異世界転生周回プレイもの   作:にーしち

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流星剣

 袈裟斬り、逆袈裟、突き、全ての動作が流麗で、美しさすら感じてしまう。

 全てが速すぎる。あらゆる動作に隙がない。剣を振り抜いた後の動作が自然と次に繋がるように組み込まれている。

 

 おかしい、俺は剣術の才能を最大まで上げた。

 つまり、この世界で剣術に関しては最も才能がある人間なはずだ。

 

 俺は五歳の頃から一日たりとも休むことをせずに剣を振ってきた。体調が悪かろうと、怪我をしてようが、絶対に休むことはしなかった。適切な休憩が必要だとか、無理な練習が無意味なのはわかってる。

 でも、俺は昔から嫌なものから逃げて習慣を止めてしまう癖があった。習い事も勉強も、習慣付けたとしてもどこかでいつも諦めてしまう。

 

 唯一続いたものはゲームくらいだ。だから、逃げられないように何があっても必ず毎日剣を振った。意味がなかったとしても、辞めることがないように。剣だけは続けなければいけない、それが俺が生まれた意味だから。

 

 正しい剣の流派を学ぶ機会がなかったとしても、ギルドの模擬戦室で流派を学んだ剣士の動きを観察してそれをトレースして研究した。剣術の型が載っている本を読んで練習してきた。これまでの人生、殆ど剣に注いだと胸を張って言えるだろう。

 

 それにも関わらず、俺は純粋な剣術でこの女に大敗していた。

 剣の握り方、振り方、身体の動かし方、足さばき、力の込め方、何を取ってもこの女に『型』というものが存在しない。それでも、全ては次の動きへと繋がり、合理的に戦いを進める為に組み立てられていた。

 

 何故なのか?わからなかった。理解不能だ。

 

 現実の情報に処理落ちしそうになりながら、迫る死の刃を逸し、受け流し、時には躱して生き延びる。

 

「ふふっ、あはは!あなたやるじゃない!久しぶりに楽しいわ!」

 

 そうか、楽しそうで何よりだ。

 お願いだからやめてください。死んでしまいます。

 

 この何も考えてなさそうな楽しそうな顔で、理論立てて先程までの完璧な動きをしてるとは思えない。

 つまり、天性の才能。こいつも俺と同じだけ剣術の素質があったとして、大して年齢も差がなさそうなのにどこで差が生まれたのか。

 

 鮮やかな金髪を靡かせる少女の剣戟を死ぬ思いで凌ぎながら、何故こんな事になったのかと思い返す。

 俺は依頼の達成報告にギルドに顔を出しに来ただけだ。それだけのはずだった。

 事件は、俺がギルドに入った瞬間に巻き戻る。

 

 

 

 突如剣を賭けた決闘を申し込まれた時は、ついに頭のおかしいのに目をつけられたのかと思った。だが、それ以上に気になることがあった。

 

 この世界の顔面の偏差値は、結構高いと思う。ファンタジーな世界だけあって、美男美女が多い。

 その顔面偏差値が高い世界でも、目の前の少女は絶世の美少女と言って差し支えがなかった。

 

 日の光を浴びて輝く、星の煌めきを思わせる鮮やかな金髪。

 瞳に秘められた意思の強さを感じられる、焼け付く炎のように赤い瞳。

 

「ねえ、話聞いてるの?」

 

 不機嫌そうに眉をしかめる様子すらも絵になってしまうほどの美少女。

 

「聞いてはいる」

 

 俺は、目の前の女にどう対応しようか迷っていた。

 決闘をするのは構わないがそもそもこいつは誰なのか、冒険者同士の争いがご法度なギルドで何故誰も止めないのか。

 

 考えれば考えるほどわからないが、唯一助けてくれそうな優男くんの姿はここにない。

 頼むから早く助けてくれ。優男くん、この美少女多分君のヒロインだよ。

 明らかに暴力系っぽい香りが漂ってるけど。

 令和の時代に暴力系とは恐れ入った。

 

 本当にどうしよう。

 

「そ、じゃあ決まりね?」

 

 人の話聞けよ。

 

「ルールは、先に首に剣を当てたら勝ち」

 

 今日はこの子にしようかしら、そんな言葉を言いながら鞄には本来入るはずのないレイピア形状の剣を取り出した。

 

 魔道具の収納鞄に、剣からは魔力が漏れ出ている。

 つまり、魔剣だ。

 

 こいつ、当然の如く魔剣を持ってやがる。

 魔剣の能力はわからないが、警戒するしかない。

 

「一応聞くが、俺が勝ったら何が貰えるんだ?」

「あはっ、勝てると思ってるの?いいわ。勝ったらなんでも好きなものをあげる」

「マジで言ってる?」

 

 凄いな。なんかラノベで聞いたツンデレヒロインしか言わないセリフが飛び出してきた。

 でも美少女ちゃん、最近ツンデレヒロインって人気厳しいらしいぞ。

 

「本気よ。剣士として二言はないわ。構えなさい」

 

 この美少女、目がマジだ。これまで立ち会ってきたどんな相手より真面目な目。

 

 え、マジでやるの?誰か止めないの?

 

 周囲を見渡すが、周囲はこの勝負の行方に興味津々で止める様子はまるでない。

 いつもお世話になってるかわいい受付嬢さんもワクワクして観衆に混ざってる。

 おい止めろよ、あんた一応ギルド職員だろ。

 

「わかった」

 

 ここまで言われたらこちらも受けざるを得ない。

 それに、決闘というのはしたことがなかったので少し憧れがある。

 勝ったらこいつが使ってる魔剣を貰うとしよう。

 ギルド職員も止めないし、文句はあるまい。

 

 ───よく考えれば、この時点で“ギルドですら手が付けられない階級か、あるいはそれに準ずる実力者”であることを理解できたはずだ。剣士のプライドがとか考えていた俺は、心底アホだったと思う。

 

「精々私を楽しませてよね」

 

 

 開始の合図はなかった。俺が柄を握り鞘から剣を抜いた瞬間、知覚できるギリギリの速度で斬り込んで来た。

 

 俺は、これまで苦戦らしい苦戦をしたことがなければ、死を本気で覚悟することもなかった。

 大抵の戦いは不利を悟れば撤退していたからだ。

 

 だが、こいつは違う。

 気を抜けば一振りで死ねる。確信があった。

 この瞬間から、先程までの気の抜けた考えを捨てた。

 こいつの攻撃を防がないと俺は死ぬ。

 

 型もまるでない、身体を最大限まで自由に使った片手によるレイピアの振り下ろしだ。

 文字にすればそれだけなのに、驚異的な加速と異常なまでの剣閃の冴えが防ぐのを困難にしていた。

 それでも、これまで剣を使ってきた経験から剣筋を読み、軌道上に剣を斜めに配置する。

 

 ───ギィン

 

 剣同士が打ち合う耳が破裂しそうなほどに激しい音。

 

 重い、重すぎる。華奢な肉体、剣身の細いレイピア、一体どこからこの威力を出してるんだ?

 衝撃は確かに流したはずにも関わらず、手首から先の感覚がなかった。

 大丈夫だよな、手はちゃんと付いてる。

 

「へぇ───」

 

 少女は、初撃を防いだ俺に対して獰猛な狩人の如き目を向けてきた。

 

 そこからは、一方的な蹂躙劇だった。

 少女が楽しそうに放つ連撃を痺れた腕でなんとか受け流す。

 

 反撃の隙などない。俺が行動する間に相手は次の行動に入っている。

 少しでも隙を晒そうものなら、首が飛ばされそうな勢いだった。

 

 打ち合ってわかったことは、少女の剣術には型がないと同時に攻撃の“間”が存在しないことだ。

 普通、連続した攻撃には少なからず“間”が生まれる。

 

 剣を振ったり、拳を振ったり、そういう行動の後に次に繋げるための間。それがこいつにはない。

 剣を使う腕の動き、足捌き、身体運び、視線の使い方、首の動かし方、それら全てが次へ繋がる布石となっている。

 

 剣士としての次元が違う。

 それが抱いた感想だった。

 

 

 そうして話は冒頭に戻るわけだ。

 

 もはやあと何回攻撃に耐えられるかというゲームになりつつある中、俺は冷静に少女の動きを観察して反撃の機会を探る。

 攻撃を防いでいるだけではいずれジリ貧で負ける。勝利を目指すなら、打開策を見つける必要がある。

 

「防いでばっかじゃ勝てないわよ」

 

 わかってんじゃい、今解決策探してるの!

 

 俺は以前、剣に愛されているという自覚があったのだが、前言撤回する。

 この世界で、最も剣に愛されてる人間は間違いなくこの少女だろう。

 

「こ、んのぉ!」

 

 バカスカ斬りかかりやがって、腕が取れるわボケ!

 

 0.1秒にも満たない刹那の隙間、少女が身体を捻り次の攻撃へ移る時に真正面から攻撃を被せる。

 しかし、当然とでも言いたげにあっさりと必死の抵抗は受け流される。

 

 それでいい、時間を作れれば十分なのだから。

 俺は続けざまに大上段からの一撃を放ち、強引に距離を取らせる。

 ぜえはあと息を整えながら少女に視線を向けるが、こちらと違い相手は息ひとつ切らしていない。

 

「すごい、すごいわ。十合以上打ち合ったのも久しぶりだもの」

 

 炎の如く赤い瞳を爛々と輝かせながら笑みを浮かべる。

 

「そう、か。そいつは、よかったな」

 

 それはもう、満面の笑みだった。

 

 うーん、いい笑顔だ。

 もう負けでいいから許してくれないか。

 この後またぶつかりあったとしても、俺が勝てるビジョンがまるで思い浮かばない。

 まだ物語中盤にも関わらず、ラスボスが出張してきた様な絶望感を感じる。

 

 無理だな、勝つのは諦めよう。余りに現実的じゃない。

 相打ちだ、相打ちでいい。内容で幾ら負けていようが、相手と同じタイミングで首に剣を添えればいい。

 

 一番人間が油断する瞬間、隙が生まれるのは最後のタイミング。

 必要なのは相手の決め手に合わせて、わずかでも隙を生み出すこと。

 

 それができれば苦労しないが、実質的な攻略法はそれしかない。

 後はもうなるようになれだ。

 

「あなたに敬意を払って、本気でやるわ」

 

 もう許して。

 

 俺の嘆きを無視した少女は鞄に手を突っ込み、明らかにオーラが違う直剣を取り出してきた。

 なにひとつ穢れのない純白の煌めきを宿す黄金の剣。明らかに存在感が違う。

 

 あの剣はヤバいと、俺の剣士としての十五年間の直感が囁いていた。

 調子を確かめるようにして剣を振った軌跡は、まるで流れ星を想起させる。

 

「行くわ」

 

 来る。次だ、次で決めに来る。

 集中しろ、タイミングを読め。動きが見えなくてもいい、予兆だ、予兆を読み取れ。

 動きが速すぎて確認できずとも、加速の前には必ず兆候がある。

 

 全神経を少女の一挙手一投足へと集中させる。

 息遣い、目線。少女が足に力を入れる、その瞬間。

 

 放たれるのは、流星の一太刀。

 だが、予兆は掴んだ。

 俺は、力いっぱい叫ぶ。

 

 

 

「パンツ見えてるぞ!」

「はっ!?」

 

 神速の一閃が放たれる寸前、俺の素っ頓狂な叫びにより確かに踏み込みが緩んだ。

 光速とも見紛う初速が明確に落ちる。俺でもギリギリ捉えられるまでの速度へと。

 

 後は、これまで打ち合った経験から来る方向を予測して、身体を微かに後退させながら少女の身体が来る位置に剣を添える。

 

 実戦だとしたら俺の首が飛ばされて終わりだろう。でも、これは模擬戦だ。

 形式上、互角に思わせられたらそれでいい。

 

「っ……!」

 

 結果、俺は賭けに勝った。

 ほぼ同時に剣が互いの首筋の前で止まる。

 勝ちか負けかで言ったらほぼ負けだが、ルール上では相打ちだ。

 

 少女は顔を真っ赤にして悔しそうに唇を噛みながら剣を収めた。

 

「相打ちね。ていうか私スパッツ履いてるから!」

「わかってる……隙を作ろうと思ったらあれしかなかった。実質負けだ」

「いいわ、引き分けよ。言ったでしょ、剣士に二言はないって」

 

 いや本当に。

 これまでの戦いの中で一番神経を使ったし、全力だった。

 

 はっきり言って、俺は舐めてた。気持ち的には、軽く懲らしめてやるかという舐め腐ったものだった。 だが、今回の件で痛感した。

 

 転生前に決めた才能があろうと、結局は努力次第だ。

 彼女が自分より才能が低いのか、同じなのか。あるいは、世界のルールすら飛び越えた才能があるのかはわからない。それでも、天才だなんて驕って過ごすのはやめよう。

 

 それに、あれはあくまで配慮して俺の感覚に合わせて可視化されたものだ。

 本来はこの世界にステータスの素質も技能の素質も存在しない。

 

「何者なんだ、あんた」

「は?見せたのにわからないの?『流星剣』」

 

 『流星剣』の二つ名。

 迷宮都市に滞在している一級冒険者のひとり。

 剣に狂った狂人。

 魔剣蒐集家。

 災害種に指定された魔物を単独で討伐した傑物。

 竜種を複数回単独で討伐。

 二年前にソロで最下層の探索記録を塗り替えた人物。

 

 その人物の傍らには、流星の軌跡を描く剣があるのだと謳われる。そして───

 

 

 ───今最も階位認定に近い冒険者である。

 

 

 

 

 

「災難でしたね、先輩」

 

 ギルドの酒場で酒を飲みながら、俺は優男くんに愚痴り慰められている。

 あの後、あの流星女はまた来るわと俺にとっての呪いの言葉を残して颯爽と去ってしまった。

 また来るわってなんだ?俺はまた戦いを挑まれるのか?頼むからやめてほしい。

 次は100%負ける自信がある。

 

 流星女は普段はこの都市以外で魔剣探しに没頭していることが多く、俺に挑んできたのは魔剣の噂を嗅ぎつけたからだったようだ。

 

 彼女は極度の魔剣蒐集家のようで、日によって使う魔剣を変えるほどに剣を愛しているらしい。

 実際、俺が戦っている最中でも剣を切り替えていた。

 最後に使ったあの剣こそ、『流星剣』の二つ名の由来になった魔剣なんだろう。

 実際の効果の程はわからないが、全力でやられれば確実に死んでいた。

 

 この世界の魔法や呪い、祝福が込められた魔剣や魔道具の類はピンキリだが上に行けば行くほど能力は異次元になる。それらに原理や説明はなく、ただ漠然とそうあるという絶対的な理を成立させるもの。

 

 消えない炎を灯す剣、生命を喰らう大鎌、絶対必中の弓、天候を支配する槍、果てには勇者の使った聖剣は絶対の勝利を誇ったとも言う。

 そういう武器を手に入れて成り上がりを果たす冒険者はそれなりに存在する。だが、魔道具を使いこなすには絶対的な経験と適正、才覚が必要不可欠だ。多少の実力不足であれ、成り上がるには成り上がるだけの適性が必要だ。

 

 そして、強力な魔道具を保有してるなら、それを元に二つ名が決められる事が多い。あの女は剣技も異次元だったが、剣の腕前よりも持ってる武器の名前が取られるってことは、流星剣そのものも相当な品なんだろう。

 

 聞いた話では、この都市のオークションで流された魔剣の殆どはあの女の手元に行くとか。

 とんでもない市場独占だ。どうにかしてくれよギルドマスター。

 

 ただ、ギルド側がもはや制御ができないのが一級で、更にその上を行くのが階位冒険者だ。

 認定に最も近い人物に対して、意見できるものは恐らくこの都市に存在しない。

 つまりは詰みである。どうしようもない。

 

 

 以前考えた上位冒険者は都市を滅ぼす力があるのでは、という考察だが殆ど間違ってなかった。

 

 都市自体が保有する戦力にもよるが、多分あの流星女か、それに準じる力があればこの迷宮都市を落とすことはできるだろう。恐ろしい話だ。

 

 良くも悪くもこの世界は強者とそれ以外の差が大きい。地球なら例えどれだけ優秀な格闘家が暴れても数十人もいれば確実に鎮圧できるはずだ。それに反して、この世界の強者に対して一定以下の実力の弱者は何の障害にもならない。

 故に、この世界の戦争は上位数パーセントの対決で勝敗が分かれる。無論、数の利や弱い兵士を上手く活用して勝利した例もあるだろうが基本は上位の強者が絶対だ。

 

 この世界の戦闘を行う職業は何も冒険者だけじゃない。自警団や騎士、軍隊や国によっては剣闘士もある。国や都市は保有する戦力を冒険者ギルドに越えられぬように努力している。

 そして、それを優に超えてくるのが一級や階位冒険者だ。一線を画した圧倒的な力を有する連中は自由を好む。誰にも縛られず、誰にも指図させない。

 

 そういう考えが、自然と冒険者のあり方と合致する。一級の冒険者にもなれば、扱い的には貴族の子爵と同レベルだ。それだけの地位がありながら、国からは貴族としての義務もない。

 

 ギルドは上位冒険者を飼いならす為に、それだけの特権を与えている。

 そうしなければ飼い慣らせないのが一級という傑物達だ。

 

 

 流星女は一級の中でも上澄み中の上澄みだと理解している。

 だとしても、余りにも恐ろしい経験だった。

 

「お前も気をつけろよ」

「え?僕ですか?あはは……」

 

 最近優男くんは仲良くなった貴族のお嬢様のコネで魔剣を手に入れたのだ。

 それも、光の剣とか言われてる伝説級の品物。どう考えてもあの流星女に狙われる。

 

 優男くんの今の実力は、全力でやればまだ僅差で俺が勝てるレベル。お互い魔剣や道具込みの全力でやればわからないが、あの流星女には二人でかかってもなます切りにされる未来しか見えない。

 

 それにしても優男くんも優男くんで強くなり過ぎである。

 こんな化け物が跋扈してるのに厄災を討つのに本当に俺の力が必要なのか?

 逆に、これだけの戦力があっても世界が滅びの危機に瀕するのが厄災というものなのかもしれない。

 図書館で漁った文献では、過去の厄災に該当しそうなものも多数あったがそのどれもが国家消滅レベルの案件だった。

 

 あと、ちょっと調べたがあの女は今年で十六歳、俺と年齢がひとつしか変わらないのにあの実力なのだ。

 真面目に意味がわからない。

 

「次来たときは大人しく剣を差し出すしかないと思うか?」

「うーん……それで済めばいいですけど」

 

 どういうこと?

 

「なんとなく……いや、でも多分予想があたったらある意味先輩にとっていいことだと思うので。頑張ってください」

 

 なに?怖いんだけど教えてくれない?ねえ。

 その後幾ら問い詰めても後輩くんは目を逸らして笑うばかりだった。

 

 俺にはこの後の展開が予想できなさすぎて怖い。

 もしまた襲撃に遭ったら、今度こそどうしようもない。

 

 あの馬鹿な作戦は一回目だからこそ通っただけだ。

 二回目は通じない以上、もしまた持ちかけられたら逃げるか素直に差し出すしかないだろう。

 

 流星女があの作戦に引っかかるまともな純情ガールで助かった。斬り合ってるときは完全に戦闘狂のそれで、戦闘中の俺の言葉なんて意味があるのか疑わしかった。

 あの圧倒的な顔面力を誇る美少女が照れてる姿は結構目の保養だった。その前の出来事で死ぬ思いをしてたせいで記憶も朧気だが。

 

 流星剣か。俺も欲しいな、二つ名になるような伝説の武器。

 

 そう言えば俺の二つ名ってどうなってるんだろうか。大体三級以上の冒険者にはみんな二つ名が付いてるイメージがある、四級以下でも何かしらで有名であれば付いたりする。

 

 優男くんだって『白曜』という格好良い二つ名が付いてるのだ。二級の俺にも間違いなく二つ名は付いてるだろう。

 優男くんの場合は実はギルド内で呼ばれる時は「ハーレム野郎」とか呼ばれてることの方が多い気もする。

 

 どうしよう、これで俺の二つ名が『包帯』とかだったら。確かに顔面包帯塗れだけどそれだけは勘弁してほしい。ちなみにもうギルドでは大体包帯か包帯の人呼びである。

 

 しょうがない、わかりやすいトレードマークだからなこれ。

 まあ、みんなの前で包帯を外せば間違いなく悲鳴が起こるだろうな。

 

 とりあえず、またあの女が襲来してきたら大人しく剣は交渉して明け渡すことにしよう。

 流石に冒険者として直接的な強奪行為はしてこないはずだ、他の魔剣を手に入れられるだけの代金を用意してくれるなら別に渡してもいい。

 一年以上お世話になった品だったから愛着がないと言えば嘘になるが、そろそろ別の剣が欲しいとも思ってた時期だ。ある意味丁度いいだろう。

 

 

 

 いつ流星女が襲来してくるかわからないまま、ビクビクと怯えて過ごしていたある日。

 ギルドの前を通りかかった時に入口の前で流星女が仁王立ちしているのが目に入ってそっと引き返した。

 今日はいい天気だから勉強の日にしよう。まだ東大陸のこととか全然調べてないからな、図書館に行こう。そうしよう。

 

 どう考えてもあれは俺を待ってる。

 自意識過剰とかじゃない、明らかに俺を探してたし待ってた。

 捕まったら確実にぼこぼこにされて魔剣を売ることになる。

 

 あの時は次の魔剣が買えるなら……とか思ったが、よくよく考えたらこの都市にいる限りあの女のせいで魔剣は手に入る確率が低い。マジでふざけてる。

 

 そう思ったら急に魔剣を手放すことに躊躇し始めてしまった。

 人を殺して手に入れた剣だとしても一年以上連れ添った相棒だし、あの傍若無人な女に差し出すのは可愛そうだ。

 一級は暇じゃないはずだ。しばらく避けてればそのうち諦めるはずだ。

 しばらくは依頼はやめて、勉強と剣の訓練に集中することにしよう。

 

 

 そんな事を考えていた俺は馬鹿だった。

 剣の訓練と情報収集に集中して一週間が過ぎた頃、それは起こった。

 

 俺が宿を出ようと扉を開けたら、あの流星女が目の前にいたのだ。

 

 なんで泊まってる宿がバレたんだ?と思ったが、ギルドの連中がバラしたんだろう。逆にそれ以外に自分が今泊まっている場所を知っている人間は存在しない。

 

 ギルドって公的機関のはずだよな?権力に屈していいのか、おい。

 そんなゴチャゴチャとした事を考えている俺の前で、流星女は言い放った。

 

「あなた、私とパーティー組みなさい」

 

 俺は扉をそっと閉めた。

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