深い微睡みの中、また温かく包まれる感覚がする。
果たして、彼女はこんなに触れ合う事を好む性格だっただろうか?
可愛らしく求めてくる事は多かったが、それはいつも恥ずかしさを含んでいたものだ。
最近は夢を見る度に膝枕をされていて、付き合った後は恥ずかしがって積極的ではなかったはずなのにと疑問を覚えた。でも、そんなことはこの温かさの中ではどうでもいいことだ。
愛おし気に伸ばされるその指先の温度が心地良くて、ずっとこうしていたいと感じてしまう。
幸せな微睡みの輪郭は徐々に剥がれ始める。
物事には終わりがある、覚めない夢は存在しない。
目を開けば、否応なく彼女が存在しない最悪な現実を突きつけられるのだ。
「おはよう」
気がつけば、自分は執務室のソファで聖女に膝枕をされていた。
覗き込む眼はどこまでも優しげで、慈愛以上の感情が込められている気がした。
何がどうなっているのかと疑問を投げかける前に昼間の間に気絶した事を思い出す。
護衛の人間が居眠りを通り越して気絶するとは、なかなか笑えない冗談だ。
そろそろクビにされても文句は言えないな。
「すみません、今起きます」
起き上がろうとするも、何故か聖女に止められて元の姿勢へと戻される。
強く抵抗する気にはなれず、されるがままに身を預けてしまう。
「しー……目、瞑って?」
幼い子供に言い聞かせるみたいに、人差し指を立てる。
言われるがまま目を閉ざされれば、眠ることを促された。
なんで聖女に膝枕されてるのかとか、仕事をしなければとか、考えなければいけないことは無数にあるはずなのに、不思議と穏やかな彼女の声が意識を遠ざける。
聖女の細い指先が髪の毛を撫ぜた。額の辺りの髪を掬われ、少しだけ寒さを感じたと同時に微かに濡れた柔らかい感触が触れる。
「おやすみなさい」
気がつけば、自分は自室のベッドで横になっていた。最近は幻覚と現実だったのかすら上手く判別がつかない。
流星女の夢を見ていたはずが、さらにその夢の中で聖女に膝枕されているという……我ながら自嘲してしまう最低な夢だが、久しぶりにちゃんと眠る事ができたお陰でいつもよりは頭の中は整理されている。
以前までの日付と曜日がはっきりしないほど追い詰められていた時に比べれば幾分かマシだ。
そして、不思議なことにある時から流星女を夢で見る度に自分は落ち着きを取り戻していた。
フラッシュバックが完治したわけでも、胸の苦痛が取り除かれたわけでもない。それでも、夢の中で彼女に会って、言葉を交わせずとも触れ合うだけで十分だった。
最近は眠気と気怠さは多少マシになったが、相変わらず身体の奥に沈殿する不快な感覚は変わらない。逆に、最近は聖女の方が妙に体調が悪そうにしている。
具体的には午前の業務中はあくびをしてばかりでウトウトしていて、午後は徐々に覚醒して普段の業務効率に戻るのだが。自己管理が完璧な彼女からすれば非常に珍しい。それこそ、こんな風に眠気に苛まれる姿はここ三年の間で初めて目にした。
「寝不足ですか?」
「そんなところかな」
大量の書類を捌ききった聖女は身体をググッと伸ばしながらあくび混じりの返事を返す。何か夜更けでもするような仕事があるのか、あるいは単純に眠れてないだけなのか。どちらにせよ、珍しいことで気になってしまうし心配だ。
「何か必要な業務があるなら僕が代わりますけど」
「ううん。最近はちょっと寝付きが悪いだけ……君の方こそ、大丈夫?」
金色の瞳を瞬かせ、心配そうに聖女がこちらを覗き込んでくる。
距離が近いせいで暴力的な美貌に思考を奪われそうになるのを振り払う。
どうにも、最近の彼女はどこか過保護だ。原因は一週間前の体調不良だろう。
フラッシュバックで情緒が不安定になるのは仕方ないが、それ以外は以前に比べればずっと良い。一週間前のピーク時は書類に目を通してる最中に脳裏で前世の映像が繰り返し流れていた。
はっきり言って、あの状態が続けば自分の精神は確実にぶっ壊れていただろう。だが、そういう時に限って夢で
何も言わず、ただ愛おしげな表情で自分のことを抱き締めてくる。あんな夢を見れば余計におかしくなりそうなものなのに、やはり夢から覚めれば妙に落ち着いていた。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「ふふ。そっか……よかった」
彼女は心底安心したような笑みを漏らす。そんな笑顔を浮かべられれば、逆にこちらも気が抜けてしまう。
「本当に、君が笑顔で良かった」
儚く消え去りそうな自然と紡がれた言葉。優しく指先を伸ばし、頬を撫でられる。
頬を撫でる動作と聖女の笑顔が、夢の中の流星女に重なった気がした。
「あ、ごめん。嫌だった?」
「いいえ。ただ、ちょっとびっくりして」
少なくとも、こうして誰かから大切にされる感覚は悪いものじゃない。そもそも、心配してたのはこっちだ。それにしても撫でられるとは思わなくて、少しだけ驚いた。
ただ、初めて再会した夢の中で口付けを拒まれたことだけは納得いってない。
最近、実力が伸び悩んできた。
奇跡を使用しながらの戦闘にも慣れてきたがどうしても前世の自分の様に身体を動かせない。理由は明確で、奇跡を使用しながらの繊細な剣捌きが難しいという単純な理由だ。
流星女のように無数の魔剣を状況に合わせて切り替えて使えるなら兎も角、魔剣や道具を扱うにもそれらに対する深い理解が必要で、武器や魔具を揃えるには金が必要だ。
今世で二刀流を使用しないのも、奇跡によって剣技に集中できないという制約が大きい。
ここまで奇跡を使用しながらの剣術が難しいことを想定してなかった。二刀流を使わずとも最大効率で行けば前世より確実に強くなれるが、この剣技と奇跡を併せて使いこなすというのが難しい。
呪術に関しても暇を見て進めてるが、完全に使いこなすのはまだ先になりそうだ。今の肉体で祝福と代償呪術を組み合わせたあれをやると、出力に耐えきれず肉体が壊れる問題がある。以前聖女の監視のもと試してみたが、腕が千切れかけた。
ある意味で、前世の肉体は本当に剣を振る事だけに研ぎ澄まされていたということだ。
伸び悩む理由はもうひとつ、この国には自分以上の剣の使い手が存在しない。
教会騎士というのは戦闘と奇跡のエキスパートであって、剣術の達人ではない。奇跡との併用を前提にした剣術は合理的だが、流星女の扱う自由な剣術とは違う。
今の剣技の実力は、自分以上の相手と競い合い磨き上げたあの八十年には遠く及ばない。
過去の技術もそのまま引き継ぐわけではない。身体はその事を記憶してないのだから、記憶から掘り起こしてその技術を改めて身体に叩き込み、会得する必要がある。
答えを知っていても身体が覚えられるかは別問題だ。常に手本や技術を学ぶ相手、超えるべき目標があった以前と比べればどうしても習熟速度は遅くなる。
現在の自分の実力は一級冒険者の中でも上の下程度か。前世の十八歳頃の自分にギリギリ勝てるかどうかだな。十四の時点でこれだけの力があるのは十分おかしいのだが、安心できるとは到底言えない。
思いついた事を確認しようと、聖女のもとを訪ねた。
「聖女様、ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
資料とにらめっこしていた彼女は机から視線を外して、顔を上げる。
夕方手前で眠気も落ち着いたのか、普段通りの笑顔だ。
今回の件は許されるかは正直結構怪しい。
「禁書庫を見たいんですが」
『禁書庫』は書庫の中で禁書や予言書が保管される場所。中には禁忌に指定された強力な奇跡も存在するという。
本来は聖女や枢機卿以上の特定の人物しか入ることができない。そして、禁書庫への出入り許可を出せる人間は、この国で教皇と聖女の限られた人間だけだ。
「別にいいよ?」
彼女はあまりにもあっさりと許可を出した。
「いいんですか?」
「君なら別に……あ、それなら今度の私の誕生日に君を一日好きにできる権利が欲しいなぁ」
そんなことでいいのか、と拍子抜けしてしまう。
元から誕生日は付きっきりで祝う予定だったので今更だ。
「勿論です」
「やった。なら折角だから私も行こうかな、教えないと何がどこにあるかわからないだろうから」
普通の書類や本を管理する司書がいないのに、禁書庫を管理する人間がいるはずもない。
禁書庫はそれなりに大きいらしいので素直に聖女に従い、案内をお願いすることにした。
今回興味があるのは、禁書庫内でしか閲覧できない奇跡とこの国の記録だ。禁忌として指定されて禁書庫で管理されてる物以外にも、難易度が高く危険だからという理由だけで表向きに公開されてないものもある。
「禁忌に指定された奇跡でも覚えたいの?」
「流石にそこまでは。危険というだけで公開されてない奇跡もあると聞いたので」
災厄に勝てる可能性があるなら、どんな手段でも検討するべきだ。
「私も幾つか見たことはあるけど、君が期待してるものは少ないと思うな。禁忌に指定されたのなら、色々あるけど」
「どんなものがあるんですか?」
「純粋な奇跡なら死者の蘇生、不老化。魔法混じりなら魂の移動。呪術寄りなら魂の転写とか」
どれもろくでもないものばかりだな。殆どは神の教えに背く上に、この世界の倫理的にもアウトだ。
当たり前だが、純粋な奇跡だけじゃなかったか。
魔法、奇跡、呪術、どれかひとつ習得するのにも才能が必要な世界で複合したものというのは非常に稀だ。それでも確かに魔法や奇跡をかけ合わせた技術は存在する。ただ、それらは実戦的なものというより実験的な側面が強い。
自分が奇跡と代償呪術という簡易的な組み合わせに留めたのもそれが理由だ。
「殆ど未完成だし、一部破棄されてたり。殆ど復元できるものじゃないけどね。完成したものも失伝して、本人以外使えないとか」
どれも使える状態で保管するのは危険過ぎる。実現したら大問題な奇跡ばかりだが、魂に関連する技術も確かに存在するのには驚いた。
研究するだけの知識も時間もないが、この分野が進めば転生に関しての秘密もなにかわかるかもしれない。そんな研究を許す国がある訳もないし、残念ながらそこまで頭も良くない。
「死者蘇生か……」
いや、あいつを墓から起こしたらきっと斬り殺されるだろうな。会いたい気持ちはある。だが、仮に使えたとしても確かにあの人生を終えた彼女を自分のエゴで乱暴に墓から呼び起こす気にはならない。
余計な思考を忘れて前を向けば、俯いた聖女の姿が目に入った。
長い水色の髪で表情は隠され、曖昧な笑みを浮かべている。
「蘇らせたい人が、いるの?」
聞かれてしまってたのかと内心で反省する。流星剣の事といい、最近は色々と迂闊過ぎる。聖女には少なからずバレてる気がする。
「はい。でも、そんな事をしたら怒られるので。会いたいだけ、ですかね」
「……そっか」
彼女の返事の僅かな間に違和感を感じながらも、言及はしなかった。
聖女も気遣って言及してこないなら、こちらが踏み込むのも野暮だ。
「あ、非公開の奇跡についてだったよね。持ってくるからちょっと待っててね」
「お願いします」
更に若干の間を置いて、普段通りに振る舞い始めた彼女に安心する。
正直、死者蘇生以外にも興味を唆られるものは多かった。
特に不老と魂に関しては、災厄に対して根本的な立ち回りを変える事ができるかもしれない。そんな事をぼんやりと考えながら、なんとなく近くにあった本を手に取り流し読みで目を通す。
本の内容は歴史書で国の綿密な成り立ちと、初代教皇について。歴史の授業では初代教皇は長い間教皇として信仰を広め民を導いた後、女神に召し上げられたと教えられた。
歴史書ではあるが、内容は当時の一族が遺した世代を超えた自伝のようなもので具体的な年代は表記されてない。この程度の内容ならわざわざ禁書庫に保管する必要も、と考えたが問題はその後だった。
初代教皇は人間でありながら、永遠の奇跡を用いて五百年に渡る統治を続けたという。
最初の百年は教皇は素晴らしい統治者として国を導き、その後も安定した統治を行った。しかし、二百年を超えた辺りから徐々に教皇は狂い始めた。
民に圧政を敷いて狂気の儀式を行い、四百年目には国は荒れ果て、五百年を経過する頃に反逆により討ち倒されたというものだ。
大雑把な推測だが、建国からなら千五百年程前の内容。表向きで学ばされる歴史と違いすぎて仰天しそうになる。
もしかして、不老の奇跡を開発したのは初代教皇だったのだろうか? 国の建国者が禁忌の奇跡を使用して狂ったというのは外聞が良くない。この内容を隠しておきたがる神殿側の意向も理解できた。
五百年より以前の記録は魔神との争いで多くのものが紛失している。この事が露見しないのはそのせいもあるだろう。
「何読んでるの?」
突然後ろから声をかけられ、肩の上に頭を乗せられる。
彼女の柔らかな空色の髪が首に触れて、妙にくすぐったい。
「これを読んでただけです」
「あぁ、建国時期の。それより、君が欲しがってた奇跡の資料」
市販や信徒向けに改良されたものではない、奇跡開発当時の記録をそのままなので滅茶苦茶な量である。集めるのに時間がかかるわけだ、自分も手伝えばよかったな。
「結構難しいけど……覚えられそう?」
「解説をお願いしてもいいですか?」
正直、奇跡の習得は得意じゃない。聖女は得意気な表情でにっこりと頷いた。
「授業料はアイスと山盛りのお菓子だよ」
こういう可愛らしいところを見ると、彼女はただの少女に思えてしまう。
聖女が先生として継続的に教えてくれたお陰で幾つかの奇跡を覚えることができた。
季節の変わり目が近づき、聖都にも雪が積もるようになってきた。現代の冬は寒いだけで嫌いだったが、不思議とこの世界の冬は嫌いじゃない。
深呼吸すれば、澄んだ空気が肺の中に満ちて深くリラックスできる気がする。それに、西洋ファンタジーな街並みに積もる雪というのは何度見ても乙なものだ。
朝一番、まだ誰も訓練場にも出てない時間に剣の訓練を始める。
一振り一振りを丁寧に描き出す。研ぎ澄ます度に、視界がクリアになって不要な考えを忘れ去ることができる。
前世のことや現代に置いてきた家族のこと、災厄やこれから先のことも。だが、不思議と頭の中に残ったのはふたりの人物のことだった。
前世の妻である流星女と、今世の主である聖女。どうして彼女達を並べて考えたのかは自分にもわからない。それでも、剣を振って斬り捨てた先にあるのは二人のことだけだった。
七十年近くを連れ添った前世の妻と、まだたった三年しか共にしていない少女を同時に思い浮かべるのは、我ながらどうかしてるな。
そうして、しばらく物思いに耽りながら剣を振って汗を流せば、少し早いが執務室に向かうことにした。最近は随分と忙しかったし、先にいくらか片付けておいてやろう。
今や自分は完全に護衛騎士ではなく秘書の真似事をさせられているのだが、気が付けば馴染んでしまった。
そこに突っ込み始めれば、議会制とはいえ国の行く末の一端を小さな女の子に担わせるこの国は異常だ。政治指針の大部分は彼女に依存しているし、聖女という肩書きとこれまでの実績は反対意見を握り潰すだけの力がある。
確かに聖女のおかげで国はいい方向に向かい始めてる。だが、どれだけ有能であったとしても、国の将来をひとりの女の子に押し付けている現状が好ましいとは思わない。
不満を漏らしてできることもなければ、彼女を役目から解放できる政治的な力があるわけでもない。
災厄の討伐を目指す自分にとって、聖女という肩書は必要不可欠だ。
散々助けられ、迷惑をかけているのに、打算的な考えに固執するのは自分でも嫌気が差しそうだ。それでも、厄災を討伐する為に彼女の強さも才覚も立場も、強力な助けになる。利用しない理由はない。
良心が痛まないと言えば嘘になる。少なからず自分は彼女に憐憫も、それなりの情もある。だからこそ、彼女のささやかなわがままやおねだりを嬉しく感じてしまう。彼女に利用されることが、せめてもの罪滅ぼしに感じるから。
後で会う時にまた行きたい場所がないか聞いてみよう。
どんな小さな願い事でも、叶えることで彼女が役目を忘れて喜べるならそれでいい。
流石に聖女もまだこの時間帯は流石に寝てるだろう。そう思いながら扉を開けた先には思わぬ光景があった。
机の上で突っ伏しながら静かな寝息を立てる少女の姿。朝焼けに照らされて透き通った空色の髪が、机の端から溢れている。
まさか夜通し仕事してたのか?
机の上には確認が必要な書類が束のように積み重なっていた。
ここまで無理をするなら他の業務を自分に回して欲しかったと衝動的に感じる。だが、自分が頼りない状況で迷惑をかけていたのだから頼れる訳もない。自分が彼女に余計な心配を強いて負担を増やした。
結局、自分のせいか。
自身への嘲笑と後悔を感じながら、聖女の身体を抱き上げる。
抱き上げた彼女の身体は朝の冬の寒さに晒されて冷たく、恐ろしいほど軽かった。
こんなにも小さくて軽い身体に国の未来が預けられ、聖女という肩書まで被せられているなんて随分とふざけた話だ。
彼女の身体の冷たさに触れる度、心が啄まれる感覚がする。少しでも熱が逃げないように手を回して彼女の体を抱きしめて、できる限り丁寧に寝室へと運んだ。
大きなベッドの上に彼女の身体を降ろし、毛布を掛ける。温かな毛布に包まれた表情は、心なしか穏やかに感じられた。
代わりに可能な範囲で業務を片付けておこうと離れようとした時、か細い力で服の裾を引っ張られていることに気が付いた。
起きてたのか?
「いかないで……」
騒音ひとつない早朝でなければ聞き取れない様な小さな声。浮かぶ表情は切なげで、振り払ってしまえば死ぬんじゃないかという錯覚すらある。
起きてるのか寝てるのかもわからない。振り払うのも嫌で、裾を引かれるまま彼女に近寄り、裾を掴んでいた指先を絡ませる。
そうすれば、今度は少しだけ強い力で引き寄せられた。
必然的にベッドに倒れ込む形になり、そのまま同じベッドへと潜らされる。
「……起きてるのか?」
返事はない。聖女は穏やかに瞼を下ろし、寝ているとしか思えなかった。
あの聖女のことなので狸寝入りの可能性もあるが、確かめる気にはならない。
布団の中で彼女を眺めていれば、今度は腕を伸ばされて抱きしめられる。
感じる体温は、不思議とあの夢の中で感じたものに限りなく近かった。
記憶のフラッシュバックと強烈な倦怠感は、時間が経つに連れてあの夢が解消してくれた。
膝枕をしたり、愛情を込めて頭を撫でて来る
言葉で飾らずとも、あの光景がどれだけ救いになってくれただろう。
自分は、あの夢がきっとただの夢ではないことを薄っすらと察している。でも、その真実を暴く心の準備はまだできなかった。
「おやすみ」
この光景を見られたら大問題だろうな。ただ、今は彼女と同じ微睡みの中に沈んでいたかった。