HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~   作:やままん

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8話 ルールー・アムール。

 

――……おかしい。

私の計算では、勝率は99%…1%の確率は理論的には不可能に近い数字。

この僅かな"1%"は誤差の範疇…故に、気にする必要も無い数字。

 

キュアエトワールが覚醒してから、我々は幾度も彼女達の排除に乗り出した。各社員が出撃するも全て返り討ち……これまでのデータシミュレーションから弾き出した計算と戦法を各社員に共有し、私が持ち帰ったデータも全て共有している。

 

なのに、「勝てない」。

ありとあらゆる戦術でプリキュア達を追い詰めるも、あと一歩という所で全てを覆される。

一体、何のイレギュラーが発生しているのか……私は考えてみた。

 

 

"キュアブリッツ"。

戦況が激しくなればなるほど、計測不可能な膨大なアスパワワが彼にいつも集まって来る。

まるで"応援"されているかのように……。

この現象は脳内の"データベース"に記録されていない……だから、私の計算がいつも狂うのだと確信した。

社に報告するもその後の進捗が見られない…きっと、社もこの不可解な現象に原因が掴めていないのだろう。

 

 

たった「1%」を覆す力。

私はその現象を調査するべく、彼女達の懐に「潜入」する事にした――――。

 

 

――――――――――――

 

「――ルールー・アムールです。」

 

「ルールーはね、私の家にホームステイしている留学生なの!。」

 

 

…第一段階は、怪しまれないように彼女達の懐に潜る事。

「外国から来た留学生」という設定で野々はなの住まいに潜る事に成功した。

さらに付け加えるなら、彼女の母親「野々すみれ」の知り合いの娘という"設定"を植え付け、記憶操作まで施している。ここまでの細工は完璧…怪しまれる確率は「0%」だ。

 

 

(…データ照合。来嶋燈火…彼がキュアブリッツの変身者。)

 

 

机に突っ伏しながら寝ている燈火に目を向けるルールー。

 

 

「ルールー?。」

 

「……なんでもありません。宜しくお願い致します。」

 

(……あれが私の計算を狂わせるファクター…理解出来ません。生活水準の能力はゼロ……俗に言う「ろくでなし」……それが何故、戦況を覆せるほどの力を有しているのか…あの大量のアスパワワを引き寄せる力がどこに備わっているのか……観察する必要がある。)

 

 

……昼休み。

 

「さ、弁当弁当!!。」

 

(対象が一人になった…データ収集を開始する。)

 

 

そう言って、彼女の目がカメラのように機能する。

クライアス社製のアンドロイド…正式名称「RURー9500」。

見た目は人間の少女と遜色ないが、その身体の秘密はこうした隠密行動に長けている。彼女が記録したデータの精度は群を抜いており、自動的に不要なデータも削除。有益な情報のみ、社に共有するといった優秀な機体性能を誇っている。

 

彼女がこれまで行って来た計算に狂いは無く、その実績も他の社員を差し置いて優秀な成績の数々を残している。

そんな彼女の計算を狂わせる"変数"…それが彼、来嶋燈火だった。

彼の秘密とプリキュア達の変身アイテム「プリハート」の奪取。それが今回の任務だった。

 

 

(…昼食後の睡眠……昼休み終了まで残り4分……。)

 

しばらく観察するルールー。

 

 

――

――――

……何も起こらない。

チャイムの音がなるも、彼は行動を起こさない。それどころか、ずっと眠っている。

私は光学迷彩モードを起動させ、引き続き観察を続ける。しばらくすると、担当教諭が血相を変えて彼を起こしにかかる。ちなみにあの教諭にも"操作"を掛けている。他の生徒にも同様に、私が教室で普通に授業を受けていると"錯覚"させている…何を隠そう、あの場にはキュアエール、キュアアンジュ、キュアエトワールの3名が揃っているのだ。私のこの"観察"を感づかれるわけにはいかない…これは社にとって重要な任務なのだから。

 

 

……放課後。

昼休みが終わってから、教諭に連れ戻された後でも彼は寝ている…いや、今日一日中ずっとだ。私が"転校"して来た時でさえ、ずっと寝ている。

これは私の正体を知っての行動か?私の中の思考回路が彼の行動原理を解明できない。何万通りもの彼の観察結果が反映されるも、行き着く先は全て「エラー」。あの"アスパワワ"を引き寄せる性質がそうさせているのか……様々な憶測が飛び交うも、データの収集はおろかこの行動原理の意味が全く弾き出せない。

 

だが、一つだけ可能性として導き出せたものがあった。

 

―何も"無い"のだ。

彼のこの一連の行動には何の意味も無い。つまり、本当にただ寝ているだけなのだ。

通常、人間の行動原理には必ずと言っていいほどその"意味"が含まれている。

だから、私の中の演算結果がいつも最適解を生み出し、その人間に対する対応を瞬時に導きだせるのだ。

しかし、この男…来嶋燈火だけはこの高性能を以てしても理解が出来ない。

 

あれだけの"変数"として、社から危険視されているというのにその顔どころか素振りさえ見せない。

――理解不能。いくつものパターンから弾き出したこの男の可能性を模索するも、その全てが"エラー"となる。

 

 

下校。

私はもう一度、光学迷彩を用いて姿を消し、この男を尾行する。

何か一つでも有益な情報を持って帰れば報告は出来る。しかし、今の段階では何の報告も出来ない。

「委託業者」ですら、返り討ちにしたのだ…何かしらの力はもっているはず。それに、彼が覚醒した場面で私は居合わせている。これは何かの因果だ…あの時、手を下していれば勝てたのかもしれない…こんな"変数"を生み出さなかったのかもしれない。だからこれは、私の"後始末"でもある。

 

そんなことを考えながら尾行を続けていると、彼は立ち止まった。

 

 

「ん~…なんか、後ろに居る気がするな…。」

 

 

…気付かれた?。

そんな馬鹿な…この機能は高性能の探査機を以てしても捕捉出来ない程、周囲に溶け込ませている…実体があるにせよ、距離を離している上に人間の持つ感覚では決して気付くことが出来ないはず…。

 

だが、その心配は何の意味も無かった。

 

 

「はは、お前一人か…なら、楽勝かもな。」

 

 

("係長"……私とは別に、彼もこの男を追っていたか…いや、そうじゃない。功績を挙げなければこのままでは"左遷"コースだ。手柄欲しさに単独行動していたか……。)

 

 

「お前はえっと……誰だ?。」

 

「んなッ!?幾度もお前らの邪魔をして来たこのチャラリートを忘れたのかッ!?。」

 

「あ~…居たなそんなの。んで、何の用だ?帰って飯食いたいんだけど。」

 

「こちとら、お前達に邪魔されまくって立場が危ういんだよねぇ…このままじゃ"左遷部屋"行きだ。だからさ、ここでオレちゃんの踏み台になってちょうだいよォッ!!。」

 

 

指を鳴らすチャラリートの背後から、車型のオシマイダーが現れる。

物陰に隠れたルール―はこれを好機と見て、彼の…来嶋燈火のデータ収集を始める。

 

 

(僥倖…というべきでしょうか。私が発注するまでもなく、キュアブリッツのデータ収集を始められる…それに、今回は彼一人……より多くのデータを集めることが出来る……これは、係長に感謝しなければなりませんね。)

 

「おおいッ!話聞いてたか!?今はお前の相手してる場合じゃねぇってのッ!。」

 

 

突進して来た車型を横っ飛びで避けた燈火はそのまま転がりながら「ブリッツハート」を取り出す。

 

 

「ミライクリスタル!チェンジ、ブリッツッ!。」

 

 

雷鳴と共に激しい落雷が彼に当たると同時、その姿を変えて電撃を払う。

 

 

「暗い明日をぶっ飛ばす!雷のプリキュア、キュアブリッツ!。」

 

「出たなキュアブリッツ!。さあやれオシマイダー!。この戦いにオレちゃんの立場が掛かってんだからなぁッ!。」

 

 

チャラリートの指令に従う車型はさらに突進を仕掛けてくる。

ただの突進だが、受けるわけにはいかない…ブリッツはその場でジャンプし、攻撃を躱す。

 

 

「よっし、狙い通りだ!。さぁ、奴の視界を奪っちゃいな!。」

 

「!!?。」

 

 

マフラー部分から、黒煙を吐き出す。煙幕に見立てたその黒煙は全ての視界を奪うほどにまで濃く、それに。

 

 

「うおッ!?ゲホゲホッ…!。」

 

「オシマイダーッ!!。」

 

 

動きの鈍ったブリッツは鉄塊による全力の突進をモロに受けてしまう。

激しく吹き飛んだブリッツは木に激突し、灰の中の空気が一気に吐き出された。

 

 

「まだまだ!。そのまま挟み潰せ!!。」

 

 

ギュルギュルと音を立てながら、タイヤが高速回転する。アスファルトから煙を発生させながら、また突進を繰り出してきた。

 

 

(クソ、潰されてたまるか!!。)

 

 

何とか意識を保ったブリッツは横回転でその突進を避ける。激突した車型は木々をなぎ倒しながらドリフトしてこちらに迫って来る。

 

 

「ほうら逃げろ逃げろ!。じゃないと潰されちゃうよォッ!?。」

 

 

半ば、腹いせにように攻撃指令を繰り返すチャラリート。

自分をここまで追い詰め、苦渋を味合わせてきたプリキュア達に仕返ししたかった気分なのだろう。

元々、彼は調子に乗るタイプだ。自分が優勢であればある程、その傾向がある。木陰から冷静に分析し続けるルール―は彼のその"短所"を見抜いていた。

 

故に、こう思う。

 

 

 

"詰めが甘い"…と。

 

 

 

 

「どうらあああ!。」

 

 

逃げに徹していたブリッツが、順応し始める。

繰り返される突進を避け続けていた彼は何も、ただ避けているだけでは無かった。攻撃を見極め、その隙をずっと探っていたのだ。

 

これまで幾度も、クライアス社との戦いを重ねて彼は「戦術」というものを身に着けた。いつもはさあやが冷静に敵を分析し、その弱点を教えてくれていたが先陣を切って戦うその戦法から自分でも「思考」しなければいけないと感じていたからだ。特に、あの「委託業者」との戦いを経験してから。

 

 

(ただ闇雲に殴るだけじゃあダメだ。相手の動きを見て、殴れる場面で殴る…それが……!。)

 

「――今ッ!!。」

 

 

必要最低限の動きで避けたブリッツは、サイドミラーを掴んで取り付き、左の拳でガラスを叩き割った。

 

 

「んなッ!?。」

 

「それ見ろ!やっぱ"運転手"が居たッ!。」

 

 

そう、このオシマイダーは二段重ねだった。

彼は"運転手"と"車体"それぞれに区分するオシマイダ―を2体、発注していたのだ。

狙い通りとなったブリッツは、運転席に居る運転手型の頭を掴んで車から引きずり下ろし、制御を失った車型が壁に激突する前に飛び降りた。

 

 

(戦闘に関する順応力…成程、これも彼の強さの秘密でしたか……。)

 

「はッ…看破したからってなんだ!。こっちは2体のオシマイダーなんだぜッ!?。」

 

「おいおい、ならなんで二段重ねにしたんだ?。その車型、運転手がいなけりゃただ突進してくるだけしか出来ねえからだろ?。煙幕撒いたりドリフト掛けてきたときに思ったんだ…「こりゃ、運転手が居るな」って。」

 

 

引きずり降ろされた運転手型は戦闘能力がそもそも無い。だからか、怪物にしてはやたらと狼狽えている。

それを見たチャラリートは、思わず声を上げてしまった。

 

 

「何してんだ、戦えよッ!。それか、早く車に戻って……。」

 

「もう遅ェよ…ッ!。」

 

 

その刹那、ブリッツは両足に電気エネルギーを纏って勢いよく飛びつく。

 

 

「まずは…一匹ッ!!。」

 

「!!!。」

 

 

――10万ボルトッ!。サンダージャベリンッ!。

 

 

電撃を帯びた手刀が、運転手型を容赦なく切り裂いた。

"トゲパワワ"が消滅し、素体となったタクシー運転者の制服ごと焼き払われた。

 

 

(浄化能力は無い……オシマイダーそのものを破壊しましたか…。)

 

 

「くッ…こうなりゃ、オレちゃんが直接運転して……。」

 

 

バックする事すら出来ない車型は壁に突っ込んだまま、前進しようと吹かし続けていた。

しかし、もう遅い…一体目を撃破したブリッツがすぐさまにターゲットを切り替えていて。

 

 

「30万ボルトッ!ライジングキックッ!。」

 

 

強烈な飛び蹴りが車型に炸裂。右足に纏った電撃が電子部品に流し込まれ、燃料に引火して爆散。

周囲には素体となった車の残骸が転がっていた。

 

 

(嘘だろ…滅茶苦茶じゃんか…ッ!。)

 

「次は…お前か?。」

 

 

爆炎に包まれながら、血みどろとなったブリッツがじっとりとチャラリートを見つめる。

 

 

「お、お前馬鹿か!?。あんな爆発を食らって自分が死ぬとも思わないのかよッ!。」

 

「あ~……そりゃそうだな、考えて無かったわ。でもま、生きてるしなんでもアリだろ。そんでどうすんだ、お前が直接来るか?。」

 

「くッ……次こそは……ッ!。」

 

 

まるで捨てセリフを吐くかのようにチャラリートはその場から逃げ去っていく。

 

 

―――――

 

 

「はあ…はあ……クソ、なんでこうも勝てないんだ!。」

 

 

林に逃げ込んだチャラリートは焦りと怒りに呑まれ、声を荒げる。

すると、そこにルール―が現れて。

 

 

「係長。度重なる業績不振で貴方の"左遷"は現実味を帯びてきました。」

 

「…何それ、嫌みのつもりかいバイトちゃん…。」

 

「いえ、事実を伝えたまで。ですが、貴方が今回行った行動は私にとって有益なデータをもたらしました。」

 

「有益なデータ…?。」

 

「はい。キュアブリッツの力……分析と同時に、私は彼の力の根源を探っていました。貴方が仕掛けた襲撃のお陰で、彼は戦闘に関しての思考力が向上していると結果が現れています。つまり…このままでは成長を続けて手が付けられなくなることでしょう。」

 

「何が言いたいんだよ!?。」

 

「提案です。貴方の発注したオシマイダーを私が制御します。制御中枢を私が司れば得たデータをそのまま反映することができる…もちろん、これは貴方の手柄となりますので成功すればこれまでの業績不振も全て覆ることになるかと。」

 

(…貴方のその欲を利用させてもらいますよ、係長。)

 

 

 

………to be continued。




次回
9話 機械仕掛けの少女。
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