HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
この世界から"プリキュア"という存在は居なくなった。
それはこの世界を統治する"クライアス社"が彼女達に勝利したからだ。
争い事はいつだってそう、勝利した者が正しいとされる。未来を否定したクライアス社が勝利したという事実こそ、この世界にとっての正義。つまり、プリキュアは悪となる。
そんな"悪"と定義されるプリキュアに私は…変身した。
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『臨時ニュースです。全世界指名手配犯である"キュアスピカ"こと、"暁ハルカ"の目撃情報が多数寄せられ、その共犯者である薬師寺さあやもまた、容疑者と共に逃走中とのことです。近辺の皆様はクライアス社への情報提供を義務とし…
――――。』
「…どの番組も私達の事ばかりだね。」
うんざりとした表情で、さあやさんはテレビの電源を切る。
私達は今、クライアス社に追われている。その理由はニュースキャスターが言っていた通り、私が指名手配されているからだ。
"平穏を奪う革命者"。
私はそう言われている。別に革命なんて起こそうとも考えてないし、私にはそんな度胸も力も無い。臆病者で泣く事ばかりしか出来ないただの女だ。
"プリキュア"になった事がそもそもの罪になるのだろう。彼らは躍起になって私を追い続ける。そして、その場に居合わせたさあやさんだってその昔はプリキュアだった。
11年前、クライアス社に負けたプリキュアの1人…今は変身能力も失ってひっそりと街外れでお医者さんをしていた。けど、あの日…私が"キュアスピカ"へと覚醒したあの日に、私を逃すために一緒に逃げた事でこの人まで追われ身の立場へとなってしまった。
その意味では、私はこの人の平穏を奪ったとも言えるだろう。でも、この人は私がプリキュアになった事にある希望を抱いたと言う。
『――この暗い世界で唯一、光を持った貴女がたった一つの希望なの。」
逃げ道中、私にそう語り掛けてくれた。
特別な力を得たからと言って、私が強くなったなんてそんな事はない。この嫌になる性格は変わらないし、戦う事は怖い…死ぬことと同じく人を傷つけるのが怖い。だから、さあやさんはその後にこう言ってくれた。
『貴女1人に背負わせるつもりはない。ゆっくりと決めればいい。』…っと。
だから、少しだけ前を向けた。
ずっと、俯いている訳にはいかないよね。この人達だって、同じ運命を受け入れて最後まで立ち向かったんだから。私にはやるべき事がある。さあやさんだけじゃなくて、他のプリキュアの皆さんを…そして、あの時私を助けてくれた"お兄さん"を探してお礼を言う為に。
何よりも、居なくなったお姉ちゃんとまた会う為に。
だから、前を向こう…前を向き続けて歩いていこう。
私は一歩ずつ、前に進むことを決めていた。
「はい…どこに行っても、私達の居場所がないように思えます。」
「ダイガンさんが手配してくれたこの家も、時間の問題かもしれない。」
そう、私達が今、ここで身を潜めている場所はダイガンさんが提供してくれた空き家だった。あれからあの人はさあやさんの治療を受けてクライアス社に戻っていった。
去り際のあの人のことをよく覚えている。
あの人は去り際に「私はおそらく、"左遷"となるだろう」…そう言っていた。
"左遷"が何を指すかは分からない。けど、私が考えている以上の処罰だと思う。けど、そんな罰が待ち受けているにも関わらずあの人の表情は堅く決意したものだった。そして、最後に…「ありがとう」と言って去って行った。
あの眼差しは覚悟を決めた目だ。何が来ようが全てを受け入れて前に進む…そんな目だった。
その影響もあるのかもしれない。こんな世界でも、みんな力強く生きている―――。
だから…希望はまだある。そんな気がして、私は自分を奮い立たせる。
こんな性格だから、少しでも不安になると一気に飲み込まれてしまうから。
「さあやさん。そろそろここを出ませんか?。」
状況を鑑みて、私はそう提案する。
一瞬、驚いた表情をしたさあやさんだが、どのチャンネルを回してもずっとこんな報道ばかりを見ていたせいか、状況を理解したこの人はコクリと頷いて。
「うん…私も、同じことを考えてた。一つの場所に留まるのは流石に限界だし…人が少なくなったタイミングを見てここを発ちましょう。数日分の生活品は私が積み込むから貴女は隠れてて。私より貴女が捕まる方がいけない事だから。」
――それから、どれだけの時間が経ったのだろう…いや、時間という概念そのものがとうの昔に切り捨てられたこの世界でそれを気にするのはおかしい事だ。人通りが少なくなったタイミングを見計らって、ここを出る。そう決めた。そして、そのタイミング…窓の外を見ながら、さあやさんが私に目配せする。車のエンジンをかけ、すぐに乗り込んでは逃げるようにその場を去る……全世界に指名手配されているんだ。普通に暮らしている人達だって、私に敵意を向けてくる。
車内。
しばらく進み、さらに人気のない場所を目指して突き進む。もう、暮らしていた家には戻れない。スマホだって置いてきた。電源を落としてもクライアス社が取り仕切る位置情報技術ですぐに追いつかれるからだ。
「…辛いよね。何とかしてあげたいけど…ごめんなさい。今の私ではこれが精一杯だから…。」
「いえ…大丈夫です。"赤ちゃんの声"を聞いたと知られた時からきっと、こうやって追われる生活を送る事になったのだと思うし…それに、その時に比べたら今の状況の方がまだマシだと思えるんです。その…一人じゃないから…。」
「…ハルカちゃん…。」
「……さあやさん。少しだけ、良いですか?。」
「どうしたの?。」
「……11年前、さあやさんの他にもプリキュアが居ましたよね?。その…教えて欲しいんです。あの人の事を……"雷を纏ったあのお兄さん"の事を。」
「!!!。」
私のその質問に、さあやさんは驚愕してから黙り込んでしまった。
もしかしたら、いけない質問だったのかな…でも、どうしても知りたいんだ。"あの人"の事を。
泣きじゃくる私とお姉ちゃんの前に現れたボロボロのあの人……今にも倒れそうなのに、力強い目で私達に笑いかけてくれたあのお兄さんの事を。
しばらくしてから、さあやさんは道の脇に車を停める。そして、何かを決心したかのように呼吸を整えて口を開いた。
「"彼"の事を覚えてくれているんだね。」
…"覚えて"?。
凄く、意味深なその言葉に私は理解が追い付かなかった。
「…彼の名前は「来嶋燈火」。雷のプリキュア"キュアブリッツ"に変身していた男の子だよ。」
「来嶋…燈火……あれが、あのお兄さんの名前……。」
「そう…11年前、幾度も無く私達を助けてくれた大事な仲間…誰よりも前に出て、いつもボロボロになるけど必ず何とかしてきた人だよ。もしかしてハルカちゃん、彼と会った事がある?。」
「会ったというより…凄く一瞬の事でしたけど私とお姉ちゃんを助けてくれたんです。あれは凄い嵐でした…空が真っ赤になって、全てのものが崩れていくような…そうだ……時間が止まったこの世界になる前だったかな……空に現れた大きな穴が全てを吸い込んで、世界が終わるような大きな嵐……。」
「!!!。もしかして"あの時"に居合わせたの!?。」
聞いたことのないさあやさんの大きな声に私は思わず驚いてしまった。
何か、焦ったような…でも、こんな表情は初めてで。
「は、はい…えと……ど、どうしたんですか……?。」
「…私達がクライアス社に敗けた事だけどね…その嵐が原因なの。あれは"時の災害"といって、クライアス社が最後に仕掛けたもの…彼は…トーカ君はあの嵐を止めるために空に開いた大穴の中に飛び込んで…行方不明になってしまった。」
「行方不明…ですか……。」
「ええ…あの後、命からがら生きることを選んだ私達は水面下で彼を探し続けたけど…見つからなかった。今だって何の手がかりも無い。」
――そう、告げるさあやさんは何処か凄く悲しそうだった。
その"燈火さん"と言う人の事だけじゃなくて、あの時一緒にいた仲間の人たちの事も思い出しているんだろう。
それに、責任も感じてるんだと思う。
こんな世界になってしまったのは自分達のせい…もし、あの時自分達が敗けていなかったら…きっと、そう思っているんだと思う。それに対して私は何も言えなかった。ううん、どう言葉を掛ければいいか見つからない…今だって私はこの人の守られている。私に関わらなければ、例え嘘であっても平穏は保てたはず。それなのに、この人はその平穏を捨ててこうして一緒に居てくれている。だからと言って、私が何かできるわけでもない。特別な力を持ったとしても、心は弱いままだ。11年前に世界を守る為に奔走していたさあやさんに向かって励ますなんて…とても出来ない。
でも……勇気を出して、言葉を絞り出す。
「――私も…探します。」
「…え…?。」
「あの人にちゃんとお礼を言いたいんです。こうしていられるのも、あの時身を挺して助けてくれたから…それに、こんな世界ですけどこうやってみんな生きています。それは、さあやさん達が一生懸命に戦ってくれたからですよね。結果はそうなっちゃたんですけど、それでも……私達は今を生きています。」
「ハルカちゃん……。」
そう言って、私はミライクリスタルをグッと握り締める。これは私の"未来"。色は真っ白だけど、これは"未来"への証。この色を染めるのは世界の在り方じゃない…きっと、自分自身なんだ。この何もない世界でちっぽけだけど"未来"を見ることが出来た。11年前からのバトンはきっと今ここで私に受け継がれたんだと思う。
私が目指す未来は………――――。
その時、前方から複数の車がやって来る。
「!!!。」
「追いつかれた!?。」
さあやさんが慌てるように車のエンジンを掛け、後方に逃げようとする。しかし、後方からも同じ台数の車が現れる。
囲まれた。
そして、先方の車から一人の男が降りてきた。
「全く、手間を掛けさせる…もう逃げ場はないぞ。」
「……"エクスキューショナー"…!。」
「エクス…キューショナー…?。」
「貴女がキュアスピカとして覚醒した日に仕掛けきた「人材派遣会社」の名称だよ。」
「無駄口をたたいている暇なんてあるか?。社の命令だ、お前達二人には叛逆罪の容疑が掛かってる。大人しく投降しろ。」
「……叛逆罪……それって、何の…ですか…?。」
気が付いたら私は彼らの目の前に立っていた。自分でもびっくりする…けど、「叛逆」といった言葉が何となくだが引っかかっていた。
「わざわざ言う必要もあるまい?。まず、貴様が最重要事項だ。"赤ん坊の声を聞いた"事と"プリキュア"に覚醒した事…それらが罪状となる。」
「…それだけで罪になるんですか……?。」
「…何が言いたい?。」
「……私はともかく、さあやさんは関係ないじゃないですか!。ただ、私を守ってくれただけッ!。それなのに…!。」
「貴様を匿った罪だ。それだけで同罪となる。」
「…答えになってません…!。」
「そんな戯言は牢屋の中で叫ぶと良い。さあ、手を煩わせるな。我々は忙しいのだ。」
…納得できない。
さあやさんの罪状はきっと、違う意味がある。多分だけど…私が"原因"だと思う。
この人は11年前にクライアス社と戦った人……私が覚醒したことにより、閉じた芽がまた開花することこの人達は恐れている。
私が"証拠"だから。ミライクリスタルが現れた事…あの"赤ちゃんの声"を聞いた事…つまり、"未来"への可能性はまだ残されているという事―――。
「行きません。私達は…"未来"を諦めません…!。」
「言ったな?。なら、実力行使に移る!。」
迫り来る刺客の手。でも不思議と…怖くない。
その手には私の"未来"が握り締められていて。
「ミライクリスタル!。ハート、キラッと!。」
暗い世界を貫くかのような一柱の光。
そして…。
「輝く未来を護り抜く!閃光のプリキュア、キュアスピカ!。」
――私は…戦う。
………to be continued。
次回
EX05 たった一つの希望。