HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
「――それで、"我々"を起用すると…?。」
クライアス社・あざばぶ支社。
応接間に通された男性と対話をするのは「社長秘書」のリストル。その男性はアタッシュケースを脇に置き、身なりも整えている如何にも「社会人」といった風貌の男性だ。
「はい。我が社の社長…「プレジデント・クライ」は貴方方のお力添えを所望しております。」
「力添えを…ね。その当人がここに居ないのは、少しばかり説得力が無いとお見受けしますが…?。勿論、社長秘書である貴方が役不足というわけではございません。私も一介の"営業マン"…社を背負ってこうして"取引"をしているのですから、それに見合ったものがなければ快くお受けします…と言い辛いもので。」
「……仰る通りでございます。」
「申し訳ございません、少しばかり意地悪が過ぎましたね。これも職業柄…相手の出方を伺うのも手腕が問われるものでして…何せ、"我が社"は厳しいもので。ご了承いただけると大変、嬉しく思います。」
「それに関しては、貴方の言う通りだと。しかし、社長は現在不在でして…まことに申し訳ございません。」
頭を下げるリストル。その男は立ち上がり、彼の謝罪を遮るように。
「いえいえ、頭を上げてください。さて…今回、御社が我々に"委託"したい仕事ですが……良いでしょう、お受けしますよ。」
その男は目の前の書類に目を通し、あっさりと受け入れる。
あまりにも簡単に事が進んだ事に、リストルは少々不審に思う。彼とて、社長秘書の肩書を持つ中間管理職の立場にある人間。疑い深いのは当然だ。この"腹の探り合い"に、不意を突かれたと感じてしまうのも無理はない。
だが、その男は出された"条件"に納得した様子だった。
「"我々"の仕事は「プリキュアの排除」…それに見合った報酬は御社の事業に介入できる権利を獲得する…こちらとしても大変名誉な事です。クライアス社ほど巨大な企業の仲間入りが出来るとなると、社の安泰が約束されたようなもの…寧ろ、そんな高待遇で良いのですか?。」
「ええ。これは社長の意思ですから。貴方方のご活躍は耳に入っております。達成率100%…受けた仕事は期待以上の成果を上げる…これぐらいの報酬など、当たり前だと。」
「お褒め頂き、誠に光栄です。では、契約成立…ということで。」
男は去っていく。
リストルは1人、窓の外を見る。
「よもや、あのような"委託業者"に依頼するとは…「エクスキューショナー」…物騒な名前の会社だ。」
机に置かれた名刺を見る。
人材派遣会社「エクスキューショナー」。通称:死刑執行人。
その名の通り、彼らの事業は依頼主の敵対勢力及び敵対会社の"排除"と"壊滅"。受けた依頼の達成率は100%。その実績は依頼においては信頼に足るものだが、彼らの生業は"過激"そのもの。それに、契約の報酬が事業の介入を許すという、思い切ったものだ。リストルは思う「本当にこの者らをクライアス社に引き込んでもいいのか」と。
いくら、社長命令だとしてもこのような危険な"会社"を傘下に収めるのはリスクが高すぎる…執念深い彼はそう思う。
「――"リーパー"の派遣事業か…さて、これが吉と出るか凶と出るか…お手並み拝見と行こうか。」
――――――――――
「…さて、仕事だ。」
クライアス社のビルから出て歩く先ほどの"営業マン"「ネルガル」はネクタイを緩めて身なりを乱す。そして、「ある人物」に連絡を入れる。
「俺だ。今しがた、クライアス社とデカい契約を交わしてきた。今回のターゲットはなんとあの"プリキュア"だ。」
(マジですかい、こりゃ腕がなりますね!。)
電話の先は高揚感に溢れた声で、その内容に歓喜の表情を浮かべていた。
「既に3人目が現れている。だが、先に"芽"を刈り取ろうと思う。そうすれば餌がひょいひょいとやってくるはずだ。」
("芽"…ですか。そんじゃ、目星は付いてるんで?。)
「ああ。"未来"からの情報は受けている。そして、この"芽"は…闇に堕ちやすい。」
そう言って、ネルガルはその電話の先に「ある少女」の画像を送る。
「コイツを刈り取り、餌を呼べ。やり方はお前に任せる。『リーパー№,Ⅳ"ヘル"』。」
"ヘル"と呼ばれた電話の先…青髪の男は目を輝かせながら、立ち上がる。
「ええ、お任せあれ。仕事はきちんとこなしますんで。その代わり、ボーナスを弾んでくれるよう、"社長"に繋いでくだせェよ?。」
彼らの狙いはラヴァニール学園に通う少女「輝木ほまれ」。
彼女を利用してプリキュアを誘き出す。そして、その"暗雲"が動き出した――。
……………………………………。
「――このままだと、進路が心配だな。」
職員室。
担任の先生に呼び出された燈火は机の上に並べられた各教科のテスト用紙を見せられる。
数学「4点」、理科「6点」、国語「9点」、その他etc……。
見るも無惨なテスト結果に、流石に危機感を感じられたのかこうして放課後に呼び出しを食らってしまっていた。
しかし、当の本人は…特に気にしない――。
早く帰りたいのか、欠伸が出そうになる。
「ま、気にしてもしょうがねェよ。次、頑張りゃそれでOKだ!。」
「そんな事を言える状況じゃないんだよッ!。」
「うへェ……補習はヤダぞ?。」
「なっ!?君にそんな事を言う権利は…!。」
「輝木ッ!。また屋上に居たって聞いたが授業はどうしたッ!?。」
自分と同じく、先生に注意を受ける少女。彼女の名前は「輝木ほまれ」。スポーツ特進クラスから一般クラスへと編入して来た高身長女子だ。
「すいません。」
「また生返事か?。いいか、今度ばかりは流石に許されないぞ!連続遅刻に続き、授業に出ず屋上に入り浸る…そのくせ……。」
(…相も変わらず説教説教…ほっといて欲しいな…。)
聞き慣れた"説教"。毎日毎日呼び出されては、こうして怒られるのが日常化して来ている。「問題児」として見ているのなら、ほっといて欲しい。彼女はいつもそう思っていた。そして、毎日が…"つまらない"とも。
先生の説教がピークに達した時、"ある一言"がドライな彼女の心に突き刺さる事に。
「――一体、何故こうなってしまったんだ。フィギュアスケート界では、数々の賞を取れるほどの優秀な選手だったというのに……。」
「ッ……!!。」
――"怒り"が込み上げてくる。それと同時に、"トラウマ"も。感情がグチャグチャになり、目の前が見えなくなってくる。気が付けば、机の上に置かれたハサミに手を伸ばそうとしていた。だが…――。
「じゃあオレは帰るぜッ!?あ、コイツも帰りたいって言ってるからこれでいいだろ!?。じゃ、明日から本気出しまーすッ!。」
「え…ちょ…ッ…!?。」
半ば強引にほまれの手を引き、勢いよく職員室を飛び出した燈火。嵐のように去っていく燈火に教師達は何も行動出来なかった。いや、呆気に取られて止めることすら忘れてしまっていた。
そして――。
「いい加減に離してッ!何あんた!?いきなりでビックリしたじゃん!。」
「ん?だってオメェ、帰りたそうにしてただろ。オレも帰りたかったしちょうど良かったんだ。そんじゃーな。」
手を離してフラフラと手を振り、校門を出る燈火。帰り道が同じということもあり、少し距離を置いて彼女は歩く。そんなほまれに気付いた燈火は後ろを振り向いて。
「何だ?オメェも帰り道はこっちか?。」
「…そうだけど…あんた、来嶋…だよね。いっつも寝てる。」
「いつもは余計だ!いや…いつもか?。まぁいいや、オメェは…。」
「ッ…どうせ知ってるでしょ。落ちこぼれて特進クラスから編入した人間だって…。」
ほまれは自分を卑下するように、半分ヤケクソ気味に自分の事を告げる。
編入当初、クラスメイトの目線は"どうして"といった、疑問の眼差しだった。
スポーツ特進クラスに入っている「エリート」。
彼女は推薦により、この「ラヴェニール学園」に入学した。入学当初はいつも輝いており、ずっと打ち込んでいたフィギュアスケートの成績はグングンと伸び、全国大会への切符もあと少しと言ったところだった。しかし、夢の舞台へ上り詰めるあと一歩の所…"ある事故"が起きた。その"事故"以降、彼女はこれまでずっと好きだったスケートから逃げるように、全てを諦めてしまった。
推薦で入った特進クラスで成績を残せない以上、一般クラスに編入するしかこの学園で過ごせる理由が無い。一時は、転校も考えた…しかし、全部がどうでも良くなってきて何事にも打ち込めない…そんな"闇"が気付かぬ内に膨れ上がっていたのだ。それに、彼女はその道の有名人だ。知らない人間などいない。もう、諦めたと言っても過去の栄光がずっとついて回る。それは、自分にとってこの上ない"枷"。一般クラスに来てから「どうしてフィギュアスケートを辞めてしまったのか」と、事情の知らない人間が質問してくる。当然、その者達に何の悪気も無い。でも、蒸し返されたくないトラウマ故に、過激な態度を取ってしまう事もあった。自分は避けられている…でも、これでいい。そうすれば、トラウマをほじくり返されることも無い…後は流れのままに学生生活を送り、世間が忘れるまでほっといてもらおう…そう考えていた。だから、自分から卑下するような事を言う。もう、面倒だから。
――しかし、彼が発した言葉は。
「…そーいやオメェ、誰だっけ?。全ッ然知らねェわ。」
――予想を斜め上所か、全く違う発言だった。
知らない?そんなはずは…編入当初、彼も居た。…ずっと寝ていたが。
でも、流石に毎日の点呼で名前くらいは呼ばれているはず。自分がそこに居ない事も、教師が呆れて「またか」と声を漏らしているのも知っているはず。なのに、彼が発した言葉は「知らない」の一言だった。
「なッ!?。お、同じクラスじゃん!あんた、クラスメイトの事ぐらいは分かるでしょ!?。」
「いんや?。あんま気にした事無ェし、寝て飯食って帰るだけだからイマイチ覚えてねェんだよな。」
「…信じらんない。あんた、何しに学校に来てんの…いや、私も言えないけどさ…。」
信じられない程の奇抜さに若干引くも、自分も変わらない事も自覚する。
――今日から、真面目にしようかな。少しだけ、そう思う。
「オレの事知ってんならオメェは誰だ?。」
「…なんか腹立つな…私は輝木ほまれ。スポーツ特進クラスから編入して来た「問題児」だよ。」
「自分で「問題児」って言うかフツー。ふーん、そんじゃ。」
踵を返してすぐに立ち去ろうとする燈火。何故か、ほまれはムキになってしまう。
「本っ当に癪に触るッ!。何なのあんたは!?。」
「なんだよいきなりッ!。何で怒られなきゃならねェんだよ!。」
「何でって……。」
「お取込み中の所、失礼。」
言い合いをする二人の前に、男が現れる。
「なんだ、道案内か?それならコイツがやるってさ。」
「な…勝手に決めないでよっ!。」
「――輝木ほまれ。うん、間違いない。」
ほまれを見る男は手に持った端末に写る彼女の画像と一致した事に不敵な笑みを浮かべる。
その笑みを感じたほまれは、恐怖と気味悪さで身を震わせる。
「な、何…?。」
「お前が"芽"だ。そして…プリキュアを誘き寄せるッ!!。」
男が声を上げたと同時。一気にその"悪意"が周囲に蔓延する。まるで氷のように冷たく、そして蛇に睨まれた蛙のように身体が全く動かなくなった。
「悪く思うなよ、お前には役に立ってもらう。だが安心しろ、お前も"ターゲット"だ。仲間の所にすぐに行けるさ。」
ほまれの首を掴む男の手には黒いエネルギーが滲み出て、徐々に彼女の身体を蝕む。そのエネルギーは高濃度の"トゲパワワ"。彼女の心の底に眠る"闇"を触発させ、周囲に「ネガティブウェーブ」を行き渡らせる。
しかし――。
「その手を離せこの野郎!!。」
燈火が叫ぶと同時に、彼女を蝕んでいた"トゲパワワ"が薄くなっていく。その特異な現象に、男は当然、驚いて。
(なんだこの濃度の"アスパワワ"は!?。アイツ自身が生み出してんのか?いや……勝手に"集まって"来てる!?。)
一瞬の隙を突いて燈火が石を投げて男の手に直撃させた。
緩んだ拍子に彼女は地面に落ち、乱れた呼吸を整えようと息を大きく吸う。
「ッ…はぁ…はぁ……何…この状況……。」
「下がってろ。」
「はぁ…?何を言って……。」
「いいからオレの言う通りにしろッ!!。」
真剣な声色で放たれる怒声に、ほまれは反論出来ずに言う通りにする。
「…お前…とんでもない量の"アスパワワ"を引き寄せてるな…何者だ?。」
「アスパラ?何言ってんだオメェッ!?。」
(自覚が無いのか?ただの人間がこれだけの"アスパワワ"を引き寄せられるはずが無ェ…もしかして、コイツ…。)
「"プリキュア"かぁああッ!!。」
男は突然、おもちゃを見つけた子供のように歓喜に満ちた表情で"トゲパワワ"を身に纏う。
「え…な、何が起きてるの!?。」
状況が何一つ入ってこないほまれ。それもそうだ、こんな状況…誰が見ても理解できないのだから。
しかし、燈火の目は違った。
「その通りだぁああああッ!。」
声を上げて、「ミライクリスタル・ブリッツ」と「ブリッツハート」を手に男に向かっていく。
「え…ちょ……来嶋!?。」
「ミライクリスタル!チェンジ・ブリッツッ!!。」
突然、空に雷雲が現れては、眩い稲光と共に彼に落雷が落ちる。そして、その姿を変えて――。
「俺は「エクスキューショナー」所属の"リーパー"…№.Ⅳの「ヘル」だ。お前は?。」
変身したブリッツは拳を握り締めて。
「オレはキュアブリッツ!。雷のプリキュアだッ!!。」
………to be continued。
次回
5話 エクスキューショナー。