自分を成り代わりサンジだと思い込んでいた一般転生者   作:好きなサンジ発表ドラゴン

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みんなドロドロ拗らせ関係好きなのか……? わちきもだえ(小声)





【第2話】沈まない月

 

 

 

「……買い出し、ですか?」

「いつもの仕入れ先の食材積んだ船が遅れてる。昨日の嵐の影響だ」

 

 開店に向けいつものように諸々の雑用をこなしていた俺に、背を向けたままオーナーが言う。

 

「嵐……? 昨日は穏やかな天候だったような……」

「向こうでの話だ。いくら東の海と言っても、どこでも常に天候が安全とは限らねェ。()()()に比べりゃ屁でもねェモンだとしても、慣れていないからこそ、いざ荒れた海を前に対応できる者は少ねェ」

 

 ラム肉ステーキ用の特製ソースが、フライパンの上でパチパチと音を立てていた。右手にヘラを持ったオーナーは更に続ける。

 

「幸い商品は無事だが、船が破損したらしい。このままじゃ今日明日までは何とかなっても、それ以降に使う分が間に合わねェ。お前ひとっ走り行って、金払って食材受け取って来い」

「……ちなみに、その船の現在地は?」

「ここから北に真っ直ぐ。お前の足なら、今すぐ出りゃあ行きと帰りを合わせても3日後には戻って来れる」

「いや遠っ」

 

 まさかの数日間に渡る航海だった。

 ……いや、船に乗るわけではないから航海ではないのか……?

 

「片道でも1日半かぁ……」

「嫌か?」

「……冗談ですって。雑用担当ですし、他の手伝いができない分頑張りますよ」

「……フン……青い商船だ。見りゃ分かる。積み荷用のボートを忘れるなよ」

「了解です」

「……待て」

 

 さっそく店の外に出ようとしたところで引き止められ、オーナーに振り返る。

 ヘラを置きワインボトルを手にした彼の視線は、相変わらず俺ではなくフライパンのソースに向けられたままだ。

 

「出かける前に、サンジに一声かけておけ」

「……あーー……えっと」

「いいな?」

「…………了解」

 

 有無を言わさぬ雰囲気を感じ、俺は従うことを選んだ。

 

 普段俺に対してあまり強くものを言わないオーナーだが、稀にこうして圧をかけてくる事がある。

 彼が俺にそういう命令を下す時は、その通りにしないと色々“拗れ”かねない時でもあるので、助かると言えば助かるんだが……

 

「外のデッキにいる。ついでにあのチビナスに、油売ってねェで働けと言っとけ」

「……分かりましたよ。行ってきます」

 

 朝から少しばかり重くなった気分を抱えて、厨房を抜け店を出る。

 そんな俺を最後まで視界に収めることなく、料理長はフライパン片手に酒を飲んでいた。

 

 

 

 

 ……いやラッパ飲みやめい。それ料理用じゃくなくてあんたが飲む用かよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店の入り口を出て右手側のデッキ端で、壁を背に静かに立つサンジがいた。

 口に咥えられた煙草からは、一筋の煙が伸びている。

 

 ぼんやりと海を眺めている横顔は、左目を隠している前髪で表情が見えにくい。

 

 それでも、ここから見えないその目が、どこか遠くを、『この海のもっと向こう』を見ようとしているのを、俺は知っている。

 

 

 その形が残ったままの灰が重みで崩れ落ちる直前、横から灰皿を差し出し受け止める。

 

「! ……ルナト」

「煙草吸う時は灰皿持ってけって。いつも言ってるだろ?」

「……忘れちまっただけだ。……ありがとよ」

「どーいたしまして」

 

 俺は灰皿を受け取ったサンジの隣に並び、手すりに肘を乗せた。

 

「……ジジイが呼んでんだろ。もう少ししたら行くよ」

「それもあるけど……ちょっと、用事ができてさ」

 

 俺がそう言うとサンジは一瞬眉をひそめ、残り少ないそれを咥え直してから、再び視線を、遠くのどこかへ向けた。

 

「…………用事って」

 

 恐る恐るといった様子でサンジが尋ねてくる。

 

 どう答えるべきか考えようとして、無意識に空を仰ぐ。

 

 

 

 この海と同じ色が、どこまでも広がっていた。

 

 

 普通なら誤魔化すような事でもないし、そもそもどう考えたところで、誤魔化しようがない。

 その場しのぎの嘘など吐いても意味が無い以上、そのまま言うしかない。

 

 

 

 

 ……陽の光が目に染みる。

 

 

 

 

「……仕入れ先の食材が積まれた商船が、嵐で遅れたらしい」

「…………それで?」

「明後日以降の分に回す食材が足りなくなりそうだからってんでさ。……俺が直接受け取りに行っ──」

 

 最後まで言い切る前に、右腕が強く掴まれた。

 

「…………お前だけで、か」

「……まぁ、船出して乗ってちゃ、意味ないからな」

「…………」

 

 

 沈黙が続く。

 

 

 俯いたサンジの手の力は、緩むどころか、少しづつ強くなっていく。

 

「……サンジ」

「帰って、来るのか」

 

 

 

 震える声は、不安に満ちていた。

 

 俺の胸に強烈な罪悪感が奔る。

 

 

 いつからかサンジは、俺が一人でどこかへ行こうとしたり、長時間サンジの前から離れる事に対して、強い抵抗を見せるようになった。

 

 原因は分かりきっている。

 

 全部、今までの俺のせいだ。

 

 

「……当たり前だろ。帰ってくるよ」

「…………」

「今俺が帰ってこれる場所なんて、ここしかないんだからさ」

「……本当にか……?」

「『約束』する」

 

 

 サンジの掴む力が、少しだけ弱まった。

 

 

 『約束』

 

 

 この言葉は、俺とサンジの間における、ある種の契約だ。

 

 サンジと『約束』をする事で、俺はそれを絶対に守り、果たす。その逆も然り。

 尤も、俺からサンジに何かを約束するよう頼んだ事なんて無いのだけれど、俺にだけ何かを守らせるのを嫌がったサンジは、同じように『約束』をするようになった。

 どんな小さなことだろうと、『約束』を口にしたら、お互いに、何でも守ってきた。

 

 

 そうする事で俺はサンジから、「『約束』したなら覆らない」という、一つの信頼を得ていた。

 

 ……逆に言えば、この約束を果たせなかった時、或いは果たさなかった時……それがサンジの、俺への信頼を失う時だろう。

 

「……どれくらい」

「……行きと帰りで3日だって」

「…………長すぎだろ」

「だよなぁ」

 

 俯かせていた視線を上げ、苦笑する俺をじっと睨んでいたサンジは、少しずつ手の力を抜いてく。

 その指先が、名残惜しそうに俺の袖を撫でて離れた。

 

「……ちょっと待ってろ」

「え?」

「すぐ戻る。まだ行くなよ! いいな!」

 

 サンジはそう言うと足早に店の中へ入っていった。

 すぐ戻るとまで言われてしまえば、何も言えない。俺は言われた通り、大人しくサンジが戻るのを待った。

 

 

 しばらく海を眺めていて、ふと、傍の灰皿に目が行った。

 殆ど吸い殻と化している煙草にはまだ、ほんのりと火が残っている。

 

 なんとなく、それに手を伸ばして、あいつがやっているように持ってみる。

 人差し指と中指で支えた短い紙の筒からは、嗅ぎ慣れた煙の匂いが漂っていた。

 

 

 考えてみれば俺は、この煙草がなんて銘柄なのかさえ、よく知らない。

 

 

 ぎこちなく口に咥えて、息を吸う。

 

 

「……~~ッ!? ゲホッ!! ゲェ゛ッホッ! う゛、ケホッ……!」

 

 

 人生で初めて肺に飛び込んできた煙に、おもいきり咽る。煙たさに咳き込み続けて目が滲んだ。

 

 ……あいつ、こんなもんをいつも吸ってんのか。

 

「…………身体に悪そ」

 

 物語の外から眺める分には、「料理人なのに煙草を吸って大丈夫か」なんて、ツッコミを入れるだけで終わっていたのに。

 こうして今日まで共に生きてきた立場からすると、健康に影響しないのか、純粋に心配になる。

 あいつが病気のひとつにも罹った事がないのを知っていても、だ。

 

 

 とはいえこれも、サンジのアイデンティティだ。無理に取り上げるわけにもいかない。

 

 

 それに俺は……煙草を吹かしているあいつのあの姿が、嫌いじゃない。

 

「……俺には到底似合わなそうだ」

 

 格好つかない姿を見られる前に、残り火を灰皿に押し当てる。

 消える直前の最後の煙が宙を舞って、潮風に乗って消えていった。

 

 恐らく最初で最後になるであろう喫煙を終えた時、再び店の扉が開かれた。

 戻って来たサンジの手には大きなバスケットが抱えられていて、サンジは無言でそれを俺に突き出してくる。

 

「……? これは?」

「戻るまでに3日かかるんだろ? 飯が無きゃ話にならねェだろうが」

「…………あ」

「お前そういうとこ妙に抜けてんだよな……3日分の飯だ。サンドイッチとおにぎりは今日中に食え。残りは保存の利く乾燥肉と缶詰類。こっちの瓶にはソースとかドレッシングが入ってっから、好みで使え。一度につけすぎんなよ」

「……サンジが作ったのか? 今?」

「……なんだよ。文句あんならやらねェぞ」

 

 そう言って拗ねたように視線を逸らすサンジに、思わず破顔してしまう。

 

「そんな顔するなよ! いるに決まってんだろ? ……ありがとな。ちゃんと全部頂くよ」

「……うるせェとっとと行っちまえ!」

「……急いで行って、急いで帰ってくる」

「別にっ、おれは急がなくたって……! ……気をつけろよ

「あぁ、行ってくる」

 

 別れ際に背を向けたサンジの横顔は、少しだけ笑ってくれているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うん、これで全部だな。どうもありがとうございました! こちらが代金です。ご確認お願いします」

「い、いやいや! わざわざこんな所まで直接出向かせてしまって、事故とはいえ申し訳ない……!」

「事故なんですから仕方ありませんよ。こちらこそ、大変な時に押しかけてしまってすみません」

 

 海に出てから1日と少しが経った。

 

 言われた通りひたすら真っ直ぐ北に進み続けた先で、話に聞いていた青い商船を発見し接触。

 向こうも俺のことは既に聞いていたようで、取引はスムーズに行えた。

 近くに他の船が何隻か集まっていたが、破損したこの商船の修理に来た船大工達との事。念の為破損の度合いを尋ねてみたが、修理自体はそこまで難しいものでもないという話だったので、後の事はそのままプロに任せ、俺は受け取った食材の山を自分のボートへと積んだ。

 

「あ、あの、あんた……」

「? はい?」

「……海上レストランバラティエ、って……ここまでそこそこ離れてる、よな……?」

「ええ、まぁ。そうですね」

 

 商人の男性に代金のベリーが詰まった袋を渡していると、別の船員がそんなことを聞いてくる。

 質問の意図が分かりかねたが、おっしゃる通りなので肯定の言葉を返すと、今度は商人が俺のボートを怪訝そうに見つめて言う。

 

「……それ、そこそこ大きいけど……ただのボートですよね?」

「……そうですね?」

「ど、どうやってこんな距離まで……? というか、いったいここから、どうやって帰ろうと……!?」

 

 彼らは、食材が積まれ手狭になったボートと俺の顔を、交互に見ては困惑の表情を浮かべていた。

 

 ……なるほどそうか。

 

 俺がここまでどうやって来たのか、彼らは見てなかったのか。

 

「えーっとまぁ、大丈夫なのでご心配なさらず。ここに来た時と同じように帰るだけなので」

「お、同じようにって……」

 

 口で言うより見せた方が早いだろう。

 

 俺は商船の甲板から、人一人が横になれる程度の隙間が残されたボートに飛び乗った。そして先端に括り付けられたロープを肩に担ぎ────

 

 

 海面へ足を踏み出す。

 

 

「お、おいあんた!? 何やっ、て……?」

「よっ、ほっ、とと……それでは! どうぞこれからも、レストランバラティエを贔屓に!」

 

 

 海面を踏み締めた右足を浮かせ、続けて左足で海面を踏みこむ。交互にテンポ良く足踏みを続ける俺の体は、まるで沈む気配がない。

 

 

 背後で驚愕の悲鳴が上がるのを無視して、俺は来た道ならぬ、来た海を戻り始めた。

 

 

 未だに、どういう原理なのかは分かっていない。

 ただとにかく、この両足に軽く意識を集中させると、ほんの数秒だけ、俺は水の上を沈まずに立ち続けられる。

 これに気づいたのはもう何年も前の事だが、この特性を利用して海を徒歩で走れるようになるまで、然程時間はかからなかった。

 

 それに加えて、俺は足も速ければスタミナも多い。

 なので船に乗って移動するより、この足でそのまま荷物を引っ張って走る方が、断然速いわけだ。

 

 当然ジェルマの改造によって得た力だろうが……なんだって構わない。サンジやバラティエの皆のためになるなら、なんであろうと利用してやる。

 

 

 

 

 

 バラティエに向かって走り出してから数時間が過ぎた。

 既に日は沈みきり、夜空には月が浮かんでいる。

 

(……灯りくらい持ってくればよかったな)

 

 今更になって少しばかり後悔する。

 

 俺の場合、暗いからといってバラティエの方角を見失う事はない。やろうと思えば目をつむったまま帰る事だってできる。

 そんな理由から、あえて持っていく必要もないかと思いそのまま出て来たが……少々見通しが甘かったか。

 

 

 夜の海の真ん中にたった一人というのは、やはり心細い気分になる。

 

(……あの時も、こうやって食料乗せた船引っ張って……必死に海を駆けずり回ったっけな)

 

 思い出すのは、サンジと共に乗った客船が、“赫足のゼフ”だった頃のオーナー率いる海賊団に襲われ、突然の嵐が全てを飲み込んだ、あの日のこと。

 

 

 

 そしてそこから始まった、消えたサンジを探し続ける数ヶ月間。

 

 

 

 あの時俺だけが、全く別の、安全な海岸に打ち上げられてしまっていた。

 

 目を覚まして状況を理解した直後、周りにいた大人達の静止する声を振り切って、無我夢中で海へ飛び出したのを覚えている。

 

 この『沈まない足の力』に気付いたのは、その時だった。

 

 最初の数日はうまく波の上を走れなくて、何度も海水に落ちた。

 失敗する原因を考えては、何度もやり直し続けた。

 そしてようやく安定して走れるようになり、俺はすぐに小舟と食料を調達して海に出た。

 当てなんて何一つなかったが、何もせずになどいられるはずもない。

 

 

 何日も、何週間も、何ヶ月も。

 ろくに休みもせず探し続けた。

 

 

 何もない海の上を駆け回って、喉が擦り切れるまでサンジの名を叫び、記憶に見たあの場所と似た岩場を見つけては、人の形跡が無い事に一喜一憂した。

 傷みかけた食料だけを自分で食べて、減った分の魚貝や海藻をかき集めて、また海を走って。

 

 

 思えばあの頃が、今回の人生において一番辛く、一番恐ろしい日々だった。

 

 

『もしもこのまま、サンジが取り残されてる岩場を見つけられなかったら?』

 

『もしもあの場所に、他の助けが近づかなかったら?』

 

『そもそも赫足のゼフは、本当にサンジを助けてくれたのか?』

 

 

 どんなに冷静に努めようとしても、そんな最悪の『もしも』ばかりが浮かんだ。

 ……あの時期の俺は、ハッキリ言って半狂乱に近い精神状態だったと思う。

 

(……まぁ、その苦しみのかいもあってか、今は迷わず帰れるようになったけど)

 

 俺は“俺にだけ分かる灯台”を頼りに、ひたすら海面を駆け抜けていく。

 

 今夜の海は静かだ。波も穏やかで非常に走り易い。

 このペースなら3日と言わず2日半で帰れそうだ。

 

(……ちょっと休憩するか。そろそろ腹も空いてきた) 

 

 緩やかに走る速度を落としてから、海面を蹴ってボートに戻った。積まれた荷物に背中を預けて、サンジがくれたバスケットを開く。

 

 俺は水と干し肉に加えて、最後のひとつのおにぎりを取り出した。

 昨日のうちに食べきれとは言われていたが……どうしても勿体なくて、ひとつだけ残していた。

 

(丸一日以上経っちまったけど……大丈夫だろ)

 

 少し傷んでいたとしても、この身体だ。

 問題など起こるはずもないし、仮に起こったとしても、関係ない。

 

 サンジが俺に作ってくれた料理を、食べずに残すなんてあり得ない。

 

「いただきます」

 

 ボートの上に広げたそれらの前で手を合わせてから、最後のおにぎりにかぶりつく。

 

「……! 鮭だ」

 

 全部で4つあった最後のひとつは、俺の一番好きな具だった。

 

 少しだけ頬が緩む。

 

 昨日食べたサンドイッチもおにぎりも、全部が美味かった。

 料理としては簡単な作りの食べ物だが、だからこそ、作り手の繊細で丁寧な手腕が伺えるものばかりだった。

 

 半分になったおにぎりを脇に置き、いくつかある小さな瓶のひとつを開けて、中身に干し肉をつけて齧る。

 控えめな味に対して香りが強いのは、元々塩分が多い保存食に使う事を考えてのことだろう。

 

(いいな、これ。好きな味だ)

 

 

 やっぱりあいつは、料理で人を喜ばせる天才だ。

 

 

 記憶と共に僅かに甦った不安感もどこへやら。あっという間に食事を終えた俺の気分は、自然と落ち着いていた。

 

 波の音を聴きながら、水を飲もうと水筒を傾けて、自然と夜空の月が目に映る。

 

 

 満月には少々足りない欠けた月が、静まり返った海を朧げに照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────俺は決して、太陽じゃない。

 

 

 

 

 どんなに暗い闇も等しく照らし、進むべき道を指し示せるような……そんな強い光にはなれそうにない。

 

 

 

 

 ならせめて────

 

 

 

 あいつに貰った“この名”に、恥じぬ程度には。

 

 

 

 

 

『なまえ、考えようよ!』

 

 

 

 

 

「……我ながら本当、贅沢な名前だよ」

 

 

 

 

 

 

 ……多くを照らせなくたって構わない。元より、そんな大層な心持などありはしない。

 

 

 ひょっとしたらそれは、酷く歪で、鈍い光かもしれない。

 

 

 隣に並ぶのも烏滸がましいほどの、弱い輝きかもしれない。

 

 

 

 

 

 それでも、たった一人でいい。

 

 

 どんな形であれ、俺に生きるための光をくれた、あいつのために。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、サンジの夜を照らすためだけの──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────(ルナ)』の光になりたい。

 

 

 

 

 

「……行くか」

 

 

 眠るのは、もう少し後でいい。

 あの月が見えている間は、可能な限り走るとしよう。

 

 

 食事の片付けをして立ち上がる。

 俺は担いだロープを握りしめ、再び波へ一歩踏み出して

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 

 

 

 ロープを手放し周囲を見渡した。

 

 

 

 

 海賊船のような物騒なものはおろか、海軍や一般の船さえ、何も見当たらない。

 

 しかし確かに感じた。

 

 

 

 

 

 貫くような鋭い視線を。

 

 

 

(…………見られてる)

 

 ボートの周りをぐるりと一周しつつ、全方位へ目を凝らし続けて、やっとそれを見つけた。

 

 

 この暗がりの中、注意して見なければ気が付けないような、黒い影。

 小さなシルエットに反してそれなりの速度を出している影は、間違いなくこちらに近づいてきていた。

 距離が縮まるにつれ次第に見えてくる、人の輪郭。

 

 

 

 その両隣で、蝋燭の淡い炎が揺らめいている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間巨大な斬撃が海を割って飛んで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 全力で海面を蹴りつけ横に飛び退く。

 俺とボートの間をすり抜けた斬撃は、暗い海を真っ二つに切り進み闇に消えていった。

 

 

 

「────今のを避けるか」

 

 

 男の声が()()()()()()()

 

 首を狙って振るわれた刃を即座にしゃがんで回避し、曲げた両膝をしならせ振り向きざまに、突き出すような蹴りを放つ。

 それなりに力を込めて放ったはずの踵は、あっさりとその大刀の峰で止められた。

 びくともしない刃に舌打ちする俺を見ながら、男は口角を上げる。

 

 

 

 

 

 月明かりに照らされた鷹のような目が爛々と光った。

 

 

 

 

 

「いい蹴りだ。まだ若いが、鋭く重い。そして力の差を理解していてながら、逃げるよりも攻撃のために動いた……『恐れを知らぬのではなく、受け入れた上で抗う』か……面白い」

「うるせぇよクソッたれ……! こっちは何一つ面白くねえわ……!!」

 

 水面につけた右足と、峰に止められた左足の順に力を込める。

 相手に向かっていくように水面を飛び上がりつつ、少し浮かせた左足で更に峰を蹴りつけた。

 予想通り大した影響も無かったが、その反動を利用してヤツから距離を取る。

 

「む……」

 

 愛刀を足蹴にされて不満だったのか、男は眉間に皺を寄せ刀身を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 ……最悪だ。

 

 

 どうして俺が、こいつに目をつけられたのか……それついてはこの際どうでもいい。

 

 それよりも、()()()()()()()()()()()の方が問題だ。

 

 

 

 

 ……もっとよく考えるべきだったんだ。

 

 その時が近づいていると、分かっていたのに。

 

 俺がいない間に彼らが来る事も充分あり得ると、少し考えれば分かる事だった……!

 

(ミスった……!! あの一味と、入れ違いになっちまった!!)

 

 今更気づいたところで後の祭り。

 正確な日数を覚えていないが、彼らは数日間バラティエに滞在していたはずだ。

 

 あれから既に2日が経とうとしている。

 どんなに急いでも、バラティエに辿り着くには最低でもあと1日以上かかる。

 

 

 

 時間が無い。

 

 

 

 目の前で大剣を掲げるこの男が、遥々偉大なる航路(グランドライン)から追いかけ回していた、あの艦隊が。

 

 

 海賊首領(ドン)・クリークの船が、バラティエに迫りつつあった。

 

 

 

 

 本当なら今にも休憩無しのぶっ通し全力疾走を選択する程の事態。

 

 だというのに……よりにもよって! そのクリーク艦隊を追ってきたはずの、この男が!!

 

 

「……変わった技を使うな。退屈しのぎに奴等を追って来たが……そう悪くない拾い物だ」

「人をちょっと質のいい玩具扱いすんのはやめてくれねぇかな……!? ……一応、聞いておく。『なんのつもりだ』……!!

 

 

 よくよく見れば、周囲のあちこちに浮かんでいた、何かの残骸。

 恐らくはクリーク艦隊のひとつか、偶然こいつの目に入ってしまった野良海賊の、海賊船だった物の一部。

 

 そのうちの一つを足場に悠然と佇む男は、その手の最上大業物12工の内が一つ、黒刀『夜』をゆらりとこちらに向けた。

 

 

 

 

 

「────決まっている」

 

 

 

 

 

 『王下七武海』の一人にして、世界最強と謳われる剣士────

 

 

 

 『ジュラキュール・ミホーク』

 

 

 

 “鷹の目”の二つ名に違わぬ猛禽類が如き目をギラつかせ、最弱の海まで格下を追い回す陰湿剣士はニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒマつぶしだ」

「ふざけんなおっさん!!! おれはヒマじゃねェよ退け!!!!」

 

 

 

 

 







ミホーク「雑魚追っかけまわしてたら爆速で海の上走ってるやついる……ひょっとしてできるやつかも……試しに斬ってみよ」ズバァ

ルナト「あっぶねッッ!? は?? ざけんなカス!!!」




  おもしれー男認定 合☆格!!






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