粉塵を押し退け、白銀の甲冑を纏う影が歩み出る。
楯と白銀の針剣を携えたその姿に、全員の視線が釘付けとなった。
「……ルーラー、だと…?
我ら7騎の存在から呼び出されたか……!」
カエサルがそう叫ぶと同時に、場の空気は一変した。
秩序の裁定者が現れたことで、暴走した戦場がわずかに均衡を取り戻していく。
「裁定を下す」
彼の声は淡々としていた。
「この戦いを乱す元凶、ガイウス・ユリウス・カエサル――
貴方を退ける」
レイピアの剣先をカエサルに向ける。
「ほう……裁定者風情がこの私に挑むか!」
カエサルは咆哮し、大剣を振り下ろす。
轟音。
地を割る一撃を、ルーラーは楯で受け止めた。衝撃波が工場全体を震わせ、錆びた鉄骨が雪崩のように崩れ落ちる。
だが、彼は一歩も退かない。
「――っ!」
押し返し、レイピアが閃いた。
とてつもない速さで繰り返される連撃は銀の刃は巨体の隙を裂き、鎧を浅く削る。
「チッ、ちょこまかと……!」
すぐさま大剣が薙ぎ払われ、火花が散る。
鉄骨が叩き折られるほどの威力を、ルーラーは寸前で跳躍してかわした。
背後で鉄柱が砕け落ちる轟音が、彼の軽やかな動きと対照的だった。
――カエサルの剛力と覇気。
――ルーラーの俊敏と精確な剣舞。
工場跡は、二人の攻防で次々と崩壊していく。
「貴様ルーラー………!
我が覇道を遮るか!」
「覇道?
……それは歴史の誤解にすぎない」
刃と刃が幾度も交差する。
一撃一撃が地響きとなり、残骸を砕く。
しかしカエサルの猛攻は力任せすぎた。重く大きな剣筋を、ルーラーは最小の動きで受け流していく。
「ぬうぅっ!」
「――遅い。
もう少し痩せたらどうだい?」
低く呟き、ルーラーの双剣がカエサルの脇腹を浅く裂いた。
返す刃で腕もかすめる。鮮血が飛び散るが、覇王は怯まない。
「ハッハッハ!
この程度、このカエサルの歩みを止められん!」
「強靭さは認めよう……
けれど、これはどうかな。」
その言葉とともに、工場跡に白光が満ちた。
ルーラーの背後に、魔力の粒子によって型作られた二対の剣が形作られる。
「――疑念の末に、ボクは見抜けなかった。
故に二度と同じ過ちは犯さない。
この剣はその覚悟だ。貫け。
『
__誤解が生む悲劇を、味わうがいい。」
二対の剣が、カエサルの体を貫く。
しかし物理的なダメージはない。
(……ならばこれは状態変化を与える概念宝具…!
効果が現れる前に『
思考の末、カエサルは剣を構え直し、高らかに声を上げる。
「全く何度使わせれば気が済むのか…!大体適材適所ではないのだ。そうだろう!
私は来た!
私は見た!
ならば次は勝つだけのこと!
『『
「いいえ、貴方はボクに勝てない。」
ルーラーは剣を凛々しく構え、カエサルの懐に侵入する。
「__無駄だ。
貴方の切り札は封じられた。」
澄んだ声で静かに彼は呟く。
銀の閃光が剣先に収束し、ルーラーは腕を突き上げる。
「クッ………!
なぜ宝具が発動しないのだ…!!
不味い、防御を__」
「もう遅い。」
その言葉と同時に繰り出されたその連撃は、カエサルの巨体を何十、何百回と貫いた。
「ぐおおぉっ……!何たる手数…!
何たる力……!
よもやここまでか………!」
覇者の咆哮が木霊し、霊体が強制的に霧散する。
その姿は光に呑まれ、跡形もなく消え失せた。
――静寂。
火花の散る音だけが残る廃工場に、ルーラーはゆっくりと剣を収める。
「偽なるセイバーに興味は無い。均衡を脅かすものは疾く失せるといい。」
消滅を確認したルーラーは剣を降り、返り血を払い落とす。
銀線の裁定者は被られたフードの奥で光るその瞳を鋭く光らせる。
その眼光が表すものは裁定者としての覚悟とその奥に秘めた信念。
「す、すごい……。
キャスターが圧倒された偽のセイバーを…
ものの数秒で……。」
鷹取は静かに驚愕する。
廃工場跡に漂う煙と粉塵。崩れた鉄骨の影に、戦闘の残響が微かに残っていた。
鷹取は膝をつき、キャスターを心配そうに覗き込む。
血の匂いが鼻をつくが、彼の視線は無力感で曇っていた。
「キャスター……無事か……?」
微かに腕が動く。
「紘一………
良かった……。そして無様を見せてすまぬ……。」
キャスターは安堵したような表情を浮かべ己のマスターへ向ける。
それに対し鷹取は動いた手を取る。
「よく格上相手に粘ってくれた……!
ありがとう、キャスター……。
ルーラー、守ってくれて感謝する…。」
鷹取は背後に経つフードの男に目を向け、礼を伝える。
「ボクはボクの役割を果たしただけ。
真なる聖杯戦争を護る為にボクは今、剣を振るう。」
フードを被り直せばルーラーは淡々と告げる。
「……それでも護ってくれたことは変わらない。
強いんだな、アンタ。」
ルーラーは僅かに眉を動かすだけで、表情は変わらない。
「強さだけで勝敗が決まるわけではない。
裁定者として力を行使したまで。」
鷹取は小さく俯く。
「俺はダメなマスターさ。
……キャスターを……守れなかった……」
ルーラーは静かに歩み寄り、剣先で地面を軽く叩く。
「護る、というものはこういうものさ。
時には、護りたい者が先に倒れることもある。
…だがキミは生き残った。誇っていい。」
その言葉には重みがあり、鷹取の胸を締めつける。
「……まあこれはボクの言葉じゃなくて、誰かさんの口癖、なんだけどね。」
ボソリと小さく呟くルーラーを横目にキャスターは微かに呻き声をあげる。
鷹取は咄嗟に顔を覗き込み、安堵と罪悪感が交錯する。
「……キャスター。」
「……言い訳は無用だ、マイ・マエストロ。」
キャスターの声はかすれ、まだ力は弱いが、意志は確かだった。
「こうして2人とも生き残っている。
そこに意味があるのさ。」
ルーラーは二人を見つめたまま、低く語りかける。
「この戦いでわかるだろう、聖杯戦争の秩序とは何かを。
偽りの存在は、真実を覆い隠す。だけどボクは見抜く」
その視線は鋭く、まるで過去に重ねた悲劇を映し出すようだった。
鷹取は拳を握り、決意を噛みしめる。
「……次は絶対、守る。キャスターも、俺も、二度と倒れたりしない」
「……その覚悟がある限り、戦いは無意味じゃない」
ルーラーの言葉に、かすかに安堵の光が宿る。
キャスターはかすかに微笑み、鷹取を見上げる。
「……改めてありがとう、ルーラー……」
「敗北の色が人を強くする。
キミの力もまた、これから試される」
ルーラーの声は柔らかくも、決意に満ちていた。
「……さて、お喋りは終わりだ。
キャスター陣営はここで離脱するといい。
ボクは先に進む。」
「……ああ、わかった。」
頷く鷹取。
廃工場に残るのは、崩れた鉄骨の影、粉塵の舞う空気、そして三人の静かな決意だけだった。
これから待つ戦いに向け、互いの呼吸は次第に整い、緊張が徐々に高まっていく。
ルーラーは再び剣を構え直し、先に進むのだった。