HUGっと!プリキュア~"雷光”と"真珠星”~   作:やままん

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7話 翼をもがれた鳥。

 

 

「無理…わたし……飛べない…。」

 

 

 

――少女が流した一筋の涙。

その涙に込められた思いは、"恐怖"を乗り越えられなかった自分の弱さを悔いた思い。

全てを諦めて自暴自棄になっていたが、心の奥底深くではまだ"飛びたい"という思いが残っていた。その証拠に、自分の中から"未来"が現れた。

 

―まだ、チャンスはある。

そう思って、手を伸ばしても"届かなかった"。これが現実だ、やはり自分は"恐怖"に打ち勝つことが出来ない。

 

心の殻に閉じこもる様に、自分は闇に閉ざされてしまった。ここが何処かなんて分からない。だけど今思うのは「無理」と言った負の思いだけだ。もう、前を向くことが出来ない。

 

 

そんな感情が怪物に力を与えるように、自分を媒体として生み出されたオシマイダ―は暴れ回る。負の感情が強ければ強いほど、この怪物はどんどん強くなる。事実、プリキュア達はこれまで以上の強さを持つ彼女のオシマイダ―に苦戦を強いられていた。それだけじゃない、最初からいたライター型もまだ健在だ。

 

2体の怪物。プリキュア達は一気に劣勢へと陥る。

この状況を見て、チャラリートは勝利を確信する。彼にとって、ほまれの出現は僥倖とも言える事だった。ここまで負の感情を抱いた者はそうは居ない。「夢が大きければ大きいほど、その挫折もまた大きいもの」…それを知る彼が転がり込んできたこの"好機"を逃すはずがない。自然と笑みが零れる…これで自分の昇進は約束された。「確実に勝てる」、驕りとも言える感情がどんどん高ぶって来る。

 

 

「報いってのは本当にあるんだなァ。これでオレちゃんも昇進確定だ。良い踏み台だったよプリキュア…お前らには感謝してもしきれないな。さあ、諦めてここでダウンしちまいなッ!。」

 

 

高らかに笑う彼に、彼女達は見向きもしない。自分達に置かれた状況よりも、ほまれの事が心配だからだ。

それに、皮肉にも彼女のオシマイダ―は持っていた「スケートシューズ」の形をしていた。

かつての夢に手を伸ばし、「もう一度」と勇気を振り絞って前に進もうとしたその夢が崩れて怪物化したもの。"トラウマ"そのものであるこの“夢"を利用されてしまった彼女の気持ちを考えると、胸が痛む。こうまで、追い詰められていたのか…と。

 

 

 

 

 

「…なんとなくだけど、輝木さんの気持ちは分からないでもない…。」

 

「アンジュ?。」

 

「周囲の期待を背負って、飛び続けた彼女…勿論、それが重いものだと感じなかったかもしれないけど、"夢"が崩れてしまったら簡単には立ち直れないものだよ。周囲の心配がさらに、彼女を追い詰めていたのかもしれない…。」

 

 

何処か"同じもの"を感じるアンジュは、彼女の抱えていた苦しみを理解しようとする。だが、そんな言葉を聞いたチャラリートは高らかに笑いながら――

 

 

「はッ、コイツは自分に負けたんだよッ!。その結果がこれだ!これがコイツの本質、"未来"だッ!。」

 

「…何ですって…!?。」

 

「輝かしい未来?くだらない!"夢"なんてものを追い続けるからこうなる!なら最初から夢なんて持たなければいいッ!。」

 

 

その言葉と同時に、スケートシューズ型のオシマイダ―が攻撃を仕掛け、靴底のブレードを利用した斬撃が三人に襲い掛かり傷付けていく。それと同時にライター型も動き出しては火炎放射で追撃を掛け、無情にもこの連携にどんどん追い詰められていく。

 

 

「そんなものがあるから、崩れた時に立ち直れなくなる!。どうせ、大半が途中で諦めて安寧を選ぶだろ!?。昔は「こうなりたい」「ああなりたい」と考えていても、大人に近付けば現実を知って諦める…ソイツ等は賢いと思うよ、こうなる事が分かったんだからな!。」

 

「そ、そんな事…!!。」

 

「それに比べてコイツと来たら、諦めたように見えて心の奥底では夢を捨てきれていない、それがこの結果だよ。はは、実に滑稽だよねェええッ!?。」

 

 

チャラリートが彼女を蔑みながら笑い続ける。二体のオシマイダ―の攻撃は苛烈化し、プリキュア達は地に伏せていく。勝敗は喫した、トドメの一撃が繰り出されようとしたその時――。

 

 

「……ヤメ…テ……。」

 

 

スケートシューズ型が寸前で攻撃を止めた。

 

 

「おーい、何してんだ?。さっさとやっちゃいなよ。」

 

「イ……ヤ………ダ………ッ。」

 

 

大量の"トゲパワワ"が充満するも、攻撃を繰り出そうとしない。

 

 

「…ほまれちゃん…。」

 

「ちッ……めんどくさいな……。」

 

 

苛立ちながら、チャラリートはトゲパワワをさらに注入。許容量を遥かに超えたエネルギーを注ぎ込んだせいか、形状が禍々しく変化していく。だが、それでも彼女の意思は消えなかった。

 

"友達"を傷付けたくない。

その思いが、オシマイダーを抑え込む。

 

 

「もう諦めなって!お前の夢は叶わない、いくら足掻いたって羽をもがれた鳥が飛ぶ事なんて……。」

 

 

頬に伝わる衝撃。その後に襲ってくる痛み。そして、吹き飛ばされる自分。チャラリートは血を吐き出しながら、殴り飛ばされていた。

 

その視線の先には…拳を固めたブリッツが立っていて。

 

 

「何笑ってんだお前ェエエエエッ!。」

 

「ぐうう…な…なぁああッッ!?。」

 

 

怒りに震えたブリッツの右拳がバチバチと放電する。

 

 

「さっきから黙って聞いてりゃ耳障りな事をッ!お前が勝手に決めんなッ!。」

 

「ッ…何怒って…オシマイダー、このバカをやっちまえッ!。」

 

 

殴られ、腫れた頬を抑えながらチャリートがライダー型に命令する。その命令に従い、頭頂部の発火口から炎を放とうとするが…。

 

 

「邪魔すんなァアアアア!。」

 

「ォオオオオッ…!?。」

 

 

発火口目掛けて落雷のような踵落としを繰り出し、地面にめり込ませる。

 

 

「ブリッツッ!。」

 

「エールとアンジュはそのライターを頼むッ!オレは…!。」

 

 

大量のトゲパワワに包まれたスケートシューズ型を見る。

 

 

「コイツの相手をするッ!。」

 

「チッ…一回やれただけで…ッ!。」

 

「うるせェ、さっさと掛かってこいよッ!。」

 

「クソ…やれ、オシマイダー!。」

 

 

強化型のスケートシューズオシマイダーは、苦しみながら斬撃を放つ。だが、ブリッツは気にする事なく前進し続けて…殴り飛ばす。

 

 

(クソ、何なんだよコイツ…いきなり…ッ…!。)

 

「オメェに何が遭ったかなんて知らねェけどよ、こんな奴に良いように言われてんじゃねェよッ!。」

 

 

ゆっくりと歩み寄り、電撃を身に纏う。

 

 

「夢がどうとかオレにゃサッパリだけど、また"飛べば"いいじゃねェかッ!。」

 

「はぁ、何言ってんだ…!?。」

 

「お前に喋ってねェッ!。」

 

 

ブリッツの放つ怒気に押されたチャラリートは言葉を紡ぐ。

 

 

「何回も何回も飛べばいいッ!怖ェかもしんねェけど、飛びたいなら飛べばいいッ!逃げたきゃ逃げりゃいいッ!けど、諦めんなッ!。」

 

「!!!。」

 

「諦めきれねェなら諦めんなって事だッ!オメェはどうしてェんだッ!?。どう言う自分になりてェんだよッ!。」

 

「ワ……ワタシ……ハ……。」

 

 

 

―――また"飛びたい"。

あの頃の栄光とかそんなのじゃない、ただ好きだったから。成功することが嬉しくて、何度失敗しても挫けなかった。でも、選手生命そのものである"足"を壊してしまった。あの時の痛みは忘れない。痛くて痛くて、これまで積み上げてきたものが全部崩れてしまって。そして…怖くなってしまって。

 

私は…"逃げる"事を選んだ。

勿論、怪我が治ってから幾度もトライはした。諦めきれない思いの方が強かったから。けど…"現実"を知ってしまった。私が抱えるトラウマは何も、怪我をしたあの時だけじゃない……成長期で身長が一気に伸びてから、これまで成功し続けてきたジャンプが何一つ成功しなくなった。

 

―――"限界"を知ってしまった。私は…「ここまで」なんだと。

 

 

「私に未来はもう無い…もう二度と、飛ぶことが出来ない。」

 

 

心が…"完全"に折れたんだ。だから、もう――――

 

 

――――

―――――――――

 

「うらぁあああああッッ!。」

 

 

ほまれの苦悩と共に、強化されたスケートシューズ型の攻撃を受け止めるブリッツ。所々に血が滲み、昨日の傷が開いてしまっていた。だが、お構いなしに全力で受け止める。

 

 

「そんなもん、ぶち壊してしまえッッ!。」

 

――何…言ってるの…?

 

「やりてェ事全部やってダメならそれでいいじゃねェかッ!。けどな、まだやれることがあるんなら、限界まで頑張ってみろよッ!。」

 

――偉そうに言わないで。あんたに何が分かるの…この苦しみの…何が分かるって言うの

 

「限界なんてもんは誰にでも訪れるもんだッ!嫌なことなんて生きてりゃ幾らでもあるッ!スポーツやってる奴はみんなその道を辿るんだよッ!ずっと上手くいくはずがねェ!。けどな、それでも輝いてるやつは…ッ!。」

 

 

ギュッと、握り拳を作って電撃を込める。それと同時に、アスパワワが大量に集まり出した。

 

 

「ずっと諦めないやつだッッ!。」

 

 

硬い拳がトゲパワワとぶつかり合う。その全てを焼き尽くすように、青い電撃がどんどん押していく。そして…スケートシューズ型にその拳が届いた。

 

 

「な、何ぃいいッ!?。」

 

「はぁ…はぁ……もういっぺん聞くぞ?オメェは…どんな自分になりてェんだ?。」

 

――私は。

 

 

――また、過去の自分を振り返る。

難易度の高いジャンプを決め、無邪気に笑う自分の姿。かつての"栄光"だ。

そして、失敗したあの日…夢を断ち切るべく、元々長かった髪に自らがハサミを入れ、切り下したあの日。

今の"挫折"だ。

 

「ずっと諦めないやつ。」

 

その言葉が脳裏を過った。

嫌な事なんて幾らでもある。立ち直れないくらいの大きなトラウマを抱えることだって、いずれは訪れる。

とてつもない壁が立ちはだかる事だって…ある。

 

怖いけど、諦めきれない。もう一度、飛びたい…輝きたい――

 

 

そして…"光"が戻る。

 

 

「今度こそ……"飛ぶ"!!。」

 

 

ブリッツに殴り飛ばされ、そして自身から放たれたアスパワワによって自らの意思でオシマイダ―を跳ね退けたほまれ。そして再び…"未来"が現れる。

 

 

「嘘だろ、なんでッ!!。」

 

 

堪らず取り乱したチャラリート。そして、劣勢に立たされていたエールとアンジュはライター型を徐々に押し始める。

 

 

「今度こそ手に取って、ほまれちゃん!。」

 

「あなたの"未来"を!!。」

 

 

「うわああああああ!!。」

 

 

怖い、だけど……"飛ぶ"!。

 

その思いが遂に……届いた。

あの日以降、飛べなかったジャンプ。かつての…いや、それ以上の大ジャンプ。

そして、つかみ取る…自分の"未来"を―――

 

 

「飛ぶのが怖い…応援されることも…けど、もう自分から逃げない!私は私の心に勝つ!未来へ輝くッ!。」

 

 

恐怖を乗り越え、前に進むことを決めた少女の手には、一度は零してしまった"未来"の形が握り締められていて。

 

 

「今や!それでもう一段階…飛べェえええッ!。」

 

 

叫ぶハリー。彼女は頷く。決意を込めたその眼差しで。

 

 

「ミライクリスタル!。ハート、キラッと!。」

 

 

周囲が光り輝く。一度失った夢を再び照らすように。

 

 

「みんな輝け!力のプリキュア!キュアエトワール!。」

 

 

地に足を付けるは、未来を取り戻した戦士。苦悩の中でも、諦めない光が彼女に奇跡をもたらした。

 

 

「力のプリキュア…!。」

 

「キュアエトワールッ!。」

 

 

エールとアンジュは目を輝かせる。そして、新たに覚醒した戦士「キュアエトワール」は地面を蹴って勢いよく飛び出し、容赦のない蹴りをライター型に浴びせる。その長い脚で繰り出されるキックの威力は凄まじく、彼女の持ち味であるスピードも相まって、威力が上乗せされていた。

 

しかし、ライター型と負けじと火炎放射を放とうとする。

 

 

「ッ…私が防御を…!。」

 

「大丈夫ッ!。」

 

 

跳躍したエトワール。そのジャンプに、エールとアンジュは見惚れる。

 

 

「はは、スッゲェ!。」

 

「フレッフレッ!。ハート・スターッッ!。」

 

 

放たれた星形のチェーンが足に絡まり、思いっきり引いて転倒させる。そして、炎は明後日の方向に向かって吐き出された。

 

 

「――この怪物は私が倒す!。」

 

「待ってッ!私達、仲間でしょ!。」

 

「ここからは一緒に力を合わせて!。」

 

 

一人で倒そうとするが、エールとアンジュが声を張る。

 

"仲間"。

そんな言葉が、とても心地良く聞こえて。

 

――もう、1人じゃない。

そう思うと、勇気が湧いてくる。何も怖くない、あれだけ怖かった"飛ぶ"事も。

 

コクリと頷き、エールとアンジュのアシストを開けて空高くに舞い上がる。

 

 

(やれるッ!私はまだ…飛べるんだッッ!。)

 

 

渾身の回し蹴り。

それが、ライター型に直撃。華麗に着地すると、ブリッツに目を向けて。

 

 

「今だよブリッツッ!。」

 

「おっしゃああ!。」

 

 

拳を天に掲げるブリッツ。瞬間、黒い雲が頭上に広がる。

 

 

「な、何してるんだッ!早く起きろよッ!。」

 

 

焦るチャラリート。

勝敗は…決した。

 

 

「10万ボルトォッ!サンダァアア…ジャベリンッッ!!。」

 

 

落雷と共に放たれた横薙ぎの手刀が、ライター型のオシマイダーを切り裂く。大量のトゲパワワが消滅し、素体となった人間が近くで倒れていた。

 

 

「クソックソッ!後もう一息だったのにッ!。」

 

「…何度だって来なよ。私は…ううん、私達は…負けない!。」

 

 

鋭い眼光でチャラリートを睨むと、悔しさと焦りからそのまま去っていく。晴れ間から日の光がエトワールを照らす。

 

 

「凄い凄いッ!ほんっとうに凄いよほまれちゃん…ううん、ほまれッ!。」

 

「…ふふ、そう?。呼び方なんて何でもいいのに…。」

 

 

混じりっ気の無い心からの笑み。

こんなに自然と出る笑顔はいつぶりだろうか。そして、こんなにも晴々しい気持ちは…あの時以上だ。

 

 

(翼がもがれた鳥でも…また飛べるんだって教えてくれた。だからもう、恐れない。私は…夢を追い続ける――)

 

 

 

 

―――光は揃った。

コレが、"過去"の希望。

 

だが、未来は……――――

 

 

………to be continued。




次回
EX01 暗闇の未来で――
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