【書籍化】異世界転生周回プレイもの   作:にーしち

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パーティー

 

 流星女とパーティを組んで十ヶ月、あの女の宣言通りの一年以内に迷宮の最深部に到達してしまった。

 

 迷宮の未踏破領域というのは本当に危険なものである。ギルドが設置した転移門もなければ、どんな魔物が潜み、トラップがあるかもわからない。それを何階層も降らなければ行けないとなれば、未踏破探索というのは酷く神経を使い、場合によっては何年も掛かる場合もある。

 

 現実は化け物により未踏破の二十層分を数ヶ月で攻略されて、迷宮の最下層へ到達してしまった。

 

「思ったより大したことないわね。あいつらはこんなのに手こずってたの?」

 

「お前の剣技とその剣の前じゃ全て大した事ないだろうな」

 

 頼むからお前の実力でギルドの奴らを測らないで欲しい。

 最前線で攻略していたパーティーは毎月未踏破領域に挑んで凄く頑張っていたのだ。

 

 未踏破領域の調査はマッピングの仕事もあるのだが、俺達が時間を取られたのは常にそちらだった。

 全ての迷宮が同じかはわからないが、ここの迷宮は下へ降りれば降りるほど一層の広さが拡大していた事もあって最下層手前のマッピングは苦痛だった。あまりに広すぎる。

 

「さっさとここの地図も埋めて帰るわよ」

 

「はいはい」

 

 数日に分けて最下層を探索した俺達は迷宮の核を守っているであろう区画も発見、大凡の調査を完了した。調査が完了すれば、次は階層の主を倒さなければいけないのだが、今回は事実上のラスボスということもあって流石に緊張する。

 

 階層主は死ねば定期的に復活なんてことはないので一回殺せば終わりである。階層ごとに強力な魔物が生まれるのは迷宮の防衛本能か何かだと言われている。

 

「ビビってるわけ? 情けないわね。こんなのこれから何度も相手にするわよ」

 

「ほっとけ」

 

 軽口を叩きながらグローブを引き絞り、慣れ親しんだ剣を抜いて調子を確かめる。

 流星女は何も気にせずに最後の部屋へと踏み込んだ。

 

 

 

 中へと踏み込み、姿を表したそれは無数の竜頭を生やした魔物だった。現代ならばヤマタノオロチだとかヒュドラだと言えば通じそうな外見のそれは、この最下層への侵入者に首をもたげて威嚇してくる。

 

 鼓膜が破れそうなほどの咆哮に包帯越しでも肌がピリつく感覚がした。それほどまでに目の前の魔物の存在感は強大なものだった。

 

 百を超える眼がこちらを睨み、出方を伺っていた。ヤマタノオロチにしては些か首が多すぎるな、五十以上は確実にありそうだ。

 

「首多すぎるだろ」

 

「数が多いからどうしたのよ。どっちが多く首を落としたか勝負よ」

 

「マジかよ」

 

 やっぱりこの女は正気じゃない。

 

 

 ──戦いの火蓋は、神速の一閃で首ひとつを穿った少女により切られた。

 

 竜頭の魔物は痛みと怒りを滲ませた咆哮をあげれば、襲撃者を食い殺そうと無数の頭が向けられた。全ての首がまるで別の生き物の様に躍動し、的確にこちらを狙い迫る。

 

 一手違えば、眼前に迫る顎に捉え食い殺されるだろう。

 しかし、相手の牙がこちらへ達するよりも前に振るった剣が顎を砕き、首を落とす。

 

 戦闘の最中、反対側で笑い声をあげながら剣を振るう少女の様子を見れば、既に十以上の竜の首を地面へと叩き落としていた。

 

 これはペースアップを図らないと勝てそうにない。

 こちらも負けじと向かって来る首を片っ端から斬り落としては相手の懐へと潜り込み、曲芸のように身体を回転させながら刃に勢いを乗せ、次々と首を斬り落とす。 

 

 無数にあった竜の首が地へと落ちる度に、魔物は絶叫をあげて怒りを露わにする。

 開かれた口中から次々と炎が溢れ出す。それらは生き物の様にこちらを牽制しようと足元一帯に向けられる。

 

 魔法使えたのかよ。このまま悠長に足元に立っていれば丸焦げにされる。

 既に顔面は焼却済みなのでこれ以上は勘弁願おう。迫り来る業火から大きく飛び退いて状況を確認すれば、既に首の半数近くは落ちていた。

 

 既に次の突撃姿勢を整えていた流星女に落とした数を聞いてみる。

 

「何個?」

 

「二十!」

 

 無理だ勝てねえ!

 

 恐らくこれがこいつの本領発揮だったのだろうが、既に遅すぎた。

 

 竜頭の魔物は炎、雷、水、氷、口の中で練り上げられた魔力が様々な形を為してはこちらへ放たれる。だが、魔法とは所詮魔力と理論により世界を歪める核を生み出す法に過ぎず。実体のない摩訶不思議な力ではない。

 

 つまり、全ては斬ればいい。

 申し訳ないがこちらは斬る以外の選択肢がない。

 

 熱かったり寒かったり、そんなことを気にせず全ての魔法を斬り伏せれば、今度は頭の上に飛び乗り長い首の上を駆け抜ける。

 

 視界に映る首、それらを引き上げられた身体能力に物言わせて片っ端から叩き斬る。

 振り下ろし、袈裟斬り、逆袈裟、突き。

 

 磨き上げられた剣技は、鱗による障壁をものともせず肉と肉の間に刃を滑り込ませ、その繋ぎ目を断つ。

 

「このままじゃ私の勝ちよ!」

 

「わかってる!」

 

 あいつのペースが速すぎる。もう半分以上ひとりで落としてないか?

 

 酷い蹂躙劇の果てに、気が付けばあれだけあった首の数も片手で数えられる程だ。

 首の数が減れば手数も落ちる。魔法も近接も、手数が減ればそれだけ攻撃の隙が増える。半分以上を初手の攻勢で落とされた時点で、勝敗は決していただろう。

 

 残りの首にも刃を掛けようとしたその時だった、これまでとは種類の違う咆哮を竜頭の魔物があげた。

 まるで、なにかに共鳴しているように全ての首が叫んでいる。

 

 嫌な予感を覚えて退けば、それは的中した。

 

 これまで地面へと切り離した首が塵へと帰ったかと思えば、全ての首が再生を始める。

 なるほど。流石は迷宮のラスボス。簡単に勝たせてくれないらしい。

 

「どうする?」

 

「あの子を使うわ、ちょっと稼いで。これ貸してあげる」

 

 流星女は魔具の鞄から炎を纏う剣を取り出せば、それを投げ渡してくる。

 さらにもう一振りを取り出す。流星剣、その異名を担う星の光を灯す剣が姿を表した。

 

「わかった」

 

 実際、流星剣以外の勝ち筋はなさそうだ。

 あの再生速度を上回る速度で首を落とすことは俺達二人でも難しい。再生できなくなるまで削る選択肢もあるが、再生が終わる前に一撃で全て消し飛ばす方が楽だ。

 

 三十秒、ここからは防衛戦だ。

 

 

 

 流星剣。それは悠久の時を経て数多の逸話を身に宿した剣。

 空を駆ける流星が如く、いくつもの世界を渡るもの。

 故に、星と同等の魔力を宿す。

 

 流星剣を横に構えた少女は、瞳を閉じて無防備に敵の眼前に立った。

 永遠の魔力を宿す流星剣から溢れ出るそれを、少女はただ一点に集中させる。

 

 荒れ狂う魔力の奔流を全て込めたそれは、一手制御を違えば全てを巻き込んで自爆しかねない。だからこそ、少女は回避も防御も捨てて全神経を剣の魔力の制御に注ぎ込む。

 

 目の前の脅威に気づいた魔物は、少女を亡き者にしようとあらゆる手段を尽くす。

 だが、その全てが届かない。

 

 あらゆる魔法は届く前に包帯を纏う剣士に落とされる。喰らいつこうとする顎も両断されては、刹那の間に斬り刻まれ、血ひとつさえ少女へ届くことはない。炎が全てを焦がして、蒸発させてしまう。

 

 明らかに、あの包帯の剣士の動きが先程までと違った。

 二刀流。二本の剣を扱う男は少女に似た変則的な剣技で目の前の全てを蹴散らす。まるで、こちらの攻勢が児戯とでも思えるほどの技で以て少女への攻撃を阻む。

 

 巫山戯ている。

 

 竜は自らが迷宮により産み落とされたものであると理解していた。

 竜とは、この世界の絶対的な脅威である。迷宮の最後の砦となる魔物。それ故に、自らは竜として生み出されたのだ。

 

 しかし、その竜の暴威はひとりの人間の剣士の前では無力だった。

 おかしい、こんな事はありえない。

 

 再生した首は、次々と地面を転がり既に十以上はその命を絶やした。

 このままでは、あの少女の狙いまでに仕留めることは叶わない。

 

 竜種が厄介とされる理由のひとつに、その知能と学習能力の高さが挙げられる。

 竜は命に危機が迫った今、ひとつの解を導き出した。

 

 これまでバラバラに魔力を巡らせていた首を一点に集めて、炸裂させる。

 本来、首ひとつで並の魔法使い以上の火力を誇る故にそんな必要はなかったこと。

 

 だが、今この場所では圧倒的な火力が求められる。

 全ての魔法が斬り落とされるなら、剣では斬れぬ程の魔力で片を付ければいい。

 

 首の大半は反動で死するだろうが、この剣士共を葬ってから再生すれば問題ない。

 やはり、自分は竜種。人間種に叶うはずがない存在なのだと安堵にも似た感覚を覚えた竜は、自らの中に巡らせていた魔力を掻き集める。

 

 勝負は決したとほくそ笑んだその時──

 

「悪いが、もう三十秒経ったぞ」

「『流星』」

 

 星の奔流が、竜を穿った。

 

 

 

 流星剣の一閃が空間を焼き払えば、あっさりと竜頭の魔物は死んだ。

 よくもまあ最大出力でぶっ放したものだ、核が壊れたり迷宮が崩壊しなくて良かった。

 

 流星女いわく、この技は剣技もへったくれもないから好きじゃないらしい。三十秒以上戦場で無防備状態になるので、元々そこまで現実的な技ではないのだが。 

 

 本来、流星剣は無限に溢れる魔力を纏わせて斬るだけのシンプルな武器だ。性格的には凄くらしい武器だが、流石は二つ名の元になるだけあって出力が尋常じゃない。

 

 魔力を正しく制御すれば、さっきみたいなビームもどきも魔法以外で実現できる。魔法使いに握らせても、それはそれで十二分に兵器になる気がする。

 

「やっぱ斬った感じがしなくてつまんないわね」

 

「しょうがないだろ、あれ以外に対処方法はなかった」

 

「ま、そうね。これでこの迷宮も踏破ね」

 

 核は奥の部屋にちゃんと存在した。

 迷宮の核は迷宮を成立させる為の大事なものだ。迷宮は危険だが、同時に大量の資源が生まれる場所でもある。今後はギルドの厳重な管理のもとで管理されるだろう。

 

 魔物が迷宮の外へ出てしまったり、何かしらの問題が生じたら致し方なく迷宮が破壊されるとかはあるらしいが。

 

「さ~って、どんな子がいるか楽しみね!」

 

「剣以外興味ないのか?」

 

「ないわ」

 

 即答かよ。

 

 迷宮の中には、迷宮内で紛失した武器や道具が取り込まれ、魔力に漬け込まれることで変質する場合がある。取り込まれた武具が何処で再出現するかは運次第だが、特に最深部はその傾向が多い為、最初の踏破時は魔具の類が多かったりする。

 

 奥にある迷宮の中心部に向かえば、文字通り金銀財宝と呼べるものが集められていた。

 流石迷宮最下層の中心。そこはこれまで死んだ冒険者の遺品や、迷宮形成時に取り込まれたものが長期間魔力を帯びて魔具化している。

 

 資産としてはこれから先幾ら遊んでも使い切れない金だ。

 流星女は剣に夢中で金銀の山をひっくり返した中から剣を集めて並べている。

 

 俺もそろそろもう一本使い勝手が良い剣が欲しい。

 

 そんな事を考えながら、流星女の目を盗んで魔具と思われる剣と思われる無骨な剣をひとつ手に取る。

 なんとなく手にしたものだったが、特に大きな力を感じられない。魔力は帯びてはいるが、なんだか妙な剣だ。

 

「それ魔剣? ちょっと貸しなさい」

 

「あぁ」

 

 剣を手にしたのに気づいたのか寄ってきた流星女にそれを手渡す。

 剣が欲しいとは言ったが、戦闘に有用な効果があるものが欲しいのだが。

 

 流星女はその無骨な剣をぶんぶんと何度か振って確認すれば、返して来る。

 彼女はなぜか、剣を手に取ればその性質を完全に理解できるらしい。

 

 原理を聞いたが、なんかわかるとしか言われなかった。

 

「魔力のストック……周囲の魔力を吸収して貯めておけるみたいね」

 

 なんとも言えない微妙な効果だ。

 魔法使いなら喜べたかもしれない。

 

「ちょっと、露骨に微妙な顔しないでよ」

 

「だってなあ……使い道あるのかそれ」

 

「魔力を吸って魔法を無力化……まあ容量的には数回が限度ね。時間経過で魔力を吐き出さないと行けないから」

 

 迷宮の中で生まれる魔具が全部有用でないのは当然だが、微妙な気持ちだ。

 頑張れば絶対に使えないと言えないラインなのが困る。ただ、売りに出してもこの能力なら大した値段にもならない。悲しいけど、流星女のコレクション行きだな。

 

「なら、それはやるよ」

 

「ほんと? やった!」

 

 流星女は剣であれば鈍らであろうと何をあげても喜ぶ。

 

 倉庫の肥やしにされるならせめて流星女が持っていたほうが良い。初めての迷宮攻略報酬だと言うのに涙を禁じ得ないが、他にも色々ある。

 

 その後も気を取り直して、他の魔具を漁る事になるのだが…… 

 

「この子、なかなか良いわね」

 

 流星女が拾い上げた剣は、呪われていますと言わんばかりの禍々しい力を帯びている。

 持ち手が十字になっているその剣は、いわゆるバスタードソードと言われる類の剣だ。

 

「お前大丈夫かそれ」

 

「これ? 別になにもないわよ」

 

 試し振りをすれば剣の軌道上に黒炎が舞った。

 見た目通りに呪術が掛かった炎を扱えるようだ。

 

「いいわね」

 

 気に入ったらしい。

 

「なぁ、さっきの賭け覚えてるか?」

 

「どっちが首を落とせるかでしょ? 私があいつを殺したんだから、私の勝ちよ」

 

「いや。お前は『どっちが首を多く落としたか』で勝負って言った。稼いだ三十秒で落とした首も含めれば、俺のほうが多い」

 

 俺もいい加減二つ名になりそうな武器が欲しい。

 

「なっ!そんなのずるいじゃない!」

 

「ズルもクソもあるか、今まで見つけた剣は全部くれてやっただろ」

 

 まあ、今までの剣は丁度いいものがなかったから渡していた訳だが、最深部にあっただけあって業物だ。

 

「むぅ……」

 

 めっちゃ膨れてる。

 そのかわいい顔で膨れるのやめろ、俺が悪者みたいになる。

 

「あ~。わかった、いいよ。それはやるから。賭けに勝ったんだし、いつも貸してくれる炎のやつ、毎回借りるのも面倒だろ。だから、お前と一緒にいる間は持たせてくれないか?」

 

 毎回、戦闘時に借りるのは面倒臭いし、魔具を使いこなすのには時間がかかる。

 二刀流を使う場面が多くはないが、いつでも切り替えられるようにしておきたい。

 

「ほんと!?」

 

 ぱあっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 こいつどんだけ欲しかったんだよ。

 

「ほんとほんと」

 

「しょうがないわね、しばらく貸しておいてあげるわ!」

 

 先程まで修羅の如き戦闘を繰り広げていたとは思えない、呑気な笑顔で剣を渡してくる。

 相変わらず憎たらしいほどの美少女っぷり。

 

 笑顔も相まっていつも以上に金髪が眩しい気がする。

 いつもこうならただの超が付く美少女なのだが──

 

「地上に戻ったら早速試すわよ。付き合いなさい」

 

 結局こうなる。

 

 

 

 模擬戦でボコられてギルドへ戻る途中、前方を進む流星女へ目を向ける。

 流星女は報酬をパンパンに詰め込んだ魔具の鞄を漁っている。

 

「やっぱりないわよね」

 

「どうかしたのか?」

 

「剣がないの。いつからか覚えてないんだけど……」

 

 彼女は剣に関しての整理整頓だけはちゃんとしているので、意外だった。それより、落ち着いているのが妙だった。

 

 彼女が剣を失くしてしまったとなれば、どんな鈍らだろうと真剣に探すはずだ。

 

「あそこで失くしたなら取りに戻るか?」

 

「ううん、失くしたってわけじゃなくて……変なんだけど、ちゃんと手元にはある気がするのよね」

 

 失くしたと言うのに手元にはある気がする。奇妙な話だ。

 それでも、剣に関しての話は彼女が言うのならそうなのだろうと納得するしかない。

 

「そもそも、何の剣を失くしたんだ?」

 

「魔具でもない普通の剣よ。昔から使ってきた、お気に入りだったの」

 お気に入りの剣というのなら余計に慌てないのは変だ。依頼も何もかも投げ出して探しに向かってもおかしくない。

 

「何でかしらね。いつもならもっと慌てるけど……やっぱり、ちゃんとここにある気がするのよね」

 

 そう言って、彼女は流星剣に視線を落とした。

 少しだけ切なさが込められた、優しい笑みで。

 

「気にしないで、戻りましょ」

 

 気がかりだが、彼女が良いと言うのならそれでいいだろう。もとより俺はその剣自体知らず、探すこともできない。

 彼女のその後ろ姿に、何故か俺は既視感を覚えた。

 

 

 

 ギルドへ戻って迷宮踏破のことを伝えれば、その日はもうお祭り騒ぎだった。

 

 冒険者達の間で迷宮踏破の事実が知らされ、瞬く間に情報は拡散してこの都市に住む一般市民も含めて完全に宴会状態だ。この都市自体が迷宮を軸に栄えた場所なわけで、そんな場所の迷宮が踏破されたとなればそれはもう一大行事に間違いない。

 

 流星女はみんなの前で楽しそうに踏破宣言をして、周囲から持ち上げられては有頂天になっている。

 案外、ああいう子供っぽい部分もあるんだなと酒を片手に眺めていると、隣に優男くんが腰掛けて来る。

 

「お疲れ様です先輩、混ざらなくていいんですか?」

 

「ああいうのは苦手だ」

 

「そんなことばっかり言って、また拗ねられますよ」

 

「ほっとけ」

 

 前世ぼっち陰キャの悲しき性である。

 それ以上に、あんなに可愛くて素敵な娘の隣に包帯野郎が立っていてもいい迷惑だろう。

 

 名声が欲しいわけでもなければ注目されたいわけでもない。今回の迷宮踏破は流星女の階位認定を確定させる為と、俺の一級昇格も兼ねていた。

 

 目的が達せられればそれで十分だ。

 

「そういえば、一級昇格ですね、おめでとうございます」

 

「ありがと。お前もどうせすぐ上がるだろ」

 

 昔は大差あったはずの優男くんとの差は、気が付けば殆どなくなってしまっていた。

 俺が容姿を差し出して手に入れた強さを、こいつは圧倒的顔面力と共に備えている。天は二物を与えずとは何だったのか。

 

「流石に二年以上はかかると思いますよ」

 

 こいつの中で二年あれば上がれる計算なわけだが、十分おかしい。

 一級とは冒険者の頂点。あらゆる成功と栄光を手にした者。普通は生涯をかけて目指すものである。

 

「十分おかしいけどな」

 

「先輩に言われたくないですね」

 

 本来、四年で一級というのはあり得ない。

 最近外れ値ばかり目にしていたせいで錯覚していた。

 

 一番ありえないのは十代にも関わらず階位冒険者なやつだが。

 

「そう言えば、ここに来てもう四年か……お前とも長い付き合いになったな」

 

「懐かしいですね、昔は殆ど顔も合わせてくれませんでした」

 

 一番人間不信な時期だったからな。

 あの時は顔を合わせた瞬間に攻撃されるんじゃないかと気が気じゃなかった。

 

 気が付けば、後ろに立たれても警戒する事も少なくなった。それを考えれば、大分変わったと言える。

 

「先輩は、どうして僕と組んでくれなかったんですか?」

 

 もしかして、気にしていたのかこいつ。

 

「……迷惑かけられないと思ったからだよ」

 

「そうですか」

 

 優男くんの笑顔が怖い。妙な圧を感じる。

 いつも通りの爽やかな笑顔のはずが、寒気がする。

 

「先輩。僕はいいですけど、もっと周りの人を頼ってあげたほうがいいですよ。特に──」

 

 言葉を続けようとしたところで、思わぬ乱入者が現れる。

 

「あなた、またそのいけ好かないのとばっか喋って、こっち来なさいよ!」

 

 優男くんと話していたのが気に食わなかったのか、こちらへ来ていた流星女に腕を取られて引っ剥がされてしまう。

 向こうで自分の最強っぷりを豪語しながら他の冒険者達相手に酒盛りしていたはずなんだが。もう注目されるのに飽きたんだろうか。

 

「いけ好かないのってな……」

 

 ギルドで一番のモテ男な優男くんに対して酷い言い草である。

 確かにたまに胡散臭いし、思考盗聴してくるけど。

 

 流星女は恋愛に興味ないんだろうか、剣にしか興味がないし異性との会話を殆ど目にしたことがない。

 

「あなたはこっち来ればいいの!」

 

 片腕をガッシリとロックすれば、離してくれそうにない。

 これには流石に優男くんも苦笑いである。

 

「あはは、僕はお邪魔みたいなので失礼します。先輩、またよかったら今度一緒に依頼でも」

 

「あぁ、またそのうち」

 

 あぁ、俺の心のオアシスが去ってしまった。

 しかし、こいつ顔が赤いな。どれだけ飲んだんだ?

 

「おい、明らかに酔ってるだろ」

 

「失礼ね!酔ってないわよ!」

 

 何が失礼なのかまるでわからん。

 呂律も若干回ってないし、顔も赤い。確実に酔いが回っている。

 

「あなたはもっと自分の価値を自覚しないとダメよ」

 

「自覚してるって。じゃなかったら一緒にいないだろ」

 

 こいつ、こんなに酒を飲むやつだったのか? この一年でここまで酔っている姿を見るのは初めてだ。迷宮踏破に遂に階位認定ということもあって浮かれたんだろうが、剣以外に興味のないこいつがなんとも珍しい。

 取り敢えず水を飲ませたが、余り様子も変わらない。

 

「だから~……ねえ、ちゃんと聞いてるの?」

 

「聞いてる聞いてる」

 

 なんだかよくわからないことばかり言っている。

 これは祭りもそこそこで宿に送ったほうがいいかもしれない。

 このままこいつを置いていけば、そのうち暴れ出して酷いことになりそうだ。

 

「ほら、帰るぞ」

 

「もう、わかったわよ……」

 

 肩を貸してやれば急に大人しくなって従い始めた。

 酔いが冷めて恥ずかしくでもなったんだろうか。

 

 主役が途中退場するのは申し訳ないが、どうせ明日まで宴会騒ぎは続くことだろう。

 飲みに飲んで騒ぎ立てている冒険者達を横目に、流星女を連れてギルドを後にする。

 

 

「ねぇ」

 

「どうした?」

 

 宿へ続く帰路の途中、急にしおらしくなった流星女が口を開いた。

 ここまでしおらしい姿は今まで見たことがない。

 

 普段の傍若無人な振る舞いからは想像できない態度だ。

 なにか変なものでも食べたんだろうか。

 

「私は、これで階位でしょ? あなたは、これで一級だわ」

 

「そうだな」

 

 急に当たり前のことを言い出した。

 

「その……最初にパーティーを組んだ時、迷宮を攻略するって、言ったでしょ」

 

「言ったな」

 

「でも……その……迷宮を、踏破しちゃったじゃない」

 

「したな」

 

 喋れば喋るほど、普段あれほどはつらつとした彼女の言葉尻が弱々しくなる。

 夜の暗闇の中、月明かりを頼りに彼女の表情を伺えば、目尻には涙が溜まっている。

 

 何か泣かせるようなことをしてしまったのだろうか。

 俺は、できるだけ彼女の信頼には応えてきたつもりだ。

 裏切るようなことだって、してきたつもりはない。

 

「……」

 

「大丈夫か?」

 

 不味い、本気で不安になってきた。

 パーティー解散とか言われるんだろうか。

 

 いや、それも仕方ない。この包帯塗れの不審者といるのは、嫌だったのかもしれない。

 彼女が黙り込んでいる姿を見ると、自分の心の中に不安が募ってくる。

 

「パーティー……」

 

 静かに言葉の続きを待った。

 

「続けるわよ……ね?」

 

 こちらへ体重を預けたまま、涙を溜めながら上目遣いで覗き込んでくる。

 ズルだろ、それは。

 

「当たり前だろ。解散する理由もないし、あの剣譲り損になるだろ」

 

「えへへ……確かに、言われてみればそうね!」

 

 ダメだ、顔をろくに合わせられる気がしない。

 今日ほど自分が包帯をしていて良かったと思ったことはない。

 

 今の笑顔は、童貞歴三十六年の俺には刺激が強すぎる。

 俺は、これまでこの女を極力異性として捉えないように努力してきた。

 

 自分の容姿で誰かを好きになったとしても迷惑をかけるだけだと、今世の幼少期からの経験で嫌になるほど理解しているから。

 それなのに、今の笑顔は反則技だ。

 

「勝手に抜けるとか言い出したら、許さないから」

 

「わかってるよ」

 

 第一、こいつは自分の可愛さをよく理解しているんだろうか?

 確かにこいつは紛れもない剣狂いだが、それ以上に途方もない美少女である。

 

 ギルドでも、こいつにワンチャンスと考えている人間は少なくないだろう。

 それを考えるだけで、苛々した。

 

 宿の前に辿り着けば、できるだけ感情を悟られないように押し殺して別れの挨拶をする。

 

「水飲んで、暖かくして寝ろよ」

 

「もう、わかってるわよ」

 

 俺も酒を飲んで今日のことは忘れよう。

 

「ねぇ」

 

 背中を向けたところで、後ろから呼び止められた。

 

「絶対、勝手に何処かへ行ったら許さないから」

 

 

 ──俺は、その言葉に一瞬だけ薄ら寒いものを感じた。

 

「あぁ」

 

 振り返り、いつも通りの返事をした。

 彼女の表情は、暗くてわからなかった。

 

「ならいいわ。おやすみ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 何だったんだろうか。

 いや、今日のことを深く考えるのはやめよう。

 

 俺の目的は厄災を止めて、軽率な判断の末に生まれた自分の存在をこの世から消すこと。それだけだ。

 今日は俺もあいつも、お互い迷宮攻略達成や昇格の事で舞い上がっていたんだろう。

 

 明日になれば、いつも通りの日常だ。

 

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