HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
『――――やああああッッ!!。』
慣れない動きで、私はクライアス社が送り込んできた刺客を突き飛ばしていく。
やっぱり、人を傷つけるのは性分ではない。いくら決意を固めたとしても、手が震えているのは隠せない。
けど、それはただの自分に置かれた状況という話…今は、守りたい人がいるから。
何も、全滅させる必要なんてない。隙を見て逃げればいい。私はさあやさんの手を掴んで、刺客の合間を縫うように突き進んでいく。
『ごめんなさいさあやさん。巻き込んでしまって。』
手を引き、走りながら謝る。
「それは大丈夫って話だよ。けど、ここまで嗅ぎ付けられたら流石に身を隠す場所が限られてくるね…。」
『どこか、心当たりがあるんですか?。』
「―――うん。私を抱えてもらえる?。道案内はするから。」
そう言って、私は失礼ながらさあやさんを抱えて走り出す。改めて思うと、"プリキュア"の力って本当にすごい。
まるで人間ではなくなったみたいに、身体が軽い。運動も苦手な私が、ここまで速く走れる上に人一人抱えても疲れない。途中、車とすれ違ったりしたが追い越せるぐらいのスピードだって出せる。
ここまですごい力を持っても、敵わない敵がいる…それにきっと、さあやさん達はもっと強かったはず。
そう思うと、『クライアス社』という巨大すぎる力はどれ程にまで恐ろしいのか……。
自分の手にした力と、待ち受けている"壁"の恐ろしさを改めて感じたのだった…――――
「――ここだよ。」
逃げ込んだ先。そこは森の中に佇む小さな小屋だった。
もう、随分と留守になっていたのだろう。周囲には苔が生えており、見るからに廃墟といった佇まいだ。
でもどこか、さあやさんは懐かしむかのように、その小屋を見て物思い耽った表情をしていた。
『えっと…ここは……?。』
「――11年前、みんなで集まってお話したり、お店を開いたりして…ここは私の思い出の場所なんだ。」
そう言って、寂れた小屋の中を歩き、並んだマグカップを見て微笑んでいた。
流石に11年もの間で放置されているからか、部屋の中は埃っぽく、かつてそこにあった賑わいも今はどこにもない。埃被ったマグカップがそう思わせる。
何かあるといけないから、私は変身した状態のままでいた。何より、この姿の方がほんの少しだけ勇気が湧いてくる…そう思って、解かないというのもあるのだけれど。
「ここなら、人気も少ないから身を隠せるとは思う。でも、散らかってるから落ち着かないってのもあるのだけれどね。」
『いえ……あの、私は大丈夫ですので、さあやさんは休んでて…―――』
「大丈夫。ちょっとだけ、お話に付き合ってくれる?。さっきの続き。」
――"時の災害"。
あれは、未来からやってきた「ハリー」が言っていた、未曾有の大災害の名称だ。
その名の通り、「時間」という概念を捻じ曲げて全てを壊すもの。世界の時間が狂い始め、空は赤く光り、その世界にある"在り方"が全て捻じ曲がってしまう。
そのメカニズムは謎が多く、未来でも何も分かっちゃいない。
ハリーがやってきた世界線の歴史と今の歴史は大きく異なり、『ズレ』が生じている。
つまり、今のこの世界は「本来あるべき世界」ではなく、大災害が起きたせいで捻じ曲がってしまった「もう一つの歴史」なのだ。
私たちがクライアス社に負け、敗走したときにハリー本人に聞いたからわかる。彼が歩んできた世界の歴史と実体験から少なくともこの大災害は「起きていない」。
そう思うと、私達が覚醒したことだって「本来の歴史」から遠ざかり、違う世界線を生み出す要因になっているという事。
あの頃はただ世界を救うために奔走していたが、大人になった今ならわかる。
「"プリキュア"に覚醒した私達」という、本来無いはずの過去からの改変が"大災害"が起きてしまった原因の"一つ"なのかもしれないと。
だから、この結末はある意味で言えば「本来の未来」に近い形なのかもしれない。"時間"という概念が、この世界の歴史を戻すべく起きた災害…"プリキュア"というイレギュラーを排除しようと、世界が下した"判断"なのかもしれない。
そう思うと、私たちの敗北は"最初から決まっていた"という事になる。
けど、そんな結末を易々と受け入れられるほど、まだ諦めちゃいない。この暗い世界が"本来の在り方"であったとしても、少なくとも本当の幸せなんてものは微塵にも感じられない。全てが仮初の幸せ……そこに"幸福"なんてあるに思えないのだから。
けど、その在り方を覆せるほどの力は今の自分には無い。あったとしても、散り散りになった仲間たちの行方なんて知らないし、彼女たちだってもう受け入れてしまっているのかもしれない。まだ私だけが諦めていないだけで、他の皆はもう馴染んでしまったのかもしれない。
――抗う事は、私のエゴなんだと思う。けど……それでも『間違っている』と叫ぶことだけはまだ出来る。
少なくともこの子……"あの子"の声を聞いたハルカちゃんに会えたのだから。
…身勝手なことだって、重々承知している。無責任な事だって分かっている。けど、私はどこか心の奥底の隅で彼女に"賭けたい"とも思ってしまった。だから……こんな事を聞いてしまった。
「――もう一回聞くね。貴女は…この世界を"変えたい"?。」
――さあやさんから飛んできたこの言葉の意味……何となく分かる。
その優しくも輝いている瞳の奥にはどこか、"後悔"を感じたから。けど、本心を隠してまで答えるわけにはいかない。だから、私はこう答えた。
『…分かりません。』
…これが、今の私のできる精一杯の答えだった。
私は行方が分からなくなった"お姉ちゃん"さえ見つかればそれでいい。お姉ちゃんを見つけた後、今度は"おじさん"を探すんだ。本当はあの時、私達を助けてくれた"燈火さん"も探すつもりだったけど…さあやさんのお話からするに、あの人はもう"何処にも居ない"。それに、私もクライアス社から指名手配されてしまっている。もう、静かに暮らすことだけを考えた方が楽になれるのかもしれない。
………でも…本当にそれでいいのだろうか?。
今、脳裏に浮かんだことは私だけの"未来"。さあやさんの言葉はきっとみんなの"未来"を思っての事。
ここで私が"変えたい"と言えばどういう顔をしてくれたのか…"分かりません"といった言葉にもその優しい表情は変わらない。でも、"変えたい"と言えばきっと…――――――
――その時、小屋の外が騒がしくなる。
「…追手が来たようだね。ここもダメ…か…。」
何かを決心したかのように、さあやさんが立ち上がる。
『…何をする気ですか?。』
「…私が思いつく場所はもう何処にも無い上に周辺住民も抱き込んでる。正直、二人でこのまま逃げるのは不可能に近いでしょう……だから、貴女だけでも逃げてほしい。」
『!!!。そんな…捕まっちゃいますよ!?。』
「それでも、貴女が捕まるよりかは何倍も良いよ。今は街の全てが追手の状態…身を隠したところで目撃されてしまえばすぐに追手が来る。私をかばいながらでは、きっと逃げ切れない。それでも、難しいけど少しでも確率が上がるのなら……。」
『ダメですッ!!。』
目尻に涙を溜めながら、私はこの人の手をグッと握り締めた。
情けない…"プリキュア"になっているというのに、身体だけは今のさあやさんよりもずっと頑丈なのに…どうしても心だけは弱いままだ。それなのに、11年前の心の傷がまだ癒えていないこの人が、私を逃がそうとしてくれている。自分を犠牲にしてまで、私の"未来"を考えてくれている。
そっと、私の手を包み込むように、さあやさんは私に語り掛けてくる。
「…ごめんなさい。さっきの質問だけど、押し付けようとしちゃった。」
『…え……?。』
「……本当はというとね、11年前に私たちが成し遂げられなかった事を貴女に押し付けようとしちゃった。あの答えで貴女が"変えたい"っていえばきっと…期待してたから。勝手な話よね、貴女には貴女の"未来"があるというのに。」
『そ、そんなこと…!。』
「…ここからは残酷なことを言うね?。もうあまり時間が無いから、多くは語れないけど……貴女が聞いた"赤ちゃん"の声とその力は"未来"を取り戻せる唯一の希望の力なの。それを手にしてしまった時点で、貴女の運命は大きく歪んじゃったことになる。逃がれられない運命っていえばいいのかな…私たちが歩んだ運命と同じ道筋を往く事になる。」
――次に、私の手を握るさあやさんの力が強くなる。
「でも、これだけは覚えておいて欲しい。どんなに険しくて苦しい道でも、貴女が未来を諦めないかぎり、必ず道筋は現れる。ご家族を見つけることだって出来る。けど、この暗い世界のままでは本当の幸せなんて絶対に訪れない。仮初の幸せなんてものは必ず崩れるものだから。だから…―――。」
一発の銃声が、さあやの背中に突き刺さる。
『!!!。さあやさんッ!!。』
「出てこないものだから~…撃っちゃった。警告で撃ったつもりだったけど運が無かったのね、きっと。」
中に入ってきたフードを被った女が手にした銃からは煙が出ていた。その悪気の無い様子に初めから撃つつもりだったのだろう。撃たれた背中からは血がしとどに流れてくる。
「正確…無比……急所を撃ちぬいてきて何を……ゴフッ…。」
『さあやさん!!さあやさん!!。』
「…コイツが11年ぶりに現れた"プリキュア"?。何、泣きわめくだけの子供じゃない。何を手こずってるのかな…あいつら。」
『ッ…ぅううう………このッ……!。』
何とかしないと…そう思った私は、この女の人に向かっていこうとした。けど、さあやさんがその手を止める。
「ダメッ!。今の貴女じゃソイツには敵わないッ!!。」
『でも…でも…ッ!!。』
「行って!!。医者だから分かる…の…!。私はもう……!!。」
『嫌ですッ!!。まだ助か……ッ…!。」
「行けッ!!!。」
『!!!。』
鬼気迫るその表情とその怒声からあの優しいさあやさんの面影は感じなかった。気圧された私は後ろに後ずさりながらも、大粒の涙を地面に落とす。
「……託して…いい……?。幸せな………"未来"……を。」
――今にも閉じそうなその虚ろな目で、さあやさんはいつもの優しい声で私に問いかけてくる。
それは紛れもなく、彼女から出た"本心"。そこにあるのは気遣いじゃない…"希望"だ。
……決めた。今、ここで。
『……はい………!。』
「………頼んだ……ね………"過去"に………あの…………"災害"を……止め………。」
掴んだその手から眩い光があたりを照らす。クライアス社の刺客であるその女は銃を構えるが、その眩しさから狙いが定まらない。
(……受け取りました…さあやさん……。)
そして、私はそこから姿を…消した―――。
やがて光が収まると、そこには刺客の女と息絶えそうなさあやだけがそこに居た。
「…何をしたの、貴女…?。」
「……最後に残った……"希望"だよ……絶対にこの世界は変わる!。あの子が…"キュアスピカ"が絶対に…!。」
――容赦なく響く銃声。起こされた撃鉄がその弾を弾き、さあやさんの左胸に突き刺さる。
(……みんな………"たった一つの希望"を"そっち"に送ったよ……………後は………)
――――――――――――――――
「……ぅ………。」
心地よい風と顔を照らす木漏れ日に、私は目を覚ます。
あれからどうなったのかは正直、覚えていない。覚えているとしたら、意識を失う直前に見えた希望に満ちたさあやさんの顔だ。
気付けば私は変身が解け、森の中で目を覚ます。
その瞬間、凶弾倒れたさあやさんの事を思い出した。涙を拭い、私はゆっくりと体を起こす。
「…もう、泣かないから…………。」
ここが"何処か"なんてすぐに分かった。
11年前の"はぐくみ市"。
世界の命運が分かれた11年前の……世界。
私は"未来"を託されて………「時を超えた」。
「HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~」
………to be continued。
次回
ep.1 "雷光”と"真珠星”