HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
「――本当に、うまくいくんだろうな…。」
追い詰められたチャラリートは、3体目のオシマイダーを発注。素体となったのは林業用のチェーンソーだ。
「キュアブリッツの戦闘データを解析した私が遠隔操作でオシマイダーを制御します。バックアップデータも共有していますし、戦闘能力は40%の向上を想定しております。」
「その40%で全てがかかっているんだぞ!?。」
「では、これまで通りに襲撃をかけますか?そうなれば、業務完遂率は限りなく0%に近いかと……。」
冷徹に、そして淡々と少女は言葉を並べる。機械のように、無感情で。
彼女は功績など興味がない…いや、理解出来ない。出世にも興味は無いし、今の立ち位置で何ら問題は無い。
そう、自分は……"アンドロイド"なのだから。
設定されたプログラムに従い、会社の利益になる事を優先する。感情など持ち合わせていない。他人が出世しようが降格しようが、はては解雇されようがどうでもいい。会社が下した判断こそが正しいものなのだから。
しかし、出世欲に駆られた人間ほど利用価値のあるものは無い。特に、自分の"席"が追い詰められた人間ほど、後先を考えない。それほど、クライアス社の"左遷"というものは残酷なものなのだ。
彼…チャラリートはもう後がない。ここで失態を重ねてしまえば"左遷"は確実だろう。
この機械仕掛けの少女の提案を蹴る選択肢など……もはや、無い。
多少の泥水くらいは飲んでも良い…自分より立場が下な彼女にこのような言われ様をされるのは癪に障るが…今はそんなことを言ってられない。ここでうまくいけば、自分はまだこの地位に居られる。苦労して手に入れたこの地位を、易々と手放せるものか。
彼を突き動かすのは功名心だ。ここでイレギュラーであるキュアブリッツを倒せば、数々の失態を覆すどころか、出世も夢じゃない。
焦りと功名心に駆られた彼の目は濁り切っていた。
「信じるぞバイトちゃん。なら、今度こそ奴を仕留めてやる…!。」
「はい、おまかせを。」
――狙い通り。
後はこの作戦を遂行するだけ。失敗しようが、有益な情報は得られる。成功すれば、有害因子の排除だけではなく、彼の立場も安泰する。
この結果がどうなろうが、組織にとっては貴重なデータとなる。
"イレギュラー"キュアブリッツの戦闘能力の解析。
私にとっての優先事項はこのタスクなのだから。
―――――――――――
「…逃げたなら、もういいや。」
チャラリートを追って林に入り込んだブリッツは辺りを見渡し、その静けさに警戒を解く。
(今日も派手に怪我しちまったなァ…どうしよ、これ。)
傷付いた手足を見ながら、変身を解こうとしたその時――――――
『オシマイダァァァ!!。』
「な、なんだぁッ!?。」
ブオンと、駆動音を上げて木々をなぎ倒しながら、3体目のオシマイダーが現れる。
不意を突かれたブリッツは横っ飛びで回避。だが、切断された木の一本が自分に向かって転倒してきた。
「しつけェな…ッ!!。」
両足に電撃を纏わせ、反応速度を上げて回避。何とか下敷きにならずに済んだが、チェーンソー型のオシマイダーがこちらを補足する。
「まだいたのかよッ!。」
「キュアブリッツ!お前を倒すまでは帰れないんだよッ!。」
声を荒げるチャラリートに、ブリッツは痛む身体を押して前に出る。
(行ける!奴は手負いだ!このまま押し切って…!。)
『同期開始。』
木陰に居たルールーの瞳が光り輝く。瞬間、チェーンソー型オシマイダーの額に取り付けられたデバイスが怪しく光る。
「バケモン相手なら…!。」
握り拳を固めて、殴りかかろうとした―――。
「……なッ!?。」
その巨体から想像しえない反応速度で避け、そして―――。
「ぐううッ!?。」
両腕のカッターを駆動させ、ブリッツを両断しようとする。間一髪、何とか避けたが先の戦闘で負った傷が開いて血が噴き出した。
だが、その隙をルールーは逃さない――。
『キュアブリッツの戦闘パフォーマンスの低下を確認。計算…従来の20%減。』
「クソ…ッ!。」
度重なる波状攻撃、そしてこちらの攻撃が全て防がれてしまう。まるで、手の内が見られているかのように。
「こうなりゃ、一気に決めて―――。」
『右腕にエネルギ―反応…このパターンは。』
ルールーは脳内にインプットされた情報を即座に引き出す。
これまでに得たキュアブリッツの戦闘スタイルとその能力…度重なる襲撃によって得たいくつかのパターンを瞬時に引き出し、確実に対応する為。
技、力……その全てが、自分のデータベースに記録されている。
「10万ボルト!サンダージャベリンッ!!。」
繰り出される必殺の一撃。
これで倒せなかった敵は居ない…そう、思っていた――。
『パターンセレクト。インストール開始。』
ルールーはこれまで得たブリッツのデータから今のモーションを選択して割り出した回避パターンを選択。
チェーンソー型のオシマイダはルールーから送られた回避パターンをそのまま模範し、ブリッツの攻撃を回避した。
「何ッ!?。」
空振りしたその隙を、ルールーはもちろん見逃さない。
すぐに反撃の一撃が繰り出され、ブリッツは空高くに打ち上げられた。
「おお…マジでやったのかッ!?。」
全身を駆け巡る痛み。先の戦闘の疲労感と相まって、意識が薄れていく。
しばらく空を舞った後、重力に引っ張られて地面へと落ちる。空は暗くなり、ポツポツと雨が降って来る。
倒れたブリッツは動かない。やがて雨が強くなり、無情にも土砂降りの雨が彼に叩きつけるように降り注ぐ。
そんな沈黙を破ったのは…チャラリートだった。
「やった…やった……やっと奴を倒したぞ!。」
地面を叩きつける大粒の雨音にも拘らず、彼の歓喜が林中にこだまして。
しかし、ルールーはずっと倒れているブリッツから視線を逸らさない。彼女の視覚センサーに内包された生命バイタル情報が彼の"死"を告げていないのだから。
(…これで終わる…?。いや…まだ、息はある…確実に倒さなければ、この危険因子はまた立ち塞がって来る…。)
ルールーはチェーンソー型オシマイダーの制御に集中する。
今までのパターン全てを引き出し、立ち上がってきた際の対処からこのまま意識を手放し、倒れたままの状態に至る全ての行動パターンを予測しながら。
ここで確実に消す。
彼女の思考回路は"殲滅"へとシフトされていく。
「これでオレちゃんの左遷は無しだよなバイトちゃん!!。」
立場の安泰を確信したチャラリートは下卑た声でそう言う。しかし、彼女は答えない。
今はそんなことはどうだっていい。目の前に現れたこの最大のチャンスを逃すわけにはいかない。彼を倒した後、この戦闘データを持ち帰って今度は他のプリキュア達を―――。
命を奪わんとする両腕のチェーンソーが残酷な音を立てながら、彼の命脈を立とうとしたその時―――――。
『……高エネルギー反応?。空から…!?。』
全く予想もしていなかったところから、膨大なエネルギーを観測したルールーは動きを止める。
増援?いや…そんなはずは……。
想定していない事態に、彼女の計算に狂いが生じた。
そのエネルギーの正体は、黒い雲から発せられた"雷"。
そして、一瞬の稲光の後に一筋の閃光が倒れたブリッツに直撃した。
立ち込める煙が掃けた後、そこには直撃雷を受けたブリッツの身体に淡い光が纏わりついていた。
『観測……これは…"アスパワワ"!?。』
異常値とも言える"アスパワワ"を観測したルールーの脳裏に危険信号が発せられる。
無論、その事を理解していないチャラリートは、木陰に居るルールーに怒声を上げる。
「何やってんだよバイトちゃん!。アイツ、まだ動いてんじゃんかッ!!。」
再び、焦りに駆られたチャラリートを尻目に、ブリッツはゆっくりと立ち上がった。
「ってて……まさか、避けられるとはな………いちち、全身が痛ェ……。」
「理解不能…何故、こんなにも"アスパワワ"が満ち溢れて…?。」
戸惑いながらも、ルールーは攻撃指令を送る。
「もう…くらうかよッ!!。」
両腕を交差し、振りかざされた腕部の一撃を受け止める。
(……10万ボルトじゃ防がれた…30万……いや、もっと上だ……ッ!。)
歯を食い縛り、踏ん張りを効かせながら瞳に闘志が宿る。
一度、防がれた渾身の一撃の3倍…いや、5倍以上の力を以てこのバケモノを倒す必要がある。
その闘志に呼応するように、纏わりついたアスパワワが更なる力を彼に与える。
「50万ボルトォォォッ!。エボルト・ギアッッ!!。」
叫びと共に、雷雲から途轍もない落雷が彼に直撃する。
敵はおろか、自分も理解出来ない…砂煙が去ると、自分の身体に蒼い電気がバチバチと音を立てながら帯電していた。
(…攻撃…じゃない…?。この力はデータにない……更新する必要がある…。)
「…なんだこりゃ…電気がバチバチと……ん?。」
ブリッツは身体中から湧き出てくる確かな"力"を感じ取る。
それに対して、チャラリートは狼狽えて。
「だ、大丈夫なんだよなバイトちゃん!。」
『…想定外…身体能力の向上を確認……比率は……。』
「うおらァァァァッ!。」
地面を蹴って、ブリッツはチェーンソー型のオシマイダーを殴り飛ばす。
目にも止まらに速さと比較にならないほどのパワー…明らかに先ほどとは打って変わり、この新たな力は純粋なる身体能力の向上…つまり、フィジカルのみの強化技。
「このまま…ぶっ飛ばすッ!。」
自分の距離へと詰めたと同時、怒涛の攻勢に入る。
その全ての攻撃は彼女の中にあったデータ数値を上回り、「error」とだけ、表示される。
しまいには脳内データベースからアラートが鳴り響き、まともに制御できなくなる。
形勢逆転…一気に劣勢に立たされたチャラリートがかなり狼狽えた様子で慌てふためき、自分を呼ぶが最早そんな雑音は入ってこなかった。
想定外の事態、しかしこのデータだけは持ち帰らなければいけない。
彼女の回路は殲滅プログラムから、分析へと変わる。故に、攻撃を貰い続けて出来るだけ多くのデータを取る。
彼女が選んだのは……敗北する事―――。
しかし、いくら分析を掛けても有効なデータは収集出来ない。自分の処理能力を遥かに上回る彼の力。最早、"数字"では表せない程、このイレギュラーは"異質"過ぎる。
何より、自分を混乱させたのはあの異常な量の"アスパワワ"。
初観測からずっと謎だったその"体質"がさらに謎に変わる。
そして、遂に―――。
「50万ボルト!サンダージャベリンッ!!。」
『エボルト・ギア』で強化された『サンダージャベリン』の威力は強化され、防御態勢に入ったチェーンソー型のオシマイダーは腕ごと破壊され、その圧倒的な電撃が内部の電装系に干渉してショートを引き起こした。
「んなああッ!?。」
爆散。オシマイダーは断末魔を上げることなく、壮大な爆発と共に散っていった。
――――――――――――――。
「………彼は"左遷"されたのね。」
クライアス社あざばぶ支社。
「空白」となったその"席"を見た幹部陣…その一人、「パップル」はため息交じりにそう発言する。
無論、その声色には消えた仲間への気遣いなどではなく、蔑んだような感情が見受けられた。
「当たり前だろう。度重なる失態を許すほど、我が社は寛容ではない。無能は無能らしく、地を這いつくばっていれば良い。」
「あらら…冷たいのね。ま、所詮その程度だったって事。ところでルールーちゃん…持って帰ってきたデータはこちらにも共有してくれるのよね?。」
「…はい、勿論。しかし、その全てが記録出来たわけではございません。結局、戦況を覆されたあの"アスパワワ"の異常発生までは突き止められませんでした。」
「ほう、結論は?。」
「彼…キュアブリッツはデータでは対策出来ません。あの非科学的な力を解明出来なければ、形勢逆転を強いられてしまうと結論付けました。」
「ふうん……それはあくまで"データ"での話でしょう?。でも、その警告は心に留めておきましょう。」
(…この"変数"は何をもたらすか…私は引き続き、彼の観察を行う。全ては社の為……彼の存在はいずれ、クライアス社を混乱させる要因へ昇華してしまう可能性があるのだから…―――)
………to be continued。
次回
EX04 時の災害。