異世界転生周回プレイもの   作:にーしち

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竜狩りの騎士

 

 一体何をしてきたのか、聞き返したいのはこちらだ。 

 あの巨大な魔法陣と力の奔流、そしてその中から現れたお前こそ何者だと。

 

 だが、下手なことを言う余裕すらなかった。

 事実、団長を含めた他の五人は男を前に動くことができずに固まっている。

 魔王を相手にした時のような本能的な恐怖が身体を凍りついていた。

 動けば死ぬという当然にして絶対の恐怖。それが理性を上回り本能に従わせている。

 

「悪いけど、そっちに何が視えてるのかわからないからな。それに、魂云々も特に自覚はない」

 

 無理矢理増設されたとかならわかるが、逆に『巨大な一部を引きちぎった』というのは変だ。

 俺の魂は元からこの世界の一般人以下の能力しか有していないのだから。

 

「そっちの質問には答えたんだから、こっちの質問にも答えてくれないか?」

 

 言葉で時間を伸ばすことでどうにか思考する時間を稼ぐと同時に、後ろの四人が恐怖を克服して動くことができることを確認する。流石に上から順番で連れてきただけあって復帰が速い、助かる。

 

「ふむ。確かに……しかし、薄汚れた私に名を名乗る資格はないな」

 

 実のところ、服装から若干の目星は付いていた。

 男が身に付けている服の紋章は遥か昔。千年前、黄金の時代を迎える前に滅んだ国のものだ。

 そして、これだけの強者のオーラに『槍』というワード。

 

 それは、神話の時代の傑物にして怪物の名前。

 

 黄金の時代を迎える前の時代の騎士のひとり。

 かつて空を支配した竜という幻想を地に堕としめた男。

 果てには全ての竜の祖を一本の槍で討ち滅ぼした、竜狩りの逸話を有する者。

 竜血を浴びた不死身の英雄。

 

 『不敗の竜狩り』

 

 戦場ではどんな攻撃を受けても傷付かず、一度の敗北もなかったという。

 ひとりの姫に全てを誓い。そして、最後には守りきれなかった無念の騎士。

 おとぎ話にもなった旧い神話の人物。

 

「あんた、千年前の竜狩りだろ」

 

 どうして大昔に死んだ人間があの魔法陣から降りてくるのか。

 

「私の名がこの時代まで残っているとは……姫様を守れなかった私の名なぞ、さぞ不名誉な汚名として残っているのだろうな」

 

 やはり当たりだったようだ。

 付け足すと、残念ながら彼は悲劇の英雄として記録されている。

 真竜を討ち取った竜狩りの騎士は生涯傷を負わず、敗北もしなかった。

 王が崩御し、跡継ぎはまだ十五歳にも満たない姫のみだったところを隣国から攻め込まれて国そのものが滅んだ。国の終わりまでたったひとりの姫君に尽くした悲劇の英雄。

 これが俺の知る竜狩りの騎士の物語だ。

 

 事実、目の前の男は伝説の竜狩りの騎士なんだろう。

 荒唐無稽な話だと切り捨てたかったが、状況がそれを許さない。

 なによりも、放たれる威圧感と佇まいから感じる技量が男の言葉が嘘ではないと物語っている。

 

「では、役目を果たすとしようか」

 

 竜狩りがそう言った瞬間だった。

 予備動作が限りなくゼロに近い挙動で、突っ込んでくる。

 前世の経験を総動員してようやく動きを捉えることができる。

 

 余りにも自然で、たったひとつの乱れすらない動作だった。

 連れてきた教会騎士のひとりが握っていた槍を手に掴む。そして、槍を掴まれた教会騎士は刹那に槍の回転と共に軽々と吹き飛ばされた。

 竜狩りは、この世界の最高戦力でもある一級を赤子の手をひねる様にして転がした。

 それも膂力によってではない。俺が入団試験の時に彼らを地に伏した様に、ただ純粋な技量によって最短で相手から武器を奪い取った。

 吹き飛ばしたのも攻撃行動ではなく、ただ純粋に武器を奪い取る流れでそうなったに過ぎない。

 

 得物を手にしたというだけで、先程までより数倍の脅威を感じる。

 冗談ではない。こいつは、槍版の流星女のようなものだ。

 

 俺が彼女に勝てたのは、純粋な果たし合い。試合形式のみのものだ。

 純粋な殺し合いは、そもそも同じ土俵に上がることすらできなかった。

 

 それなのに、そんなレベルの強者が目の前に立っているという。

 あぁ、ふざけんな。

 

 

 

 

 

 彼が作戦から離れてから数分、私達は『魔神』と交戦していた。

 相手が使う呪術に対して、私が奇跡で対抗する。優秀な前衛を遊撃に出して、後衛は魔法で援護する。

 魔神との戦闘はこの日の為だけに幾つも仕掛けを施してきた甲斐あって有利に進んでる。

 

 問題は、騎士や教会に関連する人間の精神状態だった。

 

 魔神の正体は、想像も付かないものだった。

 正体を知れば言葉を使うのも当然で、人を扇動することも得意なはず。

 そりゃあそうだよね。だって、魔神は『初代教皇』だったんだから。

 

 魔神は復活を果たした瞬間にこう言った。

 

『あぁ……私の国が……!永遠の繁栄が!』

 

 肖像画で何度も目にする顔と、教皇のみが羽織る事ができる法衣。

 法国に生まれた人間なら、目の前の相手が誰であるかは明白だった。

 それと同時に、目の前の存在が正気でないこともすぐにわかった。

 

 魔神は周囲へ呪術を行使してきた。

 初代教皇であった人物が奇跡ではなく、呪術を行使していた。

 それも、ほぼ私の奇跡と同レベルの威力がある上に明らかに魔族としての性質を帯びた呪術。

 

 歪に頭から飛び出た角に黒い獣の翼は、魔族としての証に他ならない。

 初代教皇が魔族だったのか、あるいは魔族になったのか。

 

 不老不死の代償なのか、わからないことが多すぎる。

 会話もできず聞き出すことも難しそうだから、今は戦闘に集中する他ない。

 空に浮かんだ魔法陣の方がどうなったのかも気になる。

 

「助けに、行きたいんだけどっ、ね!」

 

 魔神が行使する呪術を真正面から奇跡で打ち破る。

 もはや戦場は私と魔神の弾幕戦の様相を呈していた。けれど、彼らもただ眺めるだけじゃない。

 弾幕の間を縫い接近して攻撃、奇跡や魔法による回復や補助や弾幕への加勢など、確実にこちらを有利にしてくれている。それにも関わらず、未だに戦闘は膠着状態だった。

 

 正直、強すぎる。

 

 私がいなければ、数十秒と保たずに戦線が崩壊してしまう。

 教会騎士の回復の奇跡を優に超える威力の呪術。

 呪いを帯びた炎が振りまかれ、奇跡による白い光が炎とぶつかり合う。

 視界が塞がった状態でも、力の波動と呪術の発動の予兆を掴んでそこへ奇跡を撃ち込み相殺する。

 

 魔神による呪術による攻撃は、一回受ければ立て直しに時間が必要になる。だから、その度に部隊を入れ替えながら戦闘を繰り返している。

 まだ戦闘が始まって数分なのに、もう三回も前線の部隊を入れ替えてる。

 それでも有利が崩れないのは、ここまでの人数を揃えてきたから。

 

 問題は攻撃が殆んど通ってる気がしないことの方かな。

 奇跡の通りが異常に悪い。魔神に呪術で防御されてるのもあるけど、奇跡そのものが()()()()()()()

 回復の合間に撃ち込んでる奇跡も、騎士達の奇跡も威力を発揮できてない。逆に、冒険者達の多種多様な攻撃は確かに有効打として機能してる。

 

 機能してるんだけど……本当に初代教皇が不老不死だとは思わなかったなぁ。

 どんな攻撃も、数秒の間に傷が塞がってる。そして、そこには一切の力の消耗も感じられない。

 つまり、あれは奇跡や呪術じゃない。()()()()()()()()()にも近いもの。

 

 多分、呪術の防御の上から一撃で消し飛ばす他ないんだけど……それができるのは、私か彼だけだ。

 

 そして、今は彼はいない。

 戻ってこないってことは、大変な役目を果たしてるんだよね。

 聖都の中心の方からも強烈な気配と、彼の力が振るわれるのを感じる。

 

 なら、ここは私が私の役目を果たすしかない。

 元々、魔神の討伐は私が背負うべきものだったから。彼にこれ以上頼れない。

 私だって頼りがいがある彼女だってところ、たまには見せないと。

 

 あの人に(流れ星)、負けられないんだから。

 

 

 

 

 

 槍を手にした竜狩りへと、臆することなく団長さんが真正面から斬りかかる。

 祝福を最大まで施した肉体から放たれる、大剣による斬撃。至極単純な技でありながら、磨き上げられた肉体と技による攻撃は破壊力を無駄なく伝え、竜ですら一撃で屠る威力がある。

 そして、隙間を縫うように側面から追撃を加える。

 

 予備動作を可能な限り殺した、生物の認知すら歪める速度へ特化した剣技。

 音を消し去り、予備動作を消し去り、極限まで無駄を削ぎ落とした即死狙いの攻撃。

 大抵の相手は察知できず、首を飛ばされて終わる。普段はまともな戦闘に発展しないから、基本使用しない技。

 

 しかし、これらの攻撃を竜狩りは簡単に対処してみせた。

 槍と身体を同時に回しながら前へと飛び出し、柄と刃先の双方向への間合いを調整。刃先でこちらの斬撃と鍔迫り合い、持ち手で団長さんの斬撃を受け止めて円を描くように攻撃を流す。

 教会騎士が使用していた槍だ。無論そう簡単に壊れはしない。だが、こんな攻撃を受け止められるようにもできてない。

 

 いや、違うな。受け止めたんじゃない、間合いも読み切られて攻撃の勢いを完全に流された。

 団長も自分も全力の何ら手加減のない全力だった。しかし、簡単にいなされた。

 純粋な技量で格上の相手と戦うのは、流星女以来。つまり、この身体では初めてだ。

 

「踏み込みすぎないでください」

「わかっている」

 

 他の教会騎士の二人も、警戒しながら攻撃に参加する機会を伺っている。

 こちらの最上位の戦力で囲んでいるというのに、わずかな油断も許さない状況。

 

 どう仕掛けるか、間合いを測りかねていた時。味方のひとりが隙を作ろうと攻撃を仕掛ける。

 追撃の判断をしようとしたところで、この場の全員の動きが止まった。

 目の前の光景が、現実の理解の範疇を超えていたから。

 

 振り下ろされた剣を、竜狩りは腕で止めた。

 籠手ではない、ただ二の腕辺りで斬撃を止めたのだ。

 確かに限界まで奇跡を使えば似たことはできるだろう。しかし、それは余りにも非効率だ。

 なにより、竜狩りは特に魔法も奇跡も呪術も、なんら使用していない。

 

 それなのに、剣が竜狩りの腕の前で完全に止まっていた。

 

 『竜血を浴びた不死身の英雄』

 

 まさか、伝説の通りに本当に不死身なのか?

 

「不思議なことはない。かの神から授かった権能だ。私は、私が脅威と思う攻撃以外の影響を何ら受けない」

 

 は、はは。馬鹿げてる。とんだチートだ。

 前回の魔王もその場から動かないことで無限の魔力を得たり、待機時間に応じて出力を上昇させたりとやりたい放題だった。だが、今度は脅威と認める攻撃以外通じないだと? こんなものならそもそも勝負にすらならないじゃないか。

 

「なるほど……竜狩りの伝説は本当だったというわけだな」

 

 団長も流石に驚きを隠せないのか、顔を顰めている。

 

「竜血の不死とはおとぎ話に過ぎんさ。ただ、戦場で傷を負わなかった故にそう言われただけ。これは借り物に過ぎないが、なくとも結果は変わらんだろうよ」

 

 あってもなくても結果は変わらないと豪語する目の前の男の言葉。

 心底傲慢だが、それを驕りだとは言えなかった。事実だからだ。

 事実として、俺達この五人で掛かっても勝負にすらならない。

 

 言葉の最中に動いたのは竜狩りだった、先程俺が使ったような技。

 速度に特化させた神速の突きが団長へと放たれる。

 

 普段から模擬戦をしていたおかげか、なんとか大剣の剣身でなんとか防ぐが衝撃までは逃しきれず、何度も地面を転がりながら建物へと衝突する。数十メートルを越えて吹き飛び、団長が叩きつけられた建物が崩落する。

 

 団長の生存能力は俺以上だ。

 死んではないだろうが、傷を直して戻ってくるまでは時間がかかる。

 この場で二番目に強いはずの団長が、一突きで戦線を離脱させられた。

 

 

 こんなものは、攻略不能の無理ゲーだ。

 

 

「私も、不要な殺生は好まない。邪魔を受けないのは、中々どうして便利なものだ」

 

 何が便利だ。

 攻略不能の無理ゲー?

 

 ふざけるな、ふざけるなよ。

 俺には守りたいものがあるんだ、守らなきゃいけないものがある。

 あの夢を現実にさせてたまるか。

 

 脅威と感じる攻撃以外通らない?

 だったら、こいつに脅威と認めさせてやる。

 

 右腕の動脈を切りつければ、勢いよく赤が飛び散る。

 失われる血液、身体を巡る脱力感に襲われながらも喪った血液を代償に呪術を行使する。

 

 奇跡と呪術の併用は未だに完璧じゃないが、言ってる暇はない。

 自らの身体能力を目の前の男に喰らいつけるまで上昇させる。

 身体が耐えきれずに腕が千切れようと、繋ぎ直して剣を振ればいいだけだ。

 

「脅威と認めさせれば、ないのと同じだろ」

「あぁ、その通りだとも」

 

 竜狩りは笑みを浮かべながら槍を握る。

 恐らく、俺の攻撃は脅威だと認めているんだろう。

 そうでなければ、先程攻撃を防ぐ理由がない。

 

「下がっててくれ。ここは()()で大丈夫だ」

 

 他の騎士達は下がらせて、聖女達の方へ合流させる。

 何の影響も出せないなら、この場は二人で戦う他に選択肢は無い。

 

「決闘と征こうか、年若い騎士よ」

 

 挑戦者を測るが如き傲慢な視線。

 本当に上から見下してきやがる、速攻で引きずり下ろしてやるよ。

 

 さっきの突きでわかった。こいつの槍を扱う技量は、確かに卓越していて今までの槍使いでは最強だ。だが、身体捌きも初撃の突きも、初見で捉えられる範疇だった。

 なら、試合形式であれ真正面からの勝負で流星女に勝利した俺が、勝てない道理はない。

 それに流星女は、誰を相手にする時でも決して侮りはしなかった。

 竜狩りの騎士の見せる強者の振る舞いは、ただの傲慢だと叩きつけてやる。

 

 姿勢を低くして剣を構える。騎士としての戦い方ではない、剣士としての構え。

 逆に、竜狩りは何の構えも取らなかった。ただ武器を手に立っているだけだが、相手は卓越した技量の騎士。構えを取らない程度で不利を背負わせられるとは思わない。

 

 あぁ、だがやはりこいつは傲慢だ。

 だからこそ、流星女と違って付け入る隙がある。

 わかるか?あの女は初見の俺に流星剣を抜いてくるんだぞ。

 それに比べれば、竜狩りなんてかわいいもんだ。

 

 決闘の開始の合図はなかった。

 研ぎ澄まされた戦意がぶつかりあった瞬間、互いの得物が交差する。

 

 聖女が鍛え上げた聖剣と、竜狩りの振るう槍が鍔迫り合う。

 竜狩りは正面からの力比べには付き合わず、流れるようにステップを踏んで柄を握り直して槍を回す。

 鮮やかな軌道を描いて回転する穂。フェイントも織り交ぜられたそれらは、全て同時とも思える速度でこちらへと襲いかかる。

 

 全て正面から叩き落とすことはできない。だが、フェイントには反応する必要はない。

 フェイントには微かに刃を合わせるだけで逸らす。見落とした攻撃には、奇跡の回復で対応する。

 

 一手違えば腕を斬り飛ばされる。

 全ての意識を目の前の相手へと集中させる。

 槍使いとはそれなりに戦ってきたが、ここまでの技量の相手は初めてだ。

 だから、経験則で測る事はできない。

 

 竜狩りとの戦いで読み取るんだ。

 こいつの使う歩法、間合いの取り方、視線の動かし方、肉体の使い方。

 そこから導き出される解で対応するしかない。

 

「流石にきっついな!」

 

 全身を斬り刻まれながらも、少しずつ相手の攻撃へと対応する。

 無限にも思えた槍の型も、徐々に覚えのあるものが増え始めている。

 間合いを取り、位置を精確に調整する。コンマ数ミリ違えば、身体を斬り刻まれかねない。

 臆することなく、槍という長物の間合いの内側に踏み込む。

 

 少なくとも流星女と違い、その場で敵を倒す為の剣技を編み出したりはしてこないようで安心した。

 あの女なら、その場で新しい攻略法となる剣技を編み出して対応して突破してくる。

 

 言葉を交わす程度の余裕は生まれた。揺さぶりを掛けてみるか。

 防戦の戦いを続け、相手の動きを観察しながら話しかける。

 

「どうして人族と敵対する?あんたは人間だろ」

「難しい理由はない。かの神との取引だ」

 

 思ったよりも隠し立てせず教えてくれる。

 絶対に勝てる意思表示か、騎士道精神で素直なだけか判断が付かないな。

 

「私の役目は人類の守り手となる存在を討つこと…一度、力を貸せば我が主君を蘇らせる。そういう契約だ」

「はっ……そういう理由か」

 

 微かに竜狩りの感情が揺れた。

 攻撃の苛烈さが増し、先程までは回転を軸にしていた技が中距離からの突きも交えたものへ変化する。

 急激な攻撃パターンの変化に対応できず、槍により穂で身体をより深く裂かれる。

 

「理解できないか?だが、同じ事を思うことはあるはずだ。他者の命を積み上げたとしても、何と引き換えたとしても手に入れたいものがある。取り戻したいものがある。生き返らせたい人がいる」

 

 あぁ、わかるよ。

 そうできたらいいと何度も考えた。

 最愛の人が存在しない世界の方が間違っていると心底現実を呪った。

 

 仮に実現する手段があればとも、繰り返し妄想した。

 だけど、それが現実となっても絶対に駄目なんだ。

 自分が納得できないやり方で彼女と逢えば失望されてしまう。

 

 六十年の仲だ。自分のどうしようもない性も弱さも、知り尽くされてる。

 だからこそ、譲れない一線がある。

 

 自分のどうしようもない弱さを受け入れてくれる相手を裏切りたくない。

 誰かを犠牲にした方法で大切な相手と再会してまた笑い合えるだろうか。

 

「理解はしてやるよ。でもな、納得できるか!」

 

 竜狩りは微かに苛立った表情で槍を振るう。感情を現したような心臓を狙った鋭い突き。

 初めて完璧に動きが読めた瞬間だった。突きのタイミングに、下から斬撃を重ねて反撃する。

 純粋な膂力では奇跡と呪術により身体能力に優れるこちらが有利だ。

 

 初めて真正面から竜狩りの槍を聖剣が捉え、打ち上げる。

 かつて、戦場で傷を負ったことのなかった竜狩りの頬に、赤い線が走った。

 

「沢山の人間の命を積み上げて、それでお前の姫様は満足なのか?」

 

 死者はそんな事は望まない何て綺麗事は言わない。そもそも、こいつの主を俺は知らないからな。

 こんなもの半ばただの精神攻撃だ。それでも妙にムカついて仕方がない。

 

「生き返って本当に喜ぶか?あんたのエゴで振り回すだけじゃないのか?」

「あぁ、そうであろうな」

 

 何処か、諦観に満ちた声色だった。

 

「だとしても、私はあの方にもう一度会いたい。もう一度あの方に仕えたい。笑顔を……そして、今度は世界の終わりまで、あの方を守り抜いてみせると誓った!」

 

 あぁ、わかった。

 自分がこんなにもこいつに腹が立つ理由。

 死した人間の意思を尊重しろとかそんな綺麗な話じゃない。こいつの主君がどんな人間であったかも知らないし、本当は何人殺して、世界を滅ぼしても蘇らせて欲しいと願ってるかもしれない。

 

「貴殿も同じだ。瞳の奥で燃える執念は、私と同じ狂気だ。何が違う?ただ、目を逸らしてるだけだろう」

 

 自分にはできないことを、こいつは心の底から願って戦っている。

 裏切りでも、失望されても、自らのエゴの押し付けでも、それでも会いたいという純粋な願い。

 

 言葉の応酬と共にお互いの攻撃が苛烈さを増した。

 空間を裂く斬撃と音を置き去りにする刺突がぶつかり、火花を散らす。

 そして、拾い損ねた攻撃が剣を避けて左肩にこぶし大の風穴を開ける。

 

 意識が飛びそうなほどの激痛を食いしばり、更に相手の間合いの内側へと踏み込む。

 位置を調節して、目的の場所まで運べるように追い立てる。 

 

「あぁ!そうだよ!会いたい!会いたいさ!」

 

 どんな言葉で取り繕っても痛みは誤魔化せない。

 それでも、過去の痛みで今を全て否定しちゃいけないんだ。

 最愛の人が存在しない世界でも生きていかなければいけない。

 

「それでも」

 

 そうしなければ、心を砕いて、想って、俺の代わりに涙を流してくれた聖女の全てを否定してしまう。

 そうしなければ、笑い合って、幸せで、満ち足りた流星女との人生を後悔にしてしまう。

 

「今と過去を!これまでを肯定する為には進まなくちゃいけないんだろうが!」

 

 そこには何もないと思っても、確かな現実が存在してる。

 手を伸ばしてくれる相手(聖女)が、存在してしまう。

 心が壊れ枯れ果てても、自分が生きる世界があることを認めなければいけない。

 

 この想いが、一緒に歩いてくれる相手がいるから言える贅沢であることはわかってる。

 遙か先では、竜狩りの言葉を何も否定できなくなるかもしれない。

 

 そうだとしても、今この時だけは前に進まなければいけない。

 

「あぁ、素晴らしい言葉だな。だが、私には関係ない、あの方がいない世界に意味がない。あの方がいない世界は存在する価値がない。それだけが、私が今ここで貴殿に槍を向ける理由だ」

 

 竜狩りの騎士の存在は、ここにあるようでここにない。

 千年前の過去に縛り付けられている。

 

 今度は、刹那を縫った突きが右肩を貫いた。血が吹き出し、言葉にし難い痛みが身体を襲う。

 どれだけ言葉で奮い立って、威勢のいい言葉を吐き出しても実力差は埋まらない。

 気が付けば身体はズタボロで、奇跡による回復も自身の出力では追いつかない。

 

 攻撃への対応に精彩を欠けば、更に槍による攻撃を受けることになる。

 追撃を避ける為に距離を取ったせいで、目標としていた場所から離れてしまった。

 

 こちらは満身創痍なのに対して、竜狩りは未だに頬を薄皮一枚切り裂いただけ。

 体力も聖力も限界が近い。常に被弾して回復し、呪術でも身体能力を続けたガタが来た。

 

「終わりとしよう」

 

 竜狩りは槍を突撃の姿勢で構えた。

 最初のような油断はない。明確な殺意が感じられる。

 次の攻撃は団長を一撃で戦闘不能にした時よりも速いはずだ。

 そして、今の俺の体力では受けきれない。

 

 負けられない。負けたくない。

 あいつの元に帰らないといけない。

 守るって誓ったんだ。

 

 

 

 竜狩りが強く地面を蹴ろうとした、その瞬間だった。

 こちらへ突撃してくるはずが竜狩りは大きく飛び退き、立っていた位置に幾つもの光の槍が突き刺さっては爆発を起こす。

 

 ここまで強力な奇跡を行使できる人間を、俺はひとりしか知らない。

 俺の隣にひとりの少女が着地する。そして、慣れ親しんだ奇跡によりまたたく間に傷口が塞がる。

 

「勝ったよ!力のことは聞いたから、他の人は連れてこなかったよ。動ける人ももう私だけかな」

 

 当然のように勝利を報告してくれる恋人には驚きの他ない。

 普通、こういうのって両方追い詰められるパターンだと思うんだけどな。

 いつかの優男くんの後ろ姿を幻視する様な状況だった。

 

「本当、頼りになる彼女だよ……お前は」

「そうかな……?えへへ、うん。これからはもーっと頼ってね!」

 

 何の気なしに吐いた言葉だったが、聖女は酷く嬉しそうに頬をだらしなく緩めていた。

 

「なるほど……貴殿の、守るべき主君か」

 

 竜狩りは聖女の姿を、少し懐かしいものを見る様に眺めていた。

 その眼差しは優しげで、聖女ではなく遥か遠くにあるものを見ているようにも思えた。

 

「あぁ、あんたと同じさ。生涯守るって誓ってる。だから、ここじゃ死ねないんだ」

 

 実際はこうして主君に守られまくりなわけだが。

 だからこそ、偶には格好いいところを見せなきゃならない。

 さあ、第二ラウンドだ。

 

 

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