〜P.M.16:00 大阪湾〜
白雲が黒く染まり、まるで異形の戦艦として再起動する。
「……なにが起きてるんだ……!?あれは……!」
セイバーが目を見開き、遼をかばうように後退する中、艦の装甲が音を立てて捻じ曲がっていく。艦橋から突き出すように現れたのは、まるで生物の骨のような外装――
「……落ちていたものを拾ってそのまま自分の武器にしたってところかしら。」
天音は静かにその本質を探るかの用に偽のバーサーカーを眺める。
黒き艦の上に佇むバーサーカーの姿。
彼の立ち姿には一種の“騎士”としての品位があった――その狂気を除けば。
「……騎士、か」
セイバーが呟くと同時に、バーサーカーの両腕が軋みながら変形を始める。
艦の一部を転用したかのような黒い双剣――それは《白雲》そのものを“武装化”した証。
「名乗らずとも、その在り様が語っている……!」
セイバーが一歩、甲板に踏み込む。
「一時休戦と行こう、セイバー。
監督役から乱入者の話は聞いている。」
静かにライダーがつぶやく。
「…そうだね、ライダー。
今は不穏因子を積む時か。
……それに、私の前で二刀流を取るとは、いい度胸……!」
セイバーが凛々しく二対の剣を構える。
「あなたが何者であれ、これは聖杯戦争――!道を阻むなら、斬るまで……!」
――その瞬間、黒く染まった《白雲》が、まるでバーサーカーの意志に呼応するように砲塔を回転させ、再び牙を剥いたかと思えば、主砲が再び唸りを上げる。
その砲は大和へ向けて次々轟音を上げながら発射される。
大和の側面に直撃する中、セイバーはその幾つかを切り伏せながら白雲の甲板へと跳躍し、黒き艦上の騎士へと切っ先を向ける。
「名も知らぬ騎士よ!
その佇まい、猛者とお見受ける……!
双剣の騎士が相手だ……!」
セイバーが目の前の獣に黒い剣の切っ先を向ける。
「………heeee………。」
ギラリ、と赤く目が光ったかと思えば、偽のバーサーカーの鎧がカタカタと音を立ててなり始める。
それはまるで武者震い、もしくは、目の前の敵を笑っているように見える。
「……貴様、よもや私をバカにしているのか……?
ならば三味線を引いたまま死ぬがいいーーー!!」
怒りの勢いで黒い魔力を放出したセイバーは、イノシシの如く目の前の狂戦士に襲いかかる。
ーーーだが、その渾身の一撃は読まれていたかのように完璧に防がれる。
「……何ッ!?」
防がれると思っていなかったセイバーは驚愕から隙を産んでしまう。
その矢先、白雲に備え付けられている速射砲が火を噴く。
「不味い……!」
咄嗟にセイバーは後ろに飛ぶ。しかしながらその退路も予測されていたのだろう。
脇腹にその弾丸が霞む。
「……ぐっ……!」
彼女は2、3mほど甲板を転がるが、すぐに甲板に手を付き、起き上がる。
ーーーしかし。
「Baaaaaa………liiiiiiiiiii………!!」
偽のセイバーがそれも予測済みだと言わんばかりに咆哮し、距離を詰めていた。
そして足を振り上げたかと思えば、その顔面に容赦ない蹴りが突き刺さる。
「ッ…………!!!がァッ…………!!」
その咆哮を聞いたセイバーは一瞬同様し、蹴りをモロに食らったかと思えば、その勢いで海へと墜落する。
「セイバーーーーッ!!!」
大和の甲板から遼は海面を見下ろす。
「……天音、第二宝具を開帳する。」
その戦局を静かにみていたライダーは隣の天音を横目で見ると、そう零す。
「いいわ。
あのバーサーカー、本気を出すのに値するわよ、ライダー。」
天音が静かに許可を与えると、山本五十六はゆっくりと手を腰へと伸ばす。
指先が触れたのは、懐に指した軍刀。
それを鞘から抜き、静かに海へとその剣先を向ける。
――瞬間、ライダーの体全体から淡く蒼白い光を放ち始める。
「――此れより、我が名と存在を以て、命ずる。」
彼の声が静かに、しかし絶対的な威厳を伴って響き渡る。
「第二宝具、展開。
『
その宣言と同時に、大和全体が艦鳴と共に震えた。
空気が変わる。大気そのものが軍律に染まり、戦場の「座標」が固定されていく。
大和を中心に広がる見えざる結界――それはもはや戦域そのものを統制する“存在の布陣”だった。
「……始まったわね」
天音が満足げに呟く。彼女の言う“試験場”が、本物の戦場へと姿を変えたのだ。
ライダーの瞳が蒼く発光し、声は重みを増していく。
「これより先、我が旗艦とその艦隊は――退かぬ。退けぬ。退くことを許されぬ。
ここは、決戦の座。
君が“死”を望むなら応じよう、黒き騎士よ。
我が艦隊の名に懸けて――君を討つ。」
彼の背後、大和の砲塔が再び旋回を開始する。
その動きには、もはや迷いも演出も存在しない。
これは「実戦」だ。
戦端は切られた。
そしてその時、海中から――
「……見えた!」
沈んでいたはずのセイバーが、銀の剣を突き立てながら水柱を割って飛び出してくる。
濡れた黒髪を引きずりながら、彼女は白雲へと再び跳躍する。
その目には、確かなる戦意が宿っていた。
「……まだ負けてなどない…!
もう一度、挑む……!“騎士”としての名に、恥じぬ戦いを……!!」
空と海、鉄と魂が交錯する――
決戦の幕は、今からようやく幕を開けるのだ。
再び黒き艦の甲板へと舞い戻ったセイバー。その足元で甲板が軋む。
降り立った瞬間、風に濡れた黒髪を翻しながら、その視線はただひとつ、眼前の狂戦士に向けられていた。
「貴様は………
いや………貴卿は………!
まさか貴方なのか………!?」
赤く濁った瞳を煌めかせる偽のバーサーカー。
彼は剣を構えるわけでもなく、ただじり、じりと歩み寄ってくる。
まるで――獲物の息遣いを楽しむ猛獣のように。
「何があなたを狂気で染めてしまったんだ………!?」
セイバーは目の前の狂騎士に問いかける。
それに対しての返答は、二対の剣による乱舞だった。
「遼!ライダー!そしてライダーのマスター!
このバーサーカーの真名がわかった……!」
セイバーは振り向きもせずに追撃を捌きながら大和の甲板に立つ共闘者へ叫ぶ。
「このバーサーカーは私を知っている……!
そして私は、彼を知っている……!」
「なんだって!?」
遼が驚愕の声を上げる。
「……ええ、魂を詠んだわ。あの騎士、相当厄介な敵よ。」
赤髪を揺らしながら、興味深そうに偽のバーサーカーを眺める天音は、珍しく警戒の目を向ける。
「誇り高き円卓の騎士が1人!
湖の騎士・ランスロットだ……!」
セイバーはなおも偽のバーサーカー__
ランスロットの猛攻を受け止めていた。
「私と貴卿は、何度も剣を交えた仲だろう……!」
一撃、また一撃。
黒き双剣と銀黒の二刀が激しく打ち合い、火花が奔る。
だが、セイバーの言葉に、ランスロットは答えなかった。
ただひたすらに、唸り、うねる。
その身体からは、かつての理性の残滓がまるで血のように滲み出ていた。
「貴卿を、かつての姿へ――戻すことはできぬのか……!」
苦悩が混じった叫びとともに、セイバーは強引に間合いを詰めた。
――しかし、その刹那。
「Graaaaghhh!!」
狂気の爆発がランスロットを包む。
瞬間、甲板の至る所から艦載兵器が唸りを上げ、周囲を無差別に薙ぎ払った。
白雲が、完全に“彼の武器”として機能し始めた証だった。
「マズい!このままじゃ……セイバーごと、海に沈めることになる……!」
遼の焦燥に応じるように、艦橋の上でライダーが口を開く。
「皇国の艦を信じなさい。
私が彼女を全力で支援する。」
その言葉と共にゴウン、と音を立てて大和の主砲が動き始める。
「では、戦争を始めましょう。これは演習でも測定でもない――魂と魂がぶつかり合う、本物の戦争よ」
天音が小さく笑う。
その笑みは好戦でも、狂気でもない。
ただ、己が選んだ英霊の“覚悟”に対する、静かな敬意だった。
「目標、偽のバーサーカー、真名・ランスロット。
全艦砲撃、開始。」
咆哮のように大和の主砲が震え、再び海を裂いた。
――そして戦場は、いよいよ“聖杯戦争”の名にふさわしい修羅場へと変貌する。