暴龍の花歌   作:マンコションベン

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第5話

 家に突然訪れた謎の青年が怪物COをした30分後、俺は、廃工場に連れてこられてた。

 

 あの直後母さんが、怪物の姿となったこの男を見て、神妙な、それでいて覚悟を決めた顔をして言った

 

「分かりました。あなたが超常の存在なのも、うちの息子を生き返らせてくれたのも。ただ、私としては、正直な意見としては、超常存在にこれ以上うちの■■に関わって欲しくないです。■■は産まれたときから私が育てた私の子です。途中からしゃしゃり出てきた赤の他人に馴れ馴れしく関わってきてほしくないです。息子の命を助けて頂いてはい終わりと言うのも虫の良い話だと自覚しております。ですが、どうか、よろしくお願いします」

 

 と、そう言ってこの男に土下座した。

 

 ただ、その後、こいつは無駄によく回る舌をフル回転して、あっという間に俺の母さんから信頼を勝ち取った。

 

その手腕は詐欺師、扇動者、ペテン師、そんな言葉が薄っぺらく思えるほど狡猾で堂に入ってた。この時点ではあった俺への母さんの愛情を逆に利用してた時はビビったね。

 

 そこから母さんからの一応の許可をもらって、今の身体を使いこなす為の外出にこの男と出かける事となった。

 

「じゃあ、我が妹、ちょっと僕の近くにきて」

 

 そう言われたので寄っていく。瞬きをし、次に目を開けた瞬間

 

景色が移り変わっていた。

 

「は?」

「便利だろ。【時空操作】っていう能力なんだが結構便利な能力なんだよね」

「は!? そんな事あり得ないだろ! ファンタジーじゃねえんだぞ! ……いや、輪廻転生も同じくらいファンタジーか! 今更か……」

 

 そう言って俺が頭を押さえると、その男は言った。

 

「さっき僕らは【龍種】、最強種だって言ったけど、それ本当に、誇張じゃ無いんだよね。基本的に育った龍種は全能だからこの程度の手品、今の君でもちょっと頑張ればできる」

「はぁ……」

 

そう言われても実感わかないんだが

 

「それにしてもさっきの君のお母さんの剣幕凄かったね。なんというか、愛されているんだね」

 

 それに対し、思う所がありながらも、俺は言った。

 

「そうだね、俺は、確かに愛されていた。それを台無しにして、修復不可能な程の溝を作ってしまった」

「知ってるよ、見てたから」

 

 そう言ってクソ美青年は俺に笑いかける。

 

「……ねえ、お兄ちゃん」

「おっ良いね、その響き。何?」

「なんで俺を生き返らせて時を戻して、女体化させて、龍化させたの?」

 

 もう、これは走馬灯でも無いと分かった。こんなめちゃくちゃな展開、走馬灯でも起きてたまるか。龍化と言うのも、真実だと、何となくだが分かった。今の俺の身体は、人間からかけ離れてしまっている

 

「ああ、それは君に幸せになって欲しかったから。女体化と龍化に関しては君のその人格で幸せになるのはそうでもしないと難しそうだったから」

「じゃあ生き返らせた理由、幸せになって欲しいと思った理由は何?」

「うーん、聞かない方が良いと思うけどなあ」

「じゃあ当ててみるよ、おもちゃとして面白そうだったから、気まぐれに蘇生したんだろ」

 

 クズ、クズ、クズ、それが俺の前世だった。全能存在が、そんなのを、助ける理由などそれしか無い。少なくとも、俺がこいつの立場なら、それくらいしか助ける理由が無い。

 

「あっやっぱり分かる? そう、おもちゃが欲しかったんだよ」

 

 笑った。その時の、爬虫類の様な虹彩は、邪悪な色に満ちていた。

 

「暇つぶしに善人を救済するのはもう飽きた、かと言ってドクズを救済するのも真っ当に生きている真っ当な人間に申し訳ない。いや、まあ、僕自身はクズも好きなんだけどね、で、その点君は良かった、自己中心的で怠惰な人格破綻者だが、救いようの無い程のクズでも無い、本当絶妙なラインのクズだった」

 

違う

 

「いや、ドクズだ、俺の前世がどうだったか見てただろ」

「でも君、他人を嬉々として殴ったり罵声を浴びせて悦に入ったりとかしないだろ、じゃあドクズとは言えないんじゃ無いかな」

「他人に危害を加えないなんて、人としての最低条件だ、その程度の事、死体でもできる。生物の命を奪って食らってうんこにしてひりだす以上、害を与えないだけなら、死体の方がまだ生産性あるんだわ」

 

 あのヒーローの事を思い出す。そうだ、彼こそが人として目指すべき姿だ。彼はあの時死んだ。その善性故に。しかしこの世界では彼は生きている。時間が巻き戻った以上、彼もきっと今生きてる、それが、どうも、たまらなく嬉しい。

 

 そう言うと美青年はゲラゲラ笑った。

 

「そういうところだよ、君蛆虫のくせして変なとこでまともだから見てて面白いんだわ。性根チンカスの癖して倫理観だけはまあまともなのとか特にね。まあいざとなったら平気で倫理無視しそうだけど」

 

 あってるよ。倫理観だけはまともだが倫理を守る気がない奴と言われた事あんだわ

 

「……そういやお兄ちゃんの名前何?」

「ああ、そういや地の文で美青年とかクソ陽キャとか言ってたな。ウルスラグナ。ラグナで良いよ。あと僕は別に陽キャでも何でもないからね。コミュ症だし」

 

 地の文読んでんのかよこいつ、というか出ましたよ、自分は陽キャじゃないアピールとか言う陽キャしかやらねえやつ。お前が陽キャじゃ無かったら俺はなんだ、うんこか?

 

 あとさっきから思っていたがこいつコミュニケーション能力が高い。強者だ! 何もかも! 所作も、振る舞いも! オーラも! 呼吸のテンポも! 目線誘導も! 何もかもが、社会的強者であるということを雄弁に語っている! 

 

 

 テメェみてえな奴ががコミュ症を名乗るなや、高校でほぼ3年間2人組で先生とくんでいた俺を馬鹿にしてんのか

 

「おっと、こんな事やってる暇無いな、早速訓練始めるよ」

 

 そして奴は俺から20メートルほど離れた位置にワープした。

 

……もう驚かん。

 

「んじゃ試しにこれ折って見てよ」

 

 指をパッチンと鳴らしたかと思うと青年の頭上十メートルにトラックが現れた。いや、待て、トラック? 

 

 出現したトラックはその重量と地球の重力に従い落下する。

 

「危ねっ!」

 

 流石の青年もその超質量の前には普通に潰れるのではないかと声が出たが、青年はそれをあっさり右手でキャッチし持ち上げ、挙げ句にはサッカーボールを指で回す要領でトラックをくるくると指で回転させ始めた。

 

「全能が存在しない証明として誰にも持ち上げられない石作るのとその石を持ち上げるの両立しろってあるだろ、できるんだよ、アレ、そうなるように世界がねじ曲がる」

 

ニヤリと綺麗な笑みを浮かべて奴は言う

 

「だから、この程度楽勝なんだよね」

 

そして野球の大振りなスローイングをするかのように、足を大きく上げた。

 

「じゃあ投げるからキャッチしてね」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理」

「上手にできたらカントリーマーム進呈」

「しょうがねーな、バッチコイ!」

 

 何故か呆れた様な表情をした青年がノーモーションでトラックを投げる。

 

「投げる前に何か言え!」

 

 5トンを超す重量が俺に迫ってくる。あ、やべえ、俺死んだ。

 

 そう思った次の瞬間、俺は、トラックをキャッチしてた。

 

 明らかにこれはパワーだけではどうにもならないだろ、体重も無ければ出来ねえだろ。そう思ったがトラックは見事に俺の手に張り付いている

 

「ええ……嘘」

「んじゃあそのまま折って」

「いやいやいや無理無理こんなか細い腕で折れるわけ」

「素直にやったらのりしおチップス進呈」

「おらぁ!!」

 

 あっさりとトラックは真っ二つになった。中央に手を添えてトラック折るとか物理的に不可能だろと思ったが普通に出来てる。

 

 嘘だろ、完全に化け物じゃねえか。

 

「おー良いね、じゃあ次は解体してみな、放り投げても良い。何人か龍化させたけどここで力の使い方覚えないと他人にケガさせちゃうから真面目にやったほうが良いよー」

 

 ■■■■

 

 1分後、そこには一体このトラックは前世で何をしたんだと言わんばかりにめちゃくちゃに破壊された、トラックの惨殺死体、もとい残骸が転がっていた。

 

「よしよしオーケー、コーチとして鼻が高いよ、じゃあ次は」

「その前に」

 

 俺は手を伸ばした

 

「ん!」

「え、いや、早くない?」

「ん!」

 

 手を伸ばす

 

「……はい、これ、ご褒美」

 

 異空間に手を伸ばしたラグナがよこしたのはカントリーマームの大袋と徳用のりしおチップス(200g)だった。

 

「やったー!ラグナ兄ちゃん大好き!」

「……」

 

 まずはカントリーマーム。

 赤とクリーム色の見ているだけでテンションの上がる個包装を次々に破き次々に中身を口へ放り込む。

 

 クッキーにぬれせんべいの要素をたしたかのような、クッキーの上位互換の菓子だ、当然の如く美味い。

 

 ただでさえ何喰っても美味く感じるようになってる中で食う美味い菓子は、もはや麻薬だった。

 

 ちょうどいい甘みがなんとも言えない柔らかい食感と共に口に広がり、溶けるように口の中へ広がっていく。

 

 絶妙な柔らかさの生地も素晴らしいがチョコチップが歯ごたえ、味の両面でいい感じのアクセントになって味を引き締めているのがいるのもまた素晴らしい、この安物のチョコチップが無ければカントリーマームは国民的菓子になっていなかったと俺は思う。

 

 

 日本の値上げラッシュを体現し年々小さくなってコスパが悪くなって行くこの菓子は庶民には手が出しづらくなっているので、ただで喰えるのは本当に嬉しい。あっという間にすっからかんになった袋をぐしゃぐしゃと纏めてポケットに突っ込んで、ベトベトになった手を服で拭いた。

 

「うわぁ」

 

 なんか言われたが気のせいだろう。

 

 続いてのりしおを開けて右手で中身を鷲掴みにして口に放り込み左手で中身を鷲掴みにして放り込みまた右手で放り込む。

 

 父親が昔言っていた事を思い出す。結局一番美味いのは海苔塩であると。俺はその頃(7歳)はコンソメポテトこそ至高、それ以外の味はゴミ、特にのりしおは変なにおいするから嫌!という考えを持っていたが、今になって思う。

 

 父親の言っていたことは正しかったと。言語化しづらいがのりしおののりが、ポテトの塩の旨味と甘みを引き立てているというか……いや、こんな食レポなど無粋だ。食おう。それが食い物への敬意なのだから。

 

 これまたあっという間に空っぽになった。切ない。

 

「続きやって良い?」

「あ、はい」

 

 またゴシゴシとズボンで油を拭うとまた、うっわという声が聞こえてきたが、気のせいだろう。

 

 ■■■■

 

「おつかれっ!」

 

 1時間後。訓練は一通り終わった。馬鹿力の他にも龍らしい特殊技術の実験も出来た。

 

 それは良い、それは良いんだが……

 

 ぐぎゅるるる……

 

「腹減った……」

 

 今何となく燃費が悪いのは分かっていたが、この肉体は動くとさらに燃費が悪くなるのが分かった。

 

 特に火ぃ吹いた時と空飛んだ時の空腹感と言ったらもう……思い出すだけで狂いそうだ。

 

 この飽食の時代、空腹という脅威は軽視されるが、俺には命に関わる。

 

 エネルギーが尽きてると分かるのに、何故か身体は熱っぽくなり、手足に力が入らなくなる。

 

 あまりの空腹に地面にへばりつき何故か半ケツになっている俺に対してラグナは言った。

 

「君に限らず、龍種の燃費は悪いからな。僕と訓練した後、みんなこうなっていたよ。で、何が喰いたい? 一応カレーとチャーハンと寿司があるけど」

 

「ぜ、全部」

 

 ■■■

 

 カレーうまっカレーうまっカレーうまっ

 カチャカチャカチャカチャカチャカチャ

 米、米、米が喉を通る。

 

 大皿によそられた600グラムはありそうなカレーは笑っちゃうくらいスルスルと胃袋に飲み込まれあっという間に空っぽになった。

 

「おかわりくーださい!」

 

 大皿を差し出す。

 ラグナがよそっているうちに次のチャーハンに取り掛かる。

 

 こっちも美味え!米がパラパラしていて美味い!食レポが貧弱過ぎて申し訳ないが、中華風の味付けに絶妙な塩味と、確かな甘みが絡み合っていくらでも食えそうだ。

 

 そうこう言っているうちにカレーがよそわれたので一気にチャーハンをかき込む。味もそうだがごま油で喉がベトベトになってるような感覚が気持ちいい

 

 チャーハンも完食したためカレーもひたすら貪って貪って貪り尽くす。すげえ、本当に馬鹿みたいに胃に入る。まるで化け物みたいだ。

 

 ちなみに単なる真実としてこの世の美味い物ランキングは

 1位日本製中華、2位日本版カレー、3位ラーメンだ。

 異論は認めない

 

 カレーとチャーハンをドカ食いすると持たれそうになったので寿司を纏めて口に入れて洗い流す。いや、肉体的には全然平気だが精神的にきつい。2個寿司を纏めてヒョイパクヒョイハクと口に放り込む。

 

 うっま。俺は特に飯の味に詳しい訳では無いが、俺のバカ舌でも脂が乗っているのがはっきり分かる。それだけじゃない。脂が甘いの何の。魚介類のさっぱりとした脂で、ギトギトになった口が浄化されるような気分だ。んでさっぱりした口の中にまたカレーを流し込むって寸法だ。美味い! 美味い!! 美味い!!!

 

 美味いから食うんやない、生きるために食うんやという格闘漫画の名言があるが、あれは嘘だ。飯を食うために飯を食うんだ。少なくともこれほど美味い芸術を生きるための燃料と割り切るのは食材にも料理人にも失礼だ。

 

 食う、食う、食う、喰う、喰う、喰う、嚥下し、咀嚼し、かぶりつき、噛みつき、嚥下し、口に放り、咀嚼し、飲み込み、流し込み、咀嚼し、喰らう。

 

 ■■■

 

「カレー大鍋一つ、チャーハン2キロ、寿司120貫、完食か…」

「ありがとうお兄ちゃん! めっちゃ美味かった! ご馳走様!」

「そりゃ良かった、お腹いっぱい?」

 

 うーん、俺は腹を擦った。空腹ではないが食おうと思えばまだ喰えると腹がつげている

 

「良いよ、デザートにケーキも2ホールつけてあげる」

「兄ちゃん神?! やったー!」

 

 俺が飛び上がらんばかりに……ちょっとケツが椅子から飛び上がってる状態で言うと言うとラグナは言った。

 

「んで、これで、チュートリアルは終わったよ。僕達がちゃんと生きていける為の知識はこの本に書かれてる」

 

 そう言いながら、奴は六法全書みたいな本を出した。

 

「で、ここからが本番なんだけど、君は何がしたい?」

 今までの、おもちゃを見るような目ではない、真剣な目をしてラグナは言った。俺も真剣な目をして言った。

 

「俺は、今度は怠惰に生きるのはもう辞めたい、ぬるま湯のような快適な地獄の中で死んだ目でスマホをポチポチするのは、死んでいないだけ死んでないと生きているは違うんだ」

「……君」

「いや、それ抜きでも人間じゃなかった、誰にも興味を持たず、報いず、愛さず、ただ利己の為に生き続ける、そんなのは人間じゃない」俺は、利己の怪物だった。ド派手に他者を傷つけないだけで、あいつらと根本的な精神構造は一緒だ。

「なるほど、自分は人間じゃないって言いたいわけね」

「まだ全然人生を経験できていない! 風俗にも行きたい! もっと美味い物を食いたい! まともに働きたい! 飲み会にも行きたい! 旅行にも行きたい! まだ体験してない事が多すぎるんだ! やってやる……今度こそ、やってやる! 今度は絶対に、真っ当に生きてやる! そして、俺を助けたヒーローを今度は俺が助ける!」

 

 そう言うとラグナは薄笑いを浮かべて言った。

 

「ん〜。あのさぁ」

 

 席からラグナが立ち上がる。

 

 スタスタと俺の席の後ろに回り込み、肩に手を置いて、言った。

 

「君ぐちゃぐちゃ言っていたけどクズってそうそう変われないからクズなんだよ、カイ◯とかウシ◯マくん見てりゃ分かるだろうけど、死ぬ気にならなければクズの改心なんて三日坊主さ、小手先でしか、変われない、似たような事言って結局怠惰なまま死んだ人間なんていくらでもいるよ」

 

 違う、俺は今度こそ

 

「あとさあ」

 

 とても冷たい声で言った

 

「さっきから聞いてりゃ言葉の節々から過去の自分と今の自分は違う、って言わんばかりだね君。死んだくらいでクズが治るわけないだろ。チート能力持ったくらいで良い方向に精神が変わるわけないだろ」

 

そしてラグナは自身の胸に手を当てた。そして地獄の底から響く様な声で言った。

 

「我が身は龍なり」

 

 奴はその言葉と共に姿を変えて行く。龍の翼! 宝石の様な美しさと凄まじい暴力を内包した、磨き上げられた日本刀かの様な、他者を害すという一点のみを求めたかの様な、龍の姿へ。死というのはどれだけ脅威であっても何となく、その形は掴める。核兵器でもジャンプのチートキャラでも、それによってどんな風に殺されるかは、想像できる。こいつは想像すらできない。どう殺されるのか。そして、こいつは、俺にガチの殺意を持ってる。

 魂が、恐怖のあまり口から抜け出そうになった俺に龍となったラグナは言う

 

「そういうクズ共と違うって事を教えて欲しい。はっきり言って、君のセリフテンプレ、テンプレ、テンプレの塊で面白い事ねーよ、本心なのも間違いないだろうが綺麗事しか言ってねーな。そういうのは長く持たねえんだよ。つまんねーな君。10秒待つから君の言葉で、何したいか言えよ。言わなきゃ殺す」

 

 ……ずっと前から考えていた事がある。

 

 人間はみんなアイデンティティを求めている。誰しも自分は他人と違う強烈な個性を求めている。

 

 ただ、ここで重要なのがかっこいいアイデンティティであるということだ。スカトロといううんこにたかる蝿みたいな性癖を持っているとか3日に1回畳を舐める習性があるとかそういう物は求めてない。

 

 それ故、強烈な見栄えの良い個性を持てなかったスカトロマンは思うのだ、自分は個性のない人間だと。逆に言えば、負の方向には誰も彼もめっちゃ個性的だ。そう、俺も例外でない。

 

「お、俺は!」

「お」

「完璧美少女になれたんだからめっちゃチヤホヤされたい! かわいいと言われたい! オタクくんにすり寄って勘違いさせて告白されて振りたい! 女共に顔面で嫉妬されてハブられるがあまりの顔のよさに一瞬でカースト最上位層に舞い戻りたい! 新宿とか歩いてモデルのスカウト受けてそれを何でもないことの様に断りたい! 美少女故に起きる全てのイベントを浴びたい! とにかくめっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっちゃチヤホヤされたい! あとメシもめっちゃ喰いたい! カレー! ラーメン! チャーハン! カツ丼! 寿司! 餃子! ハンバーグ! パスタ! 喰いたい! 喰いたい! あと、あんな事してまだ言うのもあれだけど! 堕落もある程度したい! ダメだって、ホントはダメだと分かってるけど! ダラダラダラダラスマホいじりたい! あと俺を殺しやがったチンピラ共をメッチャクチャ悲惨なやり方で惨殺したい! ぶっ殺してやる!」

 

 そう言った直後辺りを沈黙が支配する。

 

 ちらりと見るとラグナは笑っていた。

 

「ん、よし、合格。ごめんね、脅すような真似して。経験上はっきり全部やりたいことはかせないとろくな事にならないからさ」

「君の前の人は、本心吐けず自殺しちゃったんだよね、変にカッコつけて自分をいじめていた連中に復讐したいという本心を吐けず、抱え込み、ストレスで。死んだ命を生き返らせることは僕にもできない」

「できないの? 全能なのに」

「記憶も性格も全く同じまま蘇生できる、けどそれは死んだ本人だと思う?」「……思わない、ごめん」

「まあ、それはそれとして君の幸せを願っているえーと、君の名前は」「小夜子」

 

とりあえず名前は小夜子で良いだろう。とある神秘的な女神のような外見をしているが中身は四捨五入すればなんJ民とかマネモブとかクソオタになる取り柄と言えば顔と声と歌だけのクソみてえなラスボスからとった名前だ。

 大体俺と同レベルの人格と言動だったのでめちゃくちゃシンパシーを感じていた。

 

「じゃあ小夜子、君学校に行ってみる気はない?」「もちろん!」「じゃあ、その金は俺がだす、後食費も補助してやる」

「天使? 神様仏様ラグナ様好き好き大好き好きぴっぴ!」「代わりに」「ん」「世界一有名な独裁者の美大落ちちょび髭をしばいて欲しい」

 

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