HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~   作:やままん

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3話 "天使"、キュアアンジュ。

 

 

――この学園には、"天使"と呼ばれる女の子がいる。

頭脳明晰、容姿端麗。極めつけは「思いやり」がある。こんな完璧な人間がモテない訳がない。事実、男子からのアプローチは数えきれないほど受けている。だが、彼女は悉く丁重に"お断り"している。何故なら、彼女はそんな高スペックな人間にも関わらず、自己評価がとても低いからだ。自分の未来に向き合う勇気がないから、「他人の為に何かする」くらいしかやることが無いと、彼女はいつもそう思っている。優しさを振り撒いているのは勿論、その為だ。他人の為に、自分が出来ることをしたい。いつしか、彼女は自分の"未来"から遠ざかっていた。

 

そんな矢先、「野々はな」が転校してきた。転入初日、見た事もない髪形でやって来た彼女はこれまでに無い人間だった。狙ってやったのではなく、単なる事故…しかし、前向きなその姿勢に少しばかりか、"憧れ"に近い感情も抱いて。そして…"羨ましい"と思った。

 

彼女はいつも、"未来のビジョン"を描いている。「完璧な人間になりたい」。そう思って、やれることは全部やろうとする。未来に向かって、その未熟な翼で羽ばたこうとする姿はとてもカッコよくて、"未来"と向き合う勇気が無い自分には無いものを彼女は全て持っている。

 

 

少女"薬師寺さあや"は、今日も"彼女"の観察を続ける――――

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「えぇ……マジで嫌なんだけど…。」

 

 

登校中、はなから渡された「あるもの」を手に、凄く嫌そうな顔をする燈火。

彼女は当番があるからと、先に学校に向かっていった。そして、その渡されたものとは。

 

 

「…「バレそうになった時の誤魔化し方」……なんでこんな本を…それに、これ……。」

 

 

渡された手作り感満載の本を見る。イラストははなが手掛け、著者は「ハリハム・ハリー」。つまり、隠すことを全くしなさそうな燈火を懸念して、ハリーが夜通し手掛けた本だった。

 

 

「これ読んで、放課後に何処読んだか聞かせろって…ガキじゃあるめェし…。」

 

 

ブツくさ言いながら歩く燈火。その時、誰かとぶつかる。

 

 

「きゃ…!。」

 

「おお、すまねェ!よそ見してたもんで……あれ、委員長じゃねェか。」

 

 

ぶつかった少女…「薬師寺さあや」は落ちたメガネを拾い上げ、目を向ける。

 

 

「来嶋君。ごめんなさい、怪我はしてない?。」

 

「何言ってる、ぶつかったのはオレだ。こっちこそ…って、メガネ…!。」

 

「あ……。」

 

 

拾い上げたメガネのレンズは見事にひび割れ、使い物にならなくなっていた。

 

 

「おわああッ!。ほんっとうにすまねェ!どうしよ、弁償…ああ、オレ金持ってねェやッ!。」

 

「いいよ。古い方だし、そろそろ替え時だったから。」

 

「でもよ…!。」

 

「大丈夫、本当に大丈夫なの。気にしないで?。」

 

 

ニッコリと笑みを浮かべるさあや。その無垢な笑みに、流石の燈火も申し訳なさが勝つ。

このまま、何もしないわけにはいかない…そう思いながら、この失態をどう詫びようか…ジッと考えていた矢先。

 

 

「遅刻しちゃうよ?。」

 

「あ…ッ!。」

 

「私、先に行くね?遅れないように。」

 

 

そう言って、走っていくさあや。ふわっと、羽のように去っていく彼女に燈火は結局、何も言えなかった。

 

 

そして…―――

 

 

 

「……なあに?仏頂面して。朝から変だよ?。」

 

 

昼休み。

弁当を広げながら燈火は考え込んでいた。そして、いきなり立ち上がると。

 

 

「よし、決めた!。委員長への詫び!。」

 

「い、いきなり何ッ!?。ああ、私のお弁当が!!…めちょっくッ!!。」

 

 

机の上にぶちまけられた弁当の中身を見ながら、絶叫するはな。しかし、それを気にも止めずに燈火は勢いよく教室を飛び出す。

 

 

「ちょ…トーカ!ご飯そのまんまだよぉ!?。ああ、行っちゃった…もう、何なの…?。」

 

 

………………………………。

 

 

「たのもーッ!。」

 

 

会議室。

各クラスの委員長達の会議中、燈火はバンっと勢い良く扉を開ける。

 

 

「な、何だ君は!?。」

 

「えっ、来嶋君ッ!?。」

 

「やっぱここに居た!。委員長、メガネの事だけどやっぱ詫びを入れてェ!。いいって言ってくれたけど、このまんまだとモヤモヤする!。」

 

「え…えぇッ!?そんな事の為にここに来たの!?。」

 

「おおうッ!って…マズかったか?。」

 

「流石にね…会議が終わってからでいい?話、聞くよ?。」

 

「おうッ!そんじゃ、外で待ってるわッ!。」

 

 

そう言って、嵐のように去っていく燈火。一瞬の騒ぎに、会議の内容が殆ど飛んでいく。

 

 

「な、何だったんだ…?。」

 

「ごめんなさい、クラスメイトの子なの。大丈夫、悪い人じゃないから。その…ちょっと、突拍子の無いところと落ち着きがないだけで。」

 

 

窓の外から見える燈火の影を見ながら、思わず笑ってしまう。

 

 

 

(あの騒がしさ、野々さんに似てる。)

 

 

 

 

――それから。

 

 

 

「お待たせ。」

 

「ああ、いきなりですまねェな。流石にメガネを弁償する金が無ェから、詫びの方法を考えた!。」

 

「え、いいって。そんなに気を使わないで?。」

 

 

遠慮するさあや。しかし、燈火はそんなのを全く聞かずに――。

 

 

「今日から一カ月、委員長の手伝いをするッ!。」

 

「て…手伝い…?。」

 

「そうだ!。学校の雑用でも何でもオレに言え!。」

 

 

フンっと、胸を張る燈火。

そんな彼に思わず、笑ってしまう。

 

 

「何笑ってんだよ!?。」

 

「ごめんなさい、おかしくって。でも…うん、一カ月は流石に長いからこれをお願いしようかな?。」

 

「うん?なんでも言え!。」

 

「じゃあ、お友達になりましょう。」

 

 

"お友達"。

それを聞いて、目を丸くする。

 

 

「はぁ?そんなんでいいのか?。」

 

「うん、それがいい。それに、野々さんも…ね?。」

 

 

"何か"に気付いたように、近くの木を除くように見るさあや。ビクッと、跳ねる影が一つ。そして、声を掛けられた"主"はのっそりと出てきて。

 

 

「あはは……バレてましたか…。」

 

「オメェ、何やってんだよそんな所で。」

 

「トーカがおバカな事やってないか見に来たんだよ!。そしたらさ、薬師寺さんに絡んでるし!。」

 

「絡んでねェよ!。それに、バカな事もやって……あれ、してるっけ?。どうだ、委員長?。」

 

「どうって……うん、少しおバカな事…かな…?。」

 

「嘘、マジで!?。」

 

「…それにしても、お友達になりたいって…。」

 

 

それを聞いたさあやは、少し儚げな顔をしながら二人を見つめる。意外な表情…二人は声が出ない。

 

 

「それは本当だよ。前から思ってたんだけど、二人は本当にすごいなって思えるの。自由な発想があって、思った事をすぐに行動に移す。それでいて、自分に正直でとても純粋。私には出来ない事…私には"無い"もの。なりたいもの、やりたいことを心のままに出来る。それって、凄い事なんだよ。だから、お友達になりたいって、ずっと思ってた。」

 

「薬師寺さん…。」

 

「委員長でいいよ?。」

 

「ううん、"委員長"と話してるんじゃない、私は"さあやちゃん"と話してるの!!。」

 

「!!!。」

 

 

真っ直ぐに、一点の曇りもない表情で彼女の手を掴みながら言うはな。

…こういう所だ。彼女に"興味"を持った所は。純粋に、自分に正直に、そして取り繕う事も無く、心のままに"自分"という人間だけを見てくる彼女。

 

 

「オレは誰にでも優しく出来るアンタの方が勇気あると思うけどなぁ。だって、そうそう出来ることじゃねェだろ?。それがアンタの良い所なんじゃねェ?。」

 

「来嶋君…。」

 

「だから、その"友達"になりてェって気持ち、こっちからも願ったり叶ったりだ!。そうだろ、はな?。」

 

「うんッ!!。」

 

 

心からの気持ち。

一点の迷い無し、その純粋さに思わず笑みが零れる。

 

しかし、その時―――。

 

 

 

 

「オシマイダ―!!。」

 

 

校舎に突然、怪物の声が響き渡る。

その怪物の声に聞き覚えのある二人は戸惑うどころか、目付きが変わって。

 

 

「トーカ!。」

 

「おうさ!学校に来るなんてな、暇なんじゃねェのかッ!?。」

 

 

騒ぎの中に飛び込もうとする二人を見て…。

 

 

「危ないよ!?。」

 

 

制止するさあや。しかし、二人は力強い眼差しで見つめながら――。

 

 

「大丈夫、さあやちゃんは安全な所に避難してて!?。私達は逃げ遅れた人がいないか見てから避難するから!。」

 

「おおうッ!。オレ達ゃ"プリキュア"だ!!。」

 

「え…"プリキュア"?。」

 

 

…言ってしまった。隠すことなく、迷うことなく。

しかし、悠長に構えている暇は無い。ここは学校だ、まだ生徒達もいる。ここで大暴れされたら被害がとんでもないことになる。

そう思って、二人は校庭に駆け出していく。そんなさあやは…二人を放っておけなかった。

 

せっかく出来た"友達"…自分に無いものを持っている人達。

優しい彼女は"友達"の為に出来ることをしようとする。先走っていく二人を追いかけ、そこに。

 

 

 

「オシマイダー!!。」

 

 

見たこともない生物。いや、"怪物"。

最近、この「のびのび町」を騒がせている件の怪物がそこに居て。そして、その前には…"友達"二人が立ちはだかるように。

 

 

「野々さん!木嶋君!。」

 

「えっ、さあやちゃん!?。」

 

「仕方ねェ、やるぞはな!正体がどうとか言ってる場合じゃねェだろ!委員長が…"友達"が巻き込まれちまう!。」

 

 

背に腹は代えられぬ。友達1人が傷付くくらいなら、自分達の"素性"がバレて避けられる方がマシだ。それに、自分達の事を心配してこんな危険を犯してくれた彼女を思うと、隠すなんて出来ない。

 

意を決し、はなは「プリハート」を取り出す。

 

 

「さあやちゃん!出来ればみんなに内緒にしててね!?。大丈夫、絶対に守ってみせるからッ!。」

 

「えっ…野々さん、何を言って……。」

 

「行くぞッ!。」

 

 

続いて、燈火も自身の変身アイテムを取り出す。二人は流れるように、それぞれの"戦士"へと姿を変える。

 

 

「ミライクリスタル!ハート、キラッと!。」

 

「ミライクリスタル!チェンジ、ブリッツッ!。」

 

 

眩い光が辺りを照らし、オシマイダーはその動きを止める。近くにいたさあやは不思議な感覚に満ちる。初めて見るはずなのに、何処か「既視感」を感じて。

 

 

「輝く未来を抱きしめて!!みんなを応援!元気のプリキュア!キュアエール!。」

 

「暗い明日をぶっ飛ばすッ!雷のプリキュア、キュアブリッツッ!。」

 

 

「へ…変身…した…?。」

 

「はぁあああッッ!。」

 

 

最初に飛び出したのはキュアエール。今度のオシマイダーはクレーン車に取り憑いた「重機型」だった。

 

 

「また重機かよ!今度はクレーン車ってか!?。」

 

 

先手を仕掛けたエールの攻撃が炸裂。しかし、相手はビクともしない。確実に当たったはずなのに、手応えを感じないエールは反撃を受けてしまう。

 

 

「ああッ!!。」

 

「こんにゃろぉおお!!。」

 

 

エールを受け止め、今度はブリッツが仕掛ける。頭上に黒い雲が現れ、雷がその手に落ちた。

 

 

「10万ボルトッ!サンダー…ジャベリンッッ!。」

 

 

轟音と共に、手刀が炸裂。だがエールの時と同様、大したダメージが入らない。全く効いていないわけではないが、重い一撃を入れても先日のオシマイダーの時とは違い、決定打に至らない。

 

そして、反撃。クレーンの特性を活かしたフックによる振り回し攻撃で二人は直撃を受けて校舎に突き刺さるように叩きつけられる。

 

 

「ああ!!。」

 

 

崩れた瓦礫から弱々しく立ち上がる二人。所々に血が滲んでいる…無理もない、あんな一撃をまともに受けて平気なわけがない。しかし、それでも二人の闘志は揺るがない。

 

何故なら、ここには守るべき人達がいるから。仲間が戦おうとするから。ここで引けば、さあやも傷付く。そして、誰かの"未来"までもが奪われる事になる。それだけは認めない。その思いが二人を奮い立たせる。

 

 

「未来は絶対に守る!。」

 

「仲間が戦うんだ、こんなもんでへこたれるオレじゃねェッ!。」

 

 

気持ちが全く折れない二人を見て、さあやの心に"光"が芽生えた。その光はやがて形となり、彼女の手の中に青い"ミライクリスタル"が現れた。

 

 

「何…これ…?。」

 

「え、まさか……!!。」

 

 

頭の中で情報を整理するさあや。この宝石を使って、二人は変身した。そう、"プリキュア"と呼ばれる戦士に。ならば、これを使えば自分だって…。

 

――しかし、躊躇する。

こんな怪物と戦うなんて、夢に思わなかった。それに、自分にはそんな経験はない。勇気も…無い。けど……。

 

 

「ううん、出来るよね……私の中にも、勇気が!。」

 

 

――そんな不安を自分自身で吹き飛ばした。

何よりも、"友達"の為に。自分の未来に向き合う勇気がないが故に、他人に優しくする事しか、やることが無い。自分に自信が無いが故に"逃げ"に走っていたこの感情が、自分の背中を押してくれた。これは、"逃げ"では無い…"勇気"だと。

 

 

そして――――。

 

 

「ミライクリスタル!。ハート、キラッと!。」

 

 

少女は"選択"した。自分自身の前に現れた"未来"を。

 

 

「輝く未来を抱きしめて!みんなを癒す、知恵のプリキュア!キュアアンジュッ!。」

 

 

その場に、羽が舞い落ちる。

青い衣装に身を包んだ"天使"のような戦士……キュアアンジュ。

自分の未来に勇気を持てない少女が選んだ"選択"。二人の前に、守るように立って。

 

 

「オォシマイダァアアッッ!。」

 

 

クレーン型のオシマイダーが放ったフックが弾丸のように向かってくる。

 

 

「フレフレッ!。ハート・フェザーッ!。」

 

 

手を胸の前で組み、大きなハートを描いてバリアを形成。攻撃を難なく弾き飛ばした。

 

 

「す、凄い…ッ!。」

 

「二人とも聞いて?。あの怪物はクレーン車だから重心が上に集中しているの!だから、足元さえ狙えばバランスを崩して思うように動かなくなるはず!。」

 

「マジかよ!。通りで胴体にぶちかましてもビクともしねェわけだッ!。」

 

「サポートは私がやるから、二人は足元に潜り込んで!?大丈夫、上手くいくからッ!。」

 

「分かった!。その役目はブリッツ、頼んでいいッ!?。」

 

 

エールからの頼みを聞き、拳を鳴らすブリッツはコクリと頷いて。

 

 

「おっし任せろ!オレが倒したら元に戻らねェならエール、トドメはオメェに任せる!。突っ込んで足元を掬ってやるよッ!。」

 

 

そう言って、前進するブリッツ。それに付いていくように、後ろにはアンジュが居て。

 

 

「前だけを見ていて!?攻撃は私が全部防ぐからッ!。」

 

「頼りになるねェ、任せとけッ!。」

 

 

作戦通り、足元を狙うブリッツ。それに気付いたオシマイダーはフックを回収してさらに振り回すも…アンジュの鉄壁によって悉く防がれてしまう。

 

「誰も傷付けさせないッ!。」

 

「よっしゃああ!。コイツで…どうだッッ!。」

 

 

ブリッツの右足に放電現象が発生する。

 

 

「10万ボルトよりも更に上のッ!30万ボルトだぁああッ!。」

 

 

地面を蹴って、右足を突き出す。

 

 

「ライジング…キックッッ!。」

 

 

高電圧を帯びた飛び蹴りが炸裂。その威力は想定を遥かに上回り、地面を抉り取りながらクレーン型オシマイダーの脚部を完全破壊した。

 

 

「一撃でッ!?。」

 

「今だエールッッ!。」

 

「うんッッ!。」

 

 

エールの「プリハート」が輝きを増す。そして、両手首の飾りがポンポンへと形を変えて。

 

 

「フレフレッ!。ハート・フォー・ユーッ!!。」

 

 

身体の前に大きなハートを描き、ピンク色の浄化光線を発射。態勢を崩したクレーン型オシマイダーが校舎に倒れ掛かる寸前で直撃。そして…。

 

 

「ヤメサセテモライマス!。」

 

 

何とも幸せそうな表情で浄化され、"トゲパワワ"が消え去っていく。全ての戦闘を終えると、そこで起きた事は嘘のように壊れたものが全て元に戻っていく。それを見たブリッツが頭を掻きながら、関心のある表情で。

 

 

「おぉ、これが言ってたやつかー…。」

 

「ありがとう、キュアアンジュ!。」

 

 

緊張感から解き放たれたのか、アンジュがホッと胸を撫で下ろした所を

エールが満面の笑みでその手を取る。

 

 

「私はその…。」

 

「いいじゃねェか、自信持てよ。アンタの助言が無かったら詰んでた所だった。あんがとよ、おかげで助かったぜ。」

 

「ねェさあやちゃん!私達と一緒に、"プリキュア"やろうッ!?。」

 

 

手を差し伸べるエールに、アンジュは迷う事なくその手を取る。

同じ秘密を持つ"友達"。それでいて、自分の勇気を気付かせてくれた"仲間"達。その答えは勿論。

 

 

「うん、よろしくね!はなちゃん、トーカ君!。」

 

 

笑顔で応え、その手を取るアンジュ。こうして、"プリキュア"は三人となった―――。

 

 

………to be continued。




次回
4話 迫る影。
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