家を出てから数日、ひとつ思ったことがある。
この世界、危険な魔物がそれなりの数生息している。
村に暮らしていた頃は山の方へ行けば稀に目にする機会はあったが、野生動物と変わらずこちらを警戒して向かってくること自体多くない。それにこれまで目にしたのはゴブリンとかではなく、角が生えた兎だったりそういう動物の親戚みたいな奴だ。
寝てる間に襲われたことは一度や二度ではない。毎回襲われるせいでロクに睡眠が取れなかった。
魔物の肉は食えるかわからないから手を付けてないが、村で聞いた話では食べられると思う。ただ、汚染されている気もして怖いので一旦手を付けるのはやめておいた。幸いにも食料には困ってない。
俺の最終目的は今生に生まれる厄災の討伐だが、ひとまずの目標として村長に言われた通りに迷宮があるという南を目指しながら旅をする。
全盛期というのがどれくらいの年齢を指すのかはわからないが、女神様曰く厄災の出現が近付いてきた時にはお告げ的なものが貰えるらしいので、知らない間に別の大陸で厄災がポップして国が滅びました。クエスト失敗という心配はない。
厄災が現れるまでは訓練期間だ。冒険者として日銭稼ぎながら実績を積み、どんな厄災が来たとしても斬り伏せられる様にしておきたい。
もしこれで厄災を倒せなければ、それこそ本当に俺が生まれてきた意味も、母さんを苦しめた意味もなくなってしまう。だから、なんとしても厄災は倒す。そして、さっさとこの世から消えてしまおう。
今後の方針はこんなところか。
容姿で問題が起きた場合は、早めに活動拠点を変えることにしよう。
今後の転生の為にも、各所を周って知識を蓄えるのもそう悪い選択肢ではない。
来世は絶対イケメンにしよう。マジで、絶対、必ず。
今回は生まれた場所に長期間留まってしまった。
お陰でこの年齢になるまで情報もろくに集められず、当初の予定とは大分違う。
どれもこれも、自分が容姿というものを過小評価したせいなのだが。
それでも、ここまで生きてこられただけで運は良かったと思う。
俺が目指している冒険者についてだが、大体ラノベのテンプレを踏襲している様な形式で非常にわかりやすい。ただ、この世界独自の階級制度だったりもあるようで、ここら辺の話は商人のおっさんから聞いている間はかなりテンションが上った。
冒険者は全て十級から一級で区分される。さらに、その上で冒険者として比類無き偉業を打ち立てた者のみ階位という特殊な制度で扱われる。
階位制度は一級を超えて一介の冒険者として扱いきれなくなった時に設けられたもので、特権階級的な扱いだ。呼び方も何級冒険者とかではなく、第何位という呼び方をされる。
なにそれ、かっこいい。
主目的は厄災を討つ事だが、階位制度はゲームのみならずラノベを好む人間として滅茶苦茶唆られる話だった。
呼ばれたいだろ、『剣聖』第何位とか。
ただ、この制度はこれまでの冒険者の歴史でも数十人程度しか存在せず、ここ数百年で数人しか登録された人物はいない。
毎年冒険者になる人間は何十万人という数存在する。その中で数百年単位で数人というのは、真の偉業を成し遂げたやつにしかなれないということだ。厄災を倒せばワンチャンスとも思ったが、まあこれは大分先の話だ。
ひとまずは迷宮都市で名を挙げて、一級冒険者を目指す。
冒険者は階級が上がれば上がるほど、国やギルドから優遇して貰える。
そうなれば、厄災の情報収集や仲間を集めたり、武器や道具の準備もできる。
欲を言えば、国自体にも動いて貰って全面的なバックアップのもとで倒したい。少なくとも俺は英雄願望はあっても自殺志願者ではないので、可能な限り安全に倒したい。
それとひとつ。俺は自分の力を色々試しながら村人を観察してわかったが、この世界は結構実力差が激しい。というのも、村では多少力が強いやつがいても精々丸太をひとりで数本担げるなどその程度だ。
逆に、俺は巨大な丸太を両腕で抱えても簡単に全力疾走できる。
これは転生前の数値の影響を受けているだろうが、筋力なんかに関してはカンストにはと遠い数値だった。それでもこれだけの力があるということは、1から5の才能の数値の差はかなりデカイことがわかる。
この事から、恐らく一級冒険者というのは単騎で村や都市を壊滅させられるだけの力があると思う。
聞いてる話なんかでも、比喩抜きで魔物の大軍を相手に三日三晩戦い続けた戦士の逸話とか、魔族の都市を一発で焼き滅ぼした大魔法使いの伝説なんかもあったので、そういう世界なんだろう。
俺が今どの程度に位置するかはわからないが、一級の化け物に出会って殺されたりしないように慎重に強くなろう。
旅を開始して三日が経過して、俺は都市へ向かう中継地点の街に辿り着いた。
街に入る時は身分証を要求されたりしたが、そんなものはない。
顔面に包帯を巻いているだけあって警戒されたが、村の出身と目的を伝えればわりとあっさり通してもらえた。
顔面包帯野郎になったことで初手で侮蔑や嫌悪の眼差しを向けられることは格段に減った。気味悪がられはするが、酷い火傷痕があることを伝えれば憐れんでくるだけでそれ以上はない。
正直街に入れば袋叩きにあって殺されるのでは?と危惧したりもしたが、ただの杞憂だった。
村時代との差に驚きながらも、俺は宿で休むことにした。
それだけ容姿は大事ということだろう。
ちなみに小さい街でも冒険者ギルドはあった。街単位でもギルドはあるが、村に設置されているギルドはほぼないようだ。
適当に睡眠と食料の補充を済ませ、早々に俺は街を出た。
あの街で冒険者登録をしても良かったが、やはり周囲の視線が気になってしまう。
迷宮都市の人口は半端じゃないと聞く。それに下級の冒険者は日雇い仕事をしてる連中だ。総数が増えれば、それだけ変な奴も増える。
変な奴らに比べれば、顔面包帯グルグル巻きでもそこまで怪しまれることはないと思いたい。
まあ、もしも都市で迫害されることがあれば、ある程度稼いだらまた活動場所を変えよう。
村と違って愛着もなければ、留まるだけの理由も特にない。
村を出て五日、遂に迷宮都市へと辿り着いた。
迷宮都市を目にして最初に抱いた印象は、兎に角人が多くてデカいだった。
マジで人の数が尋常じゃない。ここまで密集してるとは思わなかった。
都市の外観はファンタジーで思い浮かべる中世の城塞都市だ。白亜の城壁が都市を囲う様にしてずらりと並び、見ているだけで圧迫感を感じる。
都市に辿り着けば、早速入国審査的なものを受けたが大体街と同じ内容だった。
ガバガバ過ぎじゃないかという気もするが、ここまで膨大な人数を管理しきれないのだと思う。
街を歩いているだけで憲兵っぽい鎧を着込んだ人の姿もあったので、治安維持にはそれなりに力を入れているんだろう。
なんだか、この世界に来てからやっと異世界っぽくなってきたという気がする。
もはやラノベ的な展開や、夢を見ているわけではないが、それでも少しワクワクする。
なにせ、この世界に生まれてから目にしたのは差別と暴力と人間の残酷さばかり。
子供はマジで残酷だ、特に相手が悪者認定だと。
そんな経験を経てやっと冒険者になるというのだから、心が踊らないわけがない。
冒険者になるのに必要なものは能力だけだ。後は犯罪歴がないことが重要視される。
この世界の成人は十五歳からで、冒険者になれるのも大体成人してからだ。
だが、割り振ったポイントのお陰で身長は年齢にしてはかなり大きいし、顔面の幼さに関しても包帯グルグル巻きでカバーできる。
声変わりの途中ということもあって若干高い気はするが、そこまで頻繁に会話することにならなければ露呈しないだろう。
そんな訳で、俺は年齢を詐称して冒険者登録をした。
いきなり顔面包帯だらけの奴が入ってきて視線を集めるかと思いきや、ちらっと視線を向けられる事はあったが大して注目されなかった。そして、受付嬢は俺を人間扱いして、普通に会話してくれた。
その時点で俺はまず感動した。
街で宿に泊まる時も最低限の会話しかしなかったものだから、村を出てからまともに会話らしい会話をしたのは初めてだった。顔を焼いて包帯で隠したのはやはり正解だったと思う。
迷宮都市では多少の注目を浴びることはあっても、精々変わっている奴程度の扱いだ。
ちなみに文字は書けないのがやはり普通で、登録書類はかわいい受付嬢さんに代筆して貰った。
得意なこととか、そういうのを適当に書いてもらえばあっさりと登録は終わる。
冒険者登録が終われば、簡単な制度と迷宮の説明をされた。
制度の内容は商人のおっさんから既に聞いた内容で、特に初めての冒険者に向けたチュートリアルなんてものはない。失敗して死ねば自己責任の世界だ。
冒険者ギルドだけでもこの都市の中に東西南北で四つも存在する。
それだけ人材は有り余ってるわけで細かな対応はしない。自分で覚えろということだ。
迷宮の話に関しては初めての情報ばかりで興味深かった。
この迷宮は最下層が未だに発見されていない事や、迷宮の成り立ちについても聞くことができた。
迷宮というのは黄金の時代以降現れ始めた自然発生物だ。
迷宮は核となるものが存在して、それから漏れ出した魔力で周囲が迷宮の一部へと変化する。そこから魔力が充満して魔物が自然発生が起こる。
黄金の時代というのは人族が最も繁栄を迎えた時期で大凡八百年前の時代。現在の暦の基準でもある。
迷宮内で発生するお宝は迷宮内で落ちたものが迷宮に取り込まれて、魔力に囲まれた環境の中で変異したりとか、そういう感じらしい。迷宮に関して、まだ詳しい原理はわかってないようだ。
久しぶりの人間扱いに感動しながらも、俺は今後の方針を改めた。
まず、冒険者は最初は十級からスタートするので上の階級に上がるのを目指そう。
階級は自分の階級の依頼を指定回数達成した上で、ギルドからの試験に合格すれば階級が上がる。
失敗した場合は改めて達成回数を溜め直せば、再挑戦できるらしい。
なので、最初はこつこつと十級の依頼をこなすことになるだろう。
次にこの世界の情報の収集だ。俺は一般常識から文字の認識に関してまで、わからないことが多すぎる。
村で手に入れた知識はあるが、かなり偏った情報だろう。
迷宮都市は連合国の主要都市のひとつなだけあって、大きい図書館もある。
利用料は調べたら結構かかるみたいだが、文字の勉強をしなければこの世界の歴史や、冒険者として必要な知識を備えることもできない。
俺は普通に一周目から攻略本や攻略サイトをガン見しながら進めてたゲーマーだ。恥はない。
そんな訳で当面の目標は階級上げと、文字の勉強。
金はまだ幾らかあるが、主要都市なだけあって物価も中々に高い。
人口に比べれば抑えられているとは思うが、村と比べたら食費は雲泥の差だ。
稼がなければあっという間になくなってしまうだろう。
泊まるための宿を決めたりと大凡の出費を計算して、俺は早速ギルドに依頼を受けに行くことにした。
まあ、そうだよな。
迷宮都市だからって迷宮にだけ魔物が湧くわけじゃない。
迷宮の外にも普通に魔物がいたり、薬草が生えてる森なんかもあるわけで、そっちの依頼も普通にある。
俺は迷宮に行く気満々でギルドへ向かったのだが、ひとりであることを告げれば受付の優しそうなお姉さんはスッと書類を差し替えて薬草探しの依頼を渡してくれた。
失念していたが、基本迷宮探索は4~6人のパーティーで挑むのが鉄板だ。
少人数で挑むことはあるが、ソロで行く奴は殆んど存在しない。
ひとりだと、いつ魔物から奇襲を受けるかわからない迷宮の中で死角が増えるし、味方のカバーも貰えない。初心者が行けば自殺行為と変わらない。
そんな訳で、仲間がいない俺はしばらく薬草採取と野原に出現する魔物狩りが続きそうだ。
低級の依頼でも一日の出費を賄える程度の金額は貰えるので十分だ。
後は回数を満たしたら昇格試験を受けて、実力を認めてもらってから迷宮に入ればいい。
パーティーを組む選択肢も考えたが、はっきり言って今の俺は人間不信だ。
誰かが後ろに立っていれば、それだけで背後から斬りつけられるんじゃないかという妄想が止まらない。
幼少期から受けてきた経験のおかげで、人に対する警戒心がひと一倍強く、まともなコミュニケーションの取り方も忘れてしまった。
その上で顔面は包帯野郎と最悪な役満が揃っているわけである。
誰がこんな奴をパーティーに入れたがるだろうか?
剣士としてどれだけ優秀でも、コミュ障包帯野郎をパーティーに入れようとするやつはいないだろう。
同時に、誘って入ってくれる冒険者がいるとも思えない。
ぼっちは寂しいが、ぼっち歴32年。記録更新中の俺からすればへっちゃらだ。
むしろ、村時代での人間との交流量の差を考えれば人と会話してる。
……そもそも前世を通してぼっち歴32年なら、ぼっちじゃない時期なかったのでは?
そんなくだらないことを考えたり、今後のことを考えたり、母さんのことを考えたり、文字の勉強をしたり草むしりしたりと色々しながら過ごし、気が付けば時間は一年と少しが経過して階級は六級まで昇級した。
ちなみに六級にあがるまでは魔物は基本剣一振で、薬草採取のほうがずっと強敵だったまである。
七級の途中の段階でギルドからも実力が信頼され始めたのか、簡単に命を落とす危険はないだろうとソロでも迷宮探索を許可された。
門番にはびっくりされたりもしたが、今では特に声をかけられることもない。
なんともまああっさりだ。
村への仕送りはちゃんと行っている。
生活費確保の為に稼働時間を増やさなければいけなかったが、階級を上げるのには丁度いいし、大して苦には感じなかった。むしろ、これが助けになるならと気持ち的には楽だった。
階級が上がってきてわかったのだが、階級により本当に冒険者の扱いが違う。
九級以下は掃いて捨てるゴミ。替えの利く人材という感じだが、七級からはかわいい受付嬢さんからは名前で呼ばれるし、ギルド側から依頼を任されることも増えた。
恐らく、ここがただの日雇い労働者と、魔物討伐や危険区域への調査など、本当に冒険者らしい仕事をする人間の分水嶺なのだろう。
六級ともなれば、それなりに危険な依頼を任されることも増えたりもした。
どうにも、ギルド側は実力を薄っすらと察している雰囲気がある。
階級に合わない危険な依頼をソロの俺に回してくるのも、さっさと実績をあげさせて適正な階級に置きたいという思惑でもあるのだろうか。
とりあえずそんな訳で無事六級に昇格したわけだが、ひとつ以前と大きな変化がある。
それは、ギルドで知り合いができたことだ。
決して、どれだけ嫌でも業務上接してくれるかわいい受付嬢さんではない。
彼は、俺が初めて迷宮探索に向かった時に出会った子で、魔物に襲われているところを助けたのだ。
いかにも気弱で優しそうな優男で、可愛い系の顔立ちをした金髪の少年。
初見はひ弱そうで優しい少年だと思ったが、実際はとんでもない。
この優男くん、成長速度が異常だった。
優男くんは年齢があれからひとつ上がった俺の三つ上で十六歳なのだが、同年代の冒険者の中では図抜けている。身体自体は同年代の中だと少し小柄だが、魔法の才能と身体運びが巧み過ぎる。後、得物に関しては何を使っても強い。
剣、槍、大剣から果てには斧までと、何でも使いこなせる上に近接で組み合わせて使う魔法が強い。
光魔法と回復魔法と身体強化、後は火とかも使えた気がする。
この世界の魔法はよくある属性プラスアルファで色々という感じだ。
そして、それらを至近距離の戦闘中に組み合わせて使ってくるものだから、これが正直反則級に強かった。未だに模擬戦で負けたことはないが、いつか追い越されそうで怖い。
俺の今の実力は、甘く見積もっても二級冒険者クラスはあると自負がある。
身体能力は最高峰で、剣士としての才能がカンストしているというまんまチートな俺とまともに鍔迫り合いをして戦闘に持ち込めるだけ、彼の異常っぷりがわかる。
優男くんなのだが、助けた影響で俺のことを凄く慕ってくれている。
本当に嫌味のない良い子で、俺がどれだけ口下手な顔面包帯野郎でも何も気にしない。
なんなら、未だに包帯のことにすら触れてこない。
ある時気にならないのかと聞いてみたのだが。
「え?先輩は確かに包帯で顔も見えなくてちょっと怖いですけど。先輩が僕を助けてくれた人には変わりないですから」
と返ってきた。聖人である。
慕ってくれてるのに年齢詐称しててなんだか申し訳ない気持ちになった。
ちなみに可愛い系で優男、才能も二重丸と超優良物件なだけあって当然モテモテだ。
最初はお互いソロだったはずだが、気が付いた時には彼はハーレムパーティーを築いていた。
獣人の拳闘士ちゃん、エルフの魔法使いちゃん、人間の僧侶ちゃんとバランスのいいハーレムパーティーだ。
なんか聞いた話によればみんな優男くんに助けられたらしい。
わかるよ、惚れるよな。俺も女なら危なかったかもしれない。
お互いソロの時に彼からパーティーを組まないかと誘いもあったが、素直に迷惑をかけたくないし、当時人間不信の絶好調だったので断った。
今になって少し惜しい選択をした気もするが、可愛い女の子達に囲まれて幸せそうな優男くんの姿を見れば気にもならない。
彼の実にラノベっぽいハーレムが羨ましくないかと言えば嘘になるが、俺はもうこの見た目で生きてきた上で誰かと恋人関係になるというのは諦めている。
人間レベルが違いすぎるものを目にすると嫉妬心もなかなか湧いてこない。
元から人生=彼女いない歴な男だ、気にしていない。
現代日本ではゲームが恋人だったので、今更だ。
ただ、ギルドで俺を見つけた時に真っ先に駆け寄ってくるのはやめて欲しい。
後ろの女の子達が凄いんだよね、圧が。
村で向けられたどんな視線よりも彼女達の視線に殺意が籠もっている。
余りの主人公属性っぷりに女神様俺以外に保険かけた?などと勘ぐったりもしたが、答えは出ないので気にしないことにした。
実際、彼がこのまま成長を遂げてくれれば厄災と戦う時に大きな助けになってくれる可能性もある。
打算的だが、できるだけ友好な関係を築いていきたい。
文字というより知識の方に関してだが、稼ぎに余裕が出たお陰で四六時中依頼に行かなくても良くなり、図書館に通って勉強する余裕が生まれた。
文字に関してはひと通り本を読める程度には学習できた。まだ学術書や専門書クラスの内容になると困ることも多いが、日常生活を送る上で最低限の文字は習得できたと言える。
冒険者向けの本はかなりわかりやすい言葉で、図や絵も多く載せてくれているので冒険者としての知識には困らなかった。
識字率が低いこの世界では、学がない奴も多い冒険者相手には簡単な文字で内容を伝えなければ、内容が伝わらないのだろう。おかげで非常に読みやすかった。
中には知らなければ厄介な特性や、毒を使ってくる魔物のことなども書いてあって、勉強してよかったと心底感じた。
剣技と身体能力によるゴリ押しもできるが、上になればそれで通用するかもわからない。
現状ではソロでもかなり余裕があるが、常に油断せずに行きたいものだ。
ギルドの五級から六級向けの依頼が張り出された掲示板の前で、どれを受けようか悩んでいれば、最近六級に昇級した優男くんが話しかけてくる。
「先輩、お疲れ様です。依頼探してるんですか?」
「あぁ」
ちなみに俺はぼっち生活が長すぎた影響か、基本ひとことふたことしか喋れなくなってしまった。
それでも彼は気にせず会話を続けてくれるので、優男くんマジ聖人である。
「先輩、依頼で迷宮に行くなら気をつけてくださいね」
何かあったんだろうか?
迷宮内部が時折変動することはあるが、俺の実力を知っている彼が忠告をするなんて珍しい。
「最近、上層で幾つかパーティーが全滅して噂になってます」
なんだそれ。
優男くん以外と会話しないので、ギルドでの情報はわからない。
「詳しく頼む」
「伸びてきてた2つのルーキーパーティーが連続で壊滅したみたいで、それも危険度の低い上層で遺品の一部が発見されたんです。同じ冒険者の仕業じゃないかって噂されてて、ギルドが調査してるんですけど、原因不明です」
基本、パーティーが全滅するというのは珍しい。
誰かしらが犠牲になってしまうこともあるが、全滅というのは余程のミスか、イレギュラーに遭遇したということだ。
ルーキーが調子に乗って中層に挑んで死ぬ事はザラだが、上層で死ぬのは明らかにおかしい。
イレギュラー的な魔物の発生か、人為的なものに違いないだろう。
どうしよう、しばらく活動を控えるべきか?
ただ、最近武器を新調したのもあって貯蓄が余りない。
村に送るお金のことも考えれば、余り休みたくない。
「そうか、ありがとう。お前も、気をつけろ」
「いえ、先輩も気をつけてください」
俺は常駐依頼を手に取った。後ろから突き刺さる猛烈な視線から逃げるようにしてカウンターへと向かい、迷宮へと向かった。
───そして、その日。俺はそのパーティー壊滅の原因に遭遇することになった。