自分を成り代わりサンジだと思い込んでいた一般転生者   作:好きなサンジ発表ドラゴン

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【第0話】向こう側に居た自分

 

 

 

 

 

 人間は何かを奪いながら生きる生物だと、どこかで聞いた。

 

 

 

 

 それなら、生まれた意味と存在すること自体が、何かを否定し奪うことになるような者がいたとして。

 

 

 

 

 それは果たして、人間なのだろうか?

 

 

 

 

 どれだけ嘆き悔やもうと、終わらせるには遅すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣きやまない声が自分のものでないことなど、初めから分かっていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石造りの城の一角……側防塔というやつのてっぺんから、彼方遠くまで続く水平線を眺める。

 

 この海の向こうでは、今日も名のある海賊や海兵が、己の夢や正義を背負い、その力を、自由に、或いは正しい事のために振るっているのだろう。

 ……まぁ海兵に関して言うなら、守りたくもない邪悪極まる権力者を守らねばならない側面もあるので、はっきり自由とも正義とも言えない立場にいるんだろうが……少なくとも、こんな高さから飛び降りさせられるような事が当然とされる幼子達に比べれば……奴隷にでもされない限りは相応の自由意思があるだけ、まだ幸せと言えるかもしれない。

 

 

「……ヨンジ様、合格です!」

「へっへっへっ!」

 

 

 俺の立つ側防塔の遥か下に位置する中庭で、たった今俺の隣から()()()()()8歳の弟が元気に跳ねていた。鮮やかな緑が特徴的な短髪が揺れる。その周囲では、不自然なほどに顔つきが似ている大人達が、笑顔で弟の好成績を褒め称えていた。

 

 今飛んだ弟を含め、俺を除く4人の兄弟達は既に、この常軌を逸した“身体測定”をクリアしていた。

 

(……イカレてるな……)

 

 幼い兄弟たちが、揃って得意げに胸を張っている。

 この一瞬だけを切り取れば微笑ましいと感じたであろう光景だが、俺がこの城で過ごしてきたこれまでの全てが、彼らがひたすらに異常な存在でしかない事を突き付ける。

 

 

 

 

 

 俺たち兄弟は皆、普通の人間じゃあない。

 

 

 

 この世界に生きる人間の中には、超人的な肉体や戦闘力、果ては超能力のような特殊な力をその身に宿す者も、決して少なくはない。普通に生まれ普通に生きてきた人から見て、「化け物か!」と言いたくなるような人間というのは、一般的ではないのだが、確かに存在する。

 

 

 しかし、それを踏まえてもなお……俺たちは破綻しているのだ。

 

 

 命あるはずの人間として。

 

 

 

 

 

「血統因子」

 

 

 

 

 ある天才科学者が発見したと言う、生命の設計図とでも言うべき概念。

 この世に生まれ生きている、全ての命ある存在が例外なく持つ、それぞれの「命」そのものの、情報の塊。

 世紀の大発見とされたそれは、その存在が確認された後も多くの科学者によって長く研究が続けられ、やがてその成果は、この血統因子に対し直接手を加える技術までをも確立させた。

 

 命の設計図であるそれを、“人の意思によって操作”する……

 

 それは、ボタン一つでまったく同じ形をした命を量産する事も、これから生まれる命がどういう特色を持ち、どう成長していくかという未来の可能性さえ、()()()()()()という事。

 

 

 

 それは、生まれてくる赤ん坊に、強靭な肉体を与えた。その人間の成長に合わせ形成される外骨格を与え、戦力を欲する者に替えが効く兵士を与えた。

 

 

 

 そして────

 

 

 

 戦う兵士に必要のない感情を奪った。

 

 

 

「悲しむこと」も

「慈しむこと」も

「優しくあること」も

「思いやること」も

「愛すること」も

 

 

 戦場で敵を殺すために、国を滅ぼすために、邪魔になりうる感情を全て。

 

 

 奪って奪って奪って、消しつくして、生きている命が等しく持つはずの、無くてはならない筈の感情さえ……「死を恐れる恐怖」さえも、“あの男”は彼らから奪い去った。

 

 

 

 研究者の一人だろう。飛び降りた弟たちの何かを観察しては用紙にペンを走らせていた男が、下の中庭から俺に向かって、その名を呼んだ。

 

 

 

 俺の名とされている、誰かの名を。

 

 

 

 

 …………溜息が出そうだ。

 

 

 

「さあ、どうぞ!」

 

 

 近くに控えていた兵士の一人が、まるで馬車に乗る前の貴族を案内するかのように恭しく身をかがめ、俺に、兄弟達に続けと促してくる。10にも満たない子供である筈の相手に、何の疑問も抱かず。

 

 

「飛び降りましょう!」と。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 はっきり言って、やりたくはない。

 

 

 理由はまぁ……色々と、ありすぎるぐらいだが……シンプルに言うなら、「好きじゃない」

 別にできないわけじゃない。色々と我慢さえすればやれてしまう。この身体は、そういう風にできている。

 

 それでも、やはり……とても、凄く。やりたくない。

 まるで自分が、人間ではないかのように────いや、違う。

 

 

 

 

 俺が()()から、真っ当な人間であったことさえも奪ってしまったと、感じるからだ。

 

「……いかがなさいましたか?」

「……なんでもない」

 

 怪訝そうな顔をした兵士に声をかけられ、ゴミ沼のようにどろどろと渦巻いていた思考を無理やり終わらせる。俺は短く感情の乗らない返事をしてから、腕を伸ばしたり足をまげて、軽く体をほぐしてみせる。

 

 ……ここで目覚めてからずっとそうだ。自分でも訳の分からない、誰に対するものなのかさえも分からない、罪悪感。

 説明しがたいその感覚を頭の中でこねくり回しておいて、結局流されるままに、事を進めるしかできない。

 

「……ッ」

 

 これといった合図もない中、俺は石壁の外へ足を踏み出した。

 

 

 前のめりの体勢で宙へ投げ出された俺の体は、そのまますぐに頭を下にし、中庭へと落下していく。

 天地がひっくり返った視界の中で、兵士や研究者たちの慌てた様子が見えた。俺の危険な落ち方を見て失敗かとでも思ったのだろう。

 実際このまま頭から地面に直撃すれば、いくらこの身体であっても重症は避けれない。下手をすれば普通に死ぬ。

 

 

 ……いっそ死んでしまえた方が気は楽だ。そうすればこれ以上、何も考えなくて済む。

 

 

 

 

 この海の向こうで、誰かが出会うはずだった父のような人の夢を見る事も。

 

 時折脳裏に過る、麦わら帽子の旗に集う誰かの仲間のことも。

 

 頭の片隅で……ずっと泣いている誰かの声も、その声の人物が、叶えたがっていた夢の事も。

 

 

 

 

 全部考えずに済む。

 

 

 

 全部、消えてなくなる。

 

 

 

 

 ………………あぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そりゃあ、ダメだ。

 

 

 

「……!!」

 

 地面まであと僅か数メールといった地点で、俺は腰を起点に体全体を捻った。たったそれだけで、物理法則を無視するように俺の頭と足の位置が逆転しだす。同時に背中側に伸ばした左足の膝をくの字に曲げ、右足を自分の頭よりも高く突き出すつもりで振り上げる。即座に反対方向に向け全力で振り下ろせば、眼下にあった空は天に、頭上にあった石畳は正しく地へと戻る。

 

 

 

 ドゴォンッ!!!! 

 

 

 

 叩きつけた踵の衝撃は石畳を粉々に打ち砕き、少し離れた噴水にまで届く大きな亀裂を作った。

 粉塵が舞う中、俺はゆっくりと無傷のまま立ち上がる。

 

「合格です! さすがサンジ様!!」

 

 歓声が上がる。さっきまで弟たちの跳躍を計測していた研究員や兵士たちが、我先にと俺を讃えた。まるで品評会に出された高級品が、予想以上の価値を示した時のような反応だ。

 俺の顔を見る者は誰もいない。彼らの視線は、あくまで“結果”にしか向けられていない。

 

「お見事でした、サンジ様! 兄弟の中でもやはり群を抜いておられる!」

 

 まただ。その名を呼ばれるたびに、胸の奥に小さな針が突き立てられる。

 

 

 ……俺は、サンジじゃない。

 

 

 いや、俺が“誰”かなんて、本当は知らない。

 気がついた時からこの身体で、この名で呼ばれ、当然のようにこの異常な環境に放り込まれた。

 目覚めた時に傍に居た“あの男”と研究者達によれば……「身体を他の兄弟達と同等に強化する実験を施した結果、副作用でそれまでのエピソード記憶が消えたのだろう」というのが彼らの見解だった。

 「言語や物事への知識があるところから見て意味記憶は残っているため、然程気にしなくていい」……などとも。

 

 

 完璧な戦士。

 科学の力で挫折を乗り越えた“傑作”

 強靭な肉体を持ち余計な感情も持たない、生まれ変わった“成功者”

 

 

 そんなような言葉を繰り返し、生まれ変わったらしい俺のことを、彼らは大層祝福していた。

 

 

 

 …………本当にそうだろうか。

 

 

 確かに異常なまでの強靭さがこの身体にはある。兄弟や研究者達は、「軟弱な精神の落ちこぼれ」だった頃の俺を知っていて、それと比べれば遥かに素晴らしいと口を揃えて言う。

 

 

 しかし、ならば────この感情は何だ?

 

 

 感情を持たないという兄弟や兵士達を見るたびに抱く、この忌避感は?

 自分の実子を人間でなくした事に、なんの疑問も持たない“あの男”に対する、この怒りは?

 それら異常な情景に対し、はっきりと「異常だ」と感じる、この場所のそれと異なる何かを基準にした「普通」の価値観は?

 

 

 

 “サンジ”という名を名乗ることへの、抑えきれない嫌悪感は?

 

 

 

 

 

 ずっと、何かを奪っている、気がする。

 

 

 

 なんら確証はない。

 彼らの言う通り、俺は本当に最初からサンジで、強化実験により記憶を失っただけなのかもしれない。

毎日のように夢に見る、自分と似た姿をした誰かの、出会いと冒険の日々も……実験の後遺症による「初期不良(ただの妄想)」なのかもしれない。

 何かをきっかけに、或いは時が経てば、失われた落ちこぼれ時代の俺の記憶が、戻るのかもしれない。

 

 

 

 

 それでも────

 

 

 

 この名前を、身体を、人生を。

 本来の“サンジ”という存在が歩むはずだった全てを、俺が勝手に横取りしているような……そんな、どうしようもなく吐き気のするような思いが、毎日少しずつ積もっていく。

 

 

 

 

「流石だぞ! 我が息子よ!!」

「…………」

 

 いつの間にか我が子(成功品)達の様子を見に来ていた“ヤツ”が、俺を見つめさも嬉しそうに声をかけてきた。

 見上げるほどに高い身長と、がっしりとした大きな体格を持つその男を視界に映しながらも、俺は何も応えずに見つめ返した。

 沈黙する俺に対し、男は再度声をかけてくる。

 

「どうしたサンジ? 私はお前の成長を心から喜んでいるのだ! お前ももっと笑うといい!」

「…………どうも」

 

 

 

 不愉快。

 

 そうとしか形容できない感情を飲み込み、最低限の返事だけを返す。

 一見すれば愛想の悪い、反抗的とも取られそうな俺の態度に、男は気を悪くするどころかますます笑みを強め、満足そうに頷くだけだった。

 

「あぁ素晴らしい……!! お前こそ、本当の息子……我が子サンジだ!!」

 

 ……気分が悪い。

 この男の言葉のひとつひとつが、気色が悪くて仕方ない。

 

「これで我がジェルマ大国の誇りと繁栄は、確固たるものとなるだろう!! 期待しているぞ、お前たち!!」

 

 兄弟たちの力強い返事が遠くに聞こえる。俺のすぐ隣で、父……ヴィンスモーク・ジャッジが、その獣の鬣のように伸ばされた髪を揺らし誇らしげに笑っていた。

 

 

 

 

 

 誰も気づかない。

 この中で、俺だけが、自分が「間違っている」と思っていることに。

 

(……俺は、誰を生きればいいんだろう)

 

 何度目になるのかもわからない、不毛な自問自答だった。それでも俺は、この不毛さを抱え続けるのだろう。

 俺に出せる答えなど無いと、分かりきっていても。

 

 

 腹が立つ程に青く輝いている海を横目に、俺はまた今日も“サンジ”の顔で生きる。

 “俺”で上書きされ、消えてしまった誰かの名前を、何食わぬ顔で名乗り続ける。

 俺には、ただそれしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────あの扉の向こうに、“あいつ”がいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練の後、いつも通り愛想笑いを浮かべる事もせずに、兵士たちの称賛を受け流しながら自室へと戻る途中だった。

 

 

 廊下の角を曲がった先のある扉から、見知った少女が出てくるのを見かけた。

 

 レイジュだった。

 

 レイジュは俺達兄弟の紅一点にして長女であり、そして唯一の、人間らしい感情を持った少女だった。

 ただ一つ……生みの親であるジャッジに「決して逆らえない」という軛だけは、他の兄弟と同じようにプログラムされて生まれてきたという。

 

 

 そんなレイジュが、キョロキョロと視線を動かし、通路の端から端までを見渡していたのを見て、俺は思わず壁に隠れた。

 レイジュは明らかに、周囲に人の目が無いかを確認している。

 彼女はこちらに気づかないまま、俺の隠れた通路とは反対方向へ、音を殺しつつ足早に廊下を駆けていった。

 

 

 

 

 心臓が、かつてないほどに嫌な音を立てた。

 

 

 

 

 去っていく前に見た彼女の表情が、あまりにも、()()()()()()()だったから。

 

 

 そしてその不自然さの正体を、俺は知っていた。

 その顔は、鏡を通して毎日見ていたそれと同じだった。

 

 

 あれは「無表情」じゃない。

 

 感情を、無理やり押し潰した顔だ。

 

  

(……何を、していたんだ……?)

 

 レイジュが出て来たその扉は、普段から“立ち入り禁止”とされている場所だった。王族の血を引く俺達には、関わりの無い場所であるとして。

 確か……そう。「捕らえた敵」や「実験に使えそうな生物」を押し込めておくための……

 

 

 

 

 

「牢、獄」

 

 

 

 

 ────全身に、悪寒が走った。

 

 

 

 

 俺は考えるより先に、遅れてやって来た警備の隙を見計らい、扉の奥に忍び込んだ。

 この城の警備のパターンは既に、全て頭に入っている。誰がどの時間にどの通路を巡回し、死角がどこにあるか。

 

 

 ……そんなことばかりを、考えて生きてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 扉の先は、冷たい石の階段だった。

 壁には一定間隔に篝火が灯されていて、階段にそって薄暗く周囲を照らしている。

 緩やかなカーブを描いているその階段を、一歩、一歩と、震えそうになる脚を叩きながら降りていく。

 歩みを進める度に心臓の鼓動が早まり、汗が頬を伝って落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

『やめろ』

 

 

『止まれ』

 

 

『知ってどうなる』

 

 

 まるで危険信号の警報が鳴るように、そんな言葉が頭の中で繰り返される。

 俺の本能が、このまま進む事を拒み、引き返すことを望んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

『止まるな』

 

 

『進め』

 

 

『お前が見ろ』

 

 

 胸に浮かべたその言葉を反芻し、悲鳴を上げてのたうちまわる本能を押さえつける。

 俺の魂は、逃げる事を許さなかった。

 

 

 

 ゆっくり、ゆっくり、なめくじの様に……あまりに遅い歩みで。

 しかしじわじわと、確実に、そこへ向かい下っていく。

 そうしてとうとう、最後の一段を下りきった時、それは聞こえた。

 

 

 

 鉄の軋む音と、誰かの微かなうめき声。

 

 

 

 今やその震えを止める事もできなくなった脚で、それでも、俺は薄暗い牢屋へと近づいて……

 

 

 

 

 目の前の光景に、息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 格子の向こうには、鉄仮面をつけ、地べたに膝をつく子供がいた。

 

 

 仮面の隙間から見える、手入れされずに伸びたその髪の色は、俺と同じ金色だった。

 

 

 

 ────幼い。

 

 

 

 それが、俺の最初に抱いた、その子への印象だった。

 背格好からして、年は、自分と同じか、少し下くらいに見える。

 痩せ気味の体はあちこち打撲とすり傷だらけで、それを塞ぎきれていない包帯や絆創膏は、誰かが拙い技術で必死に手を施したように見えた。

 掠れた声が聞こえる。うめいていたように聞こえたのは、この子のすすり泣く声だった。

 

 

 

 

 俺は、()()()()()()()()()()

 

 より正確にいうなら……

 

 

 

(…………見たことが、ある)

 

 

 

 

 瞬間、頭の中にその“映像”が差し込む。

 

 

 

 

 瞬く間に()()()()として呼び起こされるそれは、時に白黒のページの本として、時に色を得て動く映像として、とめどなく雪崩れ込んでくる。

 

 

 

 

 

 ────“ONE PIECE(ワンピース)

 

 

 

 

 その物語の中で描かれた、ある登場人物の、凄惨な過去。

 

 

 

 

  『ヴィンスモーク・サンジ』

 

 

 

 幼少期に父親から“失敗作”とされ、鉄仮面をかぶせられ、牢に閉じ込められていた、“彼”。

 

 

 否が応でも理解せざるを得なかった。

 未だ頭に押し込まれ続ける“前”の記憶が語っている。

 

 

 

 この少年こそが、サンジ本人だと。

 

 

 

 

 頭の中が白に染まった。

 

 

 

 

(……“本物”がいるんなら……ここにいる俺は……()()()……?)

 

 

 

 喉の奥から熱いものが込み上るのを感じながら、かつての記憶と知識、そして今世で体験した全てが合わさり、俺の中でバラバラだったパズルが音を立てて繋がっていく。

 そうしてできあがった、一枚のおぞましい絵。

 最悪のストーリーが描かれた、地獄のような真実。

 

 

 

 ジェルマの科学技術の心髄は、血統因子の操作による、命の改造と、その量産

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……俺は……“代用品”なんだ……)

 

 

 

 本来、父親にとって不要とされた彼を元に……いや、“材料”にして作られた、完璧な戦士。

 道具として思い通りにならない本物に代わり、命令に従うためだけに作られたコピー。

 彼の人生と存在を否定し“奪うことで”生まれた、ヤツらにとっての理想のサンジ(上位互換)

 

 

 

 

 

 

 サンジのクローン。それが、俺の正体だった。

 

 

 

 

 

「……オ゛、ぶ……ッ!!」

 

 今朝の朝食を吐き戻しそうになるのを必死で堪える。

 胃酸と共に喉元まで上がって来たそれを無理やり飲みこんだ。

 こんなに静かなのに、鼓動がうるさくて仕方ない。

 とっさに蹲ったままの彼に声をかけようとするが、「自分が何を言うべきか」どころか、「今声をかけるべきなのか」も判断できなかった俺は、ただ、口を開けては閉じてを繰り返すばかり。

 

 

 

 ふと、牢の中の少年──サンジが、こちらの気配に気づいたのか、ゆっくりと顔を上げた。

 鉄仮面の奥の、赤く泣き腫らした瞳が、俺を見つめる。

 

 

 

 一言も発していないのに、確かに感じた。

 

 彼の目に宿ったそれは、悲しみでも怒りでもなかった。

 

 

 

 

 

 “納得”と、“諦め”。

 

 

 

 

 自分が、誰にも必要とされていないと、何度も何度も思い知らされ続けた挙句に、トドメを刺されたような。感情が死んだ目。

 

 

 俺が言葉を失ったまま沈黙する中、サンジは、大きな瞳に涙を滲ませ、仮面に隠れて見えない口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「………………ごめ……んな、さい…………」

 

 

 

 

 あまりにか細い、蚊の鳴くような声だった。

 何かを受け入れたような、そんな声。

 細められた瞼から堪えきれずに溢れたその涙は、大きな雫になって、一度だけ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「違うッッッ!!!!」

 

 

 

 反射的に飛び出したその声は自分でも驚くほど大きく、地下牢に響き渡った。

 俺の声に驚いたサンジが「ヒッ」と小さく悲鳴を上げる。慌てて可能な限り声を落としてみるが、体中を巡る激情を抑えて話すのは、困難を極めた。

 

 

「……よく聞け……サンジ……!」

 

 俺のものではないその名を、正しくそう呼ばれるべき彼に向けて口にすれば、何もかもがしっくりきた。

 

「……お前はっ、何も……なんにもッ、悪くない……!!」

 

 今度は怖がらせないように、ただ手を添えるようにして、サンジと世界を隔てる鉄格子を掴んだ。

 氷かと思うほどに冷たかった。

 

「お前が、謝る事なんて……!! 謝らなきゃいけない事なんて……!! 何一つ無いッ……!!!

 

 堪えようとしても両手に力が入った。このクソみたいな鉄の棒を、今すぐにでも引きちぎってやりたかった。

 

「…………『約束』するッ……」

 

 暗く澱んだ彼の目を、真っすぐに見つめて語り掛ける。

 ……実際には語り掛けるというより、衝動のままに出てくる言葉を、声を殺して叩きつけているようなものだった。

 

「いつかお前を、ここから出すッ……!」

 

 滲みそうになる涙を歯を食いしばり堪えながら、震える声でそう宣言する。

 

 みっともない、無様な誓いだ。

 それでも言葉にするたび、俺の中で何かが変わっていった。

 

「絶対だ……絶対にお前を……! ここから、出してやるからッ……」

 

 困惑に揺れながらも、サンジの目から少しづつ、怯えが消えていくのが分かった。

 

 

 

「俺が……必ず……っ……サンジを……!! 『自由』にするッ……!!!」

 

 

 

 

 

 ────だから、お願いだから、自分を生きるのを、諦めないでくれ。

 

 

 

 

 見開かれたその目に、僅かに光が灯ったように見えた。

 

 

 

 

 ……あぁ、どうか。

 この光が、ただの気のせいじゃありませんように。

 

 

 

 

 祈るような思いで格子越しに握ったその手は、静かに俺の手を握り返してきた。

 弱い力ではあったが、絆創膏だらけのサンジの小さな手は、俺の傷一つない手などよりもずっと、人の暖かさを感じさせた。

 

 

 

 罪の意識も、己の正体への衝撃も、今はどうでもいい。

 

 

 

 

(お前を救えなきゃ────俺が生きてる意味なんて……きっと、何もない)

 

 

 

 

 この日、俺は決めた。

 

 

 

 

 覚悟と、この命の使い道を。

 

 

 







クローン君(よくわからんけど誰かを乗っとってるような気がする……どいつもこいつも狂ってるし最悪……表情筋死ぬ……)

ジャッジ「賞賛されようと碌な反応もないとは誰よりも余計な感情が無いなヨシッ! 我が子よ!!」
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