった方向を見つめる。
…………………………………。
――それから数日後、クライアス社は全世界と各支社に向けて「キュアスピカ」の覚醒を大体的に公表した。
"永遠"を壊す我々の「敵」。
全世界の人間は彼女という存在に酷く非難する。
そして、その公表を見た一人の少女が静寂がこだまする摩天楼に佇み、「吹かない風」を感じ取っていた。
「――やはり、"貴女"だったんだね……ハルカ。」
号外に映るハルカの写真を見ながら、その少女はそっと呟く。
最重要指名手配犯「暁ハルカ/キュアスピカ」。
罪状=人々から永遠を奪う革命者。
彼女はこの世界で…そう呼ばれていた――――。
………to be continued。
次回
8話 ルールー・アムール。