転生
俺はどうやら死んだらしい、らしいというのは自分が未だに死んだ実感を得られていないからだ。確か買い出しの途中だった気がする。
そして、これから女神様から言われた使命を果たす為に転生させられる。
女神様の世界では定期的に世界滅亡規模の問題が起きる。女神様は先手を取ってそれらの問題を潰しているのだが、どうにも女神様自身のリソースの問題で手が回らなくなってきているようだ。
以前はいわゆる勇者と呼ばれる存在や、歴史の転換点となる魔法の天才の出現を事前に仕込んで解決を図っていたとのこと。しかし、それらは少なからずリソースを消費するので、より低燃費に解決しなければならない。
結果、呼ばれたのが俺。
何故俺が呼ばれたのか。それを聞いて返ってきた返答は──
「貴方には素養があります。私の願いを叶えるのに必要不可欠な素養が──何度挫けそうになろうとも、全てを手放したいと思っても、永遠の苦しみと戦うことになるとしても、必ず。必ず貴方は立ち上がるでしょう」
「貴方は折れない魂を持っていると、私は知っています」
残念ながらそんな強靭不屈の意思も魂も全く心当たりがない。強いて挙げるのであれば、自分はゲームは相当やり込む人間であったことは間違いない。
買ったゲームはどんなクソゲーだとしても、全てのアイテムを集め、全ての図鑑を埋めて、レベルを最大まで上げていた。時には何時間やっても特定の図鑑Noが埋まらず、制作者に直接問い合わせたこともある。
心をバキバキに折られそうになったダークがソウルなゲームなんかでも必ずトロコンしたし、単純にゲームとしての完成度が低いゲームでも必ず最後までプレイした。
だとしても、ただのゲーム好きに異世界を救わせるというのは少々理解に苦しむ。神様も人材不足に悩んでいるのだろうか。
俺がそこまでゲームを隅から隅までプレイするのも、それが制作してくれた人達への礼儀とちょっとしたゲーマーの矜持だ。
後は、素直にお小遣いが少なかったので節約だよ節約。最近はソシャゲとかあるのでまた色々と違うけど。
死んでしまったことは母さんや父さん、妹には大変申し訳なく思う。
元の世界に帰してくれる条件として提示されたのが先程挙げた世界滅亡レベルの危機、『厄災』を解決することだ。
厄災が起こるタイミングに合わせて、年齢が全盛期を迎える様に転生して解決する。
最後に厄災を起こす原因を解決すれば、晴れて現代日本に帰してもらえる。
どうしてこんなにも曖昧なのかと言えば、まだ女神側も詳しい事がわからず、詳細に教えすぎると『世界の強制力』に抵触する可能性があると説明された。
世界の強制力というのはわからないが、兎に角細かい説明をするだけの余力が残されてないと言われた。
なんともふんわりとした話だが、結局こちらには拒否権も決定権もない。とんだ闇取引である。せめて契約書程度は確認させて欲しいものだ。
色々言ったが、俺としても現代日本の娯楽に溢れた生活をできないのは惜しいし、親より先に死ぬのは申し訳が立たない。なので、現状の目標はその厄災というものを全て片付けて女神様に生き返らせてもらい、元の世界へ戻ることだ。
いやまあ、実際はもう死んでいるんだが。
兎にも角にも、俺はこれから異世界で生きていくことになる。
女神様が俺に与えてくれたものはふたつ。
厄災の時期に合わせて転生する力と、自分の才能や素質を自由に決定する力だ。
これで渡されるのがひのきのぼうだけだったらボイコットを始めるところだったが、ちゃんとそこら辺は考えてくれている。
俺の目の前には今、いわゆるスキルボードとステータスボード的なものがある。魔法や奇跡、剣術、槍術、弓術、身体強化、その他諸々。全てのものに目を通していればそれだけで日が暮れそうだ。
これらはあくまで俺の感覚に合わせて存在しているだけで、実際に向こうの世界にステータスやスキルなんてものは存在しない。魔法は存在するが、あくまでそれは異世界の技術のひとつとして存在するに過ぎない。
スキルとステータスは、素質としての値を決めることができる。
素質というのはあくまで潜在的なもので、最初から備わっているわけではない。
ステータスの面は、筋力などの運動能力から知能、魔力などをどれだけ保有するか。
数値は1を基準値として最大で5、最低で0.1まで設定できることを確認できた。
これ、知能とか弄ったらどうなるんだ?俺もアインシュタインになれるんだろうか。
そう疑問に感じて質問したところ、反映はされるが人格が変容する可能性があると教えられた。なにそれこわい。
賢くなれるのは嬉しいが、元の人格が消し飛ぶ可能性があるならノーセンキューだ。できれば自分は自分のままで家族のもとに帰りたい。
……色々な経験をした自分を同一人物と呼べるかは疑問だけど。
まあ、もしかしたら戻る時はいい感じに記憶を調整してくれる可能性もある。
話が逸れた。
スキルに関しても数値が高ければ高いほど習熟度があがりやすい。上がりやすいというのはあくまでこれらは転生後の努力次第。どれだけ魔法の才能があろうと、魔法に触れる機会がなければ意味がない。
ゲーム的にスキルと呼んだが、要は技能だろう。リアルで例えるなら、野球や将棋の才能なんかを自由に割り振って伸ばすことができる。
重要な点として、当然これらの数値を全部マックスにできるわけじゃない。
ある程度、自由に割り振れるポイントは決まっている。割り振れるポイントは『魂の強度』に影響を受けるようで、魂の強度が高ければステータスもスキルの素質もそれだけ自由に割り振れる。限界以上に素質を付与しようとすれば、魂が壊れてしまうとのこと。
俺の魂は普通より若干低い程度。魂の強度が強ければ、現代ではイケメンで高学歴でスポーツ万能という訳だ。ただ、これは周回プレイ。つまり転生する度に、魂が鍛えられて強度が上がるから少しずつ楽になると言われた。
女神様に長々と向こうの事情や簡単な一般常識を説明して貰ったところで、これからの転生する
それは、身体能力と剣術特化だ。
理由は幾つかある。まず、俺の魂の強度は特別恵まれているわけじゃない。
この時点でオールラウンダーにはなれない。まして、世界で厄災として扱われるものを止める為にはそれ相応の力が求められる。なら、凡人以下の俺はある程度のものを捨てて特化させる必要がある。
それは後衛の魔法使いでも可能だが、打たれ弱く身体を作り死んでしまえば意味がない。
属性を絞って取得すれば魔法使いとしての人生を歩めないこともなさそうだが、魔力の才能に回す分で身体関係の数値を切り捨てることになる。
魔法が使えないというのは以前と変わらないが、身体が弱いというのは生きていく上で問題になると俺は思った。
向こうは人を食ったりする魔物やドラゴンなんかが当たり前に存在する世界だ。下手なことでぽっくり逝ってしまう身体というのは不安になる。
死んでも可能な限り早く転生してもらえるそうだが、全盛期で厄災を迎える年数な関係で未熟な状態で厄災と戦わなければならない。そうなれば、倒せる可能性も当然低くなるし、戦いが長期化することもある。
おまけに、厄災の正体はその時が来るまでわからない。時代により魔王であったり、悪逆の皇帝であったり、不死の魔竜や災害など現象そのものであったりする。
初回から依頼失敗となれば女神様に申し訳ないし、それで世界の危機とか困る。あと俺は家族の元に帰りたい。
妹に買い出しのついでに頼まれたプリンを届けてやらないといけない。
そんなわけで、できるだけ安定感のある選択を取りたかった。
正直、魔法への憧れがないと言われれば嘘になる。だが、これは遊び尽くせないゲームなのだ。おまけに周回プレイ前提、なら焦る必要はない。それに、剣で岩もぶった斬れる世界というだけで俺からすれば既に魔法みたいなものだ。
ちなみに向こうの世界には人間以外にも様々な種族が存在する。エルフやドワーフ、あとは細かい区分けがあるがひとまとめに獣人と呼ばれる種族など。
人間以外にもなれるらしいが、人間以外への転生は魂に馴染まず負荷が大きいので無理だと言われてしまった。
今回は剣聖プレイ、運動能力や動体視力、器用さに振れるポイントは殆んど振っておいた。元が平凡なお陰でカンストとまでは行かないが、身体能力だけならこれまでの時代の英雄達と大差ないと女神様のお墨付きもいただいた。
技能としての素質は剣士として必須な剣術を最大手前、他にも幾つか剣士として必要そうなものに幾らか振っておいた。
魔法関係はからっきし、知能は前世の俺と同程度になった。下げすぎてまともに思考ができない状態とか、人格が大きく変化するとか嫌だ。
後は容姿なのだが……ぶっちゃけ、容姿にこだわりはない。
まあ、顔は大事だ。大事だが、容姿の不利な要素はその分で獲得できる強さで誤魔化す事ができるはずだ。
なにより、容姿を最低値まで下げればそれだけ大きくポイントを稼ぐことができる。
1から0.9に下げるよりも、0.2から0.1に下げて稼げるポイントの方が圧倒的に大きい。そして、それだけのポイントがあれば剣術は最大値である5まで伸ばすことができる。
削れる要素は極限まで削って安定感をあげたい。
このこだわりで世界を救えず、家族の元に帰れませんでしたでは困る。可能な限り、強さへの保険は掛けておきたい。
それに、やはり男といえば剣だろう。
某戦略ゲームでもソードマスターが不利な時代も変わらず俺は剣ユニットを愛用してきた。
武器種が色々選べるゲームでは基本的に最初は剣を選択する。
誰だってやりたいはずだ。空間を断つ斬撃とか。
「よし」
俺は意を決して容姿を最低値に設定して、剣術を最大まで上げる。
そして、女神様に声をかけて準備が終わったことを告げた。
これから俺の異世界での人生が始まる。
記念すべき俺の転生一回目は、剣聖プレイで決定だ。
──俺は、この決定を後に死ぬほど後悔することになる。