〜A.M3時 ???〜
——視界が、じわりと滲んでいた。
重たく沈むような感覚と、かすかな頭痛。意識の底から、遼はゆっくりと浮かび上がってきた。
まず最初に気づいたのは、天井だった。高くて、白くて、どこか古めかしい。木製の梁がむき出しになった天井は、自分の家のものではない。
体を起こそうとして、痛みが走る。咄嗟に息を飲み込み、動きを止めた。
喉の奥に、鉄の味が残っている気がする。
「……っ」
思い出そうとするたびに、断片的な映像が頭をよぎる。
閃光、怒号、誰かの叫び。そして、槍。
戦っていた。いや——戦いの場に、立たされていた。
「気がついた?」
柔らかな声が、静寂を破る。
視線を横に向けると、椅子に座る少女がいた。
漆黒の髪、整った輪郭、そしてどこか醒めた瞳。
「久我……?」
そう呟いた瞬間、自分がまだ夢の中にいるのかもしれないと思った。
けれど、朱音は確かにそこにいて、静かに頷いた。
遼は息を浅く吸い込みながら、あたりを見渡す。
ベッドの周囲は整然としていて、どこか生活感があるのに、異様なほど静かだった。クラシックな装飾の家具、重厚なカーテン、仄暗い照明——見慣れた自分の部屋とはまるで違う。
「ここは……どこだ?」
やっとのことで声を絞り出すと、朱音は一つ頷いて言った。
「私の家。帝塚山にあるわ。昨日、あなたをここまで運んだの」
「……運んだ?」
「気を失っていたでしょう。あのままじゃ死んでたわよ」
朱音の声音は淡々としていた。けれど、その言葉の端々に、確かに何かを選んだ人間の気配があった。
「……昨日、何があったんだ。あの戦い……あれは……」
遼はまだ混乱していた。だが、目の前の朱音だけは静かに、冷ややかに現実を受け止めている。
朱音は、わずかに視線を逸らした。
「あなたは、聖杯戦争に巻き込まれたのよ」
その一言は、あまりにも現実離れしていて、けれど妙に説得力があった。
「聖杯……戦争?」
「魔術師たちが七組、召喚した英霊……『
……信じがたいでしょ。でも、そういう世界の話なの。」
遼は目を見開き、声を失ったまま朱音を見つめる。
「信じろとは言わない。でも……昨日のこと、全部覚えてるでしょう? ただの夢じゃ説明できないはずよ」
朱音は視線を戻し、遼を真っ直ぐに見据える。
その目に嘘はなかった。
「……それでも、なんで僕を助けたんだ?」
遼はそう尋ねる。
疑問というより、混乱を吐き出すような問いだった。
「巻き込んで、助けて、説明して……結局、どうしたいんだよ」
朱音は、少しだけ目を伏せて、それから言った。
「巻き込んだのは、私じゃない。……御堂家よ」
それを聞けば、白髪混じりの男の顔が遼の脳裏をかすめる。冷酷で、異様に落ち着き払った態度。
そして、確かに向けられた殺意。
「ーー御堂 継宗。関西にある魔術師の名家・御堂家の当主。聖杯戦争を勝ち抜くためにアイツらは自分の魔術を行使するために血を集めてるの。久我家が独自に進めた調査によると、より強力な威力を発揮するためには御堂の血に近ければ近いほどいいらしい。でも、アイツらの考えは、高貴な自分たちの血を流すなんて何たる屈辱、らしいわ。だからこそのあんた。」
朱音によってゆっくりと指を刺される。
「…御堂家出身の、母さんの血が流れてる。
僕には半分、御堂の血が流れてる。」
「そういうこと。
察しがいいじゃない。」
いつものようにいたずらっぽく笑う朱音。
だが、それすらも少し不気味に感じてしまう。
「つまり、御堂は最初から僕を利用するつもりで……」
半年前のあの日、灰色の景色の中迎えに来た無機質な男の姿を思い出す。
遼は思わず手のひらを強く握りしめる。
「そう。あなたは知らないうちに、聖杯戦争の駒として利用される所だった。
……だけど、何の因果か、聖杯に選ばれ、マスターにされた。」
遼は言葉を失った。
(知らない間に、命を懸けた戦いの駒に使われそうになって、気がついたら参加者にされていた?そんなことが——いや、昨日のあれを体験した今となっては、否定する理由のほうが少ない。)
脳は混乱したままだ。だが無情にも、朱音は続ける。
「でも、だからって放っておけなかった。白峰君は、何も知らないまま死にかけてた。可哀想だと思ったの。……だから、助けた。ただそれだけ」
朱音の目は真っ直ぐだった。冷静で、でもどこか、寂しさのようなものを宿している。
「でも、私たちはいずれ敵になるかもしれない。マスターは七人。勝ち残るのは一人だけ……それが聖杯戦争だから」
その言葉は冷たく、重かった。
「それでも助けたのは、私がその時そうすべきだと思ったから。……それだけよ」
遼は、ベッドの上で膝を抱えるように身を縮めた。目の前に広がる現実が、昨日までとはまるで別物だということを、言葉ではなく肌で感じていた。
助けてくれた朱音が、敵になるかもしれない——その事実は重すぎた。
朱音は窓の外に目をやり、静かに言葉を続けた。
「白峰君が、どうしたいかは私が決めることじゃない。でも……ここにいる間は、安全は保証するわ。私のサーヴァントがいるし、あなたのセイバーもいる。それに、魔術的な防護もしてあるから、とりあえずすぐに命を狙われるようなことはないはずよ」
その声音に、押しつけがましさはなかった。
ただ、冷静な判断と覚悟がにじんでいる。
遼はゆっくりと息を吐き、壁に視線を落とした。目の奥に重く残っているのは、昨夜の光景。セイバーとアーチャーの戦い。ランサーの突撃。崩れた地面、巻き上がる土煙、血のにおい。そして——意識が遠のいた瞬間の恐怖。
思い出すたび、体が強ばった。
「……少し、考えさせてくれ。まだ頭の中がぐちゃぐちゃで……整理できない」
遼の声はかすれていたが、その言葉に嘘はなかった。
朱音はそれを聞いて、小さくうなずいた。
「わかった。落ち着くまでここにいればいいわ。私も無理に追い出したりはしない」
朱音は一度、遼の方を見た。まっすぐな視線だった。敵になるかもしれない相手に向けるには、あまりに優しすぎる目をしていた。
「それと……今後どうするかを考えるなら、知っておいてほしいことがある。白峰君に起きたことは、まだ始まりにすぎない」
遼が何かを言おうとした時、廊下の奥から、足音が近づいてくる。革靴がフローリングを踏む乾いた音が、しんとした部屋に響いた。
朱音が一瞬だけ目を向けたかと思うと、ノックの音が一つ。
「入っていい?」
扉の向こうから、落ち着いた、それでいて芯の強さを感じさせる声がした。女性の声——だが、その声には一切の曖昧さがない。
「どうぞ。白峰君も起きたところ」
朱音の言葉に合わせて、扉が静かに開く。
現れたのは、一人の女性だった。長い黒髪を一つに結い、視線は鋭く、立ち姿はまるで軍人のように凛としている。朱音の私服を借りたらしく、深紅のジャケットに黒のスキニーパンツという現代風の装い。だが、そこに「馴染んでいる」気配はまるでなかった。服だけが今の時代で、彼女自身はまるで、どこか別の時代から切り取られた存在のように見える。
「よく生きて戻ったね、マスター」
その視線が遼に向く。
「……君が、セイバー?」
遼がそう尋ねると、彼女はわずかに口元を緩めた。だがその笑みには、優しさよりも戦士としての余裕が宿っている。
「そう。君と契約したサーヴァント。クラスはセイバー。今は真名を名乗るべきときでは無いと思うから伏せるけど、しばらく君の剣として戦うことになる」
「……僕の……剣?」
言葉に詰まる遼を見て、セイバーは部屋の中に一歩足を踏み入れた。
「戸惑うのも無理はない。昨夜の戦いは、君にとって初陣だったのだからね、だけど——」
そこでセイバーの目が鋭くなる。
「生き延びたことは、誇っていい」
遼はその言葉に、息を詰まらせた。思い返せば、あのとき自分はほとんど何もできなかった。ただ巻き込まれ、怯え、逃げようとして倒れた。それでも「生き延びた」ことに意味があると、この女性は言ってくれている。
「私は、君の命を守る。それがマスターとの契約だから。でも……戦う意思があるのなら、だけどね。」
セイバーは少し意地悪そうに笑う。
だが、その口調はあくまでフラットだったが、そこには強い信念のようなものがあった。
朱音が小さく笑った。
「彼女、こんなこと言ってるけど、根は結構真面目なの。根っからの戦士って感じでしょ?」
セイバーは朱音の言葉には答えず、ただ肩をすくめただけだった。
遼はベッドの端に手をつき、ようやく上半身を起こす。
「僕が……聖杯戦争に関わってしまった以上、戦わなきゃいけないってことなんだよね?」
「選択肢は多くないけど、ゼロじゃないわ。降りるなら、今のうち。ただし、その先に待っているのがどんな結末かは——わからない」
朱音の声は静かだった。だが、その意味は重い。
セイバーもまた、それに言葉を添えるように言った。
「決めるのは君だよ、マスター。
ただ、どんな選択をしても、私は時間の限り、君を護る。」
その言葉に、遼はゆっくりと頷いた。
——自分は巻き込まれただけ。でも、もうただの傍観者ではいられない。
(だったら、せめて……)
「もう少しだけ時間が欲しい。ちゃんと、考えるから」
そう告げる遼の声に、セイバーも朱音も何も言わなかった。ただ静かに、うなずいてくれた。
〜同時刻 大阪湾・沖合〜
夜の大阪湾の深奥、港からは遠く離れた静かな大海原に、重厚な霧がたなびいていた。冷たい潮風は微かに波間の水音を運び、月明かりが細く鋭い光の筋を海面に走らせている。
その霧の中に、まるで眠り続ける巨獣の背中のような黒い影が潜んでいた。形はぼんやりとしているが、確かな存在感で闇を支配している。
ーー鋼鉄の山脈のように見えるその巨体は、戦艦だ。
かつて海の王者として波を蹂躙し、幾多の激戦を生き抜いた鋼の巨人。今は時代の波間に沈みつつも、ただ一隻、静かに海と一体となりながら存在を主張している。
その戦艦の甲板に立つひとりの女は、霧と闇をまとい、まるで夜の女神のように艶やかだった。月光に照らされて、透き通る肌は銀の海のように冷たく、しかしその瞳は深く澄み渡り、無限の孤独と哀しみを湛えている。
彼女の佇まいは妖艶で、静けさを切り裂くような静謐さがあった。
「ここは……私たちの静かな舞台」
その声は低く、風のように軽やかでありながら、どこか甘く艶めかしく響いた。
「セイバー、ランサー、アーチャーの三騎士が激突したという報告が届いているわ。聖杯戦争の幕は、静かに開かれた」
彼女の隣に立つ男ーー数多くの勲章が胸に付けられた白い軍服に身を包むライダーは、冷静な表情のまま静かに答えた。
「うん、聞いたよ。
だが、私達の戦いは彼らとは違う。私の波は、常に前へと進み、決して退かない」
遠くに見える大阪の街並みを見るかのように彼は、目を細めた。
「それはわかっているだろう、天音」
美しい赤髪を靡かせる女性ーー
◾︎◾︎の魔術師、『
「もちろん。あなたの戦い方はよく知っているわ。波は決して止まらないもの。私はその波の動きを静かに見守るだけ。だけど、あなたの波がこの戦争の流れをどう変えていくのか……とても興味深い」
彼女の瞳には、確かな期待と、どこか複雑な感情が揺れていた。
「興味深い、と言うが、私にとっては勝つ以外の選択肢はない。勝利か、沈没か。どちらかだ」
男はゆっくりと深呼吸し、覚悟を込めて言葉を続けた。
「この戦艦は、ただの兵器じゃない。私自身の意志の象徴だ。進むことだけが許される道。退却も回避も存在しない。だからこそ、この戦いは、私の全てが試される戦いなんだ」
天音は一歩近づき、その艶やかな笑みを深める。
「それでこそ、私のライダー。覚悟がある者だけが、この戦場を制するのよ」
彼女の声には、不思議な魅力と冷たさが混じり合う。それはまるで、魂を鷲掴みにされるかのようだ。
「この夜の海を、私たちだけのものにしましょう」
天音は目を細めて、艦橋の向こうの闇を見つめた。
「この霧の中に、まだ見ぬ敵も多い。剣、槍、弓の騎士……それに加え、暗殺者、狂戦士、魔術師の英雄。彼らの衝突は激しいけれど、それはまだ序章に過ぎない。私たちの進む先には、もっと深い闇と波が待っている」
男は背筋を伸ばし、静かに頷いた。
「ならば、その波を切り裂き、我が意志のままに進むのみ。勝利か沈没か、それが全てだ」
海は静かに揺れ、霧は再び深く立ち込める。
戦艦はまるで眠りから覚めた獣のごとく、鋭い眼差しで未来を見据えていた。
この闇の海原で、静かに燃え盛る二人の意志が、やがて大きな波紋を広げていくのだ。
ー 0章 プロローグ END ー
-別次元 桜苑学園 音楽室-
「さぁ、旋律を奏でよう。
授業の始まりだ。」
「………えっ、なんか始まったんだけど。
僕久我の家で目が覚めたはずなんだけど!?
どういうこと鷹取先生ーーー!?」
「ご都合主義というやつだよ白峰君。
教師という役職があるため、主人公である君と共に作者に選ばれたという訳だね。」
「……主人公?作者………?
何言って…?」
「細かいことは気にしないことだよ白峰君。
私はもう考えることをやめた。」
「どっかの究極生命体になった〇の男かよ!?
…いやもういいや。何すればいいんですか先生。」
「とりあえず君の足元のパネルを拾いたまえ。」
「…パネル……?
ああ、これか…。」デンッ!
ーーー
【クラス】セイバー
【マスター】白峰 遼
【出典】◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
【真名】◾︎◾︎◾︎◾︎
【属性】中立・悪
⸻
【ステータス】
筋力:B
耐久:C
敏捷:C
魔力:C
幸運:C
宝具:A++
⸻
【クラス別スキル】
対魔力:C
騎乗:C
⸻
【固有スキル】
勇猛:C
直感:C
魔力放出(◾︎):B
単独行動:B
⸻
【宝具】
■『◾︎◾︎◾︎◾︎・◾︎◾︎◾︎◾︎(◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎・◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎)』
• ランク:A+
• 種別:対軍宝具
• レンジ:1〜50
• 最大補足:500
⸻
■『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎(◾︎◾︎◾︎・◾︎◾︎◾︎・◾︎◾︎◾︎)』
• ランク:B
• 種別:対人宝具
• レンジ:1〜5
• 最大補足:5
⸻
■『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎(◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎)』
• ランク:A++
• 種別:対城宝具
• レンジ:1〜5000
• 最大補足:1000
ーーー
「………え、なにこれ。」
「セイバー君のステータスのようだな。」
「そんなサラッと公開していいの!?
先生も推定マスターだよね!?」
「この空間に馴染んできたようだな白峰君。
安心しなさい。ここでの記憶は本編になったら綺麗に忘れる。
そしてまた部屋が開かれたら全部思い出す。」
「マジでご都合主義だな!?」
「…えーと、セイバー君は見たところ世の中に存在しているセイバーと比べると、少し控えめではあるか。」
「まあ契約者が僕ですからね。
ステータスが従来の性能より弱体化しててもおかしくない……って、なんか口から勝手にスラスラとーーー!」
「…でもスキル面で今セイバーは弱体化を補っているんじゃないかな。
ランサー襲来の際も誰よりも早くスキル『直感』で接近を察知したのだから。」
「後はスキル見たところバフマシマシだしね。
二郎系みたい。」
「………?」
「あーーー、ごめんって先生。
ってなんで僕が謝らないといけないの??無理やり連れ込んだの先生だよね?」
「…さて、語ることも少なくなってきたので、本日の授業はここまで。
また次回の音楽の時間で会おう。」
「あっ、逃げた。
しかもなんだよ音楽の授業で解説っておかしいだろ。せめて社会のじゅ【本日の放送はここまでです。ありがとうございました。】