HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~ 作:やままん
「…何と言う体たらくだ。」
男は崩れた瓦礫の上で倒れる人物を見下ろす。
『ヘル』だ。キュアブリッツに殴り飛ばされ、気を失ったヘルが大の字で倒れていた。しかし、改めてその強大さを思い知った。やはり、一筋縄ではいかない…「未来」からの情報を知る彼…『ネルガル』はヘルが負けるのも無理はないと悟る。
「…運が悪かったのはお前の方かもしれんな。仕事先に奴が…「キュアブリッツ」が現れたのだから。」
"キュアブリッツ"の事を知るネルガル。倒れたヘルを担ぎ、その場を後にする。
「やはり、"現代"でも同じだったか…"アスパワワを集める体質"…世界にも類を見ない特異な体質。しかし、その代償は……。」
夕暮れに照らされる空を見上げながら、意味深い事を言う。
――己の運命がとてつもなく"困難"に見舞われる事だ――
……………………………………………。
――はぐくみ市総合病院。
突如襲来して来た「エクスキューショナー」の『ヘル』を撃退した燈火は、ほまれに連れられてここ、「はぐくみ市総合病院」で治療を受けていた。医師が驚いていたのは、これ程の外傷を受けたにも関わらず、入院の必要性が無いという事。恐らくだが"プリキュア"になった事である程度の耐久性が上がっており、怪我に対しての治癒力が向上しているのだろう。簡単な処置を受けて安静にするよう言われたのみだった。
戦闘を終えてからスマホを見るとはなとさあやからの着信が20件以上入っており、掛け直すと当然の如く怒られた。どうやら、ヘルが周辺に張り巡らせた「時間操作」の影響がはな達にも伝わっていたようだ。現場に来れなかったのは、自分達もその影響を受けて「停止」していたからだという。なら何故、彼に連絡を入れたのか…それは、「はぐたん」に起きた異変からだった。
「時間操作」が解除された途端、突然大泣きしたという。
クライアス社の襲撃を予想し、彼に連絡を入れたが一向に出なかった事がこの着信履歴の真相だ。
そして、病院から出た途端、そこには鬼の形相でズカズカと近寄って来るはなの姿があった。
「トーカッ!!。」
「おう、はなにさあや。なんだ、わざわざ迎えに来てくれたのか?。」
「そうじゃないよッ!。これ、どういう事!?それになんで、輝木さんまでここにッ!?まさか、巻き込んだの!?。」
「トーカ君、訳を聞かせてくれない?。電話に出なかったことよりも、その怪我の方が深刻だよ。」
「…じゃあ、私はここで。」
「待つんや。」
自分は聞くべきじゃない…そう思ったほまれを止めたのは意外にもハリーだった。
人間態の姿で、泣き疲れたはぐたんを抱えながら彼女に歩み寄る。
「あんさんも巻き込まれた側や。話ぐらいは聞いたって欲しい。それに…燈火に何があったか一部始終見とるはずや。コイツ、多分はぐらかすやろうから。」
「おい、どういう意味だそれ?。」
「…何それ、事情聴取ってわけ?。当事者だから帰せないって?迷惑なんだけど。」
「すまん、言い方が悪かったな。巻き込んだのはこっちの事情かもしれんっちゅう事や。せやから、説明させて欲しい。今、この街で何が起きとるんか…。」
「……分かったよ。」
きっと、何を言っても食い下がらないだろう…それに、興味が無いと言えばウソになる。ほまれはそう思って、諦めて彼女達に付き合うことにした。場所を変え、夕暮れの公園…辺りはすっかり人気が無くなって、ここで遊んでいた子供達が帰路につく頃合い。
そして、現状を問い詰められた燈火が先ほどの戦闘について、話始める。
まず、今回襲撃してきたのは「クライアス社」ではないという事。怪物「オシマイダ―」をけしかけてこなかった事。敵の狙いが自分達という事。
戦闘能力が異様に高く、命そのものを狙いに来たという事。クライアント…という言葉を使っていたことから"依頼"を受けてきたという事。
その全ての説明を……ほまれが行った。
語彙力の無い燈火だと、説明が付かなかった。全員の頭の上に「?マーク」が浮かぶ程彼の説明は酷く、唯一伝わったのが「クライアス社とオシマイダ―」くらいで、勿論その存在を認知していないほまれからは出てこない単語だ。彼女が色々と噛み砕いてようやく伝わった…という事だ。
その筋に詳しい…というか、彼女達が"プリキュア"として戦うことになった要因の一つであるハリーですら、その敵の事に関しては全く分からなかった。しかし、心当たりが一つ、有るという。
「――もしかしたら…「人材派遣会社」かな…。」
「人材派遣会社」。
それなら、自分達も良く知る。でも、そんな物騒な仕事を請け負う……そんなことは決して無い。ハリーの言う「人材派遣会社」は自分達が想像しているものと違う事は明白だ。
「敵対勢力やらライバル会社を悉く潰すいわば"傭兵集団"みたいな連中が居るっちゅう事は聞いたことがある。最も、依頼が無いとそんなことやらへんけどな…その依頼主は十中八九「クライアス社」やろ。」
「私もそうとしか思えないけど…。」
「クライアス社にとってもあんさんらは邪魔な存在や。これまでになんべんも仕掛けてきたのを、あんさんらは全部阻止しとる。そないなもん使うてくるくらいや、奴さんも本気っちゅう事やな。」
「そんなもん、来る度にぶっ飛ばせばいい話だろ。」
「トーカ君…簡単に言うけど…。」
「すまん、巻き込んだのは俺や。あんな連中が来るなんて想像もつかへんかった…ほんまにすまん…。」
「いいよ。どのみち、クライアス社のやることは許せない事だし、その敵が来なくても私達のやることは変わらない。だから、気にしないで?。」
「――じゃあ、そろそろ説明してよ。あんた達が"何者"かを。」
「あ、そうだね。ごめんね、私達はその―――。」
はなからこれまでの一部始終を説明されたほまれ。
巷で噂になっている"キュアエール"の正体がはなという事。そして、さあやと燈火も彼女と同じ"プリキュア"と呼ばれる戦士だという事。人々の未来を奪おうとする"クライアス社"の存在。
―――何を言っているか、殆ど分からなかった。そんなもの、漫画の世界の話だ。でも、目の当たりにしたから…"プリキュア"と呼ばれる戦士が自分の目の前で戦ったから。
―――信じるしかない。そして、同級生がこんな危険な事に首を突っ込んでいる。死ぬかもしれないのに?大怪我するかもしれないのに?なのに、他人の…世界の未来の為にその悪の企業と戦っているって?。なんで、そんなことを引き受けたのか、得するわけでもないし、感謝されるわけでもない。でも…こういう人たちだからこそ、"自分の未来"をちゃんと描いているのかもしれない。それに比べて自分は――――
ヘルに捕まった時の事を思い出す。自分の頭の中を見られるあの感覚…思い出した"トラウマ"。そして…かつては大好き"だった"夢の事。もう、自分は「飛ぶ」事が出来ない。翼を捥がれた鳥のように、無様に地を這っては羽ばたける者を羨むしかない。そして…この"キラキラ"に満ち溢れた人達とは…居れない。
―――逃げたい。何とか理由を付けて、この場から離れよう…そう考えていた矢先、赤ん坊が目を覚ます。
「はぎゅ…?。」
円らな瞳で、自分を見てくる。さっきまで、悲観してたことが嘘のように。
「きゃ…きゃわたん…!!。」
"心"を奪われた。それを見て、はな達も笑いながら。
「かわいいよね!?。」
「うん、とってもッ!。」
「赤ん坊はみーんなそうだろ?。」
「へぇ、トーカも「かわいい」って思うんだ?。」
「ん?赤ん坊ってみんな同じ顔じゃん。」
「……聞いた私がバカだった。」
――そうか、彼女達はこんな子の"未来"を背負って戦っているんだ。
いいな…そういうのって。「イケてる」と思う。
少し、羨む…それを察したように、はながほまれの手を取る。
「輝木さ……ううん、ほまれちゃん。」
「え…?。」
「話を聞いてくれてありがとう。そして…信じてくれてありがとう。」
一点の曇りもないその瞳に、魅入られる。
「ありがとう」。それが素直に言える…それが"野々はな"と言う人間だ。
――それから、みんなと別れて自宅に戻ったほまれ。
今日一日で、いろんなことがあった。そして、別れ際…はながこう言った。
――"お友達になろうッ!"――
なんか、嬉しかった。こんなにもキラキラした子と友達になれた事。
毎日が楽しく無かったけど、明日から楽しくなりそうな…そんな予感がする。そうすれば…また新しい"夢"を見つけられるかもしれない。そう思いながら、眠りにつく。
翌日。
今日は土曜日。
気分が少し良いから、外に出よう。そう思って彼女は支度を整える。玄関のシューズボックスを開けると、そこに。
「……随分、埃被ったな。」
ボックスの奥に封印するように「かつての"夢"」がそこに置かれていた。"あれから"ずっと、触れていない。毎日、手入れしていたはずなのにジャンプに失敗して大怪我を負ったあの日から、全てを諦めて奥に閉じ込めたスケートシューズ。
一時は捨てようとも思った。けど、出来なかった。いや、"勇気"が無かった。これまで積み上げたものが全て消えてしまいそうで、"本当の意味"で諦める事になりそうで。心の何処かにまだ「飛びたい」気持ちがあった。震える手で、触れようとする。彼女達と話して、あのキラキラした雰囲気を感じて…“もう一度"、手を伸ばしてみよう…そう思って、シューズを取ろうとする。
だが、その時――
「な、何!?。」
自宅の近くで爆破音が響き、地面が揺れる。
……………………………………。
「悪いね、オレちゃんの踏み台になってちょうだいよッ!。」
暴れまわるライター型の「オシマイダ―」と、それを使役するのはクライアス社「係長」のチャラリート。
ライター型のオシマイダ―は頭部の発火口から火炎放射を放つ。
ブリッツは昨日の怪我の影響で満足に動けず、唯一防御技をもっているアンジュが「ハート・フェザー」で炎を受け止めていた。しかし、意外にも火力が高いのと熱量による周囲の温度上昇で徐々に削られていく。
「くうう……ッ!。」
「ア、アンジュ!。」
「クソォ…この炎、厄介すぎるぜ…!。」
防戦一方のプリキュア達に、チャラリートは今まで以上の手ごたえを感じる。
これまで、散々煮え湯を飲まされてきた相手に、ようやく決定打が与えられると。
「よォし、このまま燃やしてしまえ!!。」
チャラリートの指示に反応し、ライター型のオシマイダ―はさらに火力を増す。煌々と燃える炎を前に、アンジュの「ハート・フェザー」にとうとう限界が訪れ――。
「きゃああああ!。」
爆散して、三人は吹き飛ばされる。地面を転がり、周囲はその影響で炎上し始める。そこへ、騒ぎを聞きつけたほまれがやって来て。
「なっ…ほまれちゃん…!?。」
「…マジだったんだ…あんた達が"プリキュア"って戦士だって事。」
「んん?。なんだ、お前。」
チャラリートが自分を見つめる。
手が震える…自分が来たってどうにもならない。だけど何故か、放って置けなかった。
だが、勇気と無謀は違う。現実は残酷で、怪物は自分に向かってくる。
「死ぬ?殺される?」…そんな、怖さで胸が締め付けられそうになる。
だが…――
「やらせないッ!。」
満身創痍の三人が自分を守るように、怪物の前に立ち塞がる。
「友達を…やらせないッ!。」
「ここは私達に任せて!?。」
「何とかするッ…!。」
――何故、こうも"強い"のか。勇気があるのか。
死ぬかもしれない…そんな状況を前に、彼女達は何も絶望していない。戦えない自分を守る為に、どんな状況でも光を失わない。それに比べて自分はどうだ?過去の栄光が崩れ去り、周りが心配してくれてもそれを跳ね除けるように、逃げ続けた。諦めた…けど、“諦めきれなかった"。
まだ、手を伸ばせるなら…伸ばしたい。だから、こう思った。そして…"夢"を手に取った。下げているカバンに入っているかつての"栄光"。
だから……「私も……"もう一度"…!。」
――彼女達の勇気に触発されて、"奇跡"を起こした。辺り一面が光り輝き、近くに居たハリーの手に抱かれたはぐたんがその光めがけてエネルギーを放つ。そして…"未来"が現れた。
「走れッ!あれはお前の"未来"やッ!。」
ハリーが叫ぶ。"未来"が、徐々に空高くに上がっていく。
"飛べば"掴める。掴み取るんだ、勇気を持って。それを手に取ればきっと――
もう少しで届く…後は…"飛ぶだけ"!。
だが……"悪夢"が脳裏をよぎった。
ラストスパート、自分が持つポテンシャルの最大…今ある"全て"をこの一飛びに――
しかし……"失敗"した。
着地の瞬間で足を挫き、勢い良くリンクに倒れる。
静まり返るリンク…先程まであった、歓声が嘘かのように静まり返って。そして……苦痛で呻く自分の姿が映って。
でも…乗り越えなければいけない。誰かに掴んでもらうものじゃなく、自分で掴み取らなければいけない未来だから。振り切る…そう思って、恐怖を乗り越えて彼女は再び"飛んだ"――。
――
―――――
――――――――
……――届かなかった。
"未来"が消えていく。あの子達を助けてあげる事が出来ない。そして…また"落ちる"。あの時と同じように、冷たいリンクの上で苦痛に悶え苦しんだ時と同じように。そして……一筋の涙が頬を伝う。
「……無理……わたし………飛べない………。」
輝く未来が"消滅"した。それと同時に…"絶望"が溢れてくる。
「やぁああああッッ!。」
はぐたんが泣き叫ぶ。
そして、チャラリートがそれを見逃さない。
「もう二度と輝けない、お前に未来は無い。」
その一言が…彼女の心を"折った"。
そして………。
「……オシマイダー……。」
少女の"未来"は…怪物へと形を変えた――……。
………to be continued。
次回
7話 翼をもがれた鳥。