〜P.M.21時10分 此花区・旧工業地帯 入口付近〜
キャスターVS偽のセイバー
鉄骨造りの巨大な建屋に、不気味な旋律が響き渡る。
その歌声は榊原とアサシン、そして呪腕のハサンを引き離し、目の前にたつ障壁へ送られる。
鷹取の隣に立つキャスター、フランツ・シューベルトは、手にした指揮棒を鋭く振るう。
「響け、我が旋律………!」
空中に浮かんだ無数の鍵盤が、音の弾丸となってカエサルに襲いかかる。それは魔王の歌声、魂を侵食する「呪いの旋律」だ。
カエサルは剣を構え、軽やかに舞うようにそれを捌く。音の弾丸が彼の体をかすめるたび、鎧に火花が散り、鋼が擦れる不快な音が響く。だが、その表情は楽しげだった。
「ふむ、なるほど。これは精神干渉か。芸が細かいな、音楽家君!」
音を弾きながら1歩、また1歩とキャスターの元へと近づいていくカエサル。
「芸だと?この宝具は、貴殿の傲慢さに相応しい鎮魂歌よ。」
キャスターはそれを見ればさらにテンポを上げる。
指揮棒が叩きつけるたびに、旋律は激しさを増し、カエサルの周囲に目に見えない圧力となってのしかかる。
「人の心を操るなぞ、無粋な真似だ!
私の勝利は、力と知恵で勝ち取るもの!
君のようなまやかしは、我がローマには通用しないのだよ……!」
カエサルは剣を翻し、弾丸のように前進し、再び宝具『黄の死』を発動しようとする。
だが、キャスターはそれを見越していた。
「無駄さ。
貴様の宝具の真名開放には、精神の集中が必要だ。
吾輩の旋律は、貴殿の集中力を奪い、舞台を支配する………!
さあ、踊れ、ローマの将軍・カエサル……!」
キャスターの旋律が空間全体を覆い尽くし、カエサルは一瞬、眉をひそめた。その僅かな隙を逃さず、キャスターは旋律を一点に集中させ、カエサルの精神に直接語りかける。
「貴殿は『勝利』を愛する。
だが、貴殿は知っているはずだ……。自らが最も輝いた人生の終わりに、待っていたものが何であったかを……!
この魔王が、再びその屈辱をプレゼントしよう………!」
ギラリ、と怪しくキャスターの背後の魔王の目が光り、不気味な旋律を奏でる。
その旋律はカエサルの記憶を掘り起こす。栄光の凱旋、偉業の数々……そして、背後から迫る無数の刃。
「ぅ、おおお…!この、光景は……!」
カエサルの顔に、初めて動揺の色が浮かんだ。彼は剣を構え直すが、その動きは鈍い。キャスターは勝機と見なし、さらに旋律を加速させる。
「そう、貴殿は知っている。
勝利とは、常に脆いものだと。この世に永遠の勝利など、存在しないと!」
カエサルは苦しげに顔を歪める。彼の周囲に展開されていた魔力が乱れ、宝具の発動が阻害されている。
「…いいぞ、キャスター!そのまま押し切るんだ!」
鷹取が叫ぶ。
キャスターは満身の力を込め、最後の音符を叩きつけた。
___勝てる。
その瞬間、カエサルは不意に笑った。
「…ふ、ふはははは!面白い!実に面白いぞぅ!君は私の過去を掘り起こし、精神を揺さぶる。まるで歴史家気取りだ。
確かにこの光景は大変に堪えるさ……!
だがしかし!君は忘れている!
歴史家と将軍、何が違うかを!」
カエサルの瞳から、動揺の色が消え、再び冷酷な光が宿った。
そして黄金の剣を高々に掲げる。
「将軍は常に!最悪の事態を想定する!!
カエサルと言う名が割れた以上、最期を再現することなぞもうとっくに読んでいたさ……!!!
つまり!!
君のこの程度の精神攻撃、精神に干渉する宝具を発動した時点でどうせ来ると思って最初から見切っていたとも!!!」
カエサルの体に、突如として魔力の嵐が巻き起こる。それは、キャスターの旋律を上書きするかのような、圧倒的な存在感だった。
「バカな……!?
吾輩の旋律が乱れるとは……!?」
キャスターは驚愕に目を見開く。カエサルは不敵な笑みを浮かべたまま、静かに言葉を紡ぐ。
「さらばだ優秀な音楽家!
生まれる時代が違えば君は私の傍で音を奏でていただろう……!」
カエサルの言葉に、キャスターは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「音を………読み違えたか………ッ!」
冷や汗が頬を伝う。
そしてカエサルが剣を構える。
その剣に宿る魔力は、先ほどとは比較にならないほど強大だった。
「では端的に。
来た!
見た!
勝った!
ふううぅぅぅッ!!!!」
「……ッ!」
牛が突進してきたかのように一瞬で眼前に迫るカエサル。
キャスターが指揮棒を振るうが、もはや旋律は届かない。カエサルは勝利を確信した笑みを浮かべ、剣を振り下ろす。
「《
カエサルの剣から、光が放たれる。
その光は、キャスターの体を袈裟に捉え、最後にカエサルの左腕が膨れ上がり、頭上に振り下ろされる。
「ぐ、ぅおぉおお…ッ……!!」
強力な連撃を受けたキャスターは胸から血飛沫を上げ、ゆっくりとうつ伏せに倒れる。
その光景が鷹取の網膜に焼き付く。
「キャスター!
……ッ……!」
ピクリとも動かないキャスターに反射的に駆け寄ろうとした鷹取の体に、冷たい魔力の刃が突きつけられる。
カエサルが、いつの間にか目の前に立っていた。
「残念だったな、マスター君。君のサーヴァントは……
ああ!もう動けないな!」
カエサルの冷徹な声が、耳元で響く。
鷹取は、彼が自分を殺そうとしていることを直感的に悟った。
「令呪を以て___」
鷹取は最後の希望を懸け、右腕を掲げ、令呪を消費しようとする。
しかし、カエサルはそれを許さなかった。
「おっと、無駄だ。
令呪はマスターの最後の切り札。
そんなもの、ワザワザ使わせるほど、私は甘くない!」
カエサルの剣が、鷹取の手首を掠める。
間一髪で腕を引き、何とか手首を守る。鷹取は令呪の発動を中断せざるを得なかった。
鷹取は後ろに下がるが、カエサルはまるで影のように彼に貼りつく。
「いくら足掻いたところで、無駄な抵抗だ。
もう賽は投げられたのだから…!」
カエサルは鷹取の動きを先読みし、彼の退路を断つ。
鷹取は、逃げ場のない壁際に追い詰められていく。
「くそっ……!」
鷹取は歯を食いしばる。
「こう………いち………。」
床に倒れたままのキャスターが、震える腕をのばし、絶望的な眼差しで彼を見つめていた。
その瞳には、助けを求めるような、懇願するような、痛ましい色が浮かんでいた。
「キャスター…
すまない、ここまでだ……!」
鷹取は絶望を悟り、目を閉じた。彼の脳裏に、キャスターと出会ってからの日々が走馬灯のように駆け巡る。不器用ながらも、彼を支えてくれたサーヴァント。
「クソッ……!
俺はマスターになる資格なんてなかったんだ………!
俺はなんて、ダメなマスターなんだ……ッ!」
その彼を守ることができない自分を、鷹取は激しく責めた。
「さらばだ、鷹取 紘一君。
君は良いマスターだったと、私は思うぞ。」
カエサルは勝利を確信し、剣を振り上げる。その刃が、鷹取の首を両断するべく、振り下ろされる。
その瞬間、鋭い金属音が響き渡った。
「──────何?」
カエサルの剣は、突如として現れた白銀の剣に受け止められていた。霧の中から現れたのは、白いフードの着いたマントを身に纏い、細い剣を携えた白銀の鎧を身にまとった一人の騎士。
彼は一言も発することなく、カエサルと対峙する。
「不粋な乱入者よ。
貴様、一体何者だ?」
後ろに飛び、距離をとるカエサル。
剣と楯を構え直し、戦闘態勢を取る謎の騎士。
その姿は、まるで世界の秩序そのものが、カエサルの前に立ち塞がったかのようだった。
「真なる聖杯戦争を取り戻すべく、貴殿らに立ち塞がる最大の障壁。
《
ここから先これ以上の勝手は、ボクが認めない。」
フードから覗く紫の瞳は、獲物を狙う蛇のように目の前に経つ乱入者を睨みつけていた。
全部書き終わった後にアサシン陣営のこと思い出した。
強引だけど戦ってる場所は別ってことで何卒……。