HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
・通称:処刑代行会社。受ける依頼は依頼主の敵対勢力またはライバル会社の排除であり、その実績は依頼達成率100%を誇る。「リーパー」と呼ばれる実働部隊を所持し、その構成員全員が"トゲパワワ"を自在に操れる力を持つ。また、「未来」とのコンタクトを取ることが可能であり、派遣会社の肩書を持つもののその実態は謎に包まれている。
…互いに向き合うブリッツと『ヘル』と名乗る男。その傍には、ほまれが居て。
理解が全く追いつかないこの状況に、彼女は警察に連絡を入れようとする。しかし――
「スマホの電源が落ちてる!?なんでッ!?。それに、再起動しない…!。」
さっきまで、充電は充分に残されていたはず。それに、あたりの空間がやけに静かだ。まるで、時間が止まっているかのように――
これだけの異質な状況に、周辺が騒がしくない。一体、何が起きているのか…次から次へと情報が入り込んできて混乱すらしてしまう。そんな状況に、ヘルは鼻で笑いながら説明する。
「外野には興味は無いからな。少しばかり、時間を"操作"させてもらった。"仕事"の邪魔にならないように、効率良く…な。」
「え、"操作"?"仕事"?あんた、一体何を……。」
「お前が知る必要は無い、何故なら…!。」
「!!!。」
「闇に堕とすからなァッ!。」
地面を蹴り、両手に黒いエネルギーを纏って自分に突撃してくるヘル。咄嗟に身構えるも、防ぐ術なんてない。逃げようにも、足が盛んで動けない。これは…"恐怖"?。かつての「トラウマ」にも近い、"恐怖"を感じる。
だが…――
「やらせねェよッ!。」
間に割って入った来たブリッツが、両腕を交差させて防ぎ切る。その威力は重く、自分の立っている地面が陥没するほど。何とか踏ん張りを利かせ、歯を食いしばりながら攻撃に耐える。
「き、来嶋!。」
「ぐぅうう……ッ…おぉりゃあああッッ!。」
気合一閃。
強引にヘルを弾き飛ばし、乱れた呼吸を整えようと深呼吸する。そして、両手に電気エネルギーを溜め込んでは今度はブリッツが攻勢に入る。
間髪入れずに拳の乱打を繰り出すも、ヘルは容易く受け流す。根本的な戦闘能力が違い過ぎる、ブリッツはついこの間までは普通の中学生だった。喧嘩だってまともにやった事はない。しかし、奴は手慣れた戦闘者。それに、人を殺す事にも戸惑いが無い。まるで、こっちの繰り出す必死の攻撃を小馬鹿にするかのように必要最小限の動きで捌き続ける。
「おいおい、プリキュアってのはこうまで単純なのか?。それもそうか、クライアス社が仕掛けて来る時はアイツらの操る怪物しか相手にして無いもんな?。だが、"俺達"は違う――。」
「なッ…!?。」
乱打の途中で拳を受け止め、掴まれるブリッツ。何とか振り解こうとするも、拳を引けるほどの力以上に抑えつけられる。
「俺達はプロだ。仕事だ、お前らのような正義のヒーローごっことは違うんだよ。良い機会だから教えてやる、これが…。」
身体が宙に浮くブリッツ。いとも簡単に持ち上げられ、視界が逆さまになった。
「"プロ"だ。」
勢い良く地面に叩き付けられた。背中からまともに落ちたブリッツは肺の中の空気が一気に吐き出される。あまりの衝撃に、意識が飛びそうになった。声も出せない程に。
「悪く思うなよ?。目を付けられた所が悪かっただけの話だ。運が無かったと諦めて死ぬといい。」
手に"トゲパワワ"を込めるヘル。そして、繰り出される手刀。その先は自分の喉元。確実に命を断とうと、急所を狙う。
――これ、死ぬやつか?。
ブリッツは初めて、"死"に直面する。だが、不思議な事に…"怖くは無かった"。それ以上に、負けられない気持ちの方が強かった。全てがスローモーションに見える中、ほまれが手を伸ばしてこっちに走ってくる。
――そうだ。ここでやられると、コイツが狙われるんじゃねェのか?。何で、こんなヤバい奴に狙われてるかは知らねェけど確か…"闇"に堕とすとか何とか言ってたな…。
そう、思いながらブリッツはほまれが言ったことを思い出す。
「自分は特進クラスから編入して来た「問題児」」だと。
その意味を全く知らないが、そう語る時の目は何処か淋しげに、そして全部が楽しくないと言った、希望すらも無い虚無そのものだった。
彼女は何も自分からそうしたいわけじゃ無かった。ただ、周囲が向けてくる「優しさ」に耐えかねて、人を避ける事を選んだだけだった。
それは、自分達が口を出して乗り越えてもらうものではないだろう、これは自分自身の問題だ。だから、何を選ぼうがそれが彼女の自由だ。
しかし…コイツはそれを利用しようとしている。
それが何よりも…「気に食わなかった」。だからこんな所で死んでたまるかと、そんな思いが強く込み上げてくる。
そして、次の瞬間――
「……何…?。」
「うおおおおおおッッ!。」
トドメの一撃が喉に突き刺さる瞬間、白羽取りの要領でヘルの放った手刀を受け止める。そして、身体ごと捻らせてヘルの態勢を崩した。
チャンス…そう感じたブリッツは、拳を固く握り締めて。
「おぉおりゃあああッッ!。」
全力で顔面に叩き込む。まともに入ったヘルはたまらず吹き飛び、鼻から流れる血を抑えながら空中で態勢を立て直した。
(この俺が一撃を貰っただと?。流石はプリキュアといったところか…そりゃ、特別ボーナスも出るってもんだ…!。)
鼻血を拭い、不的な笑みを浮かべるヘル。呆気ない仕事だと思ったが、それよりも愉しさが勝つ。しかし、ブリッツがいきなり問いかけてくる。
「オメェ、何でコイツ(ほまれ)が狙いなんだッ!?。何の関係も無ェだろうがッ!。」
「だから"仕事"だっつってんだろ?。ただまぁ…一撃入れた事に免じて、特別に教えてやるよ。どういうわけか、ソイツは心にデカい闇を抱えている。」
「!!?。」
大きな"闇"。それを指摘されたほまれは何のことかすぐに分かった。そして、身体が小刻みに震える。
「相当な"トラウマ"だとさ。大人になりゃ、そんなもの幾らでも降りかかるがその年頃のガキにとっては耐えかねない程にまでデカい心の傷…"夢"を絶たれたって事がその心に大きな亀裂を生んだって事だ。ま、それはあくまでお前らを釣るための"餌"だ。クライアントからはお前らの始末を依頼されててな、その為ならどんなもんだって利用する。他にもいるんだろ、"プリキュア"…まずはお前から始末して残りの二人も同じように始末する。これで依頼は完遂、仕事も終わりってもんだ。」
高らかに笑うヘル。
だがその時、ブリッツの纏う雰囲気が変わる。
「…コイツの夢を馬鹿にした上に今度はアイツらを始末するって…?。」
「そうだ。悪く思うなよ、仕事だって言っただろう?。」
「…そんなもん、知らねェよ。勝手にやってろ……。」
「……何…?。」
その時、蒼い電撃を纏ったブリッツの拳がヘルの腹部に突き刺さる。
「ごは…ッ…!?。」
「"仲間"に手ェ出すなら手加減はしねェぞッ!。お前をぶっ飛ばして二度と来ねェようにしてやるッ!!。」
激昂するブリッツ。バチバチと、全身に電気が巡っていく。しかし、ヘルはプロだ。もちろん…反撃の一撃が返ってくる。周囲の木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされていく。
「…マグレの一撃が入ったくらいで…調子付くなよォオオッッ!?。」
追撃が来る。防御の態勢に入るが、的確な攻撃にブリッツは血飛沫を上げながらどんどん削られていく。その手には"トゲパワワ"を纏ったナイフが握り締められていて、どうやらコッチが本命の攻撃方法だろう。さっきとは全然動きが違う。
「仲間の為に死を選ぶか、馬鹿だなお前ッ!。どのみち、お前はここで終わりだ!黙って俺の特別ボーナスになれよッ!。」
「ッ…うるせェッッ!。」
連撃の間を潜って、ナイフを持つ手を蹴り上げるブリッツ。そして、裏拳を繰り出して距離を離させる。
「お前はここでぶちのめすって言ったろ、覚悟しろよ!?。」
「チッ…めんどくさいガキだ…そんなに死にたいなら喉笛掻き切って終わらせてやるからそれ以上、喋るなッ!。」
またもや来る攻撃。今度は鋭い蹴りが放たれるが左腕で受け止め、ダメージを最小限に留める。速度、攻撃、技術…その全てが負けている。根性だけでどうにでもならない相手と言うことはちゃんと理解しているが、どうにかして勝つ方法を頭の中で考えていた。
(あの連撃が来りゃ、身体が削られちまう一方だ…パワーなら何とかなる…でも、それだけじゃコイツにゃ勝てねェ…スピード…スピードをどうにかすれば、何とか喰らいつけるかもしれねェ…ッ!。)
「…遺言は考えたか?。仲間に届けてやるぞ?。」
ゆっくりと歩み寄るヘル。"トゲパワワ"が更に濃度を増し、ナイフの刀身が紫色のエネルギーに包まれる。
「…生きるか死ぬかは大した問題じゃねェんだよ。」
「…何…?。」
「ただ、オレがここで倒れたらお前はコイツの心を更に抉る気だろ。そんでもって、アイツらを殺しに行く…だったら、倒れるわけにゃいかねェなッ…少なくとも、オレが踏ん張ればお前は仕事が出来なくなるってわけだ…そうだろ?。」
「ッ……何言ってんの来嶋…!。」
止めに入るほまれは血だらけの彼の手を掴む。だが振り解き、その代わりに見せたのは…笑みだった。
「良いからオメェは下がってろって。大丈夫、何とかするッ。」
「何とかって…このままじゃ、本当に死ぬよあんたッ!。」
「死なねェよ、勝つから。」
そう言って、自ら戦いに出るブリッツ。そして…"アスパワワ"が彼に集まってくる。それを見たヘルは、彼と会敵した時の事を思い出す。
(まただ…"アスパワワ"が勝手に集まって来やがった…なんだあの能力…それに…。)
自身が纏っている"トゲパワワ"の濃度が薄まってきているのを感じ取るヘル。
(…早いところ、勝負を付けないとな……相手はガキでもプリキュア…トップターゲットだ。油断は禁物だな…。)
「…さて、試してみるか…!。」
腰を落とし、纏う電気が更に勢いを増す。
「…何をする気だ…?。」
「スピード、技術…お前に全部上をいかれてる、このまま泥臭くやっても削られるだけだ。だからオレはお前に追いついて…"追い抜く"。」
瞬間、雷雲が空を覆う。バリバリと轟音を発しながら、戦場に集まってくる。
「10万ボルトを超えて30万ボルト…そして、その上の"50万ボルト“だァアアアアッッ!。」
叫びと共に、ブリッツに向かって雷が落ちる。落雷の衝撃で辺りに衝撃波が発生。近くにいたほまれは木に捕まり、吹き飛ばされないように耐える。そして、砂埃が晴れたと同時にブリッツの姿が見える。
「50万ボルト?なんだ、その姿は?。」
――身体中に蒼い電撃が迸り、髪が逆立つ。そして、周辺の金属にも帯電現象が発生。それが絶え間なく、"供給"される形で常にブリッツに電気エネルギーを送り続ける。
「50万ボルト「エボルトギア」。化け物相手じゃなく、お前のような戦闘者に向けての新しい力…お前をぶっ飛ばす為に考えたオレの新しい力だッ!。」
地面を蹴って飛び出すブリッツ。目にも止まらぬ速度でヘルの懐に入る。
「な…ッ…!?。」
「でぇえりゃあああッッ!。」
強烈なアッパーカットでヘルの顎を打ち抜く。それと同時に、音を残すほどの速度で後ろ蹴りを放つ。あまりのダメージに意識が持っていかれそうになるが、目線を離せばそれは敗北を意味する…ヘルは意識を保ち、集中力を向上させる。
しかし――
「…消えた…ッ!?。」
辺りを見渡すも、ブリッツの姿がそこには無い。その刹那、顔面を打ち抜かれるヘル。視認出来ない速度で殴られ続け、ヘルは追い詰められる。速度、パワー…その全てが底上げされ、エンジンのようにどんどん上昇していく。
「ぐおお…ッ…バカな……こうまで……ッ……!。」
「今なら全部が「50万ボルト」だッ!!。」
吹き飛ばされた先にブリッツが現れる。そして、周囲に帯電したエネルギーがブリッツに"供給"される。
「50万ボルトッ!サンダージャベリンッッ!ラァアアッシュッッ!。」
強化された「サンダージャベリン・ラッシュ」による手刀の連撃を浴びせるブリッツ。的確に打ち込まれるヘルは何も出来ない。そして、その「攻撃方法」に覚えがある。何故なら――
(コイツ…俺の連撃を真似して……!?。)
――まさに、自分の得意とする連撃。鋭い一撃が怒涛の嵐のように自分に襲い掛かる。
「ぶっ飛べェエエエエッ!。50万ボルトッ!!。」
「!!?。」
――ライジング・ランスッッ!!。
音速に近い速度の飛び蹴りがヘルに突き刺さる。
「が……バカ……な……ッ!?。」
地面を激しく転がり、その先の建物を崩しながら吹き飛ばされたヘル。
ようやく止まったと同時に、その意識を手放して白目を剥いて倒れ込む。
「はぁ…はぁ…はぁ……ッ…!。」
帯電現象による身体強化が終わったブリッツは「エボルトギア」が強制解除された。駆け寄るほまれ、そしてブリッツは…。
「ほぇええッ!めっちゃ疲れたッ…!!。」
強烈な疲労感により、変身状態も強制解除。その場に倒れ込み、悲鳴を上げる身体と無数の傷によりもう限界だった。
「アイツ…は…!?。」
「うん…ぶっ飛ばされて何処かに行ったよ。その…大丈夫…?。」
「あー……めっちゃ疲れたのと血ぃ流し続けて一歩も動けねェわ…。」
倒れながらフラフラと手を振る燈火の肩を持ち、立たせて歩き始めるほまれ。
「…助けてくれてありがと。せめて、肩ぐらいは持つよ。後、病院に行こう。私が連れて行く。」
「えーッ!?病院はいいよ、めんどくせェ…ッ。」
「このままじゃあんた死ぬよ!?いいから、私の言う通りにしてッ!。」
「…へーい…。」
ほまれに促されるまま、病院に連れて行かれる燈火。そして、ほまれは…。
(私も…あんな風にまた"飛べたら"……。)
絶たれた夢。彼女はまだ…未練があった――。
………to be continued。
次回
6話 残酷な現実。