Fate/Bound Chord   作:Kiku_kz

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魔弾、槍を裂く

〜同時刻・帝塚山 久我邸・地下書斎〜

 

魔術回路を通した監視映像が、水面に浮かぶ水晶盤に微かに揺れて映っていた。

朱音はその前に座り、指先で波紋を止めるように盤面をなぞる。

朱音は、遼達が出ていった後、密かに使い魔を飛ばし、彼らの動向を監視していたのだ。

 

「……終わったのね、セイバー」

 

呟いた声に、応える者はいない。

部屋の中は、蝋燭の光と、映像の明滅だけが揺れていた。

 

甲板に倒れ伏す黒騎士――ランスロット。

そして、それを見下ろすセイバー。

彼女の呼吸の乱れ、剣を霊体化させた仕草まで、はっきりと見て取れる。

 

(……あなたはまた、戦いの意味を背負ってしまうのね)

 

セイバーの勝利は嬉しい。

だが、それと同時に胸の奥に引っかかるものがあった。

 

(“もう一つの聖杯”、そして“死徒・マーリス・ヴァレンタイン”。

御堂……あなたは何を始めようとしているの?)

 

朱音は魔術回路を閉じ、椅子にもたれかかる。

 

「……白峰君」

 

彼の名を、小さく呼ぶ。

 

(あなたを巻き込んだのは私じゃない。けれど――)

 

ここから先、彼もまた運命に深く絡んでいく。

彼が選ぶ道に、朱音は関与せざるを得なくなる。

 

だからこそ。

 

「急がなきゃ。……ヤツらの“次”が、来る前に」

 

冷たい蝋燭の灯が揺れた。

 

朱音は椅子から立ち上がる。

覚悟の気配が、部屋の空気を変える。

 

「アカネ。」

 

静かにそう呟きながら、ランサーが霊体化を解き、彼女の前に立つ。

その姿は既に戦闘服である絹のチュニクを着用していた。

 

「大阪城で坊主とセイバーが出会ってたオダノブナガが天王寺にいる。

ヤロウ、最初からここが目的だったようだぜ。」

 

「…なんですって?」

 

ランサーの報告に、朱音は水晶の前へと戻る。

場所は天王寺・あべのハルカス屋上。

かつて日本一のビルの称号を持っていた建物に堂々と笑みを浮かべて立っていた。

その視線の先にあるのは、帝塚山・久我邸。

 

「……人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……。

待っておれランサー!そして久我 朱音!

この第六天魔王ことワシがお主らに引導を渡してくれよう…!」

 

チラリ、と宙を飛ぶ朱音の使い魔を見ると信長はニィ、と頬を釣りあげたかと思えば、兵を乗り越え、垂直に落ちていく。

 

「…かっこよく乗り越えたはいいものの、その先のことを考えておらんかった!

ま、是非もないよネ!

………タスケテーーーーーッ!」

 

信長は大きく目を見開き、落ちながら手足をバタバタさせる。

ランサーは水晶に移るその映像を呆れた表情で眺める。

 

「おいおい、日本一有名な英雄だって聞いてワクワクしてたらとんだ大マヌケじゃねぇか。

期待外れもいいところだぜ全く。」

 

やれやれ、と首を振るランサーに朱音は振り向かずに静かな声色で呟く。

 

「…いいえランサー。

それがあの英雄・織田信長の恐ろしいところなの。

史実でも最初は『うつけもの』と誰も彼もがバカにしていたの。

……でもそれは計算され尽くされたパフォーマンスだった、なんて話も残っているわ。」

 

そう言いながら地面に落ちる信長。

その場所は人で賑わっている天王寺の中でも、人気が全くないところだった。

 

「イテテテ……これがかの有名な『アーチャー、着地任せた!』てヤツかと思って叫んだら、アーチャーはワシじゃったわ。

…あの仏頂面のアーチャーが来るわけないしのう。」

 

頭をポリポリと書きながらも、久我邸へ接近する。

 

「出るわよランサー。

今回の相手は日本一の知名度を持つサーヴァント。知名度補正は馬鹿にならないわよ。

……評価を見直してセイバー並みの実力者だと思った方がいいわ。」

 

朱音は真剣な眼差しでランサーを見ると、地下から出て、今朝方の戦闘の跡が残る庭園へと向かう。

 

「了解した。

まぁ強ェ奴と戦うのは歓迎よ。」

 

ランサーはその後を黄金の槍を掲げ、追う。

 

間もなくして、気配が近づいた。

風が吹き抜けると同時に、庭の南側に火薬の匂いと共に現れる紅の光。

 

「うはははははははは!ワシ、見参!」

 

紅の陣羽織を翻し、偽のアーチャー、織田信長が悠然と立ち上がる。

その手には装飾の施された火縄銃──だが、ただの鉄火器ではない。

魔力を帯びた異様な熱が、彼女の周囲の空気を微かに震わせていた。

 

「第六天魔王・織田信長!神仏の類いは、ことごとく滅しに参った!」

 

朱音は眉をひそめ、ランサーに声をかける。

 

「来るわ。魔力の波長、はっきり確認できる…

…神性特攻……貴方とは、相性最悪よ。」

 

ランサーは口の端を上げる。

 

「面白え。なら、試してみるか。神の末裔に、それが通じるのかってな」

 

ルーの槍が光を帯びる。

黄金の神槍(ゲイ・アッサル)――。

空気が張り詰める。

 

「ほう、神性持ちか?

ええじゃないか、やっぱり殺しがいがあるのう。」

 

信長の目が鋭く細められる。

先ほどまでの軽口とは別人のような、“本物の将”の気配が放たれた。

 

「“神性”持ちの英霊には、特別な贈り物がある。

この身に宿るは、神仏殺しの執念──《魔王》の格よ!」

 

紅蓮の弾丸が咆哮するように放たれた。

それはもはや火縄銃の射撃ではない。魔術と信仰否定の呪が込められた“火力”だった。

 

ランサーはすかさず跳び退きながら槍を構え、朱音の背後を庇うように立つ。

 

「速い――だが、読めるッ!」

 

槍を逆手に振り抜き、爆熱の弾を正面から叩き落とす。

直撃は免れたが、二発、三発と次弾が続く。

 

「……確かに、ただの英雄じゃねぇな。あれが“魔王”ってやつか」

 

「ランサー!援護するわ!」

 

朱音は魔力の糸を繋ぎ、ランサーの防御結界を再構築する。

 

「ちぃ、余計な補助が入ったか。けどまあ、しゃーないわ。

久我 朱音、そっちもなかなかできる女じゃのう?」

 

信長は笑った。その笑みは、戦場に立つ者のものだった。

 

「さあ来い、ランサー! 火を吐く魔王と、神の末裔──どっちが勝るか、見ものじゃろう!」

 

ランサーは黄金の槍を掲げ、静かに呟く。

 

「なら……問答無用で、いかせてもらう」

 

空気が鳴った。二人の間に走る火線と雷光。

 

次の瞬間、戦場が動いた。

 

「もう充分だ、アカネ。そろそろ──見せる頃合いだろ」

 

戦場に立つランサーの足元に、円形の魔力陣が広がる。

それはまるで太陽を模したかのような輝き。

 

風が止み、空気が静止した。

ルーの声が、低く、そして確信に満ちて響く。

 

「聞け──千の技芸を統べし、太陽の子よ。

空より授かりし黄金の穂先、我が手にて再び閃け。

音もなく、影もなく──されど必ず穿つ。

避けられぬなら、抗うことすら無意味!」

 

槍が黄金の光を帯び、真っ直ぐに掲げられる。

空が震え、雷鳴が遠くで鳴ったような気がした。

 

「《 突き穿つは、黄金追槍(ゲイ・アッサル)》──穿てッ、イヴァル!」

 

黄金の閃光が唸りを上げて走る。

まっすぐに、そして追尾するように放たれた一撃は、信長の回避を許さず一直線に迫る。

 

黄金の閃光が唸りを上げて走る。

まっすぐに、そして追尾するように放たれた一撃は、信長の回避を許さず、一直線にその胸を貫かんと迫る。

 

「はっ、なるほどのう──避けられぬ、か!

ならば……是非もなし!!」

 

信長は笑った。

次の瞬間、腰の刀を抜き放ち、槍の軌道へと突きつける。

 

「三千世界に屍を晒すがよい。

――天魔轟臨、これが魔王の『 三千世界(さんだんうち)』じゃああああっ!!」

 

その刹那、刀身から放たれる火花が空間を裂き、

三千もの魔弾が、間髪入れずに雷鳴のように迸った。

迫る槍と激突する一撃は、まさに魔王の号令に応じた軍勢の如し。

 

閃光と爆音が庭を包み、地面をえぐり、

空すら赤黒く焦がすような衝突の余波が久我邸を揺らした。

 

閃光が引き、爆音が遠ざかる。

燃え残った魔力の煙が夕空に渦を描き、焦げた芝の匂いが風に乗って漂っていた。

 

信長は地面に片膝をついていた。

着物の肩口には血がにじむ。だが、その表情に痛みはない。むしろ――

 

「フフ……ははっ! いやあ、さすがじゃ、ランサー!」

 

狂気と歓喜の混じった声が庭に響く。

 

その対面。

ランサーもまた片膝をついていた。

 

「……チッ」

 

口元から血が垂れ、左腕には焼けただれたような裂傷。

投擲後に帰還したゲイ・アッサルの柄を握ったまま、彼は立ち上がる。

 

「三千の弾丸だと……まるで軍神気取りじゃねぇか。

……面白ぇ、上等だよ、魔王」

 

その身体にはまだ戦える余力がある。

だが、さっきまでの涼しげな余裕は消えていた。

 

「……常軌を逸してる。魔力の放出量が人間の域を超えてるわ。

あれは単なる戦いじゃない、“儀式”よ……彼女自身が魔王としての象徴」

 

朱音は呟くようにそう言うと、両手を組み詠唱を開始した。

 

「開け、黄昏の門。

雷光を導き、神殺しに抗う盾を成せ……!」

 

ランサーの背後に、淡い蒼光の防壁が重ねられる。

それは朱音の補助魔術――魔王の次なる一撃に備えるための結界だ。

 

「……ああ。助かる」

 

ランサーは一言だけ返し、再び槍を構える。

全身を灼かれながらも、その瞳だけは静かに燃えていた。

 

一方の信長も、肩を回しながら火縄銃を軽々と構え直す。

 

「まだ立っとるか。よしよし、それでこそ。

ワシの“本当の地獄”は、ここからじゃからなァ!」

 

血に濡れた英雄たちの息が交錯する。

次の瞬間、魔力が爆ぜる音と共に、再び激突の火蓋が切られた――。

 

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