【書籍化】異世界転生周回プレイもの   作:にーしち

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人殺し

 

 基本迷宮の中は暗くて目が慣れていても魔物の奇襲を受けやすい。その為、一番前には斥候であるスカウト役を配置して探索を進めるのが鉄板だが、生憎と俺はぼっちだ。

 ただ、自分の場合は動体視力が常人よりずっと良いので大抵の罠は見切ることができるし、魔物の奇襲も感知できる。ソロでやっていく上で必然的にこうなった。

 

 罠を斬り飛ばし、適当に視界に映った魔物を斬り伏せながら考える。

 いい加減パーティーを組まなければならないかもしれない。戦力の不安はないが、ギルドで敵視されることが増えた。

 

 原因は単純明快で実力の高さと、ソロである事だ。

 大抵の冒険者は優秀でも三級止まり、中年までしがみついても五級や六級で生涯を終える者が多い業界だ。そんな中でストレートで六級まで昇級、誰に誘われてもパーティーを組もうとしない包帯野郎などやっかみを貰って当然だ。

 

 逆の立場であれば、自分もそんな相手は気に入らないだろう。

 けれど、このやっかみを簡単に止める方法がある。

 

 それは何処かしらに所属することだ。

 現状、無所属の俺は悪い意味で浮いている。

 ギルド内でも交流が狭く、誘われても誰とも組まない腕の立つソロの剣士。

 

 字面だけなら周囲と釣り合わないから受けないのだと受け取られても仕方ない。

 別に、俺は無所属でぼっちを貫きたい訳じゃない。パーティーを組むのならできるだけ実力の近い相手と組みたいのは当然だが、それ以上に大きな理由がある。

 

 俺は、本格的に人との関わりにトラウマを抱えてしまった。

 具体的には話しているだけでも危害を加えられるのではないかという思考が巡り、長時間相手の視界に入っていると思うだけでも動悸がして視線を合わせられない。

 

 加えて、未だに後ろに立たれるだけでも防衛反応で咄嗟に剣に手が伸びそうになってしまうのだ。下手をすれば反射的な抜剣で相手の首を落としかねない。

 現状では誰かと組んでも自分のパフォーマンスを落とすだけだ。

 

 時間が経過しても母さんへの罪悪感と、自分が生まれてきてはいけなかったという気持ちが消えることはない。

 それは、厄災を討つという必要なことの為に生まれてきたのだとしても。

 ここまでの自罰感情に駆られるのと、咄嗟の過剰な防衛反応は明らかに精神を病んでいる。元の世界なら治療法もあるだろうが、この世界の精神医学のレベルはお察しだ。

 

 これまで可能な限りやっかみを避けようと努力してきたが、このこともあってパーティーだけは組む気になれなかった。

 以前に下層まで潜って下層の魔物相手にも問題なく立ち回れることは把握しているので実力の余裕はある。即座に解決しなければいけない問題ではないのだが、長期間放置するのも望ましくない。

 

 どうにかしたいが、解決策が見えてこない問題だ。

 トラウマ問題以外にも、一緒に組めるだけの冒険者が存在しない。

 

 迷宮都市に在籍する冒険者は四級以下がほぼ全てで、三級と二級が合わせて二十人に満たない数、一級は確か三人だけだ。

 上位の冒険者はギルドに来ることすらほぼない。指名依頼を受けて大体深層に潜るか危険な魔物の討伐依頼などで顔を合わせる機会がまるでない。

 

 風の噂で活躍を耳にすることはあるが、顔も知らない六級を相手してくれるわけもない。

 

 今からでも優男くんに頼み込んで入れてもらえないだろうか?

 五人までなら許容範囲なはずだ。

 そう思いついてから、女の子達から熱い視線を注がれることを想像してしまう。

 

 うん、やめよう。

 マジで後ろから殺されそうだ。

 

 そんな事を考えながら目的の魔物を狩っている最中、後ろから人の気配を感じ取る。

 動きは先程までと変えないが、ゆっくりと後ろの気配に集中する。

 

 四……いや、五人だな。

 明らかに俺を付けている動き。わざわざ気配を殺して付けてくるなんて平和じゃないな。

 恐らくパーティー全滅の原因で間違いないだろう。

 

 冒険者同士の争いはギルドでも、どの国の法律でも禁止されている。

 元々が荒くれ者の巣窟。多少のいざこざなら見過ごされるが、殺し合いでもしようものなら冒険者としての資格を剥奪されて国の法律により裁かれる。

 

 撒く事も考えるが、残したとしてもまたいつか狙われるかもしれない。

 それに、このまま放置すれば優男くん達や他の冒険者が狙われる可能性もある。

 

 やるしかない。

 いつか、こんな日が来るかもしれないと考えていた。

 

 対人戦の経験は積んできたが、今日まで俺は剣で人を傷つけたことはない。

 誤って傷をつけてしまうことはあっても、意図的な攻撃をした経験は存在しない。

 

 できるのか?

 俺に?

 

 恐怖が湧き出し、自問自答する。

 わずかな不安を募らせながらも、隠れ場所がない広い通路へと釣り出す。

 

「コソコソするなよ、男らしく行こうぜ」

 

 緊張と恐怖を悟られぬように、強気な姿勢を示す。

 相手も気づかれている事に観念したのか姿を現した。

 

 正体は冒険者ギルドでも何度か目にした事がある実力者揃いの四級パーティーだった。

 いつもこちらに対して厭味ったらしい視線を向けていたが、まさかここまでの凶行に走る奴らだったとは思わなかった。随分と恨みを買ってしまったようだ。

 

「お前も終いだな。ウザかったんだよ、お前のその鼻に付く態度がな」

 

 剣士、鈍器使い、斥候、弓使い、魔法使い。

 前衛二人と中衛一人に後衛二人、バランスがよろしいパーティーだ。

 全員そこそこの年齢の割に四級で五体満足な辺り、冒険者としての実力は申し分ない。

 だが、だからこそわからない。

 

「なんで殺した?」

「何でもクソもあるかよ。クソガキ、わかるか? 俺達はもうこれ以上伸びねえ、強力な魔具でも手に入れなきゃ四級止まりだ。そして、それを手に入れるには金がいるんだよ」

 

 確実に殺せると確信しているからか、手前の剣士は饒舌に語り始めた。

 

「それができなきゃ後は老いるだけだ。老いて、落ちて、若い奴らに追い抜かされる。テメェも俺達のことなんざ雑魚の端くれ程度にしか考えてなかったんだろうが」

 

 確かに、あんたらのことなんか気にかけたこともなかったさ。

 

「……殺した連中にも家族がいるとか、考えなかったのか」

 

「さあ、知るかよ。稼いだ数字以外気にもならねえな。知ってるか? 冒険者ひとり殺すだけで、危険度の高い依頼の数倍は余裕で稼げるんだぜ」

 

 嫉妬と金銭目的の殺害。この世界では、ありふれた話かもしれない。

 

「それで、何人殺した?」

 

「テメェはいちいち狩った魔物の数を気にすんのか?」

 

 あぁ、俺だって気にしないさ。

 ゲームで経験値や金銭の為に殺したエネミーなんて。それが、こいつらにとっては他の冒険者だったというだけだ。

 

 饒舌な様子だった剣士も、言葉の中で静かに間合いを測っている。冷静に後ろの魔法使いは詠唱を始め、弓使いが矢を番えた。

 

 恐怖で足が竦みそうな自分に、冷静な部分が告げる。

 相当殺し慣れているな、こいつら。

 

「──そうか」

 

 思い込め、こいつらはゲームに登場する人型のモンスター(エネミー)だ。なんてことはない。経験値の為、金策の為に幾度となく行ってきた行為だ。

 思い出せ。何百回、何千回と繰り返したあの感覚を。

 

 こいつらは、ただのゲームのモブだ。

 

 踏み込みと同時に振り抜いた剣は、鮮やかな軌道を描いて剣士の両腕を斬り飛ばす。

 

 赤い鮮血が迷宮の壁に飛び散るのを見ながら、確信する。

 

 二度とこの世界をゲームだなんて考えてはならないと決めていた。それなのに、俺は未だにこの世界をゲームと同列に考えることのできるクソ野郎。目の前の、人の命を効率の良い金稼ぎ程度にしか考えない連中と何ら変わらない人間だと。

 

 刹那の出来事。両腕を失くした剣士が慌てふためき絶叫する。連携が乱れた瞬間に更に前へと斬り込む。

 

 前衛と中衛を一歩踏み込んで抜き去り、後衛二人の首を纏めて斬り落とす。

 遅れて斬り込んできた斥候のナイフを一太刀で返し、半身で突いて心臓に穴を開ける。

 

 最後に、逃げ出そうとした鈍器使いを上段から真っ二つに斬り裂いた。

 両腕を失くした剣士は腰を抜かし、這いながら必死に逃げようとしていた。

 

「に、人間じゃねえ……あ、あんな……殺すなんて……!」

 

 何言ってんだこいつ。

 お前らも散々殺しただろうが。

 

 頬に飛んだ血を拭いながら、剣士に向かう。

 

「もう十人近く殺しておいてよく言えるな。いや、それ以上か」

 

 五級、六級のパーティーを二つも逃亡者なしで全滅させているのだ、腕は確かだ。それに、今回が初めてとは思える所作じゃない。この都市に来る前から殺して来たのであろう、人に武器を向ける躊躇がまるでなかった。

 

「ありえねぇ……ありえねぇ……」

 

 うわ言のようにつぶやきながら、芋虫みたいに這って逃げる。

 俺は、淡々と近づいて剣を振り上げた。

 

「化け物が」

 

 久しぶりに馴染みのある言葉を聞いた。

 そういう扱いを受ける方が、俺はやりやすい。

 

 一閃で胴体を切断、息を吐く間もなく剣士は死んだ。

 通路に並ぶ五つの死体を見ながらなんとも言えない気持ちになる。

 

「ふっー……」

 

 この世界の命は地球よりも遥かに軽い。

 殺そうとした奴を殺すのはこの世界では常に正当防衛だ。過剰防衛なんて概念はない。

 

 そもそも命の価値自体が貴族が存在するこの世界では等価ではない。それにも関わらず現代日本人の価値観で考える俺の方が異端だ。

 

 気にする必要はない。誰に非難されることもない。

 それでも、自分の実力なら多少の危険を覚悟すれば殺さずに捕縛することもできたかもしれない。最後の一人は、殺す必要もなかった。

 

 しかし、俺は感情に駆られて剣を振った。殺した。

 

 他者の命を奪ったという感覚が、時間を掛けてじっとりと絡みついてくる。

 俺は本当に正しいことをしたのか、そこまで考えて思考を切り上げる。

 

 こいつらはモブだ。

 ポップしたエネミーだ。

 

 初めての人殺しは、驚くほどあっさりだった。

 でも、それでいい。俺がすべきことはさっさと厄災を討って死ぬことだ。

 

 その為にいちいち誰かを手に掛けたことに悩むのは、時間の無駄なんだ。

 

 剣で人を手に掛けた時の重さ、顔に掛かった生暖かい液体、鼻につく鉄の匂い、それらを全て無視してアイテムを漁る。

 

 殺されたパーティーの身分証や、彼らから奪ったであろうアイテムがかなりの数ある。

 全て持ち帰るのは無理だと判断して、報告に必要な分を鞄に詰め込む。

 

 こういったトラブルが起きた際、基本的にアイテムは全て倒した、あるいは殺した人間の持ち物になる。

 死んだ仲間のアイテムが発見されて、それを買い戻すなんて話もたまにある。

 

 冒険者歴が長いだけあって、襲撃したパーティーから奪った(ドロップした)道具は、高額で冒険者生活を続ける上でいつか必要だと思っていたものばかりだ。

 

 迷宮内で位置情報を把握できるものや、面積以上のアイテムを詰め込める収納鞄の魔具、上等な回復薬や用意が面倒な特定の魔物を対策する魔具など。

 そして、剣士が握っていた魔法が施された剣。

 

 この世界には魔法や奇跡や呪術などが込められた武器や、魔力を帯びた魔具と呼ばれる武器や道具がある。災害とされた魔竜の鱗で鍛え上げられた剣、都市を墓場へと変えた不死王の布で編まれた外套。

 そういう伝説の武器や防具は、確かに実在する。そこに至らずとも、魔力や魔法が込められた武器や防具は特殊な権能を有して桁外れに高額で取引される。

 

 剣身が赤紫の剣を握ると、身体全体に力が漲る感覚がした。

 効果は魔力による身体強化だろうか。簡素だが、剣士としては無駄のない効果だ。

 

 制限時間もあるだろうから過信はできないが、普通に毎日身体を鍛えるのが馬鹿らしくなるほどの効果だ。細かい作用は後で調べてもらおう。

 他にも手にしようと思っても簡単には手にできない貴重な道具の数々。

 

 ──あぁ、確かに魔物を殺すよりずっと簡単に金を稼げる。

 

 

 

 ギルドに戻り事情を説明すれば、軽い事情聴取を受けたが言い分を信じてもらえたのか簡単に開放して貰えた。

 殺された彼らの遺品に関しては金は要求せず全て返品することにした。

 

 偽善者ぶった選択だが、それでも何もしないよりかは幾分か心が楽になる。

 遺品を返品する為に殺されたパーティーの家族を呼んでもらったが、ある家族からはしきりに感謝された。自分の身を守る為に取った選択でも、感謝されれば少しでもマシな事をしたのかもしれないと思える。

 

 殺したパーティーのアイテムは使わないものは全てオークションや競りにかけて、魔具や他に使えそうな物は手元に残す。武器を新調したばかりで金に困っていたはずが、気がつけば大金持ちだ。

 

 殺したパーティーは腐っても四級の冒険者として長い間活躍していた。四級というのは一般人の冒険者の最高到達点、下層に顔を出しても無事で帰ってこられるだけで一般人からしたら英雄。

 そんな彼らの稼ぎが詰まったアイテムを全て合わせれば、後は軽く遊んで暮らしていけるだけの額になる。

 

 冒険者は命と隣り合わせな仕事だが、上に行けば行くだけ貰える金と権利が増える。

 確かに、中級の冒険者を手にかければ莫大な金を稼げるだろう。

 

 アイテムの精算とギルド側の処理を待っていると、優男くんが隣に腰を下ろして来た。

 

「……殺したんですか?」

 

「襲われたからな」

 

 意外だった。

 優しい彼のことだから、心配してくれるかとも思ったが、少し夢を見すぎていたらしい。

 

「先輩だったなら、殺さずに捕まえることもできたんじゃないですか?」

 

「そうかもな」

 

 否定はしない。危険を承知すれば、彼らを殺さずに捕まえることはできただろう。だが、あいつらの為に俺が危険を選んで敢えて殺さない必要もない。

 

 ただ、優しい彼からすればこの選択は非難して然るべきものだ。

 

 仕方がない。初めてできた知り合いだったが、いつ顔のことで嫌われるかもわからなかった。むしろ、よくここまで付き合いを保った方だと喜ぶべきだろう。人殺しなど、嫌われて当然だ。

 

「こんな事言われて困るかもしれないんですけど……先輩には、誰かを傷付けることはして欲しくなかったんです。すみません、わがままなことを言ってるのはわかってます。気にしないでください」

 

 慕われている後輩から非難の嵐を浴びせられることを身構えていた俺は面食らった。

 『殺してほしくなかった』。確かに、自分が慕う人物が人殺しだったら誰でも嫌だ。

 きっと、彼にとって俺は尊敬できる人間ではなくなってしまったのかもしれない。

 

「いや、いい……すまなかった」

 

 謝罪の言葉を口にすれば、優男くんは少しだけ悲しそうに笑った。

 

「さっきのは僕の押し付けです。本当に失礼なことをしました、忘れてください」

 

 俺は、その言葉に何と返すべきなのかわからなかった。

 嫌われてしまったのだろうか。なんと返答するべきだったのか、そもそも殺したこと事態間違いだったんじゃないか。だけど、あの場で簡単に勝てたのは後衛を即座に無力化できたからで殺さない以外の無力化手段はあの場で現実的じゃなかった。ならどうしろって言うんだ。お前はその場にいなかったじゃないか。あるいは、殺されればよかったのか。

 

 一瞬で駆け巡った頭の中の赤い思考を、息と共に吐き出した。

 

 いや、まず優男くんは俺を責め立てるような言葉を言った訳じゃない。

 発作のような疑心暗鬼を落ち着けると、変わらず彼は少しだけ悲しげな笑みを浮かべていた。

 

「一番最初に言うべきことでしたが、先輩が無事で本当に良かったです。ゆっくり休んでください」

 

「あぁ」

 

 去っていく優男くんの後ろ姿を見ながら、俺はまた考えを巡らせる。

 

 ふと、テストで適当に答えた解答用紙が不正解を貰った時の気持ちを思い出した。

 いや、でもこれでいい。俺の目的を思い出せ。

 

 その為の危険を今回は切り捨てただけで、至極当然なことだ。こんな世界で生きるなら、何処かで人殺しは経験する機会は来るだろうとわかっていた。

 特に、こんな容姿はトラブルの温床だ。自分の身に危険が及んだ時は躊躇しないと決めていたじゃないか。

 

 そのはずなのに、妙に今日の出来事は忘れられなかった。

 

 

 ──結局、その日の夕食は全て戻してしまった。

 

  

 初めての人殺しから一年と半年、気がつけば俺は夢の十五歳になっていた。

 ギルドの登録上は年齢詐称の十七歳で差があるが、まあ細かいことを気にしない。

 

 あの事件から魔具や剣を手に入れた俺は身体能力と剣技にものを言わせ、短期間で迷宮の深層まで潜ってはギルドの評価を強引に稼いだ。

 本来階級は適正階級の依頼を規定回数達成して試験に合格することで昇級するが、ギルドマスターの判断であれば特例で四級まであげることができる。

 

 俺はそれを狙って上の階級の依頼を片っ端から片付けて、ギルドマスターの前に深層の魔物を積み上げて無理矢理昇格させた。

 ギルドマスターには素直に申し訳ないことをしたと思う。

 

 前回のことから学んだのは、下手に考えを巡らせて妬みを買わないようになんて言う生易しいことじゃなくて、周囲との圧倒的な格の違いを見せつけることだ。

 

 レベルが違う、才能が違う。それを認めさせれば、彼らは手を出そうとも下手に絡もうともしなくなる。そもそもの生物の格が違うと、本能的に察するからだ。

 

 現在の俺の冒険者階級は二級、一級目標達成まで目前に迫った。

 優男くんは正規ルートで地道に頑張り最近四級に上がった。以前と変わらず接してくれていたが、俺が階級上げに集中していたせいで自然と絡む機会は減った気がする。

 

 変わらずギルドで会えば声をかけてくれるが、どうしてもあの一件で微妙に負い目を感じてしまい会話を早めに切り上げてしまう。

 

 母さんには変わらず仕送りをしているのだが、最近は手紙が送られてくるようになった。母さんは文字を書けないので村長が送ってくれているようだ。

 母さんからは謝罪の言葉や無事を心配する内容があったが、臨時収入の一部と共に問題ないと返しておいた。あの人にはもう俺のことは何も気にせずに生きてほしい。

 

 村長からは母さんの日頃の様子や村全体が少し人口が増えて発展してきたこと、他にも些細な日常が書かれていた。

 以前不安に思ってこっそり村に戻ったりもしてみたが、母さんも父さんだった人も村長も、みんな元気そうだった。

 

 少し驚いたのは、母さんが別の人間と再婚していたことだ。手紙にもない内容だったので面食らったが、よく考えれば当然だ。

 母さんは綺麗だし、子供を作るのが早いこの世界においてはまだまだ村の男共は放っておかないだろう。再婚した母さんのお腹が大きくなっていたりして、俺は心底安心した。

 

 もうあの人が家族という存在に苦しめられてはいないと、幸せな様子から確認できた。

 これで俺の罪が消えるわけじゃないが、これからは心配せず目的に集中できる。

 

 金は変わらず送る。そのお金で幸せに生活してくれれば、俺はそれでいい。あの人を傷つける厄災なんて、起こさせやしない。

 

 俺の近況はこんなところだ。

 女神様からのお告げはないことから、厄災が来るのはまだ先のようだ。それまでに一級冒険者の地位と、厄災に対抗できる魔具や武器を入手したい。

 

 一緒に厄災と戦うことのできる仲間も必要だが、これは正直難しいし諦めた。何処の誰がこんな人間のイカれた予言を信じるだろうか。

 実力の足りない味方は足を引っ張るだけだ、平時の味方は必要ない。いざという時は金で人を動かせばいい。

 

 今日も深層で倒した魔物を収納鞄に限界まで詰め込んでギルドへと戻る。

 今回は最高到達地点付近まで降りてきたので、そろそろ未探索の深層にチャレンジをしてみてもいいかもしれない。現状の腕前で苦戦らしい苦戦を強いられたことはない。

 

 この都市に住む一級は基本外へ出向いている奴が多いようで、迷宮最深部には興味がないようだ。最前線の攻略は長い間二級から三級で構成された冒険者達が進めている。

 迷宮最深部を攻略したら一級を飛び越して階位にあげてくれたりしないだろうか?

 

 一級までの道のりを考えていればギルドに辿り着いたのだが、中が何やら騒がしい。何かあったんだろうか。

 

 光に誘われる蛾のようにして人混みに向かおうとした時、人混みの中に立つ人物。豪華絢爛な金の髪に、紅い瞳に星明かりを灯す少女と目があった。

 

 大勢の人混みの中に立っているにも関わらず燦然と輝く星の如き存在感を放つその人。

 沢山の人間の瞳があるにも関わらず、不思議とその眼に釘付けにされてしまう。

 

 真夜中に光る星の様な、全てを焼き尽くしてしまう程に熱く、紅い眼。

 彼女の動きに合わせて揺れる金髪は、より一層にこの空間の中で彼女の存在の異質さを際立たせている。

 この世界の人間の髪色は様々だが、彼女の黄金の髪は眩しい上に、異常なほどに華やかで、美しすぎた。

 

 そんな彼女と、何故か目があった。

 

 彼女はこちらへと迷いなく向かってくる。

 ズカズカと近づいてくれば目と鼻の先で止まり、思いも寄らない言葉を口にした。

 

「あなた、私と剣を賭けて勝負しなさい」

 

「は?」

 

 これが、『剣狂い』として有名な一級冒険者の少女との邂逅だった。

 

 ──俺は、未来永劫何回転生を繰り返したとしても、この星すら霞む輝きに満ちた少女との出会いの瞬間を忘れることはないだろう。

 

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