暴龍の花歌 作:マンコションベン
「■■ーただいまー」
インターホン越しに俺の名を呼んでいる中年女性がいる。母さんだ。
前の回では俺の怠惰が毒の様につもり積もって、母さんとも父さんとも弟とも家族とは呼べない様な関係になってしまった。
例えこれが走馬灯だとしても、最後くらいは誠実に向き合いたい。もしタイムスリップであるのなら、今度こそは怠惰でこじれにこじれる前の家族でありたい。
そう思い俺は踏みだした
「お帰り!ママ!」
その瞬間母さんは、は?といわんばかりの表情を浮かべフリーズした。ああ、そうか、見た目が変わりすぎてるしそうなるわ。というか今思い返せば俺マッパだった。
俺も正気に戻りフリーズしていると、母さんはガラケーを取り出し110通報を始めた
「待って!ママ!俺だよ!あなたの息子の■■だよ!」
「あのねえ!私の、息子語って!オレオレ詐欺するなら!せめて性別くらい合わせてから言え!」
「ま、まって下さい!」
俺は土下座した。この土下座は前世でチンピラに絡まれた時も、交通費が足りず見ず知らずのおっさんに金を借りる時も、工場バイトで勤務時間中ずっとトイレでスマホゲームやってたのがバレた時にも振るわれ危機を打開した必殺技だ。
最後のではオメーのスカスカの頭に何の価値があるんだよクソボケと言われて許してもらえなかったが。
「お気持ちは分かります!こんなにプリティーなこの世の至宝にしてこの暗い現代社会を照らす太陽の様なお顔が、■■のチーズキング牛丼温玉特盛顔とにても似つかないのは分かる!でも嘘つくにしてもここまで荒唐無稽な嘘はつかねーよ!と、とりあえず玄関先で良いから話を聞いてくれ!俺がでかい病気したとき必死に助けてくれた事も!気まぐれで送った母の日のカーネーションで大喜びしてくれたことも!5歳の時に俺が便器に異物混入して破壊し3日間説教受けた事も!風呂場で気持ちよくて声あげただけでオナニーだと勘違いされて折檻された事も!良いことも!悪い事も!理不尽な事も!全部覚えてる!」
そして俺は記憶にあった体験を話していった。
話しているうちに気付く子供の頃の思い出はやたらいっぱいあるのに最近の思い出は全然ないのに気づいた、気づいてしまった。 そうだ、思い返せばここらへんから俺の怠惰な性格は始まっていた。
しかし思い出を話したことは意味があったようだ。
「とりあえずあんたが■■だって事は一応信頼するわ。でも■■から聞き出そうと思えば聞き出せるよね、その情報は」
母さんの正論を遮り俺は言った。
「ああ!そうとも拷問するなりすればこんな情報すぐ得られる!■■の人生なんて薄っぺらいものだったし聞き出すのは簡単だ!」
薄っぺらい人生と言った所で母さんが少し悲しそうな表情をしたが気のせいだろう。
「でも!」
そう言って俺は両頬に両手の人差し指を添えた。要はぶりっ子のポーズだ。
「こんな絶世の美少女ならあんなのに成り代わるよりももっと効率よく金稼げる方法が幾らでもあるだろーが!痰唾ですら500円くらいの値段がつくわ!というか実際にやってやる!ちょっとまって!カー!ペッ!」
「分かった!分かっ!はぁ……その妙な図太さは……確かに■■ね。分かった、信用する。とりあえず家の中入ろう」
頭を抱え母さんは言った。
「まずは服着ろ、阿呆」
そう言って俺に服を投げてきた。男物の服ではあるがまあ、マッパよりはマシ……そういやさっきマッパで玄関先で話していたのか、やっべえ、羞恥心が消えてた。とりあえずきてみるが全体的にゆるゆるなのに胸と尻の辺りだけ圧迫感があるのほんと草。草じゃねえわ。
そう思っていると台所から声がする。「ねえ■■、台所使うのは良いけど使ったらちゃんと片付けろって私言ったよね!」
や、ヤバい。こういう、台所を元の状態にしないみたいな怠惰が積もり積もって家族とは言えない状態になっちまったんだ。
「ご、ごめん今片付けるね」
そう言って俺は片付け始める。まずは空っぽになった米の釜からだ。
ああ、そうだ。こういう洗い物も、早く終わらせてスマホでなんjしたいからって適当にやってたな。結果いつも食器に米粒ついて怒られてたっけ。
母さんは確かに俺を愛してくれていたが愛情とは有限のものであるということもまた確かに教えてくれていた。
前回の人生ではこういった不誠実さと怠惰による被害が積もり積もって、愛情を全て消費してしまっていた。
今のこれが第二の人生にしろ胡蝶の夢にしろ俺はしっかりやる。
5分かけてピカピカに釜を洗い終わった後混乱から立ち直った母さんが言った。
「……とりあえずコーヒー入れるから、入れたらリビングきて……って炊飯器4合炊いたはずなのになんですっからかんになってんの?!」
「お……俺が全部喰っちゃった……なんかやたら腹減るんだよ」
「はぁ?これ以上私を混乱させないで欲しいんだけど……」
■■■
そしてお湯が沸きリビングに来た。母さんはいつも大切な話をするときコーヒーを入れる。
「で」
母さんが言った
「今の状況教えてもらって良い?■■」
「俺も今の状態がなんだか分からないんだ。あ、お土産のケーキもらって良い?やたら腹減るんだよ…」
そう言ってから俺は今までの事を語り始めた。
この後の怠惰な未来、ヤクザに殺された結末、走馬灯だか転生だか分からん今の状態。
聞いてる間ずっと母さんの顔には疑問符と、?????が浮かんでいたが、俺の堕落した未来に関しては納得できる所があったようで頭を抱えていた。
「というわけなんです……」
「ああ、うん。分からないけど分かったわ。で、なんで女になるのかさっぱり分からないんだけど」
「こっちがききてえ!俺だってこんなに可愛くなりたくて可愛くなってんじゃねえんだよ!見てよこの顔面!橋本◯奈をクソブス呼ばわりしても許されるくらい可愛いだろうが!」
そういや前世では弟に“見た目が橋◯環奈だったらギリギリ社会に許される程度には社会不適合者だからな、兄貴”とか言われてたっけ。
その時はブチギレて弟のスマホ勝手に使って弟の彼女のラインにチン凸したが、今思い返せば奴は正しい事を言っていた。そうこう言った結果ハシカン以上の顔面に俺がなってるのは数奇な縁だが
そうしているうちにケーキ1ホールがいつの間にかすっからかんになっている。
「あ、あの、ケーキ無くなってるんですけど」「あんた全部食べたんだけど…」
な……何故だ……何故食べ物は喰ったら無くなるんだ。おかしいだろ!理不尽だろ!びえーん!
……いや、こんな事してる場合じゃない。俺がするべきはまず……
その時再びインターホンが鳴った。話を一旦切り上げ見に行くと絶世の美青年がそこにいた。誰?ねえ……!!誰なの?怖いよおッ!!